【書評】『「いい質問」が人を動かす』(谷原誠)

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 お薦めの本の紹介です。
 谷原誠さんの『「いい質問」が人を動かす』です。

 谷原誠(たにはら・まこと)さんは、弁護士です。
 企業法務、事業再生、交通事故などの案件、事件を主に担当されています。

なぜ、「いま質問する力」が求められるのか?


「なぜ、いま質問する力が求められるのか?」

 こう質問されると、私たちは「なぜ求められるのだろう?」と、無意識に考えます。

 谷原さんは、実は、そう考えてしまうことこそが質問の力だと指摘します。
 つまり、質問は、相手を強制的に特定の方向で考えさせる力を持っています。

 太古の昔、人は「どうやって水のある場所に行くか」という質問をしていました。そして、水のある場所への移動方法を工夫しました。ところが、ある日から、質問が変わりました。
「どうやって水をここまで運んでこようか?」
 この質問により、灌漑(かんがい)技術が生み出され、農耕が始まったと言われます。まさに質問によって文明が開花した瞬間です。
 それから時は流れました。近代物理学の祖、ニュートンは自分に対して質問しました。
「なぜりんごは落ちるのか?」
 この質問により、万有引力が発見されました。物理学に進歩をもたらしたのです。
 さらに時は流れます。昔、自動車の組み立ては、一か所で行われていました。組み立て場所に、入れ替わり立ち替わり作業員が来て、順次組み立てていたのです。自動車王フォードは考えました。
「人間が移動するのではなく、車が移動することができないか?」
 この質問により、ベルトコンベア式の自動車組み立て方法が発案され、大量生産を可能にしたのです。質問が産業を発展させた瞬間です。
 アインシュタインは、言っています。
「大切なことは質問をやめないことだ」(『その気にさせる質問トレーニング』、ドロシー・リーズ著、桜田直美訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)と。そして、世紀の大発見である相対性理論を発見したのです。
 このように、人は、質問を発し、その答えを求めることにより、文明を発展させ、快適な生活を実現し、地球の王となりました。

『「いい質問」が人を動かす』 はじめに より 谷原誠:著 文響社:刊

 谷原さんは、質問する力を身につけることは、人生で成功する力を身につけることに等しいと述べています。

 本書は、人類の持つ偉大な力「質問の力」を身につける方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」


 私たちは、人に質問することにより、欲しい情報を手にすることができます。
 情報収集のための質問は、大きく二つに分けられます。
「オープンクエスチョン」「クローズドクエスチョン」です。

 オープンクエスチョンは、相手に自由に考えてもらい、自由に答えてもらう質問のことです。
 たとえば、「この本はどうですか?」のようにですね。

 クローズドクエスチョンは、相手の答え方が制限されているもののことです。
 たとえば、「この本は好き? それとも嫌い?」のような二者択一です。

 では、この二つをどのように使い分けて情報を収集したらよいのでしょうか。

 基本的には、自由に考えて自由に答えることによって情報を得たい場合には「オープンクエスチョン」、あまり余計なことは言わず、端的に答えが欲しい場合は「クローズドクエスチョン」ということになるでしょう。
 たとえば、ある契約を結ぼうとするときに、契約書を弁護士にチェックしてもらうとします。この場合には、契約書にどんな問題があるのか、どんな観点で契約書を読めばいいのかさっぱりわからないので、「この契約書の問題点はどのような点でしょうか?」とオープンクエスチョンで質問します。しかし、たとえば弁護士に裁判を依頼しており、今日裁判で判決が出たという場合には、結論は「勝ちか、負けか」だろうと、答えを予測できるので、弁護士に対して「判決は勝ちましたか? 負けましたか?」とクローズドクエスチョンで質問すれば足ります。
 また、就職先を探している学生からアドバイスを求められている場合には、自分の意見よりも、本人がどう考えているかを知らなければならないので、「どういう仕事に就きたいの?」という質問をして大きな方向性を確認し、その後「その仕事のどこがいいの?」などと本人が何を求めているかを探っていく質問につなげるためにオープンに質問します。
 これに対し、「将来性のある仕事とない仕事どちらがいいの?」などは、「将来性のある仕事に就きたい」という答えを誘導しているクローズドな質問と言えるでしょう。
 あるいは、「どうすればもっと効率的に仕事ができると思いますか?」というのは、部下に考えて欲しいときにオープンに質問する場合であり、「この目標を達成する気はあるか?」というのは、考えさせず「あります」という答えを期待しているクローズドな質問です。
 これを表にすると、図1のようになります(下図を参照)。
 このように、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」は、質問する目的に合わせ、使い分けることが必要です。そして、どの程度質問に制限を加えてクローズドにするかも質問者が決定することができます。
 この「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」を使い分けるだけでも、あなたの質問する力は格段に上達することでしょう。

『「いい質問」が人を動かす』 第1章 より 谷原誠:著 文響社:刊

オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分け P25 第1章
図1.オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分け
(『「いい質問」が人を動かす』 第1章 より抜粋)


 相手から得たい情報は何なのか。
 それによって、質問のタイプを選ばなければならないということ。

「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」。
 この二つをうまく使い分けたいですね。

会話が盛り上がるポイントを見逃すな!


