本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『未来予測の技法』(佐藤航陽)

 お薦めの本の紹介です。
 佐藤航陽さんの『時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法』です。

 佐藤航陽(さとう・かつあき)さんは、IT起業家、会社経営者です。
 現在、自らが立ち上げた株式会社「メタップス」の代表取締役社長を務められています。

変化に「先回り」したもののみが生き残れる!

 近年、「リーンスタートアップ」という考え方が、もてはやされています。

 リーンスタートアップは、「未来は予測可能である」という前提を捨て、変化が起きたときにすばやく対応し、修正を重ねていけばいいという考え方です。

 世の中の動きが、それだけ速度を増していることの裏返しですね。

 ただ近年、状況は、さらに進んでいます。

「リーン」なスタイルで臨む企業が増えたため、競争が激化。
 素早く変化に対応するだけでは、十分な収益を上げることができなくなりつつあります。

 佐藤さんは、変化を見抜くことが難しい時代だからこそ、未来を的確に予測し、先回りできた企業と個人が最終的に勝利を収めると指摘します。

 ビジネス書では、効率化のノウハウや、ライフハック的なテクニックがよく紹介されています。しかし、本当に大きな成果を上げたいのであれば、真っ先に考えなければいけないのは今の自分が進んでいる道が「そもそも本当に進むべき道なのかどうか」です。
 いくら現状の効率化を突き詰めていっても、得られる効果はせいぜい2〜3倍が限度です。あなたがもし10倍や100倍の成果を得たいのであれば、今自分が取り組んでいる活動そのものを見直す必要があります。
 自転車をどれだけ改造して整備しても、宇宙に出ることは永遠にできません。どれだけ速くペダルをこいでも、自転車は構造上宙に浮くことは絶対にありません。月に行きたいのであれば、今乗っている自転車から降りる必要があるのです。

 テクノロジーの進歩があるシステムを時代遅れにしてしまうことがあるように、市場の急速な変化によって、かつて自分が選んだ道が最適解ではなくなっているということはたびたび起こります。
 ひたすらに現状の効率化を続けることは、目的地への近道を探すことを放棄した思考停止の状態といえます。現実の世界は、たったひとつの道しかゴールにつながっていないというわけではありません。目的地へのルートは、無限に存在します。「どうすれば現状のやり方を効率化できるか」を考える前に、「今も本当にそれをやる価値があるのか」を優先して考えるべきなのです。

 私たち一人ひとりの努力によってできることは非常に限られています。そのため、大きなリターンを出すためには、適切なときに適切な場所にいることが重要となります。
 短期間で大きな企業をつくり上げた企業経営者に会うと、意外な共通点があることに気づきます。実は、彼らが、コミュニケーション能力が高く、リーダーシップや人望にあふれたなんでもできるスーパービジネスマンであることは稀です。彼らが共通して持っているのは「世の中の流れを読み、今どの場所にいるのが最も有利なのかを適切に察知する能力」です。

 コミュニケーション能力や外見的な魅力はある程度生まれつきの部分もあります。しかし、先の未来を予測する力を身につけるのはそれほど難しいことではありません。
 重要なのは、その行為に自分の時間を投資しようと思うかどうかです。

 私たちの多くは、今目の前で起きていることからしか将来のことを考えることができません。しかし、現在の景色という「点」だけから行う未来予測は、だいたいにおいて外れます。
 なぜなら、その一点においてでさえ、現実世界は膨大な要素にあふれているからです。それらが互いに複雑に影響し合って社会を発展させているのですが、それらをすべて把握することは、人間の脳というハードウェアの性能では、まず不可能なのです。
 一方で、驚くほどの先見性を発揮して大きなリターンを得る人が稀にいます。たとえば、スティーブ・ジョブスは1980年代、当時30代だった頃から、すでに個人がスマートフォン(以下スマホ)を持つ未来を予言し、それを自分の手で実現させることを決めていました。彼は、現在という「点」で膨大な変化のパターンを捉え、その流れを「線」としてつなげて考えていたのです。
 現在を「点」として捉えている私たちからすると、彼は、あたかも未来を先取りしていたかのように見えます。

『未来予測の技法』 第1章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

「点」をつないで「線」として考え、未来に先回りする。

 ごく一部の優れた人間しか持っていない思考法は、いかにして手に入れることができるのか。

 本書は、「未来予測」のパターンや方法を、具体的な事例を交えながらまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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未来予測のカギは「パターン」

 ソーシャルメディア、クラウドコンピューティング、クラウドソーシング・・・・。

 テクノロジーの世界には、浮かんでは消えていくいくつもの流行語があります。

 ほとんどの人にとって、それらの言葉は突然現れては消えていく「流れ星」のような存在です。

 一方、GoogleやFacebookなどシリコンバレーの一部の企業は、創業者自身がコンピュータサイエンスに精通しているため、それぞれのトレンドの関係性と全体像がつかめています。

