【書評】『ソーシャルファイナンス革命』(慎泰俊)

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 お勧めの本の紹介です。
 慎泰俊さんの『ソーシャルファイナンス革命 ―世界を変えるお金の集め方 』です。

 慎泰俊(しん・てじゅん)さんは、大学の経済学部卒業後、大学院に進みファイナンス研究科を修了し、外資系の証券会社を経て、現在はファンド会社で投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与する傍ら、自らNPOを設立して東南アジアの貧困層を対象とした日本初の「マイクロファイナンスファンド」を企画するなど新しい形の融資を日々研究し、実践されていらっしゃいます。

これからの時代のファイナンス


 慎さんは、以下のように述べて、金融サービスの世界で新たな世界的に大きな流れが生まれつつあることを説明しています。 

 これまで金融の世界で生じてきたイノベーションは、お金のやりとりをより効率的なものにしてきた。言い換えると、金融におけるイノベーションは、資金調達における借り入れや出資の対価である資本コストを下げる。お金のやりとりがしやすくなれば、世界の資金の循環はより潤滑になり、必要な場所に必要な資金が届く可能性が高まる。それは新しいビジネス機会や、突発的な不運を回避する術を人々にもたらし、世界を前進させる。金融そのものが付加価値を生み出すことは少ないが、金融技術の正しい方向への進歩は、より多くの人々のチャレンジをサポートし、世界を変えることができる。
 ただし、いま世の中に起こりつつある変化は、これまでのイノベーションの延長線上にあるだけではなく、世の中の仕組みを根本的に変えていく可能性を有している。21世紀にウェブに登場したファイナンスのように、少ない資金で誰でも投資に参加できる仕組みが浸透していけば、一般個人がより自由に投資の世界に参加できるようになる。これは文字通り革命的なことだ。いつの時代も、後の大企業となるベンチャーや、後に大成するアーティストにお金を投じることができたのは、一部の人々だった。いま、それが変わろうとしている。

  「ソーシャルファイナンス革命」  はじめに より  慎泰俊:著  技術評論社:刊 

 本書では、『少ない資金で誰でも投資に参加できる仕組み』が、世の中に浸透することを「ソーシャルファイナンス革命」と呼びます。

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「ソーシャルファイナンス」の全体像


「ソーシャルファイナンス」とは、どんなものなのでしょうか。
 慎さんは、以下のように説明します。

 ソーシャルファイナンスとは、人間関係を何らかのカタチで利用しているファイナンスだ。
 ソーシャルファイナンスは、その依拠する人間関係の性質によって2種類に分けられる。一つ一つの人間関係が深く、その関係を有する人数が少ないようなコミュニティ、例えばムラ社会共同体のようなコミュニティを利用したファイナンスを、ここではコミュニティファイナンスという。コミュニティファイナンスのうち、もっとも代表的なものはマイクロファイナンスだが、それ以外にも様々なコミュニティファイナンスが世界各地に歴史的に存在してきた。
 一方で、一つ一つの人間関係は浅いが、その関係を有する人数が多いコミュニティ、たとえば先進国におけるSNSのような関係で成立するコミュニティを利用したファイナンスを、ここではP2Pファイナンス、もしくはクラウドファンディングという。P2Pファイナンスという呼び名は、このファイナンスの形態が個人から個人(Peer to PeerもしくはPerson to Person)へ行われる点に特に着目した名称だ。クラウドファンディングという呼び名は、このファイナンスにおいては一人の資金の受け手に対して、資金の出し手が大勢(Crowd)になる点に着目した名称だ。

  「ソーシャルファイナンス革命」  第2章 より  慎泰俊:著  技術評論社:刊 

「ソーシャルファイナンス」は、人間関係を利用して投資コストを下げる仕組みの総称です。
 このような仕組み自体は、世界中で古くから見られる融資の形です。

 では、どのような点が画期的で革命的なのか。
 ここではマイクロファイナンスとP2Pファイナンス、それぞれの仕組みや実例についてみていきます。

「マイクロファイナンス」の仕組みと実例


 マイクロファイナンスとは、「小さな金融」の言葉どおり、少額の金融サービスを意味します。

 実際には、開発途上国などで銀行融資などを受けられない貧困層の人々を対象とした、各種金融サービスを総称して呼びます。

 マイクロファイナンスを行う組織を、マイクロファイナンス機関(MFI、Microfinance institution)と言います。

 マイクロファイナンスの活用例としては、グラミン銀行総裁としてノーベル平和賞を受賞することになったムハマド・ユヌス氏の活動が有名です。
 ユヌス氏の作り出した融資の仕組みは、ムラ社会共同体特有の「グループの力学」を活かしたものです。

 具体的な方法は以下の通りです。

 お金を借りたい人は、自分を含めて5人のグループを組む必要があります。
 その5人は、全員連帯責任で、最初は5人のうち1人だけがお金を借りることができます。

 お金を借りた1人が返済を終えたら、次に2人が借りることができます。
 その返済も終わったら、最後の2人がお金を借りることができます。

 そして、全員の借り入れと返済が終わったらファイナンスは終了、という仕組みです。

  現在は、このようなグループでの借り入れを行うのは主流ではありません。

 しかし、「お金を借りて返せなかったら、自分が住んでいる村やコミュニティに対して面目が立たなくなる」仕組みは、依然としてマイクロファイナンスにおいては重要な役割を果たしているとのこと。