 上滑りしているような会話が続いている中で、ある瞬間から急に会話が盛り上がる場合があります。
 この瞬間を「会話のティッピングポイント」と呼びます。

 ティッピングポイントとは、「沸騰点」のことです。
 水が沸騰するように、急に会話が広がり始め、テンションが上がる様子から来ています。

 私は自分で取材を受けながら、「どんな時にティッピングポイントがくるのだろう?」と自分を分析したことがあります。そうすると、だいたい次のような時にティッピングポイントが来ることがわかりました。

  1. 自信がある話題
  2. 関心がある話題
  3. 心地よい話題
 自分に自信がある話題については、ポジティブに考えられるし、いくらでも話し続けることができます。そして、話していて自尊心が満足します。関心がある話題については、そもそも自分が望んでいる話題なのですから、勢いづくのも当然です。さらに成功談など、話していて心地よい話題については、話すこと自体が自尊心の満足につながりますので、勢いづくのも当然でしょう。
 このように見てくると、会話のティッピングポイントは、話し手の関心があることや、話すこと自体で自尊心が満足するような話題になったときに訪れるということになります。
 したがって、相手の話を引き出したいときは、相手が自信を持っている話題、関心がある話題、心地よい話題、などを見つけるためにいろいろ話題をふってゆくことが大切です。そして、相手のティッピングポイントを見逃さないことです。それまでとは明らかに話の勢いが違ってきますので、それを見逃さず、さらにその話を続けるように促していきます。
 そのためには、相手の感情をとらえ、共感することです。
「それは嬉(うれ)しいですよね!私だったら有頂天になります」などと、同じ感情を共有しましょう。そうすると、似た者同士ということになり、心理学の「類似性の法則」が働き始めます。共感は好意を呼び起こすのです。
 そうすれば、相手は気持ちよく、いつまでも話し続けてくれます。その結果、あなたは好意を獲得し、あなたの質問にも気持ちよく答えてくれることになるでしょう。

『「いい質問」が人を動かす』 第2章 より 谷原誠:著 文響社:刊

 いろいろな話題を振って、相手の反応をうかがう。
 食いついてきたら、そのチャンスを逃さずに、さらに深く掘り下げる。

「いい質問」をするためには、どんな話題にも対応できることが必要です。
 日頃からアンテナを高く、幅広い情報に接するようにしておきたいですね。

知らない間に相手を肯定させる「誤導質問」とは?


 谷原さんは、誤導質問の持つ強力なパワーを使って、人をその気にさせることができると述べています。
 誤導質問とは、質問の前提に誤った事実を挿入することによって、自分の意図した証言を引きだそうというものです。

 裁判では、誤った結論を導いてしまう強力なテクニックだとして禁止されていますが、実生活での応用は可能です。

 この誤導質問のテクニックは、たとえば営業の場面でも使うことができるでしょう。

「この車は燃費が優れているのです。色としては、黒と白はどちらがよろしいですか?」
「黒の方がいいね」
「私もその方が好きです。とても落ち着いています。3000ccと3500ccがありますが、どちらがよろしいですか?」
「うーん、値段次第だなあ」
「そうですよね。お見積もりに際して、お支払いは現金でしょうか、それともローンでしょうか」
「現金で払うよ」
「ありがとうございます。ちなみにお届けは来週末と再来週末では、どちらがよろしいでしょうか」

 この例では、「買う、買わない」を隠してしまい、当然買う前提で質問を組み立てています。したがって、答える方は、買う前提でしか答えることができません。そして、お客様は、購入する方へ誘導されてしまうのです。
 私たち弁護士が行う債権回収場面では、次のように使うことができます。

「300万円支払ってもらうことになりますが、すぐ払えますか、それとも1週間くらい待ちますか?」
「ちょ、ちょっと無理です。色々相談しないと」
「しかし、とにかく今すぐいくらかでも払ってもらわないといけないんですが、10万円にしますか、それとも20万円可能ですか?」
「では10万円でお願いします」
「それと、先送りになるからには、ペナルティがつきます。保証人をつけますか、それとも何か担保がありますか?」

