【書評】『お金2.0』(佐藤航陽)
お薦めの本の紹介です。
佐藤航陽さんの『お金2.0』です。
佐藤航陽(さとう・かつあき)さんは、IT起業家、会社経営者です。
現在、自らが立ち上げた株式会社「メタップス」の代表取締役社長を務められています。
今、「経済」のあり方が変わろうとしている!
フィンテック、ビットコイン、シェアリングエコノミー、評価経済。
2017年、そんな言葉が世間をにぎわせました。
それは、「お金」や「経済」に関する大きな変化
を示すものと言えます。
佐藤さんは、今まさに「経済」のあり方が変わろうとして
いると指摘します。
2015年から世の中ではFintech(フィンテック)という言葉が徐々に広まっていき、ビットコインなどの仮想通貨が2016年後半から一気に普及し始め、2017年は仮想通貨ベースの資金調達手段であるICO(Initial Coin Offering)が盛り上がり、お金や経済のあり方が大きく変わっていくことが誰の目にも明らかになりました。
この本ではFintechやビットコインなどの技術的な最新トレンドの紹介をしたいわけでもありませんし、新たな金融工学や経済学の理論を紹介したいわけでも全くありません(そういった話はメディアや大学の先生がたくさん紹介されているのでそちらを参考にしてください)。
また、人生の方向性に迷っている人に対する自己啓発本でもありませし、「こうすれば仕事の効率が上がる!」といったライフハック的な本でもありません。世の中はこう変わるといった未来予測を趣旨とする本でもありません。
この本を書いた目的は、「お金や経済とは何なのか?」、その正体を多くの方に理解して欲しい、そして理解した上で使いこなし、目の前のお金の問題を解決して欲しいということです。
多くの人の人生の悩みの種類は3つに分かれます。
①人間関係、②健康、③お金です。
そして、③お金、によって人生の道が狭まれてしまったり、日常がうまく回らなかったりという経験をする人を、1人でも少なくしたい。
(中略)
お金や経済のメカニズムを万人が理解して使いこなせるようになった時、人間がお金に対して抱く不安、恐怖・焦り等の様々な感情から解放される時が来るかもしれません。
何よりも、多くの人がお金というフィルターを外して人生を見つめ直すことで、「自分はなぜ生まれてきて、本当は何がしたいのか?」という本質的なテーマに向きあう契機になると思っています。かつて、電気の発明が人間の生活を一歩前へ進め、医学の進歩が疫病から多くの人を救い、身分からの解放が個人の一生に多くの可能性をもたらしました。
同様に「お金」や「経済」もまだまだ進化の途中であり、人間は今とはもっと違う存在を目指せると、私は信じています。少なくとも、朝から晩までお金のことを考え、お金がないことに怯え、翻弄される人が多くいる時代は、私たちの世代で終わりにしていいはずだとも思っています。『お金2.0』 はじめに より 佐藤航陽:著 幻冬舎:刊
本書は、21世紀に登場した「新しい経済」とは、どんな経済なのかを解説し、その「新しい経済の歩き方」をわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「3つのベクトル」が未来の方向性を決める
佐藤さんは、現実はおおよそ3つの異なるベクトルが併存し相互に影響を及ぼしており、それらが未来の方向性も決めている
と述べています。
「3つの異なるベクトル」とは、
- お金
- 感情
- テクノロジー
です。
①お金(経済)
3つの中で最も強力だと感じたのがお金(経済)です。アマゾンの奥地で自給自足している民族を除けば、地球上のほぼ全ての人は市場経済の影響力から逃れることができないためです。現状では「経済=お金」と言っても良いでしょう。私たちは生活をするためにお金を稼ぎますし、人生の半分はそのために仕事をしています。お金は生きることと直結していますから影響力は絶大です。かつ、経済の構造は弱肉強食が大前提で、より強く大きいものがより弱く小さいものから奪うという構造になっています。経済は戦争と言われますがそのままで、淘汰と食物連鎖を繰り返しているようです。
不思議なことにお金の仕組みは学校などでは教わることはありません。大学や大学院で経済や経営について教わることはあっても、「お金」の本質そのものには触れられていないような気がします。学問的な賢さが実社会での生活力に直結しないのは、バスケと野球のように、それらが別のルールで運営される競技だからであると納得できました。
②感情(人間)
