【書評】『未来に先回りする思考法』(佐藤航陽)

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 お薦めの本の紹介です。
 佐藤航陽さんの『未来に先回りする思考法』です。

 佐藤航陽(さとう・かつあき)さんは、IT起業家、会社経営者です。
 現在、自らが立ち上げた株式会社「メタップス」の代表取締役社長を務められています。

「点」ではなく「線」で考えろ!


 未来に先回りすることができる0.1%の人たちとその他の99.9%の人たちの差。
 両者を分けているのは、「パターンを認識する能力」です。

 パターンを認識するにあたって、最も重要な要素となるのが、テクノロジーです。
 社会の進化は、いつの時代もテクノロジーが牽引してきました。

 佐藤さんは、進化のスピードが急速に上がった現代においては、テクノロジーに焦点を当てることが、社会全体の構造を理解する一番の近道だと述べています。

 例えば、GoogleやFacebookなどの世界的な巨大IT企業。
 彼らは、社会の進化の流れを一本の「線」として捉えています。

 テクノロジーの世界には、浮かんでは消えていくいくつもの流行語のような言葉があります。本書刊行時の少し前なら「ソーシャルメディア」「クラウドコンピューティング」「クラウドソーシング」「CtoC」「シェアリングエコノミー」「Makers」。2015年7月現在であれば「IoT(Internet of Things)」「VR(Virtual Reality)」「AI(Artificial Intelligence)」などです。
 ほとんどの人にとって、それらは突然現れては消えていく流れ星のような存在でした。なぜ、いつそこに現れるのか、まったく予想がつきません。一方、GoogleやFacebookなどシリコンバレーの一部の企業は、創業者自身がコンピュータサイエンスに精通しているため、それぞれのトレンドの関係性を理解し、全体像がつかめていました。人々が流れ星を慌てて指差しているときに、彼らはもう次の流れ星がどこに現れるかを突き止め、悠々と待ち受けていたのです。他の人にとっては、関連のない「点」でしか見えていないものが、彼らには予測可能な「線」として見えていました。

 Googleが自動運転車をはじめたとき、「なぜ、検索エンジンの会社が?」と不思議に思った人は多かったと思います。検索エンジンだけを「点」で捉えていれば、「自動車」という「点」との関係性は見えにくいでしょう。一方で、インターネットという技術の持つ性質と「世界中の情報を整理して誰にでも利用可能にする」という彼らのミッションを理解していれば、このふたつの「点」は、ひとつの「線」として見えてきます。
 インターネットは電気と同様に、時計や車など様々なデバイスに宿ってはネットワークに取り込んでいく性質を持っています(詳細は第1章で述べます)。つまり、Googleからすれば、「自動車を通して情報を取り込み整理すること」は、「PC上に広がる情報を、検索エンジンを通じて取り込み整理すること」の延長線上に位置します。

 彼らにはなぜ「線」が見えているのか。もしその思考法を汎用性のあるロジックとして整理できれば、ビジネスを進める上で大きなメリットになると考えて、これまで自分なりに探究を続けてきました。

『未来に先回りする思考法』 はじめに より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 本書は、社会全体のメカニズムとその大枠の「流れ」をつかむことで、「未来に先回り」するノウハウをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「テクノロジーの本質」とは?


 テクノロジーの本質的な特徴は、以下の3点に絞られます。

  • 人間を拡張するものであること
  • いずれ人間を教育しはじめること。
  • 掌(てのひら)からはじまり、宇宙へと広がっていくこと
 その中のひとつ「人間を拡張するもの」とは、どのような意味なのでしょうか。

 そもそもテクノロジーとは何のために生まれたのでしょうか?
 石器にはじまりインターネットに至るまで、すべてのテクノロジーは、何らかの形で人間の持つ機能を拡張してきました。
 斧や弓が、手の持つ機能をそのまま拡張したものだというのはイメージしやすいでしょう。
 文字や書籍は、かつて個体の脳内で完結していた情報を物体に記録し、他の個体にも共有可能にしたという意味では、人類の頭脳の拡張だといえます。テクノロジーは常に、人間の能力を拡張し、一個体だけではできないことを実現可能にしてきました。テクノロジーの規模が大きくなり、そのメカニズムが複雑になるにつれ、何を拡張しているのかは実感しづらくなりますが、その本質は変わりません。
 蒸気や電力は人間の手足の動力そのものを何万倍にまで拡張させたテクノロジーです。蒸気機関車をもし人力で動かそうとすれば、どれくらいの人が必要になるかは、想像すらできません。同様に、掃除機や洗濯機ひとつとっても、電力ゼロで、人間の動力だけに頼るなら、私たちの生活は成り立ちません。