 佐藤さんは、他の人にとっては、関連のない「点」でしか見えていないものが、彼らには予測可能な「線」として見えていると述べています。

 Googleが自動運転車をはじめたとき、「なぜ、検索エンジンの会社が?」と不思議に思った人は多かったと思います。検索エンジンを「点」として捉えていては、「自動車」という別の「点」との関係は見えてきません。しかし、インターネットの性質と「世界中の情報を整理して誰にでも利用可能にする」という彼らのミッションを理解していれば、このふたつの「点」が、一本の「線」として見えてきます。「PC上に広がる情報を、検索エンジンを通じて取り込み整理すること」の延長線上に「自動車を通じて情報を取り込み整理すること」が位置するというわけです。

 彼らはどのようにして「線」を見ているのだろうか。その思考法を汎用性のあるロジックとして整理できれば、ビジネスを進めるうえで大きなメリットになる。そう考えて、これまで自分なりに探求を続けてきました。
 その結果わかったことは、「何十年後にこうなる」という具体的な近未来予測は難しいということでした。
 世の中には、どうあがいても予測不可能な事柄が存在します。たとえば、どれだけ過去を分析したとしても、今この瞬間に居眠りしたドライバーの運転するトラックが突っ込んでくるかどうかは、知りようがありません。
 しかし、一方で、予測可能なことがあることにも気づきました。それは、「パターン」です。テクノロジーがどのように進歩していくか、テクノロジーが進歩していくと政治や経済のシステムがどのように動いていくか、そこにはパターンがあるようなのです。
 先ほどの例でいうと、目の前のトラックのドライバーが居眠りするかどうかはわからなくても、居眠り運転による事故が毎年何件起きているのかは理解可能です。

 繰り返しになりますが、将来どの企業が成功を収めているだとか、どの政党が与党になるだとかいった個別具体的な予測は、今の私たちにはできません。
 不確実性の高い個別具体の事象を、あたかも予測可能なものであるかのように扱っているものは、知的好奇心を満たすためにはいいかもしれませんが、あまり実用的とはいえません。
 私たちにできることは、「人々はどのように行動するか」「テクノロジーはどのように発展していくのか」「どのように未来の方向性が決まっていくか」といったことについて繰り返し描かれているパターンを明らかにし、それをもとに、未来社会の全体的なトレンドやメカニズムを探っていくこと、そして、それを重要な意思決定に活かしていくことです。

『未来予測の技法』 第1章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 有史以来、人間は科学や技術を驚くほどの勢いで進歩させました。

 それでも、人間が持つ本質的な欲求、希望は変わらないのかもしれません。

 技術の進歩は、決められた「パターン」で進みます。

 世の中の個々の事象という「点」をつないだ「線」。
 それらから隠れた「パターン」を浮かび上がらせる。

 それが「未来予測」の本質です。

あらゆるものに「知性」が宿る

 佐藤さんは、テクノロジーの進歩と社会の変化は、一定の規則性や法則性、すなわち「パターン」が存在すると述べています。

 これまで佐藤さんが見出してきた、数々の「パターン」。
 その具体的な例のひとつが「センサーの拡散」です。

 私たちは視覚、触覚、聴覚などの五感を通して外界の情報をインプットしています。これは機械も同じで、この五感の領域をセンサーが担っています。
 スマホのタッチパネルを触ると画面が起動するのは、端末内にセンサーが埋め込まれているからです。これは、人の「触覚」の代替だといえるでしょう。
 スマホのカメラでも高機能なものは、人の顔を識別して自動的に補正をかける機能がついていますが、これらは人の「視覚」を代替するタイプのセンサーです。
 GoogleやSiriに代表されるスマホの音声検索は、いうまでもなく「聴覚」を代替するものです。人間の音声を認識して文字に置き換え、処理をしています。
 こう見ると、スマホがいかに人間の五感を拡張する役割を担っているかがわかります。スマホに限らず、熱や光や重量をセンサーが認識してドアを開閉する「自動ドア」など、私たちの日々の暮らしには、すでにセンサーがあふれています。
 人間の「五感」を拡張したものが、人間の身体の周辺(スマホ)からはじまり、今後は室内(スマートホーム)を飛び出て生活のあらゆるところに埋め込まれていくことになります。人間の目、口、鼻、皮膚などが、センサーという形をとって社会のいたるところに埋め込まれていくのです。
 しかも、それぞれがインターネットに接続されているため、ハードウェア同士の複雑な連携が可能になります。
 たとえば、監視カメラと指名手配犯のデータベースが連動していれば、顔認識機能を仲介して自動で通報ということも可能になるでしょう。
 センサーとして埋め込まれた人間の「五感」が検知する情報は、インターネットを通して、クラウド上に蓄積されます。そして、人工知能が情報を分析し、センサーを搭載した端末に指示を出します。これは、人の身体と脳の関係に非常に近い構造です。
 人間は、視覚や聴覚などの五感を通して得られる情報を脳に集約し、さまざまなパターンを認識したり、手や足などの各器官に指示を出したりしています。この構図において、クラウド上のAIは脳、端末は手足などの各器官と捉えることも可能です。

