【書評】『人を動かす』(デール・カーネギー)

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 お薦めの本の紹介です。
 デール・カーネギーさんの『人を動かす 新装版』です。

 デール・カーネギー(Dale Carnegie)さん(1888 – 1955)は、米国の作家、教師です。
 自己開発、セールス、スピーチおよび対人スキルにおいて、独自のメソッドを開発されたことで有名です。

「人を動かす」のにも、原則があった!


 人は、「感情」で動く生き物です。
 いくら、理屈では正しいことをいわれても、反感を覚えたりすれば、動くことはありません。

 どんなに権力や財力を持っていても、相手を思い通りに動かすのは至難の業。
 他人を動かすことは、それだけ難しいということです。

 カーネギーさんが、「人を動かす」ための法則を一冊の本にまとめたのは、今から80年ほど前です。
 それ以来、全世界でベストセラーとなり、多くの人に読み継がれてきました。

 本書は、カーネギーさんがまとめた「人を動かす」ための法則を、現代人が読みやすいようにアレンジしてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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盗人にも「五分の理」を認める


 ほとんどの人は、「自分は正しい」と信じ、過ちを認めがらないものです。
 極悪非道の犯罪者でさえ、自分の悪事にもっともらしい理屈をつけて正当化し、刑務所に入れられているのは不当だと思いこんでいます。

「三十年前に、わたしは人をしかりつけるのは愚の骨頂だと悟った。自分のことさえ、自分で思うようにはならない。神様が万人に平等な知識を与えたまわなかったことにまで腹を立てたりする余裕はとてもない」
 といったのは、アメリカの偉大な実業家ジョン・ワナメーカーである。
 ワナメーカーは年若くしてこの悟りに達していたのだが、わたしは、残念ながら、四十歳近くになってやっと、人間はたとえ自分がどんなにまちがっていても決して自分が悪いとは思いたがらないものだということが、わかりかけてきた。
 他人のあら探しは、なんの役にも立たない。相手は、すぐさま防御態勢をしいて、なんとか自分を正当化しようとするだろう。それに、自尊心を傷つけられた相手は、結局、反抗心をおこすことになり、まことに危険である。
 世界的に有名な心理学者B・F・スキナーは、動物の訓練では、善いことをしときに、褒美をやった場合と、まちがったときに罰をあたえた場合とをくらべると、前の場合のほうがはるかによく物ごとを覚え、訓練の効果があがることを実証した。また、その後の研究から、同じことが人間にも当てはまることが明らかにされている。批判するだけでは永続的な効果は期待できず、むしろ相手の怒り買うのがおちである。
 いまひとり、偉大な心理学者ハンス・セリエはこういう。
「われわれは他人からの賞賛を強く望んでいる。そして、それと同じ強さで他人からの非難を恐れる」。
 批判が呼びおこす怒りは、従業員や家族・友人の意欲をそぐだけで、批判の対象とした状態は少しも改善されない。
 オクラホマ州エニッド市のジョージ・ジョンストンは、ある工場の安全管理責任者で、現場の作業員にヘルメット着用の規則を徹底させることにした。ヘルメットをかぶっていない作業員を見つけしだい、規則違反をきびしくとがめる。すると、相手は、不服げにヘルメットをかぶるが、目をはなすと、すぐ脱いでしまう。
 そこでジョンストンは、別の方法を考えた。
「ヘルメットってやつは、あんまりかぶりごこちの良いもんじゃないよ、ねえ。おまけに、サイズが合ってなかったりすると、たまらんよ。――きみのは、サイズ、合ってるかね」。
 まず、こう切り出して、そのあと、多少かぶりごこちが悪くても、それで大きな危険が防げるのだから、ヘルメットは必ずかぶろうと話すのである。これで、相手は怒ったり恨んだりすることもなく、規則はよく守られるようになった。

 『人を動かす』 PART1 より デール・カーネギー:著 創元社:刊

 しかったり非難したりするだけでは、相手を従わせることはできません。
 イソップ寓話の「北風と太陽」の北風のように、相手をより、かたくなにさせるだけです。

 どんなに相手に非があったとしても、真っ先に責めてはいけません。

 まずは、相手の意見を尊重し、それに共感を示す。
 その上で、相手に変えてもらいたいことを示唆する。
 この順番は、守ったうえで、しっかり伝えたいですね。

誠実な関心を寄せる


 カーネギーさんは、友を得る秘訣は、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心をよせることだと述べています。