次に影響力が強いのが(共感・嫉妬・憎悪・愛情など)です。ある思想が全人類の共感を得ることはないと思いますが、必ず一定の母集団を形成するのに役立ちます。その意味ではお金の影響力よりは若干劣りますが、とても強力な要素です。人間は誰かを羨んだり嫉妬したりする反面、他人に共感したり自分を犠牲にしても何かに献身したりする生き物だと思います。いくらお金の性質を掴んで経済的な成功を収めても、他人の感情を無視しては長続きしません。社会から共感を得られないような事業は、協力してくれる人もいなくなり、最終的には自壊してしまいます。
お金の影響力は確かに強いですが、人の感情を無視しては持続することはできないというのがポイントです。
③テクノロジー
最後はテクノロジーですが、これは重視する人が最も少ない要素です。99.9%の人はテクノロジーのことを考えなくても問題なく生活できます。ただ、テクノロジーは大きな変化のキッカケをいつでも作ってきました。自然や人間は時代によってそれほど変わるものではないですが、テクノロジーだけは目まぐるしく変わっていく問題児です。
かつ、テクノロジーには一定の流れがあり1つの発明が次の発明を連鎖的に引き起こしていきます。まるで地層のように重なって作られています。例えば、昨今の人工知能の進歩はネットに接続されたデバイスとデータが溢れたことが根底にありますし、コンピュータは半導体や電気などの複数の技術革新の結晶のような存在です。最近はこのテクノロジーの影響力が徐々に強まっています。頭の中のイメージを図に落とし込んでみると、異なるメカニズムで動く3つの要素が、それぞれ違うベクトルを指して進んでいます。それらの先端を結んだ三角形の中間が「現在」であり、その軌道が「未来」の方向性だと感じました(下図を参照)。
『お金2.0』 第1章 より 佐藤航陽:著 幻冬舎:刊
図.未来の方向性を決める「3つの異なるベクトル」
(『お金2.0』 第1章 より抜粋)
引っ張る力は、
お金が一番強く、次に感情、最後がテクノロジーです。
佐藤さんは、この構造は、必ず3つのベクトルが揃っていないと現実ではうまく機能しないというのが特徴
だと指摘します。
お金さえあれば、なんでもうまくいくという訳ではありません。
お金に加えて、多くの人間の感情と、最先端のテクノロジー。
その後押しがあって、初めて世の中を変える大きな力となるということですね。
今起きているのは、あらゆる仕組みの「分散化」
お金や経済の世界における、最も大きな変化の流れ。
佐藤さんは、これから10年という単位で考えれば、それは「分散化」
だと述べています。
「分散化」とは一部の業界を除いて会話で使われることは滅多にありませんが、これは既存の経済や社会のシステムを根本から覆す概念です。
なぜなら、既存の経済や社会は、「分散化」の真逆の「中央集権化」によって秩序を保ってきたからです。組織には必ず中心に管理者が存在し、そこに情報と権力を集中させることで、何か問題が起きた時にもすぐに対応できる体制を作ってきました。そしてこれが近代社会では最も効率的な仕組みでした。
それは、近代社会が「情報の非対称」を前提に作られているためです。情報が偏って存在し、それぞれがリアルタイムで完全に情報共有できないことを前提に、代理人や仲介者を「ハブ」として全体を機能させてきました。
必然的に“力”は中央のハブに集まるようになります。現代で大きな力を持つ組織を眺めても、このハブが重要な役割を担ってきたことがわかります。国家においては政府に、議会政治であれば代議士に、企業であれば経営者に、物流であれば商社に。近代社会では情報の非対称性が存在する領域に仲介者や代理人として介在することで、情報の流通を握り権力も集中させることができました。そして、この情報の非対称を埋めるために代理人として介在すること自体が重要な「価値」でした。
ただ、現在は全員スマートフォンを持ち、リアルタイムで常時繋がっている状態が当たり前になりました。これからは人間だけでなく、ものとものも常時接続されるのが当たり前の状態になります。私はこれを「ハイパー・コネクティビティ」と呼んでいます。
この状況がさらに進むと、オンライン上で人と情報とものが「直接」かつ「常に」繋がっている状態が実現します。そうすると中央に代理人がハブとして介在する必然性がなくなり、全体がバラバラに分散したネットワーク型の社会に変わっていきます。
この状況では、情報の非対称性は消えつつあるので、間に入っている仲介者には価値はありません。むしろ情報の流れをせき止めようとする邪魔者になってしまいます。そうなってくると、これまで力を持っていた代理人や仲介者はどんどん価値を提供できなくなっていき、力を失っていきます。分散化が進んでいくと情報やものの仲介だけでは価値を発揮できず、独自に価値を発揮する経済システムそのものを作ることができる存在が大きな力を持つようになっていきます。
