【書評】『不動産格差』(長嶋修)

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 お薦めの本の紹介です。
 長嶋修さんの『不動産格差』です。

 長嶋修(ながしま・おさむ)さんは、不動産コンサルタントです。

「不動産格差」は今後ますます開き続ける!


 今、日本各地において、「不動産格差」が進行中です。

 一部の地域では、上がり続けて、バブル期のピーク時を上回っている地点があります。
 一方では、地価が下がり続けている地点も、多数あります。

 長島さんは、さらに強烈なコントラストを描きながら格差が開き続けるのは、「すでに決まった未来」だと述べています。

 2017年の地価公示では、東京23区の最高価格は5050万円と、90年代バブル期のピーク3850万円を30%も上回っています。一方、大阪市の最高価格は1400万円と、バブル期の3500万円に対していまだ40%程度の水準に過ぎません。札幌市、仙台市、広島市、福岡市などは上昇したものの、水戸市、新潟市、宮崎市など前年比マイナスのところもあります。
(中略)
 不動産の価格は「需要」と「供給」で決まります。日本はこれから本格的な人口減少、少子化・高齢化社会に突入するのですから、それに伴い不動産価格が下がるのは必然です。2040年の住宅価格は46%下落するというシミュレーションもあります(2010年比)。
 供給を無視した新築住宅建設は続き、相続増税対策のアパート建設も止まりません。すでに全国の空き家数は1000万戸を突破しているものとみられ、2033年の空き家数は2000万戸を突破、空き家率は30%を超えるという予測があります。空き家が増えれば街は荒廃、犯罪の温床になったり、建物が崩れて危険です。何より、上下水道などのインフラ修繕、ごみ収集や除雪などの行政サービスが非効率極まりません。周辺地価はますます下落し、自治体の主要財源である固定資産税収入も減少、自治体経営が危うくなるでしょう。
 しかし、すべての地点がこうなるわけではありません。あるところは人口密度を保ちながら価値維持ないしは上昇、あるところは下落基調継続、あるところは無価値またはマイナス価値というように、都市間はもちろん、同じ自治体の中であっても格差が広がり始めるのがこれからの特徴です。こうした文脈の中で、私たちは不動産とどのように付き合っていけばよいのでしょうか。

『不動産格差』 はじめに より 長嶋修:著 日本経済新聞社:刊

 本書は、不動産市場で「今何が起きているのか」「今後どうなっていくのか」を分かりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「生産緑地制度」の期限到来


 新築マンション、新築一戸建ての建設ラッシュは、とどまるところを知りません。
 一方、人口減少と少子高齢化は、静かに進行中です。

 その結果、生まれてくるのが、「空き家問題」です。

 2013年時点で、日本の空き家は820万戸あり、空き家率は13.5%です。
 空き家率は、今後も増え続け、2030年には30%台に上る、という予測もあります。

 この深刻な状況に追い打ちをかけるのが、「2022年問題」です。

「2022年問題」をご存知でしょうか?
 全国の市街地には96万戸、東京都には26万戸もの住宅用地が眠っており、これらの多くが東京オリンピック後の2022年、一斉に市場放出される可能性があります。その土地に新築マンションや一戸建てが建設されれば、すでに全国で820万戸ある空き家が大幅に増大する可能性が高くなっています。
 1974年公布の生産緑地法では、市街地化区域内の農地の宅地化を促す目的で、大都市圏の一部自治体で、農地の「宅地並み課税」が行われ、これにより都市近郊農地の大半が宅地化されることになりました。当時の住宅不足解消が目的でした。
 一方で92年の同法改正では、一部自治体が指定した土地については、固定資産税が農地並みに軽減され、相続税の納税猶予が受けられる「生産緑地制度」が適用されました。この場合、生産緑地の所有者は建築物を建てるなどの行為が制限され、農地としての管理が求められました。生産緑地は原則として住宅が建設できる市街化区域内にあります。
 生産緑地制度が適用されたのは、東京23区、首都圏・近畿圏・中部圏の政令指定都市、その他整備法に規定する一部地域など。「2013年都市計画現況調査」(国土交通省)によれば、2013年3月時点の生産緑地は全国で1万3859ヘクタール(約4192万坪)、東京都に3388ヘクタール(1024万坪)、23区内には451ヘクタール(136万坪)存在します。
 同法の適用は1992年で、期限は30年後の2022年です。この期限を迎えたとき、または所有者が病気などで農業に従事できなくなったり、死亡したりした場合、所有者は市区町村の農業委員会に土地買取り申請を行うことができます。
 しかし、市区町村が買い取らなかったり、生産緑地として買う人がいない場合には、この生産緑地指定は解除されます。これまでの実績では、予算不足などの理由から自治体による買い取りの実績はほとんどありません。
 そうなると固定資産税が跳ね上がるため、所有者は土地を維持できず、売りに出すしかなくなります。こうしたまとまった土地を仕入れるメインプレイヤーは、建売住宅建設業者、立地が良ければマンションデベロッパーになります。最も可能性が高いのは、固定資産税や相続税評価額下がる思惑から、賃貸住宅の建築が進むことです。事実、多くのアパート建設会社は、2022年の生産緑地指定解除を絶好の商機として狙っています。