 セオドア・ルーズヴェルトの絶大な人気の秘密も、やはり、他人に寄せる彼の深い関心にあった。彼につかえた黒人の召使ジェームズ・エーモスが『召使の目から見たセオドア・ルーズヴェルト』という本を書いている。その本に、つぎのような一節がある。
 ある日のこと、わたしの妻が大統領にウズラはどんな鳥かとたずねた。妻はウズラを見たことがなかったのである。大統領は、ウズラはこういう鳥だと、噛んでふくめるように教えてくれた。それからしばらくすると、わたしたちの家に電話がかかってきた(エーモス夫妻は、オイスター・ベイにあるルーズヴェルト邸内の小さな家に住んでいた)。妻が電話に出ると、相手方は大統領ご自身だった。今ちょうどそちらの窓の外にウズラが一羽きているから、窓からのぞけば見えるだろうと、わざわざ電話で知らせてくれたのだ。この小さな出来事が、大統領の人がらをよく示している。大統領がわたしたちの小屋のそばを通るときは、わたしたちの姿が見えても見えなくても、かならず「やあ、アニー! やあ、ジェームズ」と、親しみのこもったことばを投げて行かれた。
 雇い人たちは、こういう主人なら好きにならざるをえないだろう。雇い人でなくても、だれでも好きになるはずだ。
 ある日、タフト大統領夫婦の不在中にホワイト・ハウスをたずねたルーズヴェルトは、自分の在任中からつとめている召使たちの名を残らず覚えていて、台所の下女にまで親しげにその名を呼んであいさつをした。これは、彼が目下のものに対して心から好意をいだいていた証拠になるだろう。
 調理室で女中のアリスに会ったとき、ルーズヴェルトは、彼女にたずねた。
「あいかわらず、とうもろこしのパンを焼いているかね?」
「はい、でも、わたしたち召使が食べるのにときどき焼いているだけです。二階の人たちは、だれも召しあがりません」
 アリスがそう答えると、ルーズヴェルトは、大きな声でいった。
「ものの味がわからんのだね。大統領に会ったらそういっておこう」。
 アリスが皿にのせてとうもろこしのパンを一きれつまむと、それをほおばりながら事務室へ向かった。途中、庭師や下働きの人たちを見ると、以前と少しもかわらない親しみをこめて、ひとりひとりの名を呼んで話しかけた。彼らは、いまだにそのときのことを語りぐさにしている。ことにアイク・フーヴァーという男は、うれし涙を浮かべてこういった――
「この二年間こんなうれしい日はなかった。このうれしさは、とても金にはかえられないと、みんなで、話しあっています」。

 『人を動かす』 PART2 より デール・カーネギー:著 創元社:刊

 人は、自分に対して関心を持ち、自分の話すことを真剣に聞いてくれる人に好感を持つものです。
 とはいっても、うわべだけの関心では、簡単に見抜かれてしまいます。
 あくまでも、誠実で純粋な関心を向けることが重要だということです。

議論をさける


 議論をすることで、相手に自分の意見を認めてもらうことは難しいです。
 議論に勝つ最善の方法は、「議論を避けること」です。

 カーネギーさんは、あるパーティーに出席したときの自身のエピソードを例に挙げています。

(前略)みんながテーブルについたとき、わたしのとなりにいた男が“人間が荒けずりをし、神様が仕あげをしてくださる”という引用句に関係のあるおもしろい話をした。
 その男は、これは聖書にある文句だといった。しかし、それはまちがいで、わたしはその出典をよく知っていた。そこで、わたしは自己の重要感と優越感を満たすために、彼の誤りを指摘する憎まれ役を買って出た。
「なに? シェークスピアの文句? そんなはずはない! ばかばかしい! 聖書のことばだよ! これだけはまちがいない!」
 彼はたいへんな剣幕でそういいきった。その男は、わたしの右側にすわっていたのだが、左側にはわたしのむかしからの友人フランク・ガモンドがすわっていた。ガモンドはシェークスピア研究を長年続けてきた人だったので、ガモンドの意見を聞くことになった。ガモンドは双方のいいぶんを聞いていたが、テーブルの下でわたしの足をそっと蹴って、こういった。
「デール、君のほうがまちがっているよ。あちらの方のほうが正しい。たしかに聖書からだ」。
 その晩、パーティーからの帰り道で、わたしはガモンドに向かっていった。
「フランク、あれはシェークスピアからだよ。君はよく知っているはずじゃないか」。
「もちろんそうさ。“ハムレット”の第五幕第二場のことばだよ。だがね、デール、ぼくたちは、めでたい席に招かれた客だよ。なぜあの男のまちがいを証明しなきゃならんのだ。証明すれば相手に好かれるかね? 相手の面子(メンツ)のことも考えてやるべきだよ。まして相手は君に意見を求めはしなかっただろう。君の意見など聞きたくなかったのだ。議論などする必要がどこにある? どんな場面にも鋭角は避けたほうがいいんだ」。
 この友人はわたしに生涯忘れられない教訓を与えてくれた。わたしはおもしろい話を聞かせてくれた相手に気まずい思いをさせたばかりか、友人まで引き入れて当惑させてしまったのだ。

