本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『MAKERS』(クリス・アンダーソン)

 お薦めの本の紹介です。
 クリス・アンダーソンさんの『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』です。

 クリス・アンダーソンさんは、米国の経営者、雑誌編集長、ビジネス書作家です。
 大学で物理学や量子力学と科学ジャーナリズムを学び、いくつかの世界的に有名な科学雑誌を渡り歩いています。
 その後、英「エコノミスト」誌の編集者として7年間、テクノロジーからビジネスまで幅広い記事を取り扱っています。
 現在は、「ワイアード」US版編集長を務められています。

「メーカーズ」が切り拓く製造業の未来

 アンダーソンさんは、これまでの10年は、ウェブ上で創作し、発明し、協力する方法を発見した時代であったと述べています。
 そして、これからの10年は、その教訓をリアルワールドに当てはめる時代と強調します。

 製造業は、過去100年の間に、あらゆる点で姿を変えていますが、ひとつだけ変わらないことがあります。
 それは、ウェブと違って、すべての人に開かれていないことです。

 大量生産には技術と設備と投資が必要になるため、製造業は、大企業と熟練工にほぼ独占されてきたのが実情です。

 しかし、それが、いま変わりはじめています。

 アンダーソンさんは、その理由をもの作りがデジタルになったからだと述べています。
 デジタル化により、産業にさまざまな根本的な変化が訪れます。

 小売りから出版まで、あらゆる業界で「デジタル革命」がすでに起こっています。
 デジタル化のその業界に与える最大の変化は、ものごとを行う手法ではなく、それを行う主体に見られます。

 つまり、一般的なコンピュータでものごとを処理できるようになると、誰でもがそれを行えるようになるということです。
 本を買うのに、わざわざ本屋さんまで行かなくても、ボタンをクリックするだけで済むようになったというのも「デジタル革命」の一例です。

 そして、いままさに、製造業でもそのようなことが起こりつつあるということです。

 本書は、「バーチャル」な世界から「リアル」な世界へ、デジタル革命の波が押し寄せようとしている、製造業の世界の「これからの10年」について書かれた一冊です。
 その中から印象に残った部分をいくつかピックアップしてご紹介します。

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情報の時代は「第三次産業革命」を呼び起こす

 今日の高度な情報化時代を「第三次産業革命」だと言う人たちがいます。

 18世紀の後半にイギリスで起こった、蒸気機関による生産性の劇的な拡大が、第一次産業革命。
 19世紀の中頃から20世紀の初頭にかけての、化学産業や石油精製、電気製品の発達による製造業の変革が起きた時代が、第二次産業革命です。

 今の時代は、それらに匹敵するほどの大きな転換点であるということです。

 コンピュータが、本当の意味で私たちの文化を変えたのは、それがネットワークにつながったとき。
 最終的には、全てのネットワークであるインターネットにつながったときでした。

 アンダーソンさんは、究極の経済的インパクトを感じられるようになるのは、ソフトウェアによって様変わりしたサービスの分野ではなく、二度の産業革命と同じ領域、すなわち、もの作りの世界が変わったときだと指摘します。

 1950年前後の情報時代の幕開け、1970年代後半から1980年代はじめのパーソナル・コンピュータの開発、そして1990年代のインターネットとウェブの出現は、確かに革命だった。しかし、それは製造業を民主化し、その能力を増幅することではじめて、「産業」革命となる。それが、いまやっと起きはじめている。第三次産業革命とは、デジタル・マニュファクチャリングとパーソナル・マニュファクチャリングが一体となったときにこそ起きるもので、それがメイカームーブメントの産業化だといえる。
 もの作りのデジタル化は、既存の製造業の効率を高めるだけではない。それは、作り手の数を劇的に拡大している—―既存の製造企業に加えて、多くの「普通の人々」が起業家になりつつあるのだ。
 みなさんにも、すでにおなじみではないだろうか?まさにこれが、ウェブで起きたことだ。
(中略)
「無重力経済(ウェイトレス・エコノミー)」、つまり情報、サービス、知的財産といった、形のないビジネス(「足の上に落ちてもいたくないもの」から成る経済)は、なにかと話題になりやすい。しかし、現在、ビット経済の大部分を占めるのはこの形のない情報産業で、大きいといってもまだアメリカのGDPの5分の1にすぎない。そのほかのすべての産業、たとえば、サービスセクターのもっとも大きな部分を占める小売業は、ものを作り、運び、売る活動にほかならない。したがって、もの作りのプロセスを変えることはなんであれ、実体経済に大きな影響を与える。それが、本当の革命につながるのだ。

