【書評】『五感経営』(石坂典子)

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 お薦めの本の紹介です。
 石坂典子さんの『五感経営 産廃会社の娘、逆転を語る』です。

 石坂典子(いしざか・のりこ)さんは、会社経営者です。
 2013年より、父親が創業した産業廃物処理会社、石坂産業の代表取締役社長に就任されています。

破綻寸前の会社を甦らせた「五感経営」とは?


 石坂さんが、石坂産業の「お試し社長」に就任したのは、2002年。
 当時、埼玉県所沢市で生産された野菜から、有害物質のダイオキシンが検出され、大きな問題となっていました。
 所沢市の隣の三芳町に本社のある石坂産業は、「有害物質の発生源」という汚名を着せられ、激しいバッシングを受けていました。

 そんな中、石坂さんは、意を決して社長就任を直訴します。

 その後、荒っぽい男性ばかりの会社を率いて経営改革を推進し、地域との関係を修復、改善しながら、業績を上げていきました。
 15年8月期の売上高は47億円。社長就任時の2倍以上になりました。リーマン・ショック直後の1期を除いて、赤字は出していません。
 その過程で、業界に先駆けた試みや、地域貢献、社会貢献につながる取り組みに力を入れてきました。
 私たちの会社は、東京ドーム3.8個分という広大な敷地を持ちますが、その約9割が森林です。この地域の伝統である里山の保全、再生に取り組んできたからです。その成果で、敷地内にはホタルやニホンミツバチが飛び、ヤマユリの花が咲きます。
 残りの約1割を占める産廃処理のプラントはすべて、環境に配慮した屋内型で、独自の技術開発による工夫がちりばめられています。
 このような取り組みが話題を呼んで、工場見学には、年間1万人以上の人が訪れます。里山を生かしたテーマパーク「三富今昔村」も人気上昇中です。産廃を運び込むトラック運転手や工場見学者に対する、社員の接客の良さが評判となり、13年には、経済産業省の「おもてなし経営企業選」に選ばれました。
(中略)
 私は経営のすべてを実践で学びました。そこで何より役立った父の教えがあります。
「五感を研ぎ澄ませ」
 本気で仕事に取り組めば、日々のあらゆる場面にヒントが隠されています。それらをきちんと感じ取れるか。心身のコンディションを整え、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚をフル稼働し、自分の心の声を聞く。すると、重点的にリサーチすべき分野も見えてくるものです。そこで得た学びを、会社の仕組みに落とし込んできました。右脳的に直感で始めますが、理屈がないわけでもないのです。
 いわば「五感経営」とでもいいましょうか。
 そんな言葉で、自分なりの経営手法を説明できるようになってきた気がします。私に興味を持ち、質問をぶつけてくださる経営者やビジネスパーソンの方々との対話の中で、自分の考えが整理できてきたのかもしれません。

 『五感経営』 はじめに より 石坂典子:著 日経BP社:刊

 普通の「仕事と家庭で奮闘するワーキングマザー」だった石坂さん。
 経営危機にひんしていた会社をいかにして甦らせたのでしょうか。

 本書は、石坂さんの経営思想、「五感経営」を自らの体験を交えてわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「本質的な解決」とは何か?


 産廃業者に対する「ダイオキシン問題」の風当たりは強烈でした。
 石坂産業は、廃棄物の焼却事業をやめることを強いられます。
 代替として、建設現場で発生する解体資材の減量化とリサイクルの事業に注力する方針を採ります。
 そのために必要なのは、「減量化プラントの増強」です。

