【書評】『選ばれる力』(原佳弘)

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 お薦めの本の紹介です。
 原佳弘さんの『選ばれる力』です。

 原佳弘(はら・よしひろ)さんは、セミナー・研修プロデューサーです。

「選ばれる講師」とは、どんなタイプ?


 近年、自己啓発や資格取得への関心が高まり、セミナーや研修を受講する人が増えています。
 テーマは多岐にわたり、さまざまな分野の講師が必要とされるようになりました。

 クライアントから信頼を得て、華々しい活躍を続ける講師もいれば、クライアントから敬遠されて、仕事がなくなった講師もいます。
 原さんは、この両者の差が生じる理由を、「ベースとなる考え方」と「自分が選ばれる状態にもっていく戦略」の両面があると述べています。

 講師という「コンテンツ」の商品価値だけでは伝わりにくく、「売り方」も重視する必要があります。

「講師」という看板を掲げれば、仕事の依頼がやってきたのは昔の話。
 では、「選ばれる講師」とはどんなタイプで、どのような活動や意識が必要なのでしょうか。

 本書は、数多くの講師を見てきた原さんが、「選ばれる講師」という視点でノウハウをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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一番多い課題は「一方的になってしまう」こと


 原さんが、研修講師について一番気になった点。
 それは、「講師が一方的になってしまう」ことです。

(前略)クライアントの前や私たちエージェントの前で「一方的に話し過ぎてしまう」のです。相手に伝えたい思いのあまり「一方的に伝える」ばかりになってしまうのです。
 語りたい気持ちはよくわかります。クライアントのことをわかっているからこそ、また相手の課題解決のためだからこそ、あれこれ気が付くのでしょう。相手のためを思って伝えたくなる、と私たちも理解しています。でもその結果マイナスに働いてしまうのです。
 この点は、研修・セミナー会社の担当者から見ると、とても心配で不安です。なぜならば、講師がいつもまくしたてるタイプの講師に見えてしまうからです。研修でも一方通行型の内容になってしまう、受講生の反応や疑問を拾ってもらえない、などのリスクを感じるのです。研修中に受講生に受講生の関心や受講態度を気にせず一方的に話してしまうのではないか、クライアントへの提案の際にも相手視点になれずに講師目線での提案になってしまわないか、そして私たちエージェントの意向やお願いも無視されてしまうのではないか、と不安を感じるのです。
 この「一方的に伝えたがる」傾向は、講師の方との面談前にも伝わってきます。履歴書、経歴書、提案書などに“それ”が見えるのです。
 研修・セミナー会社には、毎週何通もの「講師登録希望」や「履歴書・提案書」が送られていきます。多いときには、週に10人以上から送られてくることもあります。
 残念な点は、この履歴書・経歴書・提案書の多くが「自分目線だけ」で書かれていることです。「こんな著名大学出身です」「一流企業で◯年やってきました」「社内褒章◯回、MVP◯回」「資格はこれだけあります」「海外でこんなことをやってきました。」「これまでの登壇実績はこんなにあります」と、あれもこれも盛り込んであります。
 また、記述内容だけでなく、レイアウトやデザインも相手視点がほしいところです。細かな文字がビッシリ書かれた書面、たくさん羅列しすぎて要点が見えない提案書など読み切れません。誰に読んでもらうための書類なのか考える必要があります。
 そんな書類であれば、いくら熱意が込められていたとしても「自分目線で一方的に伝えてくる」と、受け取られかねないのです。一方的に発信しても、残念ながら片思いに終わってしまうのです。
 もちろん、重要な情報やキーワードを履歴書や提案書に盛り込むことは大事です。それらは、企業に提案する際やセミナーを企画する際に活躍します。「相手目線」になって資料や提出文書を検討してみてはいかがでしょうか。

 『選ばれる力』 1章 より 原佳弘:著 同文館出版:刊

 熱心な講師ほど、「教えたい」「伝えたい」という気持ちが先に立ってしまいがちです。

 受講生に多くのノウハウを教えることは大切なことです。
 しかし、受講する側の理解が追いつかなかなければ、意味がありません。

 講師もお客様商売です。
「相手目線」で考えることが、何よりも求められるということですね。

「エージェント」とは、どのような存在か?