 『人を動かす』 PART3 より デール・カーネギー:著 創元社:刊

 相手の間違いを正すことは、必ずしも、ベストな選択ではないということ。
 ましてや、議論をして、相手を屈服させるなんてことは、愚の骨頂です。

 議論に勝つ最善の方法は、「議論を避けること」。
 心に刻み込んでおきたいですね。

“イエス”と答えられる問題を選ぶ


 話し上手な人は、まず、相手に何度も“イエス”と言わせ、相手の心理を肯定的な方向へ導きます。

 カーネギーさんは、はじめに“イエス”と多くいわせればいわせるほど、相手をこちらの思うところへ引っ張って行くことが容易になると述べています。

 人に“イエス”といわせるこの技術は、きわめて簡単だ。それでいて、この簡単な技術が、あまり用いられない。頭から反対することによって、自己の重要感を満たしているのかと思われるような人がよくいる。生徒にしろ、顧客にしろ、その他、自分の子供、夫、あるいは妻にしても、はじめに“ノー”といわせてしまうと、それを“イエス”とに変えさせるには、たいへんな知恵と忍耐がいる。

 ニューヨークのグリニッチ貯蓄銀行の出納係ジェームズ・エバーソンは、この“イエス”といわせるテクニックを用いて、危うく逃しそうになった客をみごとに引きとめた。
 エバーソン氏の話を紹介しよう。
「その男は預金口座を開くためにやってきました。わたしは用紙に必要な事項を記入してもらおうとしました。たいていの質問には進んで答えてくれましたが、質問によってはどうしても答えようとしません。
 わたしが人間関係の勉強をはじめる前だったら、この質問に答えてもらわなければこちらも口座を開くわけにはいかないと、はっきりいったにちがいありません。恥ずかしい話ですが、事実、わたしはこれまで、そういういい方をしてきました。そうやって相手を決めつけることは、たしかに痛快です。銀行の規則を盾にとって、自分の優位を相手に示すことになります。しかし、そういう態度は、わざわざ足を運んでくれた客に好感や重要感を絶対に持たせません。
 わたしは常識にかなった態度をとってみようと決心しました。銀行側の希望ではなく、客の希望について話そう。そして、最初から“イエス”と客に言わせるようにやってみようと思いました。そこで、わたしは客に逆らわず、気に入らない質問には、しいて答える必要はないといいました。そして、こういい添えました――『しかし、仮に預金をされたまま、あなたに万一のことがございましたら、どうなさいます? 法的にあなたにいちばん近い親族の方が受け取れるようにしたくはありませんか?』
 彼は“イエス”と答えた。
 わたしはさらに、『その場合、わたしどもがまちがいなく迅速に手続きができるように、あなたの近親者のお名前をうかがっておくほうがいいとお思いになりませんか?』とたずねました。
 彼は“イエス”と答えます。
 わたしたちのためでなく、彼のための質問だとわかると、客の態度は一変しました。彼自身に関していっさいのこと話しただけではなく、わたしの勧めに応じ、彼の母を受取人にして信託口座を設け、母に関する質問にも喜んで答えてくれました。
 彼がはじめの問題を忘れ、結局わたしのいうままになったのは、最初から彼に“イエス”とだけしかいわせない方法のおかげだと思います」。

 『人を動かす』 PART3 より デール・カーネギー:著 創元社:刊

 答えが“イエス”になるのか、“ノー”になるのか。
 それによって、質問の中身は同じでも、相手の心理状況は大きく変わります。

 自分の主張と相手の主張が対立しているときに、真正面から説得しようとしても無駄です。

 まずは、相手が“イエス”と肯定する質問から入って、徐々に間合いを詰めていく。
 そして、相手の心理的な壁を破る突破口を探りたいですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 本書の原書(『友をつくり人を動かす法』(How to Win Friends and Influence Peple)が出版されたのは、1936年。
 それから80年あまり、世界各国で翻訳され、大ベストセラーとなり、人間関係の分野におけるバイブルとされてきました。

 自分がされていいことは、他人にもし、自分がされて嫌なことは、他人にもしない。
 それが、人間関係を良好に保ち、相手を自分の思い通りに動かす秘訣です。

 人は、自分がどのような扱いを受ければ、気持よく自発的に動けるかを知っています。
 しかし、他人に対しては、どのようにすればいいのか、その術を知らない人は多いです。

 本書は、そんな当たり前だけれど、見落としがちな真理を、あらためて教えてくれます。


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