【書評】『アウェー脳を磨け!』(茂木健一郎)

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 お薦めの本の紹介です。
 茂木健一郎先生の『アウェー脳を磨け!~一歩踏み出せば脳は目覚める~』です。

 茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)先生(@kenichiromogi)は、脳科学者です。
 ご自身のご専門に留まらず幅広い分野で活躍されています。

「アウェー」に身を置くことが、脳を元気にする!


 日本がかつての勢いをなくしたまま停滞して久しいです。
 日本を元気にするような“特効薬”は、いまだに現れていませんね。

 茂木先生は、神経細胞のネットワークの結びつきのちょっとした差、神経伝達物質の少しの違いで、元気な脳と、そうでない脳が分かれてしまうと指摘します。

「いかに元気になるか」
 それは、一人ひとりの人生のエネルギーの問題に行き着きます。

 解決の鍵となる考え方が、「アウェーで戦うこと」です。
 

 経済が成長し、社会が便利になるにつれて、次第に自分がくつろぎ、リラックスできる「ホーム」の領域は増えていく。それは良いことのように思えるけれども、脳の元気のためには必ずしも好ましいことではない。
 もともと、脳が育まれ、学ぶためには、ある程度の「負荷」がかからなければならない。ホームにいるだけでは、脳がその潜在的な能力を発揮するためのチャンスが、十分に与えられないのである。現在の日本人が元気のなさは、それと気付かずにホームの中に自分たちを閉じ込めていることに起因する。知らず知らずのうちに、楽をしてしまっているのだ。
 サッカーの試合では、「ホーム」と「アウェー」では、明らかな勝率の違いがあるという。ホームが有利であり、アウェーは不利である。同じサッカーというスポーツをやっているのに、戦っている場所がホームなのかアウェーなのかによって、それだけ結果に差が出てくる。アウェーでは、当然、選手たちの脳や身体への負荷も異なってくる。
「勝つ」という目的だけを考えれば、ずっとホームで戦っているのが良い。しかし、それではそれ以上の実力がつかない。時には、負けを覚悟しても、アウェーに挑戦する必要がある。そうしてこそ、足腰が強くなる。何が起こるかわからないという「偶有性」に向き合う力も生まれる。

 『アウェー脳を磨け!』 第1章 より 茂木健一郎:著 廣済堂出版:刊

 日本は地理的にも海に隔てられている上に、独特な言葉を使う独自の文化を持ちます。
「ホームの優位性」はものすごいものがありますね。

 しかし、そのアドバンテージゆえに、グローバル化の大波に乗り遅れた。
 その事実は否定できません。

 本書は、不利な「アウェー」で戦うことの利点や必要性を、脳科学的な観点から解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「部分最適」と「全体最適」は違う


 日本人は、「もともとある文脈のなかで最適を追求すること」が得意な民族です。

 会社員は会社員らしく、公務員は公務員らしく。
 これまで誰もが空気を読み、その職場で「そうあるべき」という役割を疑うこともなくこなし、成功を収めてきました。

 しかし、この方法ではそれ以外の場所、つまり「アウェイ」で力を発揮できないタイプの人間を多く生み出すという弊害をもたらします。

「偏差値の高い大学から国内の一流企業に入れば、経済的な安定が一生保障される」

 今の社会では、その文脈自体が崩れつつあります。

 茂木先生は、その結果ひとつの会社のやり方や空気に色濃く染まってしまったほど、その会社以外では通用しなくなるというような、逆転現象が起こると指摘します。

 いま自分がいる場所を熟知し、そこで要領のいい生き方を身につけるというのは、枠組みが変わらないかぎりは有効だといえます。けれども、その前提が成り立たなくなったら、その生き方はもう通用しません。
 つまり、特定の文脈でしか力を発揮できない人というのは、文脈が揺らぐや否や、たちまち不利益を被ることになるのです。
 そう考えると、部分最適しか頭にない人は、非常にリスクの高い人生を送っているといっても過言ではありません。
 そして、それは、いまの日本人のことをいっているといってもいい。
 部分最適と対になる言葉が、全体最適です。
「日本の常識は世界の非常識」という言葉があります。これはまさに「部分最適と全体最適は違うのだ」ということをいっているわけで、「自分たちの基準とグローバル・スタンダードには差がある」ということを、実は日本人もわかっているのです。
 ただ、ほとんどの人は、「世界のことなんかより、自分の身の回りに合わせることのほうが大事なのだ」と、無意識のうちに信じている。でも、これは大きな間違いだといわざるを得ません。