 石坂さんは、事業に必要な許可をできるだけ早く出してもらうべく、役所と掛け合います。

 私たちが廃炉を決断すれば、それで問題はすべて解決するのでしょうか。
 私たちを批判する人たちは、自分たちの目に触れないところに産廃会社が姿を消すことを望んでいました。
 しかし、その人たちも含めて、私たち日本人のライフスタイルが豊かになればなるほど、毎日、量りしれないほどの廃棄物が排出されます。そして、それらがすべてを埋め立てるほどの土地は、日本にありません。だから、容積を減らすための焼却が盛んに行われ、減量化やリサイクルが求められているのです。
 とすれば、このちいきからいしざかさんぎょうという産廃会社1社が消えたところで、どこかで誰かが、この仕事を肩代わりしなくてはならず、それに合わせて、迷惑に感じる地域住民も入れ替わるだけのことです。
 それでは、本質的な解決にはなりません。
 必ず誰かがしなくてはならない仕事なら、その存在を認めてもらう必要があります。価値ある仕事として評価され、働く人が誇りを抱ける仕事に変えなければなりません。
 廃棄物処理業者は、その典型です。迷惑がられる仕事のままでは、私たちはもちろん、廃棄物処理施設の近くに住むことになる誰かも必ず困ります。
 つまり、焼却炉を廃炉にするだけでは、ダイオキシン問題を機に浮上した環境問題が、抜本的に解決したことにはならないのです。
 だから、私たちも襟を正す。「新生石坂」として、自らのイメージを変え、業界のイメージを変えるべく、「産廃屋らしからぬ産廃屋」を目指し、改革を断行する。
 そのために必要不可欠なのが、この「減量化プラントの増強」なのです。

 県は、そんな私たちの主張に理解を示してくれました。
 減量化プラントの増強は、計画申請からわずか3ヶ月という異例のスピードで許可が下りました。
 こうして売り上げの約7割を失っても、辛うじて生き延びる道が開けたのです。

 『五感経営』 第1章 より 石坂典子:著 日経BP社:刊

 石坂産業は、「ダイオキシン問題」が表面化する数年前に、15億円を投じて、最新鋭の廃棄物焼却炉を設置しています。
 それを投げ打っての大勝負でしたが、見事に乗り切りました。

 何とかして、地域住民と共生しながら、事業を継続する方法を探りたい
 石坂さんの、そんな強い信念が実を結びました。

「冷めた無関心」より「熱意ある批判」を選ぶ


 石坂さんが社長になって最初に掲げたスローガンは、「脱・産廃屋」でした。
 世間のイメージを打ち破る「産廃屋らしからぬ産廃屋」を目指し、取り組み始めたのが、「工場見学」です。

 最初は人も集まらず、評価も厳しいものでした。
 しかし、口コミによって徐々に見学者が増えていきます。

 初期の見学者の方々は、全国の廃棄物処理施設を見て回っていて、ある意味、目の肥えた方々でした。それだけに、私たちの取り組みが、他の産廃処理会社と違う部分も敏感に感じ取ってくださいました。
「すごく整理整頓が行き届いているよ」
「あそこまで、きれいできちんとした産廃施設は、ほかにみたことがない」
 オピニオンリーダーの方々が、そんな情報発信をしてくれたことで、今までゴミ処理工場に関心を持たなかった一般の人たちも見学に来てくれるようになったのです。

 予想外のことでした。

 強い批判のなかからこそ、共感が生まれるのかもしれません。
 当時を振り返って、思います。
「あなたたち、ちゃんとやっているの?」と、厳しく観察するからこそ、「あら、意外と頑張っているわね」「本当に大変な仕事なのね」と、共感を示す人たちも出てきた。
 この小さな声を大事にしたい。広げたい。私は心底、思いました。

「敵意」を持っているとは、少なくとも「関心」があるということです。
 よく考えてみれば、ダイオキシン騒動の最中で、私が何より憤りを感じたのは、産廃処理に対する無関心でした。
 産廃処理の会社が近くにあるのは嫌だと主張する、その人自身もゴミを出しているのです。その事実を知らないのでしょうか。あるいは、気づきたくないのでしょうか。日本は毎年4億トンもの産業廃棄物を出していて、誰かが処理しなければ、安全で安心な日本人の生活は成り立ちません。けれど、その事実を見て見ぬふりをしようとする人がいる。そこに、私の憤りの根源があったわけです。
 私たちの工場を見学に来た人たちは、私たちに対するスタンスはさておき、産廃処理が必要であるという事実は直視されていました。無関心ではなかったのです。
 だからこそ、私たちの批判者であると同時に、最大の理解者にもなったのです。

