【書評】『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』(阪本啓一)
お薦めの本の紹介です。
阪本啓一さんの『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。 (「市場の空席」を見つけるフォーカス・マーケティング)』です。
阪本啓一(さかもと・けいいち)さんは、マーケティング・コンサルタントです。
メールやウェブを使ったブランディング&マーケティングを中心に、様々な業界にクライアントを持つ売れっ子コンサルタントとしてご活躍中です。
インターネットが『マーケティングのルール』を変える
阪本さんは、今、世界でマーケティングのルールを変える「革命」が進行中である
と述べています。
かつて効果的だった、「大量生産・大量消費」や「テレビなどのマスメディアを使った大規模な宣伝」のビジネスモデル。
それがいたるところで破綻しつつあります。
日本でも、色々な業界で大手の有名企業が「革命の洗礼」を受けていますね。
「革命」の駆動力となっているのが、2000年頃から始まった「インターネットのインフラ化」です。
インターネットにどこからでもアクセスできるようになったおかげで、誰でも大量の情報を手軽に仕入れて、ボタン一つで買い物もできるようになりました。
また、フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・メディア・サービス(SNS)の普及により、個人が大衆に向けて簡単に発信することができるようになりました。
「作る側」よりも「消費する側」が力を持ち、様々な情報が氾濫する。
このような時代で商品を買ってもらうには、新しいビジネスモデルが必要となります。
阪本さんが提案しているのは、これまでとはまったく逆の発想に立った「たった1人に集中しよう」というマーケティングアプローチです。
本書は、「1人を振り向かせたら、100万人に届く」をコンセプトに、具体的な手法を交えて解説した一冊です。
その中から印象に残った部分をいくつかご紹介します。
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君のビジネスを「つぶす」には?
「革命の波に乗り、新しい顧客を掘り起こそう」
「何か新しいビジネスを始めよう」
そう思い立ったとき、真っ先に考えなければならないことがあります。
それが、「君のビジネスをつぶすには、どうすればいい?」という質問です。
阪本さんは、この質問を考えることにより、自分たちのビジネスの「コア・アイデア」に気づいて着目することで、ビジネスを拡充することができる
と述べています。
「つぶすには?」の仮想質問の目的は、こうだ。
ぼくたちはみんな、アイデアを売っている。商品(製品・サービス)はアイデアをカタチにするための手段だ。つまり、ビジネス(それがたとえNPOであれ、宗教であれ、学校であれ、バンドであれ、漫才コンビであれ・・・・)を育てる、ということは、コア(核)となるアイデアを広めることである。
すると、いかに広めるか、の前に、「コア・アイデアが広まりやすいか?」という点が重要になってくる。広まりやすいアイデアとはどんなものか。「つぶすには?」を考えることで基幹アイデアを知る.そしてそのアイデアが広まりやすいものかどうかを検討する。次の3つだ。
・ひと言でいえる=シンプル
・伝えた相手が何らかの得をする(賞賛を得られる、尊敬される、モテるなど)
・つい伝えたくなる面白さ(JOY+WOW+LOVE+FUN)が含まれている。
(中略)
マーケティングの第一歩が、「コア・アイデア(自分のビジネスを成り立たせているアイデア)が何かを知り、伝わりやすいようにすること」。君のビジネスのコア・アイデアを知ろう。
そのために、「つぶすには?」を徹底的に考えよう。『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』 CHAP1 より 阪本啓一:著 日本実業出版社:刊
自らの強みを知る。
そのためには、自分の最大の弱点である「アキレス腱」がどこにあるのかを徹底的に調べることが必要です。
その弱点を克服することによって、逆に強みにすることができます。
他がマネのできない「コア・アイデア」が出来上がるということですね。
「How many?」から「Who?」へ
阪本さんは、たった1人、つまり1つのインタレスト(興味・関心)を満足させる。満足すると、人はつい誰かに伝え、シェアしたくなるものだ
と述べています。
マーケティングの発想を変えるうえで、まずすべきこと。
それは、「How many(量)」を最初に追うことを捨て、「Who(だれ?)」を徹底的に探ること
です。
「Who(だれ?)」を探ると、結果的に「How Many(量)」を手にすることができる。 ヒガシマル「揚げずにシリーズ」は、「Who(だれ?)」から始まった。開発する自分自身だ。そして、商品自身の備えているコア・アイデアが提供する「変化」と「解決」、つまり、「油を使わず、後片付けも簡単なのにカラッとおいしく揚がる」という変化と解決が揚げ物につきまとう「不」を解消した。 整理しよう。 揚げずにシリーズの「Who(だれ?)」は、第一に開発者自身(奥さんが揚げ物をやってくれないという不満)、第二に、揚げ物に不便と不満を持っていた生活者だ。(中略) 顧客にマーケティングをしてもらう。新しいマーケティングを実行し、うまくいけばいくほど、君は楽になる。忙しくて、やることがいっぱいなうちは、まだきちんとマーケティングが機能していない証左なのである。
