【書評】『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』(木村尚義)
お薦めの本の紹介です。
木村尚義さんの『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』です。
木村尚義(きむら・なおよし)さんは、経営コンサルタントです。
汎用機SEを経てOA機器販売会社に就職、そこで閉店寸前のパソコンショップの店舗運営を任され、見事立て直すなど手腕を発揮されます。
「ラテラルシンキング」という思考法
木村さんは、20年に渡り、さまざまな思考法をベースにした新人研修を担当してきました。
そこで「成功する人」には、共通点があることに気づきます。
その共通点とは、「ムダを上手に活用していた」ということです。
今のビジネスでは、「ムダは悪で、効率が善である」という傾向が強いです。
しかし、効率を求め過ぎると、逆に状況が悪くなる結果になることが多々あります。
木村さんは、それは効率化しすぎて削ってはいけないところまで削っているから
だと指摘します。
「ムダを上手に活かす」という発想は、「ラテラルシンキング」の考え方に基づいています。
物事を順を追って深く掘り下げていく考え方である「ロジカルシンキング」(論理的思考)。
それに対して、「ラテラルシンキング」は水平思考とも呼ばれ、「逆転の発想を生む」考え方です。
目的を決めて、そこに向かってひとつの穴を掘り進めるのが「ロジカルシンキング」。
行き詰まったら別の穴を見つけようという思考法が「ラテラルシンキング」です。
常識を疑い、いろいろな視点から見るので、「コロンブスの卵」的な解決策も生まれやすいのが特徴です。
本書は、「逆転の発想」である、ラテラルシンキングを使ったムダの活かし方のアイデアや方法を、具体例を交えてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップします。
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成功と失敗のベストな関係
「パレートの法則」という有名な経験則があります。
「仕事に費やした時間の2割が、8割の成果を生み出す」
「2割のお得意様が、売上の8割を占める」
というように、全体の中の少数部分が大多数の利益を生み出すことを示す法則です。
この法則は、8割の利益を生み出す少数部分の2割以外は「ムダ」であるというふうに捉えられることがほとんどです。
しかし、木村さんはこのような解釈を否定しています。
パレートの法則は、「効率よくビジネスを成功させるには少数の部分にこそ目を向けよ」という解釈をしている人も多くいます。 しかし、ユニクロの柳井正さんは著書『一勝九敗』(新潮文庫)で、考えすぎずに早くやって、早く失敗するべきだと書いています。 1割の成果のために費やした手間のうち9割が失敗と言い換えられるのかもしれません。そう考えると、9割の失敗はムダではなくて、むしろ成功の一部、つまり、「原石」なのです。 積極的に失敗しようと思う人はいません。だからこそ失敗の経験はムダではなく失敗をさけたい人から見れば貴重な情報です。「挫折を知っている者は土壇場で強い」というのは、陳腐な文句ではなく、実際に起こりえることなのです。その貴重な失敗をラテラルシンキングで活かさないのでは、いつまで経っても成功はおぼつかないのではありませんか。 ムダな失敗を積み重ねていけば、ムダの目利きとなって本当のムダを見極められるようになるのです。
『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』 CHAPTER01 より 木村尚義:著 大和書房:刊
実際の利益を生み出している部分は、少数部分です。
しかし、その少数部分を生み出しているのは、残りの大多数の一見「ムダ」と思える部分です。
つまり、この大多数の「ムダ」な部分が多くなればなるほど、利益を生み出す少数部分も大きくなるということです。
「失敗は成功の原石」
これこそ「逆転の発想」である、ラテラルシンキングの真骨頂です。
仕事は先に延ばせ!