 一方で、コンピュータやインターネットは、電力や蒸気とは根本的にまったく違う方向に人間の機能を拡張するテクノロジーです。その本質は、「知性の拡張」にあります。
 コンピュータが発明されたことによって、人類は個体の脳をはるかに超える計算能力を手に入れ、インターネットによってリアルタイムで他人とコミュニケーションがとれるようになりました。蒸気や電力といったテクノロジーが現実世界における「動力革命」だとすれば、コンピュータは脳内における「知性革命」ということができるでしょう。

『未来に先回りする思考法』 第1章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 人間の肉体的な機能、例えば走る速さや持ち運べる荷物の重さなどは、時代とともに大きく変わるものではありません。
 記憶力や読み書きの速さなど、知性的な機能も同様です。

 一方、人間の欲望には限界はありません。

 より速く、より多く、より快適に。
 そんな飽くなき向上心によって、さまざまなテクノロジーを生み出されてきたということです。

あらゆる物体に宿る「知性」


 一般家庭の隅々にまで普及しつつあるインターネット。
 これまでパソコンやスマホの中だけだった「ネットの世界」が、あらゆる物体とつながり始めています。
 いわゆる「IoT(モノのインターネット化)」と呼ばれる現象です。

 佐藤さんは、ここから確実に到来が予想されるのが、あらゆる物体に「知性」が宿る世界だと指摘します。

 ネットにつながっている端末の数は、2020年までに250億台に増加すると予測されています。これから「スマート〇〇」と呼ばれる端末は加速度的に増えていくでしょう。それに伴い、クラウド側では蓄積された膨大なデータを学習した人工知能が、ますますその判断の精度を高めていきます。
 最終的に、精度を高めたAIは、ハードウェアをコントロールするようになるでしょう。この段階で、インターネットにつながっている物体には、「知性」が宿るようになります。
 知性の発達のプロセスには、4つの段階が存在します。

① 膨大な情報を蓄積する
② 蓄積された情報から人間が手動で改善につなげる
③ 蓄積された情報から人間がパターンを抽出し、そのパターンをシステムに検知させ改善につなげる
④ パターン認識そのものから改善のための判断まですべてシステムが行う

 単にモノがインターネットにつながっただけでは、それは情報収集のためのデバイスにしかすぎず、①~③を担うのみです。しかしクラウド化されたAIが④までこなせるようになれば、それはもはや「知性」と呼ぶことができます。
 こうしてネットにつながって情報を送受信するセンサーにすぎなかった物体は、自律的に学習して行動する、知性を持ったコンピュータに変化していくでしょう。

 ネットを活用して情報を送受信すれば、膨大なデータをクラウド上で学習した結果を、リアルタイムで端末側にフィードバックすることができます。たとえば今のスマートフォンアプリは、ユーザーインターフェイスを司る部分は端末のローカル側にダウンロードして動かしています。一方、リアルタイムでアップデートが必要な領域に関しては、クラウド側とインターネットを通じて通信を行っています。
 Pepper(ペッパー)などのスマートロボットと呼ばれるハードウェアも同様です。好みのアプリがインストールされ、ユーザーの使い方の癖などの情報がリアルタイムに通信によりアップデートされ、介護、接客など様々な用途に合わせて稼働します。そして、同様のことは、今後インターネットに接続されたすべてのデバイスで起こります。

 現在私たちが生活で接している物体に知性が宿り始めたとしたら、生活はどのように変わるでしょうか。
 まず単純作業はすべて自動化が進みます。これはかなり速い段階で実現されるでしょう。すでにGoogleやテスラモーターズはドライバー不在で走行する「自動運転車」の実用化に向けて動き出しています。そしてひとたび自動運転が実現すれば、データから乗車する人の帰宅時間と移動経路を学習し、自動で迎えにきて、何も言わずともその場所まで連れていってくれるなど、運転以外の作業もどんどん自動化が進んでいくでしょう。