 『アウェー脳を磨け!』 第1章 より 茂木健一郎:著 廣済堂出版:刊

 授業もろくに出ず、教授とも仲が悪かったため、助手として大学に残ることができなかった、物理学者のアルベルト・アインシュタイン。

 茂木先生は、彼らを例に挙げ、偉人と呼ばれている人のほとんどは、部分最適などおかまいなしにひたすら全体最適を目指した人たちなのだと強調します。

自分が何者かを決めつけてはいけない


 茂木先生は、「脳が好きなのは予想外のできごと」だと述べています。

 脳の可塑性に起因するもので、脳は変わる、ゆえにいつも変わりたがっているとのこと。

 僕が『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)の司会をやるようになったのは、取材対象のひとりとして僕に会いに来たNHKのディレクターが、たまたま帰り際に「そういえば茂木さん、テレビ番組の司会には興味ないですか」と言ったことに対し、「ないこともないですよ」と答えたのがきっかけでした。
 もし僕が、自分のことを「脳科学者だ」と決めつけていたら、そんな返事はしなかった、いや、できなかったはずです。それに、ディレクターも脳科学者然としている人に、そんなことは言わなかったでしょう。つまり、自分を規定してしまうと、相手もそれを受け入れたうえで関係を築こうとしてしまうので、発展の機会はますます失われてしまうことになります。
 このように、自分で自分の「枠」を決めてしまうというのは、百害あって一利なしなのです。
 しかしながら、脳というのは暗示や思い込みに弱いという性質があるので、いったん「自分はこうだ」と思い込んだら、なかなかその枠から出られません。枠から自由になるには訓練が必要です。
 いちばん簡単で効果的なのは、いつもやらないようなことをやってみることです。
 たとえば右利きの人なら、あえて左手で箸を持って食事をするのです。そうすると、右手ほどスムーズに箸を操れないので、ストレスを感じます。それは普段とは違う脳の使い方をしているからにほかなりません。
 通勤ルートを変えるのもいいし、いつもオフィスの机で仕事をしているなら、喫茶店にノートパソコンを持っていってやるというのも悪くありません。
 要するに、思い込みというのは脳の回路が固定化しているということですから、その回路から外れたことをやることによって、こういう使い方もあるということを脳に気づかせればいいのです。

 『アウェー脳を磨け!』 第2章 より 茂木健一郎:著 廣済堂出版:刊

「自分はこういう人間だ」と決めつけること。
 それは、自分にレッテルを貼ることであり、可能性を狭めることです。

 普段からさまざまなことに積極的に挑戦し、「枠から自由になる訓練」を続けたいですね。

大切なことは「2秒」で決めろ!


 アウェーの世界は、偶有性に満ちています。
 体験したことがないことばかりなので、想像もつかないことが起こります。
 時間をかけて考えたり計算しても、その通りにいかない「正解のない世界」です。