 この例では、「払う、払わない」を隠しています。当然払う前提で質問を組み立てているので、相手は「払わない」ということを前提にした回答ができません。後は条件のみの交渉となり、有利に展開できます。
 契約書にサインをさせる時にも、この誤導誘導を使ったテクニックがあるそうです。お客様が契約書にサインをするかどうか迷っている時、「ここにサインをしてください」と鉛筆を差し出します。契約書のサインに鉛筆などで書くはずがないなと思い、お客様が、「え? 鉛筆で書くんですか?」と問い返します。その時、すかさず「ああ、間違えました」といってボールペンを差し出すと、すんなりサインするという寸法です。
「鉛筆でサインするはずがない」という思考は、すでに契約書にサインをする前提であって、「契約書にサインをするか、しないか」を隠してしまい、契約書にサインをするのは、「鉛筆か、ボールペンか」という思考に切り替わっています。
 他にも、次のような誘導質問の例が考えられます。

「配達はいつがよろしいですか?」――注文することが前提
「どちらの色の洋服を先に着てみますか?」――試着することが前提
「当社の品質の良さには、引き続きご満足いただけますか?」――前から満足していることが前提

 誤導質問は、相手をその気にさせる場面で強力なパワーを発揮します。自由自在に使えるようにしたいものです。

『「いい質問」が人を動かす』 第3章 より 谷原誠:著 文響社:刊

 本来相手が決めるべきことを、前提として組み込み、質問する。
 相手は、知らないうちに、こちらの意図したとおりの決断をすることになります。

 相手をどうしても説得したいときや従わせたいとき。
 誤導質問は、力強い手助けになります。

相手の行動を抵抗なく変えてしまう「魔法の質問」


 人を育てるのは、大変な作業です。
 ただ「こうした方がいいよ」と言っても、思い通りにはなりません。
「自分のやり方は間違っていない」と、自己正当化して、なかなか行動を変えてくれないからです。
 では、どうすればいいのでしょうか。

 さて、自己正当化に邪魔をされずに相手の行動を変えるにはコツがあります。相手の自尊心を傷つけないことです。たとえば、会社の中に、机の上が汚い部下がいるとします。注意をしても、「自分は何がどこにあるかわかっています。それに、書類を机に置いておいた方が、すぐにやりかけの仕事を始められて効率的です」などと反抗します。この部下の行動を変える方法は次のようなものです。
 まず、いきなり「机の上が汚いのは間違っている。すぐに整理しろ」と命令してはいけません。これではさきほどのように反発します。相手の間違いを指摘すると、相手の自尊心が傷つけられるからです。そこで、「やりかけの書類を机の上に置いておくと、デスクに座った瞬間に仕事が開始できて合理的だね。よし。やる気満々だ。頼むよ」と肯定しておきます。それで部下の自尊心は満足し、あとで行動を変えるときも、「自分は間違っていなかった」と自己正当化をすることができる伏線になります。
 その後、相手の行動を変える質問をします。
「先日君の留守中に君の机の上から書類を探そうと思ったんだが、全然見つからなくて大変だったんだ。君の考え方には賛成するけれども、誰が探してもすぐ書類が見つかるようにしておいてくれないか?」
 ここでは、机を整理する理由について、「自分はわかっているし、仕事に着手するのに合理的だ」という理由に反対するのではなく、それとは全然別の理由を持ってきて行動の変更を依頼します。こうすることで、それまでの相手は間違っていなかったことになります。ここでは永続的な変更を求めるわけですから、一旦(いったん)整理してくれないか」とか「今度監査があるから一度整理してくれ」では適当ではありません。一時的に整理された後、再びもとに戻ることが正当化されてしまいます。
 そして、相手が依頼に応じて机の上を整理したら、その後でその行動の変更を賞賛することが必要です。
「机の上がずいぶん整理されたね。お陰で探していた書類がすぐ見つかったよ。それでいて資料は手の届く範囲に収まっているから、君の言うようにすぐに仕事に着手できて、一石二鳥だね。今後も期待しているよ」
 これで、行動を変えたことが正当化されます。本人の自尊心が傷つくことはありません。また、一旦賞賛し、期待をかけられたことで、その後もとに戻りづらくなります。

『「いい質問」が人を動かす』 第4章 より 谷原誠:著 文響社:刊

 谷岡さんは、このときのポイントを3つ挙げています。

  1. 相手の過去の行動を正当化すること。
  2. 過去の行動の理由とは関係ない理由によって行動の変更を迫る質問をすること。
  3. 相手が行動を変更したら、それを賞賛し、今後も継続するよう期待をかけること。
 人は理屈ではなく、「感情」で動く生き物です。
 相手の感情を損なわずに、いかに相手をその気にさせるか。
 上司の腕の見せどころですね。

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 質問は、わからないことを聞くときだけ使うもの。
 多くの人は、そう考えていることでしょう。
 しかし、本書を読むと、質問には、質問される側の考え方をコントロールする強力なパワーがあることがわかります。

 質問の及ぼす影響は、他人だけではなく、自分自身にも有効です。
 相手を変えたい。自分を変えたい。
 そんなとき、「質問する力」は、間違いなく、私たちの大きな手助けとなります。

 たかが「質問」、されど「質問」。
 ぜひ、私たちも「質問する力」身につけて、より豊かな人生を歩んでいきたいものです。


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