つまり、この「分散化」という現象は近代までの社会システムの前提を全否定する大きなパラダイムシフトであり、中央集権的な管理者からネットワークを構成する個人への権力の逆流、「下克上」のようなものです。
『お金2.0』 第2章 より 佐藤航陽:著 幻冬舎:刊
インターネット内で完結し、特定の発行母体を持たない、無国籍の通貨。
「ビットコイン」に代表される仮想通貨は、まさに経済の「分散化」がもたらした産物です。
今後このような、それ自体で完結する独自の経済圏(トークン)は、爆発的に増えていくのは間違いないでしょう。
資本主義から「価値主義」へ
佐藤さんは、資本主義上のお金というものが現実世界の価値を正しく認識・評価できなくなって
いると指摘します。
そして、今後は、可視化された「資本」ではなく、お金などの資本に変換される前の「価値」を中心とした世界に変わっていく
と予想します。
私はこの流れを「資本主義(capitalism)ではなく「価値主義(valualism)」と呼んでいます。2つは似ているようで別のルールです。資本主義上で意味がないと思われる行為も、価値主義上では意味がある行為になるということが起きます。
資本主義で一番大事なことは資本を最大化すること、簡単に言えば「お金を増やすこと」を追求することです。どれだけ人々が熱中して膨大なユーザーがサービスを利用してくれていても、それらが「お金」という形に換えられなければ資本主義経済では存在しないものとして扱われてしまいます。逆に、実際は価値がないものであっても、それをうまくお金・資本に転換できさえすればそれは評価の対象になってしまいます。
価値主義ではその名の通り価値を最大化しておくことが最も重要です。価値とは非常に曖昧な言葉ですが、経済的には人間の欲望を満たす実世界での実用性(使用価値・利用価値)を指す場合や、倫理的・精神的な観点から真・善・美・愛など人間社会の存続にプラスになるような概念を指す場合もあります。
またその希少性や独自性を価値と考える場合もあります。欲望を満たすための消費としての価値は既存の資本主義経済では一般的に扱われているものですが、価値主義で言う価値とはこの使用価値に留まりません。
興奮・好意・羨望などの人間の持つ感情や、共感・信用などの観念的なものも、消費することはできませんが立派な価値と言えます。価値主義における「価値」とは経済的な実用性、人間の精神にとっての効用、社会全体にとってポジティブな普遍性の全てを対象にしています。従来の価値は消費の観点からの使用価値をもっぱら扱ってきましたが、裕福になるにつれてものもサービスも飽和して消費や使用の重要性は減っていきます。一方で、興奮や共感などの精神的な充足や、社会貢献活動などの重要性は若者を中心にどんどん高まっています。
良い大学を出た超一流企業にも就職できるエリートがその道を選ばずにNPOや社会起業家などに専念するのは、資本主義的には非合理的な選択に見えますが、価値主義的には合理的な意思決定とみなすことができます。
あらゆる「価値」を最大化しておけば、その価値をいつでもお金に変換することができますし、お金以外にものと交換することもできるようになります。お金は価値を資本主義経済の中で使える形に変換したものに過ぎず、価値を媒介する1つの選択肢に過ぎません。人気のあるYouTuberほど、お金を失うことは怖くないが、ファンやチャンネル登録者を失うのは怖いと言います。これはYouTuberが、自分の価値は動画を見てくれるファンの人たちからの「興味」・「関心」であり、お金はその価値の一部を変換したものに過ぎないということをよく理解しているからだと思います。彼らにはファンやユーザーからの興味・関心という精神的な価値を最大化することが最も重要になります。
『お金2.0』 第3章 より 佐藤航陽:著 幻冬舎:刊
例えば、株式時価総額において、世界有数の巨大企業である、フェイスブック。
売上の大きさ、利益率の高さだけが評価されているのではありません。
むしろ、全世界に広がる数十億人のユーザーがネットワークを構築するプラットフォームとしての価値が圧倒的に高いです。
直接、お金にはならない。
でも、多くの人が「価値がある」と認める。
価値主義では、そういうものが評価され、お金にも変換できるようになるということですね。
「儲かること」から「情熱を傾けられること」へ
お金では測れない、内面的な価値が経済を動かす。
そうなると、そこでの成功ルールは、これまでとは全く違うものになり得ます。
