【書評】『熟睡する技術』(古賀良彦)
お薦めの本の紹介です。
古賀良彦先生の『熟睡する技術』です。
古賀良彦(こが・よしひこ)先生は、精神神経学の医師です。 睡眠障害と関連が深い、うつ病や統合失調症などがご専門です。
増える「かくれ不眠」のリスク
不眠症一歩手前の、「病院に行くほどではないが、睡眠に満足できない」状態。
それを、「かくれ不眠」と呼びます。
もともと睡眠時間が短いことで、世界的に知られている日本人。
今後さらに、かくれ不眠が増加することが懸念されます。
かくれ不眠は、生活習慣病の発症リスクを高めたり、肥満、うつ病との関連性も実証されています。
また、ストレスに弱くなり、仕事の能率を下げ、やる気を奪うなど、数多くの心身への悪影響を及ぼします。
本書は、睡眠の質を上げ、熟睡するために必要な方法や考え方を解説し、まとめた一冊です。
いくつか印象に残った部分をピックアップしてご紹介します。
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「成長ホルモン」が出るのは、夜の11時から2時
昔から、「寝る子は育つ」といいます。
その理由は、睡眠中に分泌される、「成長ホルモン」にあります。
成長ホルモンとは、脳の中心部にある脳下垂体から分泌される、人の成長と代謝を促す働きを持つ物質
です。
骨の生育などはもちろん、壊れた細胞や器官、筋肉を修復などもしてくれます。
また、紫外線などによる皮膚のダメージの回復や新陳代謝など、見た目の美しさや若さを保つ役割も持っています。
成長ホルモンの分泌量は、青年期をピークに減少していきます。
しかし、質の高い睡眠をとることで、年齢に合った適度な量を保つことができます。
気をつけなければならないのは、成長ホルモンの分泌される時間帯です。
成長ホルモンは1日中、同じように分泌されているのではなく、とくに活発に分泌される時間帯があります。
それは、午後11時から午前2時の間です。
同じ人が同じ条件で午後11時に眠りついたときと、午前2時に眠りについたときでは、ひと晩に得られる成長ホルモンの量が違うというわけです。
さらにもうひとつポイントがあります。成長ホルモンは眠りについてからの3時間が、もっとも多くの量が分泌されることがわかっています。ただし、これは深いノンレム睡眠になった場合のみ。残念ながら、浅いノンレム睡眠ではそれほど増えることはありません。
正しい睡眠サイクルであれば、寝ついて間もなくノンレム睡眠に入るので、成長ホルモンによる体の修復もスムーズに行われます。そのためにも、午後11時には床につき、就寝後3時間にぐっすり眠るための工夫をすることが大切です。『熟睡する技術』 第1章 より 古賀良彦:著 メディアファクトリー:刊
「早寝早起きは健康にいい」
それは、生理学的にも実証されているということです。
帰りが遅かったりして、つい、夜更かししてしまいがちになります。
しかし、健康のためにはいいことは何もありません。
とりあえず早めに寝て、やりたいことは翌朝早めに起きてやるようにしたいですね。
朝日を浴びて生活リズムを調整する
昼間に活動をして、夜は眠る。
そのような生活リズムは、もともと私たちの体に備わっているものです。
いわゆる「体内時計(生物時計)」と呼ばれるものですね。
この体内時計をしっかり規則正しく働かせるには、「朝の光を浴びること」が大切です。
体内時計は脳の中心部にある視床下部の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」で調整されます。
仕組みは、目の網膜が朝の光を受けると視交叉上核へ信号を送り、そこからさらに奥にある「松果体(しょうかたい)」に届けます。すると、光の信号を感じた松果体は、眠気を起こすホルモン、メラトニンの分泌を抑えるようになり、夕方以降、あたりが暗くなってくると分泌を活発にして、睡眠リズムの調整をします。
朝から夕方までは交感神経が優位となって、セロトニンやアドレナリンの分泌が高まり、社会生活を活動的に過ごすための態勢に、夕方以降はメラトニンの分泌が増えていき、副交感神経が高まって眠りに適した態勢になるのが、自然なからだのリズムです。
昼と夜を繰り返す地球の自転は1日24時間ですが、体内時計は1日25時間。1時間のズレがあります。
私たちは毎日、このズレを24時間周期のリズムに調整する必要があるのです。
その方法が「朝の光を浴びる」ことです。
朝の光による刺激が視床下部に届くと、体内時計の狂いは瞬時に修正され、1日の正しいリズムを刻み始めます。お天気が悪い日には、室内の灯りをパッとつけて、目から光の刺激を入れてください。『熟睡する技術』 第2章 より 古賀良彦:著 メディアファクトリー:刊
体内時計は、平日も休日も同じリズムで時を刻んでいます。