『不動産格差』 第1章 より 長嶋修:著 日本経済新聞社:刊

 日本では、新築物件に対するニーズが、非常に高いです。
 そうである以上、生産緑地指定解除で放出された土地に、新たなマンションや一戸建てが建設されるのは、火を見るより明らかです。

 タイムリミットの2022年まで、残りわずか。
 空き家問題は、国や自治体、所有者が協力して解決しなければならない、喫緊の課題です。

1にも2にも3にも「立地」


 どんな立派な建物でも、「ここに住みたい」と思う人がいなければ、価値はありません。
 では、価値ある物件を選ぶには、何を基準にすればいいのでしょうか。

 長嶋さんは、住宅選びの要諦は、1にも2にも3にも「立地」だと指摘します。

 立地選びについて、立地ステイタス性を意味する「地位(ぢぐらい)」、「駅からの距離」「周辺・生活環境」などが重要であることはよく知られています。またノウハウ本をひもとけば、その地域の概況を知るために、市区町村役場などで「都市計画図を入手せよ」と書かれていることでしょう。
「都市計画図」とは、その自治体の道路計画や街づくり、建築規制などの広義の都市計画について、白地図に落とし込まれたものです。該当物件の周辺が商業系なのか住宅系なのか、どのくらいの規模や種類の建物が建ちそうなのかを知ることによって、地域の将来像を把握します。
 都市計画図は市区町村役場の都市計画課などで、無料から500円程度で入手できます。情報公開が進んでいる横浜市では、インターネット上に無料で確認できます。都市計画や路線価、地盤情報に道路台帳、公共下水大腸、防災情報までが一元化されています。
 しかし、これらの情報は、あくまで現状把握ができるに過ぎません。今後の劇的な社会環境の変化を踏まえれば、従来型の調査だけでは足りないことを理解しておく必要があります。
(中略)
 自動車を中心とした、拡大志向の、無秩序ともいえる日本の都市政策は、各自治体が財政難に喘ぐなか、ゴミの収集などの行政サービスや上下水道などのインフラ整備の非効率さを改め、高齢化社会に対応可能な、徒歩か自転車で生活できる街づくりの方向に変わりつつあります。
 基本的には「駅周辺か鉄道沿線に集まって住む」、「自動車中心社会から鉄道中心社会への転換」です。
 本格的な人口減少、世帯数減少はこれから始まります。こうした局面では大きく二つの人の流れが起きることが知られています。一つは「都市・都市部への集中」。もう一つは「偏在化」です。
 例えば隣駅にある、広さや築年数、駅からの距離がほぼ同条件なら、現在は価格もほぼ同じですが、将来的には双方に大きな格差が生じます。
 立地について調査する場合、市区町村役場の都市計画課などに直接赴いて、都市計画図に織り込まれていない将来的な都市構想や計画がないか確認してみましょう。議会の議事録を確認したり、地域住民にヒアリングしたり、地元の有力者を探してたずねるのもいいと思います。いくつかの地域について同様の調査を行えば、各地の温度差がよくわかります。
 これから選ぶ地域が、コンパクトシティの方針上にあるのか否かは、居住の快適性のみならず、将来的な資産性にも大きく影響します。