 セミナー・研修業界では、「エージェント」の存在は欠かすことができません。
 エージェントは、「講師に代わってセミナーから参加者を集める」もしくは「企業からの研修の仕事を請け負ってくる」機能を提供する存在です。

 セミナー会社であれば、セミナーの企画立案、参加者集め、会場準備、当日の受付・集金、司会などの業務を引き受けます。

 エージェントは、講師にとってみれば、仕事を取ってきてくれるありがたい存在です。講師にとっての一番のメリットは、「仕事が決定している」ということ。セミナー会社が企画した公開セミナーに講師として呼ばれる、あるいは研修会社が取ってきた企業研修の講師として登壇できるのでリスクは低いのです。自主開催のセミナーであれば、自分で集客をしないとセミナーが成り立たない可能性もありますし、研修を受注するために企業へ直接営業しても、なかなか決まらないことも多いはずです。その部分を、完全にエージェントが引き受けてくれることは大きいのです。その他、当日の運営も任せられるので、講師自身は講義や講義準備に集中できることもメリットです。さらに、著名なエージェントを通じた登壇の機会であれば、そのものが講師の実績となることも大きなメリットです。
 一方、見方を変えると、講師にとってエージェントはやや煙たい存在であることも本音でしょう。それは、エージェント経由となると「講師料が下がってしまう」ことが一般的だからです。例えば個人向けのセミナーの場合、セミナー会社は参加費の30〜50%を手数料として取っていくことが多いのです。企業研修の場合は、企業が支払う金額から利益を差し引かれています。これは、上記のようなエージェントが果たす機能を考慮すれば納得できるかと思いますが、一方で「いつかはエージェント経由でない仕事をしたい」と思う講師も少なくないことでしょう。下に、エージェント経由のメリット・デメリットをまとめました(下図を参照)。
 その他、この業界には「研修会場紹介会社」「研修の備品・ツール提供会社」「セミナーや研修に関する情報提供会社」などが存在します。
「研修会場提供会社」とは、セミナーや企業研修を行う際に、適切な会場を貸し出すサービスを行っている企業のことです。本格的なホールから、貸会議室の延長や公民館に近い業態まで、さまざまな会場を紹介してくれます。
「研修の備品・ツール提供会社」とは、ホワイトボードやプロジェクターといったセミナー・研修で必要な備品から、ふせん、模造紙、ミニホワイトボードなど、演習やワークショップをするために必要なツールを製造販売している企業を指します。そして、このジャンルの延長線上に、「ワークショップの素材ネタを提供する会社」「体感型のゲーム研修を企画製造する会社」なども存在します。
「セミナーや研修に関する情報提供会社」が提供するものは、多くの講師の紹介情報が載っているサイト、自主開催セミナーのポータルサイト、講義方法やワークショップ方法などのやり方を掲示しているサイトなど、中身は多岐にわたります。エージェントが運営している場合や、研修会場提供会社あるいは講師自身が運営を行っているケースもあります。

 『選ばれる力』 2章 より 原佳弘:著 同文館出版:刊

エージェント経由のメリット デメリット 2章P67
図.エージェント経由のメリット・デメリット (『選ばれる力』 第2章 より抜粋)


 エージェントは、講師がセミナーや研修の仕事に専念できるよう、裏方の業務を一手に引き受けてくれます。
 とくに講師の経験の浅い人にとっては、なくてはならない存在です。
 目的に応じてしっかり選び、よい関係を築きたいですね。

講師がなくしがちな「謙虚な心」と「素直さ」


 講師という仕事は、私たちが想定する以上の“人気稼業”です。
 受講者に、「また、次も来たい」と思ってもらえなければなりません。

 原さんは、“選ばれる講師”に必要な資質として、「謙虚さ」「素直さ」を挙げています。

 謙虚さと素直さは、どんな人にも必要だと思いますが、「先生」と言われるような講師の方々には、特に意識したい部分です。
 なぜならば、講師は仕事の立場上、どうしても上から目線になりがちで、資質や能力にかかわらず、自分が偉くなったような錯覚に陥るからです。
「先生、先生!」と慕われ、「助けてください!」と頼りにされ、「先生ならば、いつも安心です!」と崇められるうちに勘違いしてしまうのです。
 最初は、どんな講師も素直で謙虚です。しかし、依頼が増えて忙しくなり、エージェントに頼らずに仕事が取れるようになり、マスコミに取り上げられて、単価や仕事の規模が大きくなるにつれて、素直さ・謙虚さがどこかにいってしまう方がたまにいらっしゃいます。
 素直さという面は、先の自責視点と近いものがあります。いつも「言い訳が先に立つ」「タッグを組んでやっているのに、自分を守る言動ばかり」「クライアントからの依頼に、前向きに応えられない」。自分にはこうしたことがないつもりでも、ついつい出てしまうことがあるようです。
 私は10年以上この業界で仕事をし、100人以上の講師・コンサルタントの方々と会ってきました。講師は難しい立場であり役割だと理解しています。
 どうしても、上に立つ役割・言動が求められるのが講師です。勘違いしやすいポジションなのでしょう。
 しかし、「講師としての役割や求められる立場を踏まえてする言動」と「謙虚さ、素直な気持ちをなくすこと」は明らかに無関係です。どんなに有名な売れっ子になっても、素直で謙虚な気持ちを忘れない講師は、「この先生は姿勢が違う!」とクライアントは認めますし、それは受講生にも伝わります。
 エージェントやクライアントから、また一緒に仕事をしたくなると思ってもらえるような、「謙虚さ、素直さ」という視点をもっていると、相手には必ず伝わるものでしょう。