「冷めた無関心」より「熱意ある批判」のほうがいい。傷つくことを恐れて批判から逃げ出すのではなく、批判を真正面から受け止めて、真の理解者を得たい。私はそう考えます。

 『五感経営』 第2章 より 石坂典子:著 日経BP社:刊

 批判は、関心があることの裏返しです。
 批判から逃げず、真摯に耳を傾ける。
 そうすることで、相手の悪意を善意に変えることも可能だということです。

 石坂さんの「五感経営」の真骨頂ですね。

価格主導権を握れる土俵を選ぶ


「ダイオキシン問題」を機に、焼却による産廃処理から完全に撤退した石坂産業。
 主力事業を失った石坂さんたちが次に選んだのは、特定の分野への特化でした。
 それは、「住宅の建設現場や解体現場で発生する産廃の処理」です。

 この分野を選んだ大きな理由は、技術的な難易度が高かったことです。難しいから、ほかの産廃処理と比べて需給がひっ迫していました。このように需給バランスがこちらに有利な土俵なら、価格決定権を取り戻し、弱者の立場を脱するチャンスがあるとにらんだのです。

 私たちがまずこだわったのは、産廃の「現物」についてトラック1台ごとに中身を改める「展開検査」を実施し、その結果に基づいて処理料金を「査定」することでした。
 その料金表の一例が上の写真です(下図を参照)。産廃処理の料金は通常、このように重量と品質(等級)に応じて決めます。
 だから、トラックで産廃が搬入されると大抵、産廃会社の社員はまず荷台をのぞき、おおまかな品質を把握します。それから計量器に荷降ろしし、料金を決めます。
 けれど、顧客のなかに悪知恵を働かせる人がいて、産廃の山のなかに余計な廃棄物や有害物などを隠し、不当に安い料金で支払いを終えて、帰ってしまいます。
 そんなことが起きるのには、産廃会社側の問題もあって、荷下ろししたまま中身を改めずに何日も放置してしまうのです。その後で、余計な家電や有害物などが混ざっていたと分かっても、追加で料金を請求するのは難しい。こうして、対価に見合わない廃棄物を押し付けられてしまう産廃会社も多いのです。

 私たちは、このような事態を阻止するため、トラック1台分ずつ、荷下ろしした後、その場で現物を広げて、展開検査します。そこで有害物などが見つかれば、料金を変更する旨を確認し、受け入れられない廃棄物が混ざっていれば、しっかり「ノー」と伝えて、お引き取りいただきます。このような査定を経て決めた料金を、冒頭でご紹介したカウンターでお支払いいただくという流れです。
(中略)
 このような私たちのやり方に対し、「顧客にそんな強気に出て大丈夫か」という声を聞いたこともあります。
 けれど、果たして法外でしょうか。
 かかる手間に応じて、きちんと料金を変えたい。それだけのことです。分別が甘ければ高値を要求しますが、きちんと分別されていれば安くするのです。
 そうすれば、住宅の解体業者は現場に対して、家財道具など処理に手間がかかる余計なものを残さないよう要望する。そして、その要望が解体する家屋の家主にも伝わる。こうして利害関係者全員の協力の下に解体の総コストが下がるわけです。
 きわめて真っ当ではないでしょうか。
 実際、私たちのやり方は徐々に浸透していきました。

『五感経営』 第3章 より 石坂典子:著 日経BP社:刊

産廃処理の料金表 第3章 P115
図.産廃処理の料金表(『五感経営』 第3章 より抜粋)


 産廃の中身によって、引き取る値段を変える。
 産廃処理においては、そんな他の業界では当たり前のことがなされていませんでした。

 しがらみが少なく、「この業界を変えたい!」という熱意にあふれた石坂さんだからこそ、成し得た改革ですね。

「朝イチ15分」の報連相のススメ


 2代目、3代目の経営者は、先代と現場の間に立つ中間管理職の側面が大きいです。
 石坂さんは、上司と上手に付き合うための“ボスマネジメント(ボスマネ)”は、私にとって重要な研究テーマだったと述べています。