『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』 CHAP3 より 阪本啓一:著 日本実業出版社:刊
阪本さんの提案する新しいビジネスモデルでは、マーケティングは「顧客」がします。
いわゆる「口コミ」ですね。
どんな不満や不安を解消するために、「誰を」を振り向かせるか。
それが、売り手側が、最初に考えるべきことです。
この発想の転換が、これからのビジネスで生き残っていくカギになります。
ソーシャルメディアはお客とつながる「1本の糸」
新しいビジネスモデルにおいて、メールやホームページなども含めたソーシャルメディアの活用は、必要不可欠です。
阪本さんは、「新しいマーケティング」を加速するためのソーシャルメディアの使用目的は、ただ1つだと言い切ります。
それは、目の前にいる1人に向けて、1本の糸でつなぎ、その糸をキープし続ける
ことです。
1本の糸をイメージしてほしい。ソーシャルだからといって、たくさんの人と同時につながる必要はない。目の前の1人とつながる1本でいい。 ソーシャルメディアを使って1本の糸をつなぐための鍵は2つ。 第一に、「伝えたい・また来てほしい・広めたい」ためのツールとして。これはぼくたちビジネスサイドの理由。 第二に、ソーシャルメディアで発信された内容が「自分のためのもの」として、パーソナルなタッチをもっているようにする。それによって「私1人のためのメッセージ」つまり、Me-media(ミー・メディア)として親しみを感じてもらう。 それが長い目で見たときに、「君のビジネス(店、会社、ブランド、君自身)に対するごひいき」として、こころのパイプがつながれることになる。これは、生活者・顧客視点から見た理由。
『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』 CHAP5 より 阪本啓一:著 日本実業出版社:刊
店側とお客側が、1対1で向き合ってつながり続ける。
そのための道具として、ソーシャルメディアは最適ですね。
店側が、直接相手をできる人数は限られます。
しかし、その背後に広がる巨大なネットワークを考えると、ものすごい宣伝効果が得られる可能性があります。
「逆ソーシャル作戦」とは?
阪本さんは、インターネットやソーシャルメディア全盛の今だからこそ、頭と心と身体を実際に動かして伝える力、「アナログ力」が重要になるといいます。
その一例として、自らはソーシャルメディアを使わない作戦、「逆ソーシャル作戦」を提案します。
そこで、逆ソーシャル作戦。 自分たちがソーシャルに発信するのではなく、お客さんにしてもらう。 スマートフォンでラーメンの写真を撮っている人がいたら、声をかける。「ブログですか? Facebook?」 ほぼ確実にどちらか、あるいは、両方と答える。 すると、「一緒に写真、撮ってもいいですか?」 と、そのお客さんと一緒に写真を撮る。「ブログを教えてください」「Facebook、うちはまだなんですよねー」 と対話する。 もし君が店としてはやっていなくても、個人アカウントでFacebookをやっていたら、「タグ付けしてください」と依頼しよう。「(ブログのURL)メールでいいですか?」 という言葉がお客さんから出たら、大成功だ。 君はお客さんのアドレスを手にすることができた。ブログの感想を休日か夜にメールすることで、パーソナルな対話をすることができる。(中略)「My」をお客さんの頭脳に生むのは、君からの、紋切り型ではない、パーソナルなメールだ。 Facebookに写真を上げた場合は、彼女のともだちや、そのともだちも君のラーメンを目にすることになる。 広まる。 君は1円も使わず。
『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』 CHAP6 より 阪本啓一:著 日本実業出版社:刊
なるほど、これは強力かつ効果絶大な宣伝手法ですね。
しかも、宣伝費用も一切掛かりません。
小さな会社でも(個人でも)、売り物の商品の質で勝負できる時代が来た。
そういう意味では、歓迎するべきことですね。
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インターネットなどのIT技術の発達で、魅力的な商品やサービスさえ提供できれば、多額の広告費や多くの人手を掛けることなく、お客さんを獲得してつなぎ止めておくことができる時代になりました。
誰もがそれぞれの「個人のメディア」を持ち、発信者になれる時代。
つまり、お客さん一人ひとりが強力な宣伝媒体となれるということです。
「顧客にマーケティングをしてもらう」という発想や、思いついたアイデアをいかに「たった1人」の心に響くように形にできるか。
本書は、これからのマーケティングの発想の方向性を知るうえで、とても参考となる一冊です。
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