 店舗の接客やレジなどの単純作業も、自動化が確実に進む分野です。何をもって単純作業とするかは、「マニュアル化可能かどうか」がひとつの判断基準となります。マニュアル化できる、つまりルールが決まっているのならプログラムを組むのにこれほど楽なことはありません。クラウド側でリアルタイムに情報を書き換えれば、全店舗のオペレーション変更が一瞬で完了します。

『未来に先回りする思考法』 第1章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 車の運転や接客、電話のオペレーターなど。
 単純作業の自動化は、技術の発達の流れを考えれば、必然だということですね。

 あらゆる身の回りのモノが、自ら「判断」して動く。
 ITの進歩は、そんなSFの中の出来事のような世界を、現実のものにしようとしています。

「通貨発行権」を巡る争い


 GoogleやFacebook、Amazon。
 これらの巨大IT企業が提供するサービスは、すでに私たちの生活に欠かせないものです。
 国境を超えた「社会インフラ」として受け入れられ、これまで国が一元的に行ってきた仕事の一部を肩代わりするまでに急成長しました。

 国と企業は、互いの境界線はいまや融解し、共生関係を構築するようになりつつあります。
 佐藤さんは、「国家の企業化」と「企業の国家化」の両方が、現在進行系で進んでいると述べています。

 その象徴ともいえるのが「ビットコイン」の登場です。

 国家は中央銀行を通じて通貨が市場に出回る量をコントロールできますが、この権限がなければ、経済への直接的な影響力は大きく下がります。
 ビットコインの登場は、中央銀行というシステムそのものを否定するものであったため、世界に大きな衝撃をもたらしました。ビットコインの最も特徴的な点は、通貨発行者がいなくても機能する点です。本来は通貨には発行者が必要で、通常これを中央銀行が担っていました。
 詳しくは触れませんが、ビットコインはブロックチェーンと呼ばれるテクノロジーを使った暗号通貨で、ネットワークすべてに取引履歴が記憶される仕組みになっています。そのため、通貨発行者がいなくとも、記録から通貨がどこからどこに移動したかを把握することが可能になり、結果として中央に管理者がいなくても成立するようにできています。
 この暗号通貨はその匿名性の高さもあり、初期は各国政府から警戒されていました。麻薬の違法取引やテロリストなどへの資金提供に使われるのではないかと、懸念の声が上がったのです。
 もしこうした暗号通貨が普及して、誰がどのような取引をしたか外部から追跡できなくなると、どのようなことが起こるでしょうか。
 まず、国家の徴税権が弱まり政府の税収が減少することが考えられます。取引が追跡できず個人の資産状況が把握できなければ、税金を課す根拠が成立しません。つまり、通貨発行権を失うことは徴税権を失うことに近いのです。結果として、国家はそのあらゆる権力の源泉を失ってしまうことになります。だからこそ国家は、これだけビットコインを恐れているのです。
 ビットコインは、まださまざまな懸念や規制から大きなシェアを獲得していませんが、私たちの生活でも、すでに似たような事態は起こりはじめています。電子マネーの普及です。
 たとえば、TポイントやSuicaにチャージされている残高は銀行口座に蓄積されている貯金とは異なります。現在、電子マネーは法律的にみればサーバー上のデータにすぎず、純粋な意味での貨幣とはいえません。しかし、実際にはそれらの電子マネーはコンビニなどで貨幣と同じように使うことができます。
 こういった電子マネーの流通が増えてくれば、ますます実体経済での取引量と名目上の通貨の流通量が一致しなくなってくるでしょう。経済規模が縮小しているように見えて、実はバーチャル経済に中心が移動していただけだったという世界も、その実現が近づきつつあります。
 これから企業や組織が電子マネーやポイントを発行して独自の経済システムを構築していくと、国家はますます国民の資産状況や収入状況を正確に把握することが難しくなってきます。たとえば、現金口座には10万円しかないが、5つの電子マネーの残高がそれぞれ10万円ずつあった場合、どこまでを資産とするのか。線引きをすることも、すべての電子マネーを厳密に管理することも難しいでしょう。