 正解のない世界で、どのように判断すればいいのか。
 茂木先生は、「直感を信じること」だと述べています。

 サッカーをイメージしてください。
 フォワードの選手はパスをもらったら、シュートするのかドリブルするのか、それとも別の選手にパスをつなぐのか、それこそ瞬時に判断しなければなりません。「どれが正解か」などと悠長にかまえていたら、すぐにボールを相手に奪われてしまいます。だから、優秀な選手ほど判断が早いのです。
 そして、これはサッカーだけでなく、仕事や日常生活などあらゆる場面にも当てはまるのです。
 ついでにいえば、そのときの判断が正しかったか間違っていたか、あとであれこれいうのは、あまり意味がありません。大事なのは、素早く決断することであり、その後に生じる状況の変化を責任をもって引き受けることなのです。
 では、何も考えず、鉛筆を転がして決めてもいいのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。そこには自分なりの確信が必要です。確信度が高ければ高いほど、結果は自分にとって好ましいものになります。
 確信度を高めるには、そのときの自分の気持ちや感情をモニターするのが効果的です。「お前は本当はどう思っているのだ」と、自分に問いかけ、心の声に耳を傾けるのを習慣にするといいでしょう。
 あとはひたすら、意思決定の機会を増やして訓練をする。日本人はすぐに判断を先延ばしにしたり、人に委ねたりしがちですが、これではいつまで経っても直感は育ちません。
 いっそのこと、「決断は2秒でする」と決めてしまうのはどうでしょうか。実際、僕は『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)の司会を受けるという決断を、オファーから2秒で下しました。

 『アウェー脳を磨け!』 第3章 より 茂木健一郎:著 廣済堂出版:刊

「直感」も、人間の持つ能力のひとつです。
 鍛えれば鍛えただけ正しく作用し、望んだ結果を導き出します。

 直感を鍛えるためには、その場で自分で判断しなければなりません。
 人任せ、指示待ちではダメだということですね。

 自分に問いかけ、心の声に耳を傾ける。
 ぜひとも、習慣にしたいです。

「最初のペンギン」になろう!


 グローバル社会に最も適応し、独立心旺盛なアメリカにも保守的な人はたくさんいます。

 日本とアメリカの差。
 茂木先生は、それは「チャレンジ精神にあふれたエリートの存在」にあると指摘します。

 いつだって力強く国民にヴィジョンを示し、その実現のためにアウェイに出て戦うことを恐れない、リーダーシップのあるエリートがアメリカにはいるのです。そして、そういうなかから、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような人間が一定の割合で出てきて、産業を起こし、雇用を創出する。だから社会は活力を失わず、ホームに残った人も安心して昨日と同じ生活を続けられるのです。
 片や日本では、こうすれば社会で認められる、成功するというホームの文脈に上手に適応できる人が、エリートと呼ばれるようになります。つまり、アメリカのようにエリートがエリートとしての役割を果たしていないのです。
 坂本龍馬の座右の銘は、「世に生を得るは事を成すにあり」。この気概をもったエリートがせめて全体の1%でもいれば、日本は変わることができます。
 もし周囲を見渡して、誰もいそうにないようだったら、そのときはあなたの出番です。
「エリート」と聞いて、「自分には学歴がないから、関係ない」などと思ったとしたら、それは、あなたが日本のつまらない権威主義にとらわれている証拠。勇気をもってホームを飛び出し、グローバルというアウェイでの偶有性を楽しめる人こそが、次の時代の真のエリートです。
 ペンギンは氷山の端まで来ても、しばらくそこでじっとしています。やがて、1羽が意を決して飛び込むと、たちまち残りのペンギンが氷の海めがけてダイビングし始めます。
 僕は人間も、このペンギンと同じだと思っています。誰だって未知の世界に足を踏み出すのは怖い。でも、誰かが行動を起こしそこが安全だとわかったら、残りのみんなは必ずあとに続きます。
 まず、誰かが先に偶有性の海に飛び込まないければならないのです。

 『アウェー脳を磨け!』 第4章 より 茂木健一郎:著 廣済堂出版:刊

 
「エリートは、学歴があって一流の企業に勤めている人」
 そういう考え自体が、日本的な「ホーム」にどっぷりとハマッています。

 真のエリートは、他の誰もが成し遂げたことがないことに果敢にチャレンジする人。
 つまり、アウェーに乗り込んでいく勇気を持つ人です。

 私たちも、氷山から飛び込む“最初のペンギン”でありたいですね。

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 今後、グローバル化はさらに進み、文字通り「世界がひとつ」になります。
 世界が大きく変わりつつある今、「日本は日本」という偏った狭苦しい考え方は通用しません。

「変わらないことは、最大のリスク」

 この言葉は、社会全体に対しても、私たち一人ひとりに対しても言えることです。

 自分の可能性を最大限発揮する。
 そのためにも、「偶有性の海」に自ら飛び込む勇気を忘れず、日々精進していきたいですね。


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