 以下に、マイクロファイナンスの成功例を一つご紹介します。
 TYMファンドという、ベトナムにある中規模のマイクロファイナンス機関です。

 TYMは、女性による女性のためのMFIです。
 従業員全体における女性比率は、60%以上になります。

 成功の秘密は、借り手による定期的なミーティングの存在です。 

 TYMはセンターミーティング制という名前で借り手ミーティングを実施している。30人から40人の顧客で一つのセンターを形成し、センターミーティングは週に一度または月に一度の頻度で行われる。このミーティングでマイクロファイナンス業務の多くが行われている。ローンの提供について議論や、貸し付け・返済はセンターで行われる。
 さらに、このセンターミーティングでは、TYMのサービス提供の手続きや規則の学習、ビジネススキルや金融知識、ジェンダーに関するトレーニング等も行っている。
 センターミーティング制は(機能する場合には)非常に効率的な仕組みとなる。本来であればマイクロファイナンス機関の融資担当者がするべき業務を、センターのほかのメンバーとも分担できるため、オペレーションにかかるコストは下がることになる。また、ミーティングにより仲間からのプレッシャー(ピア・プレッシャーという)が働き、顧客の返済意志がより強固なものになる可能性もある。さらに、ミーティングの場で毎週返済と貯蓄が行われることにより、顧客の生活習慣そのものが改善され、これらが低いデフォルト率につながる場合がある。

  「ソーシャルファイナンス革命」  第3章 より  慎泰俊:著  技術評論社:刊 

 女性のおしゃべり好きは、どこの国でも一緒ですね。
 それはともかく、「グループの力学」を上手く利用しているのは、間違いないです。

「P2Pファイナンス」の仕組みと実例


 先進国では、「P2Pファイナンス」と呼ばれるソーシャルファイナンスが広がりをみせています。

 P2Pファイナンスは、相手の顔やストーリーが見えている必要がない「投資信託型」と、必要がある「ソーシャルネットワーク型」の2つに大きく分類されます。

 米国や英国を中心としたP2Pファイナンスの市場規模は、今後も年率66%で成長し、2013年までにはその規模が50億ドルに達するといわれます。

 P2Pファイナンスが広まってきた背景には、情報処理技術が格段に進歩したことがあります。

 書類のやりとりを全てインターネット上で行えるようになり、書類のコピーや管理、契約書の作成なども全てパソコン一台とインターネット環境があれば行えます。
 しかも、契約書の作成にしても、1人と締結する契約書を作成するのと、100人と締結する契約書をすることにかかるコストは、ほとんど変わらなくなっています。

 慎さんは、結果として、ウェブ上でのみ必要な手続きが行われるのであれば、1000人の出資者を集めるために必要なコストも変わらなくなり、クラウドファンディングを通じた資金調達が可能な技術的な土台が揃うようになったと述べています。

 日本でも最近、P2Pファイナンスが話題を集めるようになりました。
 その中の一つが、『CAMPFIRE』というサービスです。

 CAMPFIREは、現在、日本最大の購入型クラウドファンディングサービス提供者で、融資の仕組みは以下のようなものです。

 資金調達をしたいクリエーターは、CAMPFIREのウェブサイトを通じて応募をする。プロジェクトの説明文、写真、動画は投稿者が作成する。
 この応募情報を運営会社のハイパーインターネッツが審査する。この審査プロセスがプラットフォーム全体の質を高めるために重要な役割を果たしている。審査を通過するプロジェクトは2、3割程度で、通過したプロジェクトについては、運営会社が説明文、写真、動画を編集し、ウェブサイトに掲載し、資金調達が始まる。
 資金調達に成功するプロジェクトは8~9割程度。とくに、支援の対価が明確なものやコンセプトが万人の共感を生むものにはお金が早く集まるという。その集まった資金の20%が、手数料として運営会社の利益となる。

  「ソーシャルファイナンス革命」  第6章 より  慎泰俊:著  技術評論社:刊 

 日本でも、今後、個人でもある程度まとまった資金を短期間で集められる、このようなサービスが増えるのでしょう。

「ソーシャルファイナンス」のこれから


 ソーシャルファイナンスは、今後の融資の流れを大きく変える可能性を秘めています。

 これから10年先には、お金の集め方がかなり変わっている可能性がある。特に夢や想いがあってお金のニーズがあるところには、これまで以上に容易にお金が集まるようになるだろう。というのも、これまで述べてきたように、人の心を引き寄せるもの、人の関係性を強めるものは、資本コストを下げ、それは資金の流れをより円滑にするからだ。
(中略)
 また、起業における資金調達も同様に、大勢の人から集められる日がくるだろう。しかも、その起業は、多くの出資者から様々なサポートを受けながら成長していくかもしれない。
(中略)
 こうして、お金ゆえに様々な方面から制限されていた個人の自由が、クラウドファンディングの発展により、解放される日がやってくるのかもしれない。先に述べたようなことが現実になれば、より多くの人に、より自由に自分の信じることに挑戦するチャンスが与えられる。

  「ソーシャルファイナンス革命」  第8章 より  慎泰俊:著  技術評論社:刊 

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 融資を受ける側も、事業に明確なメッセージと熱意があれば、日本全国からインターネットを通じて出資を募ることができます。
 モチベーションも上がるし、起業する勇気も湧いてきますね。

 出資する側も、自分の思い入れのある事業や人物に、しかもパソコンのクリックひとつで100円の出資でも可能です。
 投資に対するハードルは、かなり下がりますね。
 
『夢や思いがあってお金のニーズのあるところには、これまで以上に容易にお金が集まるようになる』

 そんな仕組みが育っていけば、世の中を活性化する大きな力になります。

「ソーシャルファイナンス」の、これからの動きに注目したいですね。

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