仕事を効率的にやるためには、できるだけ優先順をつけて、必要なものだけやることが大切だといわれています。 しかし、木村さんは、仕事はムダになるかもしれないけれど、前倒しでやっておくことも大事
だと述べています。「とりあえず、手を付けて寝かせておく」という考え方です。
あらかじめ気の乗らない仕事に少しだけ手をつけてから先延ばしします。得意な仕事、好きな仕事から順にこなしていきます。すると気の乗らない仕事のヒントも偶然に見つかることがあるのです。 なぜ、ヒントが見つかるかという実験をしてみましょう。 1分間、部屋の中を見渡します。その後、次の設問を読んでからすぐに目を閉じます。 赤い物がありましたか?改めて周りを見ずに、3つ思い出して下さい。 これは、難しいはずです。 予告されれば赤い物を中心に見たのに、予告がなかったから何を見ればよかったのか分からないからです。 赤い物を3つ探してから目を閉じて下さいといえば、簡単に見つけられるでしょう。 気の乗らない仕事でも、少しでも手をつければ、先ほどの予告と同じです。知らず知らずのうちに仕事の内容を意識します。すると赤い物を探すのと同じように仕事のヒントは勝手に目に飛び込んでくるのです。
『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』 CHAPTER03 より 木村尚義:著 大和書房:刊
気が乗らないないからといって、まったく手をつけない。
それだと、その仕事の内容がわからずヒントも得られません。
少しだけ手をつけたあとは、先延ばして好きな仕事を片付けていく。
そのうちに、偶然に仕事のヒントが得られるのです。
「Win−Lose」を大切にする
「Win−Win」
当事者同士に利益が生まれるところで決着を付けよう、という意味の言葉です。
仕事は「Win-Win」を目指して進めるのがベストです。
しかし、いつも思い通りにいくとは限りません。
そのような場合はどうしたらいいでしょうか。
たとえば、「Win−Lose(自分が損をする)」の関係でも許せるように考えます。 なんといっても日本では、別のビジネスをしているのに以前に仕事をした人とお会いすることも多い。 だから、相手から「今回の取引では譲歩するけれど、次回はよろしく」ということが起こります。この相手からの「次回はよろしく」を実践できていない人や会社はそのときは良くても、次第に信用を失っていきます。「損して得取れ」ではありませんが、損な役回りを引き受ければ、相手に「貸し」を作ることになります。 この「終わらせない努力」こそが、人脈を築く基礎になります。 1回ごとに「Win−Win」の関係を作ると小さなビジネスになりがちです。所々で「Win−Lose」になったとしても、長い目でトータルとして見れば、「Win−Win」の関係より大きなビジネスになります。
『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』 CHAPTER04 より 木村尚義:著 大和書房:刊
目先の利益だけを考えてはいけないということですね。
「貸し借り」のやり取りを通して、信頼と人脈やつながりを大きくしていく。
そんな広い視野でものごとを捉える人が伸びていくのでしょう。
マニュアルがないことを楽しもう!
「ムダを活かす」ことができるのは、人間だけです。
コンピュータの性能が上がるつれて、人間のやっていた仕事が自動化され置き換わっています。
人間が勝てるのは、コンピュータにできない、創造的な仕事です。
たとえば、実際の作業を基準化して、手順書やマニュアルを作る。
こういった作業は、いくつもの「経験」を抽象化して応用するという意味で、ラテラルシンキングが欠かせません。
マニュアルがないと仕事ができないと言う人を多く見かけます。ですが、こんな仕事こそがチャンスです。 新しい分野ではマニュアルなんかないのが当然です。それにマニュアルがないということは試行錯誤が許されます。それだけ自由度が大きい。 マニュアルがキチンとしているのなら、それは誰かが通った道をなぞることになります。後から通るのは楽ですが評価にはつながりません。できて当たり前だからです。 大切なのはあなたがマニュアルを作る側になれるということです。 マニュアルを作るということは、後からあなたに続く人たちのために道を整えることになるのです。 道無き道をはじめて進む人は苦労しますが、そのかわり「第一人者」になれるのです。 後から通る人は、先人の道しるべありますから楽に進めます。そのかわりに「その他大勢」になってしまう。
『「ムダ」が多い人ほど、よく伸びる』 CHAPTER05 より 木村尚義:著 大和書房:刊
木村さんは、マニュアルに従う「コンピュータ」ではなく、マニュアルを作る「人間」になってほしい
と述べています。
マニュアルがないと何もできない、決められたことしかできない。
そういう、「マニュアル人間」が増えているのが、今の日本の問題点でもあります。
コンピュータに置き換えられるリスクを、できるだけ少なくする。
そのためには、つねに自分自身で新しい分野に挑戦し道を切り開く、フロンティア精神が求められます。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
自分の人生を「ムダが多い人生だ」と嘆く人は多いです。
一方、「人生でムダなことなど一つもない」という人もたくさんいます。
「ムダ」を意味あるものとして捉えることができるか。
「ムダな経験」を「貴重な経験」として、後の人生に活かすことができるか。
それが充実した人生を送るための大きなポイントになるのでしょう。
今までの人生で積み重ねられた「経験」の中に、宝の山は眠っています。
それを掘り起こすことができるかどうかは、私たち自身の考え方次第です。
「逆転の発想を生む」
ラテラルシンキングを身につけて、「ムダを活かす」達人を目指したいですね。
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