佐藤さんは、金銭的なリターンを第一に考えるほど儲からなくなり、何かに熱中している人ほど結果的に利益を得られる
ようになると指摘します。
従来は、経済的な利益を得ることを最優先し、個人の利益を最大化するように動くことが成功のための近道でした。ただ、内面的な価値を軸に考えた場合は、因果関係が逆転します。自分が心から熱中していることに打ち込んでいると、結果として利益を得られる。逆に利益を最優先に行動すると利益を得るのは難しいということが起きます。
例えば、商業的に成功するために歌っている人と、音楽が本当に好きでただ熱中して歌っている人がいるとしたら、みなさんならどちらを応援したいと思うでしょうか? どちらに共感や好意を感じるでしょうか? 大半の方は後者のはずです。人気のYouTuberや動画配信者も、配信している人が本当に楽しそうに熱中してやっている場合に人気が出ているという印象を受けます。彼らにとっては経済的に成功したことは「結果」であって、儲けることが目的だったのではないと思います。
利益やメリットを最優先にする考え方は実用性としての価値の観点であって、それを内面的な価値に適用したところで全く機能しません。簡単に言えば、「役に立つこと」や「メリットがあること」と、「楽しいこと」や「共感できること」は全く関係がないのです。これまでの経済はいかに役に立つかを価値の前提にしてきて、使用価値のないものに価値を認めてきませんでした。内面的な価値は、商品でもサービスでもありませんでした。しかし、共感・熱狂・信頼・好意・感謝のような内面的な価値は、SNSといったネット上で爆発的な勢いで広まっていきます。今や誰もがスマホを持ち歩いてネットに常時接続しているので、人の熱量が「情報」として一瞬で伝播しやすい環境が出来上がっています。
例えば、中国ではライブ動画配信で商品を販売するライブコマースに非常に勢いがあります。JD.comという大手ECサイトでは中国で人気がある女性タレントが登場してザリガニを販売しました(中国ではザリガニを食べます)。
5分間で45万匹のザリガニがこのライブ動画を経由して販売されたそうです。ザリガニであれば中国のスーパーに行けば購入できるのに、です。
ユーザーは、ただ食欲を満たすのではなく、「楽しみたい」、女性タレントを「応援したい」という感情に対して「価値」を感じて、お金を払っているのです。仮想通貨やトークンエコノミーの普及によって、こういった目に見えない価値もネットを経由して一瞬で送れるような仕組みが整いつつあります。ものやサービスが飽和して使用価値を発揮するのがどんどん難しくなり、多くのミレニアル世代が人生の意義のようなものを探している世界では、内面的な欲望を満たす価値を提供できる人が成功しやすくなります。
この世界で活躍するためには、他人に伝えられるほどの熱量を持って取り組めることを探すことが、実は最も近道と言えます。そして、そこでは世の中の需要だったり、他の人の背中を追う意味は薄くなります。なぜなら、内面的な価値ではオリジナリティ、独自性や個性が最も重要だからです。その人でなければいけない、この人だからこそできる、といった独自性がそのまま価値に繋がりやすいです。
『お金2.0』 第4章 より 佐藤航陽:著 幻冬舎:刊
「お金をもらえる仕事をする」
それが、資本主義の時代の働き方の基本でした。
しかし、これからの価値主義の時代は、
「自分が熱中できることを、とことん追求する」
そんな働き方が、成功の近道になります。
他人と違うことが価値を創り出し、お金を生む。
経済やお金に関する価値観を、大きく切り替える必要があるということです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
佐藤さんは、お金や経済を扱うためには、お金と感情を切り離して1つの「現象」として見つめ直すことが近道
だとおっしゃっています。
お金も、もともとは人間が作り出した「道具」です。
ただ、あまりに便利で、強力なため、余計な感情をつけ加え、道具以上の役割を担ってきました。
資本主義経済は、お金の価値を高めることで発展してきた。
そういっても過言ではありません。
これまでお金で測れなかったものの価値が見直される。
同時に、お金から余計な感情を切り離され、お金が単なる「道具」となる。
その現象は、まさに「お金2.0」と呼ぶにふさわしいパラダイムシフトです。
本書は、お金が発明されて以来の大変革期を生きる、私たち現代人の必読の一冊といえます。
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