 石坂さんが、“ボスマネ”で最も効果を実感したノウハウ。
 それは、毎日、朝イチで15分、2人きりで“報連相”する時間を上司にもらうです。

 まず、毎朝15分のミーティングを「当たり前のこと」にしようと腐心しました。別件があってキャンセルするのは「特別な例外」だから、きちんと理由を添えてメールする。こういう意識付けがとても重要です。
 そして、1日の仕事のなかで「報告したほうがいいかな」「決裁が必要かも」と思ったことを、クリップで裏紙を束ねたメモ用紙に、どんどん書き出すようにしました。
 ミーティングのスタートは「報告」から。「本日は報告が◯件あります」と、最初に件数を明らかにして、簡潔にどんどん読み上げる。
 報告する案件は、「ここまで報告したら細かすぎるかも?」と感じるくらい、多めにしておくのが、結果的にはちょうどよかったです。例えば、「こんな来客があり、手土産に◯◯をいただきました」などという報告も、父は満足げに聞いていました。およそ上司というものは、時間が許す限り、現場の状況を逐一把握しておきたいものなのです。

 報告が済んだら、本丸の「相談」です。例えば、「今日は設備投資で1つ、ご相談があります」といった話です。
 こちらは件数を絞って丁寧に。
「このプロジェクトの背景には、こんな事情があり、私としてはこういう狙いがあって、この方向で進めたいのですが、いかがでしょうか」といった具合です。
 すると、いつもは気難しい父が、意外に素直に私の意図を汲んでくれるのです。提案を退けるにしても、理由をきちんと示してくれるし、後押しするとなれば、経験を踏まえて有用なアドバイスをしてくれる。朝イチは、父の脳もフル回転するのです。
 相手の事情を考え、きちんと手順を踏んで説明するかどうかで、同じ内容の提案でも、上司の理解と協力の程度に大きな差が出ます。

 朝イチの定例ミーティングのメリットは、ほかにもたくさんありました。
 まず、毎日、話し合いを重ねることで、上司である父と私の方向性が一致し、意見が分かれることが減りました。その結果、部下である社員に自信を持って指示を出せるようになりました。ブレがなくなったわけです。

 加えて、人事や資金繰りといったデリケートな問題について、父と相談しやすくなりました。何か問題が起きてから、「会長、ちょっと別室でお話したいことが・・・・・」と誘ってしまうと、部下に余計な不安や疑念を抱かせます。けれど、最初から毎日、別室でミーティングをしていれば、そのなかでデリケートな問題についても自然に、かつ率直に話し合えます。

『五感経営』 第5章 より 石坂典子:著 日経BP社:刊

 朝イチは、頭が最もクリアな時間帯です。
 そこで集中して打ち合わせをするのが、もっとも創造的で、効果的な結果を生み出します。

「毎日やる」ということも大事です。
 コミュニケーションを深めることができ、より突っ込んだ議論を行うことができます。

「朝イチ、15分の“報連相”」
 一般のビジネスパーソンにも役立ちそうなノウハウですね。

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 石坂さんには、残りの経営者人生で自分に課しているミッションがあります。
 そのうちのひとつが「環境教育の事業化」です。
 石坂さんは、この石坂産業の本社を、環境分野の教育と研究における「知のプラットフォーム」として、広く認知される存在ににしたいとおっしゃっています。

 会社周辺の里山を整備し、そこでホタルを育てる。
 そんな一見利益にならないことに投資するのも、石坂産業と産廃処理ビジネスの将来を考えてのこと。

「会社と顧客、それに周辺住民、三者の共通利益は何か」を考え、実行に移す。
 まさに、CSV(Create Shared Value:共通価値の創造)を土台とした、これからの会社のあり方です。

 石坂さんの研ぎ澄まされた五感から生まれるプロジェクトは、これからも社会にインパクトを与え続けるでしょう。
 今後のご活躍に期待したいです。


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