『未来に先回りする思考法』 第2章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 通貨発行権は、通貨を発行する主体である国家の権力の土台となる、とても大切なものです。
 それが脅かされるのですから、各国がビットコインに対して神経を尖らせるのも無理はありません。

 ビットコインは、発行元がない、いわば「無国籍のお金」です。
 しかもすべてインターネット上で取引されますから、実体もありません。

 使い勝手の良さ、偽造のされにくい安全性。
 それらを考慮すれば、仮想通貨の取引量は今後急速に増えていくことが予想されます。

 テクノロジーの進化の流れは、お金の持つ意味をも変えてしまう破壊力があることは、頭に入れておきたいですね。


「パーソナライズ」の誤謬(ごびゅう)


 個人のこれまでの行動を学習して、その人に最適なサービスを提供していく。
 このような試みは、AIやビッグデータ解析の進化により、今後ますます増加すると予想されます。

 自分で探さなくても、コンピューターが勝手に「オススメ」を提示してくれるのは、とても楽で便利ですね。

 ただ、佐藤さんは、このような試みは、本当の意味での「最適化」をむしろ遠ざけてしまう危険性があると指摘します。

 この問題について、以前イスラエルでGoogleのマネジャーがおもしろい話を聞かせてくれました。Googleには有名な「20%ルール」が存在します。就業時間の20%は、会社から指示された業務以外の自分の好きなプロジェクトなりアイデアに時間を費やしてよいというルールです。外部からは、このルールはGoogleが社員に与えた太っ腹な福利厚生のように捉えられがちです。たしかに、創造性に溢れた社員を引きつけるための戦略としてはとても優れているように思えます。
 しかし、私がその点について確認したところ、そのマネジャーは意外な答えを返してくれました。
 この仕組みは「リスクヘッジ」のためのものなのだ、と。

 Googleを率いるような優れた経営者も、いつも正しい決断をし続けられるとは限りません。企業が大きくなればなるほど、創業者たちでさえすべての市場を正しく把握することは難しくなってきます。ネットの市場は変化が速いので、トップが意思決定をひとつでも間違えば、途端に時代に乗り遅れるリスクがあります。
「だから、数万人いる社員の業務時間の20%をそのリスクヘッジにあてているんだ」と、彼は話してくれました。もし仮に創業者の意思決定が間違っていたとしても、数万人の社員の20%の時間を費やしたプロジェクトの中に正しい選択があれば、企業は存続できます。企業の80%のリソースを経営陣の意思決定どおりの仕事に費やし、残りの20%のリソースを社員の意思決定に任せる。これにより、企業全体がおかしな方向にならないようにバランスをとっているのです。
 この仕組みは、Googleの経営陣ですらも常に正しい意思決定をすることは不可能だ、という前提に立ってつくられています。どれだけ多くの経験を積んでも、この世界の「不確実性」からは逃れることができないのならば、いっそのことそのリスクも理解した上で組織をつくるという理詰めの選択の結果が、あの「20%ルール」なのです。この話には衝撃を受けました。

『未来に先回りする思考法』 第3章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 テクノロジーの進化は、世の中の変化の速さを加速させます。
 その流れは、今後ますます強くなっていくことでしょう。

 Googleは、テクノロジーの新陳代謝の速さを身をもって体験しています。
 一瞬先は闇、そんな危機感をつねに感じているのでしょう。

「20%ルール」は、生き馬の目を抜くIT業界で生き残るための知恵。
 私たち個人にも、示唆に富んだ話ですね。

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「木を見て森を見ず」という言葉があります。
 私たちは、目の前の事象にとらわれて大局を見失い、失敗することがしばしばです。

 とくに「未来」については、どうしても「今」の延長線上で考えてしまいます。
 つまり「想定の範囲内」の未来しか、思い描くことができません。

 一方、世の中を変える画期的なアイデアは、まったく異なるアプローチから生まれます。

 過去から現在に至るまでの流れを読み、それをパターン化する。
 テクノロジーの進化を「点」ではなく「線」で読み解く。

 スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグにあって、他の人にないもの。
 それは才能ではなく、まだ現実化していない未来を見通すビジョンです。

 私たちも、本書から学んで、未来に先回りする0.1%の人間になりたいですね。


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