【書評】『やってのける』(ハイディ・グラント・ハルバーソン)

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 お薦めの本の紹介です。
 ハイディ・グラント・ハルバーソン先生の『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~』です。

 ハイディ・グラント・ハルバーソン先生は、社会心理学者です。
 モチベーションと目標達成の分野の第一人者で、目標達成能力、自己管理能力、幸福感を高めるための最適なアプローチを研究されています。

成し遂げるための「科学」


 人はさまざまな目標を立てて、それに向かって努力をします。
 仕事、健康、人間関係、お金・・・・などなど。

 最初は、誰でも本気で取り組もうとします。
 しかし、様々な障害で途中で挫折し、思うような結果を得られないこともしばしばです。

 多くの人は、目標を達成できない原因を、「自分に何かが足りないからだ」と考えがちです。
 しかし、それは大きな間違いです。 

 ハルバーソン先生は、たくさんの実験を行ない、目標達成にはきわめて重要な概念がいくつか存在することを知りました。

 その中でも大事なのは、以下の二つです。

  • 「目標を達成できるかどうかは、生まれつきの資質のみでは説明できない」
  • 「目標を達成する能力は、誰でも高められる」
 どちらも、これまでの常識には反しますが、現在の社会心理学研究では一般的に認められている考えです。

 例えば、意志の強さの象徴ともいわれる「自制心」。
 重要ではありますが、自制心の強さは生まれつきのものではなく、それだけでは目標達成には至りません。

 ハルバーソン先生はその証拠に、米国のバラク・オバマ大統領が、何度も禁煙に取り組みながらも挫折を繰り返していることを例に挙げています。
 さらに自制心というものは、使い過ぎれば消耗して弱くなり、使わなければ衰えてしまう「筋肉」のようなものだ、とも述べています。

 自制心だけではありません。
 至近の10〜20年間は、目標達成に関する常識が最新の科学によって、大きく書き換わった画期的な期間でした。

 本書では、最新の社会心理学研究の知見をベースに、あらゆる目標達成に当てはまる原則を紹介した一冊です。

 目標のさまざまなタイプとそれらの重要な違いに焦点を当て、最適な目標を設定するにはどうすればよいか、そのアプローチについても説明しています。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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難易度で「やる気を出す方法」を変える


 願望を実現するための第一歩は、「目標を設定すること」です。
 しかし、それ以上に重要なことは、「目標をどう設定するか」です。

 人の行動のとらえ方のタイプは、大きく二種類に分けられます。

 一つ目は、「自身の行動を抽象的に考えるタイプ」です。
 このタイプの人は、掃除機をかけることを「家のなかをきれいにすること」と見なします。

 二つ目は、「自身の行動を具体的に考えるタイプ」です。
 このタイプの人にとって、掃除機をかけることは「ホコリやゴミを吸い取ること」を意味します。

 どちらも正解ですが、両者の間には、明確で重要な違いがあります。

 抽象的な「なぜ」と具体的な「何」の違い。
 ハルバーソン先生は、動機付けにおいてそれぞれ意味合いが異なると指摘します。

 抽象的な思考は、小さな行動を大きな意味や目的に結びつけられるため、意欲を高めやすくなります。面倒でやる気がわかない作業も、意義のあるものとして捉えられるようになるのです。残業しなければならなくなったときは、「あと一時間、コンピューターに向かってキーを打つ」と考えるよりも、「この頑張りがキャリアアップに結びつく」と考えるほうが、モチベーションを上げやすくなります。その意味では、わたしたちが多くの場合、この「なぜ」の思考を好むのも驚くことではありません。
 誰かに何かをしてほしいときにも、「なぜ」は効果的です。子どもに勉強をさせたいのなら、「早く教科書を広げて、元素の周期表を暗記しなさい」と言うよりも、「この勉強は大学入試に役立つわよ。素晴らしいキャンパスライフを目指して頑張りましょう」と伝えてあげるほうが、子どものやる気を刺激しやすくなります。どちらの場合も元素記号を覚えなくてはなりませんが、「なぜ勉強するのか」という理由を理解することで、意欲が高まるのです。丸暗記しないさいと言うだけでは、子どもは熱心に机に向かわないでしょう。
 一方、目の前の行為そのものを考える具体的な「何」の思考法は、難しく、不慣れで、複雑な行動や学習をする必要があるときに効果を発揮します。たとえば初めて掃除機を使う人にとっては、「家のなかをきれいにしよう」と考えるよりも、「この道具を使ってホコリを吸い取ろう」と考えるほうが、うまく掃除機を使えるはずです。
(中略)
 このように、「大きな絵(なぜ)」と「次の一歩(何)」にはどちらも長所と短所があるため、達成したい目標のタイプに合わせて適切に切り替えることが大切です(この切り替えは無意識に行われることもありますが、つねにそうとは限りません)。

