【書評】『育てる技術』(ジョン・ウッデン)

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 お薦めの本の紹介です。
 ジョン・ウッデンさんとスティーブ・ジェイミソンさんの『元祖プロ・コーチが教える 育てる技術』です。

 ジョン・ウッデンさん(John Robert Wooden、1910 〜 2010)は、バスケットボールのコーチです。
 大学時代に名選手として活躍、その後UCLAのコーチに就任され、カリーム・アブドゥル・ジャバー、ビル・ウォルトンなどのスター選手を育て上げます。
 60年代から70年代にかけてUCLAを10回にわたり全米チャンピオンに導き、「米国大学バスケット史上最高のコーチ」と言われる名将です。

 スティーブ・ジェイミウソンさんは、米国のスポーツ・コラムニストで、テレビ番組の司会者なども務められています

「禅」の精神に通じるウッデン哲学


 全米でも随一といわれる名コーチだったウッデンさん。
 若いころから、成果ではなくプロセスに集中することにこだわってチームを成長させてきました。
 何かを「手に入れる」ことではなく、何かを「する」こと、「報酬」ではなく、そこに至る「道筋」を重視する方法です。
 それを最もよく表しているエピソードは、ウッデンさんが、チームに対して「勝つ」という言葉を一度も使わなかったということです。

 対戦相手は、自分の力を存分に発揮するためのパートナー。
 本当の敵は「自分自身」の中にある。

 そのような意味が込められています。

 練習でも本番でも、自分たちができる最大限の努力をできたかどうか。
 それができれば、結果は自ずとついてくるという考え方です。

 ウッデンさんは、単に勝つことよりも高い基準にこだわりました。
 最重要課題は、なれる最高の自分になるために質の高い努力をしていたかどうかです。

 本書は、「20世紀最高のスポーツ指導者」ウッデンさんの精神的遺産、どんな組織にも通じる指導法の極意をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「理想的の指導者」とは?


 ウッデンさんは、「理想的な指導者」について以下のように述べています。

 ほとんどの老練なコーチの間には、バスケットボールの技術的な知識において違いはあまりない。ビジネスの世界でも同様だ。管理職の立場にある者はみな、それぞれの仕事の基本を理解している。
 しかし、部下を教えて、やる気を起こさせる能力は、指導者によって大きな違いがある。
 知識だけでは理想的な結果を得るのに十分ではないのだ。部下にやる気を起こさせるという、つかまえどころのない能力がなければならないからだ。
 これが指導者の条件である。部下にやる気を起こさせることができないなら、人を導くことはできない。

 真の指導者は、たんにん権威のある人物というのではなく、それよりもずっと大きな存在である。看守も権威を持っているが、指導者ではない。指導者とは、人びとに意欲を起こさせるために銃を必要としない人のことである。
 自然に指導者になる者もいれば、いつまでたってもなれない者もいる。しかし、自分を指導者だと思っていない多くの人でも、人びとをいっしょに働かせる基本原理を理解すれば、指導者になる可能性を持つことができる。
 その基本原理は学ぶことができる。実際、私はそれを学んだのである。

 『育てる技術』 Part 1 より ジョン・ウッデン、スティーブ・ジェイミソン:著 弓場隆:訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 恐怖や不安なども、何かをする際の動機付けにはなります。
 しかし、それだけでは指導される側の反発は大きく、途中で息切れしてしまいます。

 継続的な成長には、自分の中から湧き上がる情熱、つまり「内的なモチベーション」も必要です。
 超一流の指導者は、チーム全員のやる気を引き出す術を知っています。

一人ひとりがチームに必要なことを教えなさい


 一人ひとりが素晴らしい選手だとしても、チームとしてのまとまりがなければ、望み通りの結果は得られません。
 ウッデンさんは、全員がベストを尽くす必要があることを強調しています。