 『MAKERS』 第3章 より クリス・アンダーソン:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 製造業のデジタル革命の象徴のような機械が、「3Dプリンター」です。
 3Dプリンターは、通常の紙に印刷するプリンターが平面(2D)であるのに対し、CADファイルなどの立体的な設計図を読み取って、ABS樹脂などを用いて立体的に作成します。

 このプリンターが一般の人も手に入れられるようになったおかげで、自宅にいながら、製品の試作品を何度でも、好きなように自分の手で作成できるようになりました。

「デジタル革命」がもの作りにもたらすメリット

「デジタル革命」が、もの作りにもたらすメリットは、たくさんあります。
 アンダーソンさんは、それらを以下のようにまとめています。

 小ロットの生産なら、いまではデジタル生産に分がある。大量ロットなら、昔ながらのアナログ生産がまだいちばんいい。
 だけど、ちょっと考えてみてほしい。数百万個単位ではなく、数百個単位で作った方がいいものがどれほどあるかを。ひと世代前まで、「モノのロングテール」を実現する唯一の手段は、手作りしかなかった。だが現在ではデジタル工作機械が製造工程を自動化し、最小ロットでもほぼ完璧な品質のものができあがる。大量生産の基準を満たせず、これまでまったく市場に存在しなかった商品や、手作りしかないために手が届かないほど高価だったニッチ商品が、いま、手の届くところにある。
 デジタル生産は、これまでのもの作りの経済をひっくり返すものだ。大量生産の場合、コストの大半は機械への初期投資で、商品が複雑になればなるほど、また変更が多ければ多いほど、コストも膨らむ。デジタル生産は、その逆だ。従来のもの作りではコストのかかるものが、無料になる。

 1 多様性はフリーになる  ひとつひとつ違うものを作っても、全部同じものを作るのとコストは変わらない
 2 複雑さはフリーになる  手間のかかる部品がたくさんついた、精巧な細工が必要な品物も、3Dプリンタなら、平らなプラスチックの塊と同じコストで作ることができる。コンピュータはただで何度でも計算してくれる。
 3 柔軟性はフリーになる  生産が始まったあとで商品に変更を加えようと思ったら、指示コードを変えるだけでいい。同じ機械でそれができる。

 『MAKERS』 第6章 より クリス・アンダーソン:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 これまで、ビジネスとしてもの作りに参入する上で、大きな障壁となっていたこと。
 それらが、技術の進歩により、多くがフリー、つまり、無料で提供されるようになったことが大きいです。

 旧来のメーカーが、採算が取れずに足を踏み入れることができないニッチな市場。
 そこで勝負することで、資本や設備を持たない普通の人でも、「メーカーズビジネス」に参入できるようになりました。

「オープンソース化」という概念

 このような「メーカーズビジネス」を可能にするひとつの手法に、「オープンソース化」があります。
 つまり、旧来の企業では特許などで保護されるべきアイデアやイノベーションを積極的に無償で公開(オープン)することです。

 そうすることによって発明を無料で手助けしてもらえて、与えるよりも多くのものを受け取れると彼らは信じているからです。

 有望なオープンプロジェクトに参加したがる人は多く、プロジェクトがシェア(共有)されれば、さまざまな貢献も自ずとシェアされ、関心や評判(善意)といった「社会資本」として積み上がり、自分のアイデアを前進させるために利用できるようになります。