『不動産格差』 第2章 より 長嶋修:著 日本経済新聞社:刊

 住宅選びは、「立地」が最も大切。
 その基本が変わることは、ありません。

 ただ、良い立地の条件は、社会情勢や政策、自治体の方針などによって変わってきます。

 自分の住もうとしている地域が、今後、人口が増えるのか減るのか。
 今まで以上に、念入りに調査をすることが必要ですね。

「都市の中古マンション」は今が底値か


 2012年以降、不動産市場を牽引してきたのは、「都心部の新築・中古マンションの販売」です。

「過剰供給で、いずれ買い手がいなくなり、価格も下がる」

 一部では、そんな声もありますね。
 実際のところ、どうなのでしょうか。

 長嶋さんは、2017年以降のマンション販売の見通しについて、以下のように説明しています。

 序章でも触れたとおり、都心部の中古マンション市場と日経平均株価には強い連関があります。15年前半は軟調だった日経平均株価に対し、高止まりしていたかに見えた都心中古マンション市場ですが、トランプ当選以降は株式市場が上昇基調になったことで、株価との乖離(かいり)は是正されてきました。
 新築マンション市場同様、15年後半から積み上げてきた在庫消化が確認できれば、都心部の中古マンション市場は再び上がり始めると思われます。今は直近の底値圏と考えられます。
 首都圏の中古マンション市場は、上昇基調が続いています。東日本不動産流通機構(東京・千代田区)によれば、16年の首都圏中古マンション市場は成約数が3万7189戸と、初めて新築マンションの契約戸数を上回りました。高くなりすぎた新築マンションに比べて割安感から人気を集めています。
 また、新築の絶対数が少ないことから、マンション探しの場面では必然的に中古が選択肢に入っているようです。このように中古市場の流通が活性化する流れは、住宅総量をコントロールし、結果として新築割合が相対的に少なくなっている欧米諸国において、中古の価値が維持されるか上昇するのと同じ構図です。
 ただし注意したいのは、こうしたデータに現れない現象です。成約できているのは「駅近」が中心です。駅から遠い物件は売りに出しても成約しづらいか、できない状況になっていることが容易に想像できます。このことが成約価格全体を押し上げている側面もありそうです。
 少子化・高齢化、人口減少とのコントラストがますますはっきりするでしょう。市場が求めているマンションと駅の距離は、近年どんどん短くなっています。
 売買・賃貸とも、5年前は「駅徒歩10分」で良かったのですが、昨今は「駅徒歩7分」が目安です。7分を超えると、極端に買い手が少なくなります。新築マンションデベロッパーも、昨今は徒歩7分を超える用地仕入れには非常に慎重です。

『不動産格差』 第4章 より 長嶋修:著 日本経済新聞社:刊

 マンション価格は、新築・中古問わず、全体的に安定しています。
 急落するようなことも、なさそうです。

 ただ、供給が多くなるぶん、買い手側の選別も、よりシビアになります。

 マンション選びは、「駅徒歩7分」までが目安。
 新しい常識として、覚えておきたいですね。

「道路付け」の評価が変わる!


 住宅価格を決定するうえで、「道路付け」は、最も重要な要素の一つです。

 長嶋さんは、今後は従来価値が高いとされてきた「東南角地」の価値が相対的に下がり、旗竿地(はたざおち)(敷地延長地型)などの価値が見直されるだろうと述べています。

 東側に道路がある土地は「東道路」、南側にあれば「南道路」と呼ばれ、価値が高いとされてきました。最も資産価値が高いのは、東・南側双方に道路がある「東南角地」で、西道路が坪100万円だとすると、南道路は10%高の110万円、東南角地は120〜130万円程度でした。
 これは、道路付けによる土地の価値は主に「日当たり」で決まるからです。東南角地は朝日が入り、日中も日当たりが良くなります。次に価値の高い南西角地は、朝日が望めず、西日になることもあるため、坪120万円程度です。北道路は南側に建物が立つと直射日光が望めないため、90万円程度です。
 ただし、実際に建物が建ってみると、異なる側面が浮かび上がってきます。マンション高層階の北向き部屋は相対的に割安ですが、採光面では十分なことが広く知られるようになりました。同様に北道路の土地でも、間取りの工夫によっては十分な採光を確保できます。
 一方、価値が高い南道路の土地に間取りを入れる場合、道路の前にリビングや和室を配置することになり、道路を往来する人と目が合うなどの弊害が生じる恐れがあります。土地が狭い場合には、南に配置するリビングの目の前が駐車場となり、自動車を見ながら暮らすことになります。
 一方で、坪60〜70万円程度の価値が低いとされる「旗竿地」は、通路部分のアプローチ部分をきれいに植栽で飾り、建物の玄関周りを見栄えよくするなどの工夫によって、素敵な住宅にすることが可能です。ただし、周辺は建物に囲まれ、死角が発生することから、防犯性には一定の配慮が必要です。また、建物には燃えない、燃えにくい材料を使用するなど、防火・防災には気をつけたいところです。
 今後は、道路付けにかかわらず、「良い間取りが入るかどうか」を重視する時代に変わっていくと思います。

『不動産格差』 第5章 より 長嶋修:著 日本経済新聞社:刊

図表23 道路付けによる価格差 第5章P156
図表23.道路付けによる価格差
(『不動産格差』 第5章 より抜粋)


図表24 旗竿地にも利点はある 第5章P156
図表24.旗竿地にも利点はある
(『不動産格差』 第5章 より抜粋)

 道路付けによる土地の価格差は、あくまで一般的なケースです。
 実際に物件を選ぶ際には、現地に足を運んで、間取りや日当たりなどを確認することが重要です。

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