 私はUCLAの選手たちに「われわれのチームはパワフルな車みたいなものだ」と言ってきた。カリーム・アブドゥル・ジャバーやマイケル・ジョーダンは大きなエンジンだが、タイヤがひとつでもパンクすれば、車は立ち往生してしまう。まっさらのタイヤをそろえてみても、ネジがゆるんでいたなら、車輪がはずれる。そんなときに強力なエンジンが何の役に立つだろうか。
 ネジがひとつゆるんだくらい、ささいなことのように思えるかもしれないが、そんなことはない。われわれ一人ひとりには、しなければならない役割が与えられている。人はより大きい存在、より重要な役割を担ってみたいと思うものだが、与えられた役割をきちんと果たせることを示すまでは、それはおあずけだ。そういうささいなことがいくつも積み重なって、大きなことが成し遂げられる。小さなことがうまく機能してはじめて、大きなエンジンが機能するのだ。
 マイケル・ジョーダンがシカゴ・ブルズに数年在籍してやっとプレーオフに初出場したことを思い起こせばよい。彼は才能に恵まれていたか? もちろんだ。しかし「エアー・ジョーダン(空中を舞うジョーダン)」の異名をとる彼ですら、それまでは他のメンバーたちが自分の役割をちゃんと果たしていなかったために好成績があげられなかったのだ。
 
 私はかつて選手たちにそれぞれの役割を指示すると同時に、こう話した。たとえ強力なエンジンを装備し、新しいタイヤとよく締まるネジで整備した車でも、ハンドルを握るドライバーが必要であり、そのドライバーがいなければ車はぐるぐる回ったり、木にぶつかったりしてしまう。そして私はこう明言していた。この私がドライバーなのだ、と。

 『育てる技術』 Part 2 より ジョン・ウッデン、スティーブ・ジェイミソン:著 弓場隆:訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 個人のために組織があるのではなく、組織のために個人があります。
 チームとして結果を残すためには、個人個人がバラバラな方向に突っ走ってはダメです。

 チームの方向性を定めてメンバー全員に徹底させること。
 それも、指導者の最も大きな務めの一つですね。

偉大な選手とのなる「資質ある人」の見いだし方


 多くのスポーツ選手が生れつき豊かな才能をもっています。
 しかし、その開発に力を入れないため、大成せずに終わってしまうことはよくあります。
 スポーツだけでなく、どんな分野にも当てはまることですね。

 成功するかしないかは、ひとえに努力するかどうかが分かれ目で、努力を惜しまないことが鍵
 ウッデンさんは、しかし、偉大な選手となると、それだけでは少し言葉が足りないと指摘します。

 私が一流のスポーツ選手に見いだす資質は、ビジネスで成功している人びとにも共通して見られる。どちらも戦いと挑戦を愛好している。どちらも最終結果は副産物だと考えている。
 どちらも目標に到達するだけの資質を持っており、非常に困難な試練に直面したときに闘志を燃え上がらせる。困難な試練こそが、自分の偉大さを引き出す材料を提供し最大の満足感を与えてくれることを、彼らはよく知っている。

 真の競争者とは、どれほど困難な状況にも喜びを見いだす人のことだ。真の競争者は困難な状況を好む。彼らが集中力を高め、活躍をするのは、困難に直面したときである。彼らは最大のプレッシャーがかかるときに、目標から逃げるのではなく、それに立ち向かっていく。
 真の競争者は挑戦を好む。課題は大きければ大きいほどよい。困難な試合であればあるほど、彼らは腕を上げる。
 例え負けようとも、真の競争者は最高の相手と対戦することで最大の喜びを得る。強敵と対戦することは、自分の最高の力を引き出す貴重な機会だからだ。
 彼らは大きなプレッシャーがかかるときに、自分の持っている能力をより多く発揮する。

 したがって、私の判断基準は彼らの能力ではなく、彼らがそれをどう生かすかということである。自分の能力をどの程度まで発揮しようと努めたか? 最大限のプレッシャーがかかる中で、どの程度まで能力を発揮できたか?
 それが、偉大さを内に秘めている人材を見つけだす私の方法である。

 『育てる技術』 Part 2 より ジョン・ウッデン、スティーブ・ジェイミソン:著 弓場隆:訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 どの分野においても、一流の選手は自らあえて厳しい道を選択します。
 彼らは、目の前の壁が高ければ高いほど、自分を奮い立たせることができます。
 その試練が自分をより成長させてくれることを理解しているからですね。

 一流のスポーツ選手は、最も注目される舞台で、最高のパフォーマンスを残すことができます。
 それは、プレッシャーを自分の力に変える術を身につけているからでしょう。

「勤勉」が“成功のピラミッド”の礎石となる


 ウッデンさんの考える“成功の定義”とは、「心の平和」です。
 心の平和は、最高の自分になるために最善を尽くしたという自覚から生まれる満足感によって得られるものとのこと。