 『やってのける』 第1章 より ハイディ・グラント・ハルバーソン:著 児島修:訳 大和書房:刊

「大きな絵(なぜ)」と「次の一歩(何)」。
 目標を設定するとき、どちらによる動機付けがふさわしいのかを考えることがポイントです。

 自分の普段の思考パターンを把握して、臨機応変に対応したいですね。

「証明型」の目標と「習得型」の目標の違い


 最終的な成功へのプロセスは、目標のタイプの違いにより、大きく二つに分けられます。

  • 「能力を示すためによい成果を挙げること」を重視する「証明型」の目標
  • 「成長や進歩、技能の習得」を重視する「習得型」の目標
 証明型の目標は、短期的な成果や目標達成を求めがちです。
 その結果でモチベーションや自信も大きく左右されてしまいます。

 高いパフォーマンスを発揮しやすいと同時に、簡単に落ち込んでしまうことでパフォーマンスが低調になりやすいという傾向があります。

 習得型の目標は、短期的な目標の達成ではなく、どれだけ進歩したや成長をしたかに注目します。
 短期的な成果よりも、どれだけ進歩し成長したかなどの長期的な成果を重視します。

 つまり、「優れた存在であること(=ビーグッド)を証明しようとするのでなく、優れた存在になること(=ゲットベター)を重視する」ということ。

 人は習得型の目標を持つことで、難しい局面(「複雑さ」「時間的制約」「障害」「予期せぬ出来事」)に直面しても、証明型の目標を持っているときに比べて落ち込みにくくなります。

 よく、「ゴールに辿り着くだけでなく、その過程を楽しむことが大切だ」という話を耳にします。心理学の視点からも、それはよいアドバイスだと言えます。ただし、このようなアドバイスに、過程を楽しむための具体的な方法が示されていることはめったにありません。達成への道のりでは、困難に直面することもあります。過程を楽しむには、どうすればよいのでしょうか。
 証明型の目標を持つ学生は、学習内容をじっくりと考える暇もないまま、試験に合格するためにひたすら教科書に書かれてあることを暗記しようとします。証明型の目標では結果がすべてであり、この場合では試験でよい成績を取ることにほぼすべてのエネルギーが注がれます。
 一方、目標が過程を重視する習得型だと、人は行動そのものに大きな関心と楽しみを見出すことがわかっています。対象に深く関わり、没頭するといった感覚を覚えやすくなり、学ぶことに大きな価値が置かれるためです。わたしが教鞭を執っている医学部進学コースの化学のクラスの学生の場合でも、習得型の目標を持つ学生は、勉強に楽しさを覚え、積極的に学びたいと感じていました。正しい目標を求めることで、化学の周期表が魅力的なものになるのです。
 過程を楽しむことのメリットは他にもあります。過程に興味を持つ学生は、受け身的な態度ではなく、積極的な態度で学習に臨みます。疑問を解消するために、積極的に質問をします。丸暗記などの表面的な学習方法ではなく、原則を理解しようとする深い学習態度を見せるのです。また、習得型の学生は、課題を期限内に提出する店でも証明型より優れています。このような積極的な学習態度、学習内容への探究心、期限の順守などの要素は、よい結果に結びつきます。習得型の目標では、過程を楽しみやすくなり、成功の可能性も高まるのです。

 『やってのける』 第3章 より ハイディ・グラント・ハルバーソン:著 児島修:訳 大和書房:刊

 試験や資格の取得は、それ自体が最終目標になってくるのでしょう。
 ただ、位置づけとしては、必要な知識を学ぶための動機付け程度に止めておくべきかもしれません。

 試験の結果は、他の人の出来や出題範囲など、自分ではコントロールできない部分に左右されます。
 その点、習得型の目標ならば周りに左右されることなく達成することが可能ですね。

