【書評】『2050年の技術』(英『エコノミスト』編集部)

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 お薦めの本の紹介です。
 英『エコノミスト』編集部の『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』です。

 英『エコノミスト』は、1843年にイギリスで創刊された週刊誌です。
 現在の発行部数は155万部、グローバルエリートを中心に、世界200カ国以上で読まれています。

破壊的で大規模な技術の変化「メガテック」


 30年後の、2050年。
 世界は、どのような姿をしているのか。

 そんな途方もない謎に、科学技術の論評に定評のある、世界的な週刊誌、英『エコノミスト』編集部が挑みました。

 長期的視点でモノを考えると得るものが多い。本書はそんな発想から生まれた。2050年を予測することで、今後世界を形作るうえで核となる力は何か、ということがわかる。本書の姉妹編ともいえる『2050年の世界』(2012年刊)は、人口動態や宗教から、経済、文化まで、幅広い分野における「メガチェンジ」ともいうべき大きな変化を予測した。
 一方、本書はぐっと絞りこんだ。テクノロジー(技術)である。それでも2050年までの世界を形づくる「メガテック」のすそ野は広い。技術の影響はたいていのものに及ぶからだ。当然ながら、2050年のテクノロジーがどのようなものか、完全な形で知ることはできない。30年前にアップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルが席巻する今日の状況を見通すことが不可能であったのと同じように。
 それでも、質の高い予測を知的刺激に富む作業だ。今回は『エコノミスト』誌のジャーナリストに加えて、科学者、起業家、研究者、SF作家の協力を仰いだ。こうして本書は実に多様な視点から今後数十年にわたり技術がどのような発展を遂げ、われわれにどのような影響を及ぼすかを見通すものとなった。

『2050年の技術』 はじめに より 英『エコノミスト』編集部:著 土方奈美:訳 文藝春秋:刊

 来るべき急激な変化の時代を「アッチェレランド(音楽用語で「次第に速く」の意味)」と呼ぶ人もいるそうです。
 著者は、科学の進歩に目を向けると、アッチェレランドの到来は確実に思えると指摘します。

 本書は、今後30年間で世界を飲み込むあろう「メガテック」の数々を、具体的なデータを交えてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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スーパーコンピュータは、靴箱一つ分にまで小型化する


 コンピュータの、急激な能力向上。
 それは、「ムーアの法則」によって支えられてきました。

 ムーアの法則とは、「集積回路上のコンポーネントの数は「18か月(=1.5年)ごとに倍になる」という経験則です。

 コンピュータの性能が、指数関数的な変化を遂げてきたことを示すデータです。

 コンピュータが開発された、1970年代から現在に至るまで維持された、ムーアの法則。
 それが、間もなく終焉を迎える、というデータがあります(下図2.1を参照)。

図2 1ムーアの法則は維持できるか 第2章P43
図2.1 ムーアの法則は維持できるか
(『2050年の技術』 第2章 より抜粋)