 『選ばれる力』 5章 より 原佳弘:著 同文館出版:刊

 講師という仕事は、自分ひとりで成り立つものではありません。
 クライアントやエージェントなど、周囲からのサポートが不可欠です。
「選んで頂いている」という感謝の気持ちは、忘れないようにしたいですね。

“選ばれる講師”が続ける「自己研鑚」


 原さんは、講師こそ、自己研鑚の機会を多く取る必要があると指摘しています。

 他人の講演・セミナーに参加する、業界の勉強会に参加する・主催する、1か月10冊以上の本を読む、自分の専門外の本も読む、全国各地を旅する、企業へヒアリング訪問する、あえて違う世代(子供や老人)へ語る機会を持つなど、講師によってその方法はさまざまです。
 また、講師は「自分のことがよくわからなくなる、見えなくなる」ともお伝えしてきました。
「自分を客観視したい」「自分の方向性を修正したい」ということに対応するため、コーチやアドバイザーを付けている講師の方も少なくありません。第三者の視点で俯瞰(ふかん)してもらい、そして忘れがちな自身のミッションやビジョンについてコメント、フォローしてもらうことは、講師にとってはとても貴重な機会です。それ自体が学びになります。同様に自分を客観視するという視点から「禅」や「ヨガ」などを取り入れている講師もいます。
 そして、基本的なことですが、クライアントやエージェントからのフィードバックを素直に受け入れられるかどうかということも重要です。クライアントの担当者の反応、受講生の感想、アンケート結果、そしてエージェント担当者の声などを反省材料にするのです。特に、講師にとって厳しい意見があった場合こそ、よい学びとなるのではないでしょうか。
 以前お付き合いのあった、ある大御所の先生は、アンケートを見ない主義でした。また、エージェントの担当者の声を一切聞き入れない講師の方もいました。クライアントからの修正希望を聞いて、怒って出ていってしまう講師もいました。残念なことですが、そういった講師の方々とは結果的にビジネスが長く続きませんでした。
 耳に入れにくいような反省点や課題は、ないに越したことはありません。しかし、そういう声を伝える目的は、講師を責めることではなく、次の改善につなげたいという思いです。よりよいセミナーの場をつくり、もっと受講生に質の高い研修を行いたいだけなのです。そして、そうしたフィードバックは、講師とクライアントの関係がよいからこそできるのです。フィードバックがあるということは、講師を信頼している、次回にも期待している、と捉えたいと思います。
 そして、教育業界には「教えることは学ぶことだ」という大切な姿勢・考え方かあります。お金をもらいながらも、自己研鑽の場ともなっている職業がこの講師業です。
 大事なことは、「学び続ける」意識、姿勢、そしてその実行・具体化でしょう。学び続ける講師は視点が多様ですし、新しい知識や業界外のノウハウ、知恵などももっています。ぜひ、自身の学びの場をもち、理想の講師像を追い求めてはいかがでしょうか。

 『選ばれる力』 7章 より 原佳弘:著 同文館出版:刊

 専門分野の知識を深めることはもちろん、それ以外の分野に触れることも、講師としての幅を広げるには重要なことです。
 周りの人の意見に素直に耳を傾けることも大切です。

「教えることは学ぶこと」

 講師を続けるということは、つねに学ぶことです。
 その意識を持ち続けられる人だけが、“選ばれる講師”として活躍できるのですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 講師というと、その分野の第一人者や偉い先生が務めるもの。
 一昔前は、そういう認識を持つ人がほとんどでしたが、今は違います。
 ごく普通の人でも、講師として活躍できる時代です。
 受講する側も、自分に近い立場の人の方が、親近感を持てるし、同じ悩みや問題を共有できるという理由もあるのでしょう。

 講師に必要なのは、その分野への深い知識と愛情。
 そして、相手に「伝えたい」という情熱です。

「講師の仕事を始めたい!」「講師として活躍したい!」
 そう願うすべての人に読んで頂きたい一冊です。

 

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