「自発的に行動している」感覚が成功率を上げる


 自らの意志で選んだ目標は、モチベーションと満足感を高めます。
 目標を自ら選ぶことで、「内発的動機付け」という賞罰に依存しない動機付けが生じるからです。

 内発的動機付けによって、楽しさ、好奇心、創造性、理解などが高まります。
 また、困難に直面しても簡単にあきらめなくなり、パフォーマンスも向上します。

 内発的動機付けは、自らの意志で目標を選択していると感じるだけでも生じます。デシとライアンは、自分の意志で選択できる、もしくは選択していると感じられる状況で、自律性が高まると述べています。
 これは、親や教師、コーチ、事業主など誰かに動機付けを与える立場にあるすべての人にとって価値ある情報だと言えます。
 年齢や置かれている状況は関係ありません。ある研究によれば、八年生から十年生の男女約300人の生徒のうち、体育の教師が自律性を重んじている(「自分に選択肢を与えてくれている」「自分を受け入れてくれている」)と見なしている生徒のほうが、そうでない生徒よりも運動を楽しいと感じており、学校以外でも運動をしようとする傾向が見られました。自分が選択したと認識するだけで、運動に対する前向きな気持がわき起こるのです。
 他にも、自らに選択権があり、人生は自分で切り開くものだと考える人ほど、モチベーションが高く、成功しやすいという研究結果があります。
 肥満の人の減量を取り上げた研究では、スタッフが自律性を尊重してくれると感じた被験者のほうが、スタッフに管理されていると感じた被験者と比べ、体重を多く減らし、定期的にエクササイズを行い、その後の追跡調査でも順調に体重を維持しました。
 糖尿病管理プログラムや禁煙プログラム、アルコール依存症の治療などでも同じような結果が得られています。また、他者からのものでもなく、自らの願望や価値観を反映する新年の誓いは、実現しやすくなるという研究結果もあります。

  『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~』 第5章 より  ハイディ・グラント・ハルバーソン:著 児島修:訳 大和書房:刊

 成果を出すまで続けたいのならば、自主的に目標に選ぶことが重要です。
 上から押し付けられた課題をただただこなすだけでは、やる気も起きませんね。

 自分の「〜したい」という欲求、「内なる力」を上手に利用したいです。

「現状を知る」ことを避けてしまう


 モチベーションの維持に必要なのが、「フィードバック」です。

 ハルバーソン先生は、フィードバックがなければ、モチベーションのシステムは作動しないと述べています。

 脳は、目的地(目標)と現在地(現状)との差を埋めるという単純な原則でゴールを目指します。
 よって、現在地がわからなければ、そのギャップを埋める行動を取るべきか判断できません。

 フィードバックは外からもたらされる場合もあります。たとえば、教師や上司からの評価、ウェブサイトのアクセス数などです。ただし、フィードバックは自発的なものでなければ効果が低下します。心理学では、これを「自己監視(セルフモニタリング)」と呼びます。自己監視は困難な目標に取り組むためには不可欠ですが、わたしたちはさまざまな理由によってこれを怠ります。
 まず、自己監視には努力が要ります。いったんアクセルを踏み始めると、ブレーキを踏むことが難しくなる場合があるのです。急いで目的地に向かっているとき、道に迷っても人に尋ねるのがためらわれるのと似ています。人に道を聞くことのほうが合理的だと頭でわかっていても、時間の無駄のように感じられてしまうのです。
 行動をそのまま続けたいという衝動を抑えて立ち止まるのは、かなりの意思を要します。わたしたちには、一度走り始めたら、たとえ方向が誤っていたとしても、そのまま走り続けるほうが楽だと感じる傾向があるのです。

 自己監視をおろそかにしてしまうもの一つの理由は、ネガティブなフィードバックに直面しなければならない点です。進捗(しんちょく)が芳(かんば)しくないとき、現実を直視するのはつらいものです。しかし、ゴールに辿り着くためには、ネガティブなフィードバックから目を背けてはいけません。アプローチそのものを変えなければならない場合もあります。進捗を把握できなければ、その判断はできません。

 『やってのける』 第8章 より ハイディ・グラント・ハルバーソン:著 児島修:訳 大和書房:刊

 がむしゃらに突き進んでも、正しい方向に進まなければ、その目標を達成できません。

 うまくいっていないときに現実を直視することは、誰にとってもつらいことです。
 しかし、それをしっかりやることで、ズレた軌道を修正することもできます。
 また、実現可能な目標に再設定することもできるわけです。

 どんな目標に対しても、定期的な「自己監視」は怠らないようにしたいですね。

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 何をやっても長続きしない三日坊主の人。
「自分はもともと意志の弱い人間だから」と考えて、努力すること自体を諦めてしまいがちです。

「目標を達成する能力」は、生まれつきのものではなく、誰でも高められるもの。

 本書を読むと、目標達成には、人間の心や思考の仕組みを理解していかに利用するかがすべてだということがわかります。
「自制心」や「意志の強さ」も、その仕組みを知っているか否かで大きく変わります。

「今回こそ、この目標を達成してみせる!」
 そう意気込んでいる方は、始める前にぜひ、本書を一読されることをお勧めします。


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