 今後、ムーアの法則を維持するほどのコンピュータの開発は、可能なのでしょうか。

 ただ、コンピュータの性能はこれまでのようなペースで向上させ続けるには、もっと劇的な変革が必要になるだろう。たとえばチップの三次元化によって、ムーアの法則を持続させるといったことだ。現代のチップは本質的に二次元(平面)だが、すでにコンポーネントを積み重ねるといったチップの開発が進んでいる。それによってチップの底面積は縮小しないかもしれないが、高層ビルのほうが低層ビルより多くの人を収容できるのと同じで、チップに組み込むコンポーネントの数を増やせることになる。
 三次元的デバイスの先駆けは、すでに市場に登場しつつある。韓国のサムスン電子は、メモリチップを複数の層状に重ねたハードドライブをすでに販売している。このテクノロジーには大きな可能性がある。現在のコンピュータでは、メモリはプロセッサから数センチメートル離れた場所に配置されている。半導体の速度という観点では1センチは長い距離で、プロセッサがメモリに新たなデータを取りに行くたびに相当な遅れが生じることを意味する。しかし、3Dチップならロジックチップの層をメモリチップの層で挟むことで、このボトルネックを解消できるかもしれない。IBMも3Dチップによって、現在では建物一棟に匹敵するほど巨大なスーパーコンピュータを、靴箱一つ分に小型化できると考えている。
 だが3Dチップを実現するには、設計を根本的に変えなければならない。大量の熱を発するため、現在のチップでもしっかりとしたヒートシンクやファンが必要だが、3Dチップの場合、状況はさらに厳しくなる。
 熱を逃すための表面積は、発熱量の増加に見合うスピードでは増えないし、同じ理由から、3Dチップに十分な電力とデータを供給しつづけるのも難しい。このためIBMが靴箱並みのスーパーコンピュータをつくるには、液体の冷却材が必要だ。そして冷却液を循環させるため、個々のチップには微細な経路を開けなければならない。冷却液は冷却に加えて、電源の役割も担えるとIBMは考えている。つまり冷却液をフロー電池の電解質として使うのだ(フロー電池では、電解質が固定された電極を通過していく)。
 もっと過激なアイデアもある。量子コンピュータは、量子力学の反直感的法則をコンピューティングに活かそうという目論見だ。量子コンピュータを使うと、どんなに高速でハイテクな従来型コンピュータでもかなわないほどの圧倒的速度で、特定のタイプの数学的問題を解ける(ただしその他のタイプの問題については、量子コンピュータは従来型コンピュータと比べて強みはない)。その用途としてよく挙げられるのは暗号解読だが、最も重要な用途は何かといえば、量子力学の原理に基づく化学現象の正確なシミュレーションだろう。これは製造業やさまざまな産業に無数の恩恵をもたらすと期待される領域だが、従来型コンピュータではまったく歯が立たない。
 ほんの10年前には、量子コンピューティングは学術機関における突飛な研究の範疇にとどまっていた。それが今ではマイクロソフト、IBM、グーグルをはじめいくつもの大企業がこのテクノロジーに積極的に投資しており、いずれも今後10〜20年以内に量子チップが実用化されると予測している(いまでもその気になれば、量子チップを体験できる。たとえばIBMの量子チップは、インターネット経由で遠隔的にプログラミングできる)。Dウェーブというカナダの会社は、たった一つの数学関数しか計算できないといった制約はあるものの、量子コンピュータを販売している。ただ、このマシンが従来型コンピュータと比べて本当に高速かはまだ定かではない。

『2050年の技術』 第2章 より 英『エコノミスト』編集部:著 土方奈美:訳 文藝春秋:刊

 3Dチップや量子チップ。
 ムーアの法則を維持するためには、これまでとは、まったく違う概念の設計が必要です。

 ただ、不可能を可能にしてきたのが、科学技術の進化の歴史です。
 冷却の方法など、いくつかのハードルがありますが、いずれ克服することでしょう。

 これからの技術の進歩の速度を決定づける、チップの技術革新。
 成り行きを見守りたいですね。

細胞培養によって製造された牛乳やステーキが食卓に並ぶ


 技術革新の波は、比較的古い産業である、農畜産業にも及びます。
 著者は、2050年の農畜産業には、まったく新しい要素も加わっているだろうと指摘します。

 新しい農畜産業のなかで、最も目新しさに欠けるのは都市型野菜工場だろう。そうした工場は姿こそ違うが、機能の面では車両輸送や大型スーパーが発達するまで年周辺に存在し、市場(いちば)に新鮮な青果物を供給していた菜園に近い。菜園の収穫物はその日のうちに市場で売られ、大半はその日のうちに消費されていた。
 だが都市型野菜工場は畑と違い、太陽や雨にさらされることはない。現代の園芸技術の産物であるビニールハウスの大型版でもない。野菜工場は窓のない建物で、水や栄養素だけでなく照明も徹底管理されている。光子の無駄遣いを防ぐため、照明の分光組成は葉緑素のニーズに合致するよう調整されているのだ。
 そこそこ目新しさのあるものとしては、都市の魚工場が挙げられる。魚の養殖は20世紀終盤から21世紀初頭にかけて、すばらしい成功を収めてきた。2015年の養殖魚の生産量は、牛肉の生産量を上回った(下の図7.2参照)。ただこうした養殖場のほとんどは淡水の池、あるいはフィヨルドなど海の一部を囲い込んだものだった。
 それに対して都市型養殖は、海を陸上に持ってくるということにほかならない。建物内に閉鎖循環システムをつくり、受精卵から成魚に育て、その一部を使って次の世代を育てる。しかも完全養殖の実績がある魚種でこのプロセスが軌道に乗れば、次はマグロなど新たな魚種に対象を広げていける。現在畜産の対象となっている動物が家畜化されたのは新石器時代のことだ。同じことを今度は魚類でやるわけだ。
 この仕組みによってわれわれの食生活は大きく変わる可能性がある。魚類は摂取した栄養を肉(身)に転換する効率が非常に高い(哺乳類と比べるとはるかに高効率だ。これは、哺乳類は温血動物であるのに対し、魚は冷血動物であるためだ)。このため2050年には、魚が動物性タンパク質の主要な供給源となっていることも考えられる。
 とはいえ、そうならない可能性もある。対抗馬は、完全に工場で製造された肉類である。2050年に登場しているはずの新たな農畜産業のうち、最も目新しいものがこれだ。生身の動物を一切必要としない、細胞培養による動物性食品の製造を可能にするテクノロジーである。2050年には少なくともステーキと牛乳は工場で大量生産されるようになっているだろう。鶏卵も同様だが、店頭用より殻の少ない業務用の製品が中心になるだろう。また生身の動物を使うことなく、レバーや腎臓などの臓器だけをつくろうとする大胆な動きも出てくるかもしれない。