 オープンイノベーションに基づく企業は、単に市場へのアクセスを得られるというだけではない。メイク詩の発行人、ティム・オライリーの言葉を借りれば、そこによく練られた「参加のアーキテクチャ」が確立する。つまり、スキルを持つ数百もの人々がただで手を貸してくれるということだ。彼らがそうするのは、オープンソース・ソフトウェアやウィキペディアに参加するのと同じ理由だ。自分が信じる活動に参加したいからという人もいれば、単に自分に必要なものを作りたいからという人もいる。ただ、それをコミュニティのために公海しようという気持ちは彼らに共通するものだ。
(中略)
 オープンソース化するだけで、僕たちは無料の研究開発機能を手に入れた。もしソースを公開せず、自分たちでエンジニアを雇わなければならないとすれば、いくらかかったかもわからないし、仕事の質もこれほど高くなかったに違いない。ボランティアたちは、昼間は知る人ぞ知るその道のプロとして働いている——スカウトしようとしてもできる人材ではない。だが、夜になると、彼ら自身の欲しいものを作り、彼らがそれに参加したいと思っているからだ。しかも、オープンソースなら、より多くの人に届き、人材を惹きつけ、従来型の研究開発よりもはるかに速くイノベーションを生み出す好循環が起こせると知っているからだ。

 『MAKERS』 第6章 より クリス・アンダーソン:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 これまでは、資金力がモノをいった製造業の世界。
 そこでも、アイデアひとつで多くのボランティアの助けを借りて、簡単に起業したり、実際に製品として形にすることができる世の中になりつつあるということです。

 この動きが世界中に浸透すれば、それこそ「革命的な」変化を産業界全体に及ぼすことになりますね。

「レゴ」のロングテール

 これから世界中で多く誕生するであろうメーカーズ企業と、旧来の形態の企業との関係はどのようなものになるのでしょうか。

 その一例として、世界的に有名なな乳幼児向け玩具メーカーである「レゴ」を見てみましょう。

 ウィル・チャップマンは、自ら「ブリックアームズ」というメーカーズ企業を立ち上げて、レゴ本体では扱っていない「現代の銃」をレゴのキットを自らの手で作成してインターネットで販売しています。

 レゴはこれをどう思っているのだろう? 実は、喜んでいる。ブリックアームズのほかにも、ブリックフォージ、ブリックスティックスといった多くの同じような小企業が、レゴの公式フィギュアをカスタマイズするためのステッカーから特注のレゴサイズのキャラクターまで、ありとあらゆるものを製造し、このデンマークの巨大企業の周辺に「補完的な生態系」を築いている。
 これらの企業はレゴの二つの問題を解決している。まず、彼らは、「レゴのロングテール」であり、レゴという「母船」の周りを軌道する起業家たちが、全員で市場の隙間を埋めているおかげで、レゴは大量生産の商品に集中しつづけることができる。
 次に、特に年長の子供が欲しがるような製品を作ることで、ブリックアームズのような会社は子供たちを数年長く、8歳から10歳くらいまで、もしかすると12歳くらいまで、レゴの世界につなぎとめることができる。すると、普通のレゴ遊びを卒業した子供たちが本物のレゴマニアになり、おそらく大人になってもファンでありつづける可能性が増える。

 『MAKERS』 第11章 より クリス・アンダーソン:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 レゴは、ファンの立ち上げた周辺ビジネスに対し、彼らが商標を侵害したりしない限り、目をつぶっています。

 ボリックアームズのような企業は、既存の大量生産には対応できない、ニッチ(すきま)市場に狙いを定めた「メーカービジネス」の実例です。

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 誰でもどこでも、インターネットにつながる環境さえあれば、「もの作り」に参加できる。
 本書を読むと、そんな数年前なら考えもしなかったことが、現実に起きつつあることがわかります。

 しかし、それはすでに「ビット」の世界では、当たり前のように起こっていることでもあります。
「ビット」の世界の動きが「アトム」の世界にも浸透したとき、製造業だけでなく産業界全体で想像もつかないような大変革が起こるでしょう。

 少し怖くもありますが、楽しみでもあります。

 日本の浮沈にも大きく影響を与え、製造業のトレンドを左右するであろう「メーカーズ」たちの今後の活躍に注目していきたいですね。

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