 ウッデンさんの成功哲学を端的に表したのが、下の図に示す「成功のピラミッド」です。

成功のピラミッドP120

 図.成功のピラミッド (『元祖プロ・コーチが教える 育てる技術』 P120 より抜粋)

 ピラミッドにおけるそれぞれのブロックの位置と順番には重大な意味があります。
 まず土台を築き、その上にブロックを積み上げて建物をつくります。
 そして、最後に達した頂点が「成功」です。

 ウッデンさんは、最も重要な礎石のひとつに選んだ「勤勉」を、以下のように説明しています。

 勤勉とは、一生懸命に努力するというただそれだけの意味である。努力にとってかわるものはない。価値あるものはすべての努力によって生まれる。
 猛烈な努力をせずに偉業を成し遂げた人がひとりでもいたら、その人の名前をあげてほしい。
 マイケル・ジョーダン? 優れた運動能力もさることながら、それよりも重要なのは、彼がいくつかのが弱点を克服するためにたいへんな努力をしたということである。
 ジャック・ニクラウス? 「ゴルフの帝王」と呼ばれる彼の努力は伝説的だ。
 カル・リプケン? 大リーグの連続出場記録を持つ彼にしても同じことだ。

 成功と偉業を成し遂げた人はすべてそうだ。ビジネスマン、聖職者、医者、弁護士、配管工、芸術家、作家、コーチ、選手。職業はさまざまだが、成功者はみな、共通の基本的な資質を持っている。それは、大変な努力家だということだ。いや、それ以上に、彼らは努力することを愛しているのだ。
(中略)
 努力は必要欠くべからざるものである。自分が自分のすべてを出し切っているかどうかを本当に知っているのは自分だけである。いつも努力を惜しむ人は、自分の潜在能力を存分に発揮することが絶対にできない。
『チャンピオンになる方法』を書いたスポーツ記者のグラントランド・ライスは、このことを理解していた。彼は次のように書いている。

  あなたは彼らがどうやってそれをするのかを不思議に思う。
  そして、そのコツを探ろうとする。
  足腰や肩の動きを観察する。
  しかし、どこにその栄光の秘密があるのか、その答えにたどり着いたとき
  あなた発見するだろう。
  そのほとんどが練習の成果であり、
  残りは努力であるということを。

 だから、私は努力をピラミッドの最初の礎石に据えることを選んだ。ただ単に仕事場に顔を出して所定の仕事をこなす以上の意味があるこということを明確にするために、私はそれを「勤勉」と呼ぶことにする。多くの人は「一日中働いた」からといって、一生懸命働いているわけではない。少なくとも、能力を存分に出し切ってはいない。
 勤勉とは、最も細心で根気強く活気のある仕事ぶりのことである。努力を惜しまない態度は成功にはぜひとも必要だ。それがなければ土台がない。
 勤勉でなくても仕事はできるが、仕事をしなければ勤勉ではありえない。

 『育てる技術』 Part 3 より ジョン・ウッデン、スティーブ・ジェイミソン:著 弓場隆:訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 努力だけでは、一流といわれるレベルにまで上り詰めることは難しいかもしれません。
 ただ、一流と呼ばれている人は、例外なく、人並み外れた努力をしているのは間違いありません。
 
 どの分野でも、その道を究めるためには、最大限の努力を長期間継続する必要があります。
 そのために絶対に不可欠な“基礎の基礎”が「勤勉」と「情熱」ということです。

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 成功とは、名誉や地位を得ることではなく、「自分の持っている能力を最大限に発揮する努力を積み重ねて得られる満足感である」というのが、ウッデンさんの持論です。

「ただバスケットが強くなればいい」という才能のある選手を優先した指導法ではありません。
 一人ひとりに対して適切な目標を与えながら、モチベーションを高めていく指導法です。

 「ウッデン・コーチからは、プレーの仕方よりも人生についてより多くのことを学んだ」
 ウッデンさんの教え子たちは、口をそろえてそう言うそうです。

 バスケットという限られた世界だけでなく、すべての分野において応用の効く指導法。
 だからこそ、「20世紀最高のスポーツ指導者」という称号が贈られているのでしょう。

「敵は相手ではなく、自分自身の中にある」
「結果よりも、そこに至る過程が大事」

 私たちも、ウッデン流の指導から学んで、成功に向けて歩んでいきたいですね。


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