『2050年の技術』 第7章 より 英『エコノミスト』編集部:著 文藝春秋:刊

図7 2逆転 第7章P170
図7.2 逆転
(『2050年の技術』 第7章 より抜粋)

 海水魚は、陸上の養殖場で作られる。
 肉類は、工場で細胞培養される。

 農畜産業は、今よりずっと、製造業に近いイメージに生まれ変わりそうです。

 ただ、そこにいたるまでには、技術的な課題はもちろん、倫理的な問題や消費者の心理的抵抗感など、クリアすべき問題は多いですね。

太陽光発電は自宅の窓やカーテン、衣類でも可能に


 地球温暖化の問題から、注目を集めている「再生可能エネルギー」。
 その中でも、中心的役割を果たしているのが、「太陽光発電」です。

 実際、太陽光発電の発電効率は、急速な進化を遂げています。

 著者は、1950年代には1ワットあたり300ドル近かった発電モジュールのコストは、同60セント近くまで低下したと指摘します。

 太陽光発電の普及は、今後、新たな素材の開発によって、一気に利用が進むと予想されます。

 太陽電池は太陽光を吸収し、電気に変換する材料でできている。今日主に使われているのはシリコンで脆弱なため、耐久性を高めるべく堅牢なカプセルに入れてパネルに搭載されている。パネルに設置できるのは屋根上か、広大な敷地に限られる。『太陽光発電の未来』と題したMITのレボートによると、たとえ今後太陽光発電で大幅な技術進歩が起きず、今日のシリコンベースの太陽電池技術が使われつづけたとしても、2050年までに二酸化炭素排出を大幅に減らせるだけの規模に広げていくことは可能だという。ただ、この報告書は、現在開発中の技術によって、太陽電池の製造はもっと容易に、また安価になると指摘する。さまざまな形態で設置できるようになり、しかも変換率はシリコンと同程度になると結論づけているのだ。
 新たな太陽電池材料は、柔軟な基質の上に、薄い層上に置くことができる。このため、従来のものより軽量で設置しやすくなる。しかも、われわれの目には見えない、環境に溶け込んでしまうような透明な光吸収材料でつくることができる。MITのレポートの共同編集者で、新たなテクノロジーを専門とするウラジミール・ブロビック同大教授は、この新技術によってあらゆるものの表面で太陽光発電ができるようになる可能性があると語る。
 そうなれば太陽光電池はより広範な用途に採用されるようになるだろう。これから数十年でこうした新技術は研究室から市場へ送り出されていく。まずは消費者用の小型電子機器や窓に貼る透明フィルムに、その後はカーテンや衣服などの布地に使われるようになるだろう。
 シリコン電池も、またこれから登場しようとしている薄いフィルム状の太陽電池も、地球上に潤沢に存在している材料でできている。つまり大量生産が可能で、大々的な普及を妨げる要素がない。
 MITの試算によると、現在のシリコンを使った太陽光発電技術で2050年のアメリカの必要電力量を100%賄おうとすると、国土の約0.4%すなわちウエストバージニア州の半分ほどの面積が必要になる。しかし、アメリカでも特に日照時間が長い場所で、最も変換効率の高い太陽光パネルだけを使えば、必要面積は三分の一になるという。

『2050年の技術』 第9章 より 英『エコノミスト』編集部:著 文藝春秋:刊

 太陽電池が、窓に貼る透明フィルムや、カーテンや衣服の布地に使われるようになる。

 そうなれば、世界のエネルギー事情は、大きく変わることになります。

 私たちの暮らしにも、地球環境にも、大きく関わってくる技術革新です。
 今後の進展に注目したいですね。

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「2050年」と聞くと、ずっと遠い未来のような気がしますね。

 そのとき、私たちが人間が、どのような仕事をして、どのような暮らしをしているのか。
 正確に予測することは、不可能でしょう。
 今の段階では、まったく影も形もなかった、モノやサービスが広がっているのは間違いありません。

 とはいえ、テクノロジーの進化には、「道すじ」があります。

 どのような目的で、どのような方向に進んでいくか。
 おおよその見当は、つけることができます。

 先の見えない、変化の激しい時代。
 だからこそ、「将来から現在を見下ろす視点」が必要となります。

 30年後の世界を、断片的ですが、見通すことができる“望遠鏡”ともいえる本書。
 皆さんも覗いてみてはいかがでしょうか。


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