体内時計を狂わせないためにも、寝だめや二度寝はせず、規則正しい生活をした方がいいです。
古賀先生は、疲れたからだを労る休日こそ、平日同様の早起き&早寝をする
ことを勧めています。
軽いストレッチが睡眠スイッチを入れる
熟睡するには、眠る前の準備がとても大切です。
脳の睡眠スイッチは、電気のスイッチのように、いきなり「パチン」とは入りません。
古賀先生は、熟睡するためには、日中の緊張をきちんとほぐして、リラックスした副交感神経優位の状態に切り替えておくことが重要
だと述べています。
食事や運動、お風呂はどれも一時的に交感神経を刺激するので、これらは床につく2~3時間前までには済ませておきます。そのあとはゆったりと、自分の時間を楽しめば、副交感神経が高まっていき、眠る準備が整います。
特におすすめなのは、好きな香りのアロマをたいたり、本を読んだり、くつろげるリズムの音楽を聞くことです。また、軽いストレッチやマッサージ、女性であればボディケアや爪の手入れなど、自分のからだをやさしくいたわる作業も適してます。
そうするうちにからだのこわばりが解けて余分な力が抜けていき、睡眠のスイッチがいつでも入る状態に整います。すると、あとはベッドに入るだけで自然と眠りが訪れ、深い眠りであるノンレム睡眠が始まっていくようになるのです。『熟睡する技術』 第3章 より 古賀良彦:著 メディアファクトリー:刊
寝る前に、パソコンやスマートフォン、テレビなどの電子機器の画面から出る青色光、「ブルーライト」の浴び過ぎも、睡眠のリズムに悪影響を及ぼします。
寝る直前の時間帯は、できるだけ心や体への刺激の少なくし、心穏やかに過ごすように心掛けたいですね。
時には薬に頼る手もあり
脳も少しずつ機能低下により、年齢を重ねると共に眠りが浅くなって、睡眠時間が短くなることがあります。
加齢による睡眠トラブルの自覚症状として一番多いのは、夜中に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」です。
加齢や過度のストレスによる不眠は、本人の頑張りや生活改善だけでは手に負えないこともあります。
古賀先生は、そのような場合は、睡眠薬を用いてでも眠るように努めてほしい
と述べています。
日本人は世界中でもっとも睡眠薬を嫌っています。
私の診察室でも、眠れずに苦しんでいるにも関わらず、睡眠薬を処方しようとすると「癖になりませんか?」「薬の量がどんどん増えて行きませんか?」と、薬への依存を心配する声をよく聞きます。
たしかに睡眠薬にしろ、痛み止めにしろ、必要以上に薬を服用すれば依存問題は起こりますが、現在の薬は安全なものが多いので、用法と用量を守っていればさほど心配はいりません。
それよりも不眠といった睡眠障害が長引くことでこうむるデメリットの方が、はるかに大きいのが事実です。睡眠に関する薬には「睡眠薬」と「睡眠改善薬」の2種類があります。
睡眠薬は医師の処方が必要な薬です。効果の長さによって薬の種類もさまざまあります。一方、睡眠改善薬は薬局や薬店で買うことができ、服用後30分から1時間で効果が現れます。個人差はありますが、効果がもつのは7時間程度です。
かくれ不眠であれば、睡眠改善薬によってかなり眠りの質は整えられます。毎日飲み続けるのではなく、どうしても寝つけないときだけ用いるようにすれば、依存の心配もありません。
薬をむやみに怖がるのではなく、必要なときに上手に利用して心身の負担を軽減するのが、賢い付き合い方です。『熟睡する技術』 第4章 より 古賀良彦:著 メディアファクトリー:刊
不眠を自覚する人は、まず、市販の睡眠改善薬を飲んで様子を見てみること。
それが速やかな症状改善のためには、最も効果的な方法です。
睡眠改善薬を使っても状態が改善しない。
どの薬が自分に適しているのかわからない。
古賀先生は、そのようなときには、睡眠に対する正しい知識をもった精神科医師のいる病院での診察を受けることを勧めています。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
古賀先生は、睡眠は人生を支える、最も重要な基礎
である、とおっしゃっています。
質のいい睡眠をとるだけで、からだの調子は上がり、気分もぐっと軽くなります。
基礎がしっかりしてなければ、どんなに大きくて立派に見える建物でも、大きな地震などがあったらすぐに倒壊してしまいます。
それは人生についても同じことが言えます。
眠りの質を上げることで、体調を整えることができます。
体調が整えば、気持ちも前向きになり、集中力も出てきて仕事もはかどります。
仕事がはかどれば、残業も減って、余裕のある夜の時間を過ごして早めに床につくことができます。
本書の内容を実践し、健康的で質の高い人生を歩んでいきたいですね。
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