『時代を先読みし、チャンスを生み出す未来予測の技法』 第2章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 あらゆるモノがインターネットにつながる。
 いわゆる「IoT(Internet of Things)」が、今後ますます進んでいく。

 それが、この「パターン」からも、容易に推測されます。
 いずれ、多くのモノが「自ら考え、自ら行動する」ようになるのでしょう。

「人工知能」は、私たち人間を再定義する

 最近、活発に議論されているテーマのひとつが「シンギュラリティ(技術的特異点)」です。

 シンギュラリティとは、人工知能が人類の知性を超えるポイントのことです。

 2045年にも、このシンギュラリティがやってくる。
 そのように主張する学者もいます。

 人工知能は、人間にとって代わる存在なのか。

 その問いについて、佐藤さんは以下のように述べています。

 テクノロジーが人間を拡張するものだとすると、人工知能と人間を対立軸で考えることは適切ではありません。
 今後、テクノロジーの進歩によって、「機械の人間化」と「人間の機械化」が同時に進んでいくはずです。人間という存在そのものがテクノロジーによって変化していくのです。
「人間の機械化」と「機械の人間化」が進んでいけば、いずれどこかでそれらが交わる瞬間がやってきます。そのときにどこまでを「人間」と呼び、どこまでを「機械」と呼ぶのかは、とても難しい存在です。

 生物は基本的に怠け者で、より快適でより楽な道を選びます。それを少しずつ可能にしてきたのが、テクノロジーの進歩の歴史です。
 その終着点において、人間か機械かという境界線を設ける意味は消えてしまいます。知性まで再現可能になったならば、人間を人間たらしめる独自性はどこにもありません。
 テクノロジーは、最終的には人間そのものと融合することが宿命づけられているのです。「残るのは人工知能か、人間か」という単純な対立軸で考えるべきではありません。

 人工知能の発展は、人間そのものの再定義を進めていきます。現在の知能を超える知性を人工知能が獲得したとき、人間のあり方もまた、変わっていくはずです。
 知性のメカニズムが完全に解明されたとき、機械が知性を獲得するだけでなく、人間の知性も大きく進歩する可能性があるからです。
 人間の脳の機能には限界があります。機械のように何億人という人の顔写真を記憶しておくことも、10桁以上の掛け算に一瞬で答えることもできません。しかし、脳や知性がどのように働いているかを完全に解明できれば、薬や手術によって脳の処理能力を機械に近づけることも理論的な可能性としては存在します。
 現在の私たちが立っている地点から考えれば、人工知能は人類にとっての脅威と感じられるかもしれません。しかし、テクノロジーの描くパターンを当てはめて考えていくと、人工知能によって私たち自身が拡張していくのであって、置き換えられるわけではないことが見えてきます。

『未来予測の技法』 第2章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 人工知能が人間に近づく。
 同時に、テクノロジーが人間に取り込まれていく。

 今後は、人工知能と人間の境界線が、あいまいになっていきます。
 だとすると、「人工知能 vs 人間」という対立構造は、あまり意味を持たないです。

 人工知能とは、お互いに補い合う関係。
「どのように共存し、融合していくのか」を考える段階に入ったということですね。

テクノロジーはすべてを無料に近づける

 佐藤さんは、理論上、あらゆるサービスは価格競争の末、無料に近づいていく運命にあると述べています。

 Googleのようにさまざまなサービスを無料で提供するモデルは、無料でユーザーを集めて、AdWordsという広告でマネタイズしています。AndroidのOSも、後から広告収入によって回収可能だからこそ、無料で配布できるのです。
 また、IT以外の複製コストがかかる分野であっても、それ以上のリターンが見込まれるなら、理論上は無料になりえます。Googleなどの一部企業は、社員食堂が無料です。これは、こうした福利厚生によって優秀な人を採用するコストが、求人広告など採用活動に投じるコストよりも安く、費用対効果がよいからです。
 最終的には、衣食住といった生活に必要なものすらも、コスト以上のリターンを得られると企業が判断すれば、無料に近づけていくことが可能です。
 たとえば、Spiberという日本企業は強度の高い蜘蛛の糸の繊維を人工的に生産する技術を開発しています。こうした技術を活用して耐久性の高い服を低コストで生産できるようになれば衣服を捨てる必要がなくなり、将来的には衣服さえも無料になるかもしれません。

 このようにしてあらゆるもののコストが下がっていくと、今後は労働すること自体の需要が減っていきます。今のペースでいくと30年後には週休4日、つまり3日働いて4日休むような未来が到来してもおかしくありません。

『未来予測の技法』 第2章 より 佐藤航陽:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 ロボットやAIなどのテクノロジーの進歩。
 それらによって社会が効率化し、あらゆるものが無料に近づく。

 佐藤さんは、その先に待ち受けるのは「企業によるベーシック・インカム」なのかもしれないと述べています。

 ベーシック・インカムは、国民が最低限の生活を送れるよう、政府が所得を保証する仕組みのことを言います。
 財源の問題などから、国レベルでの導入が難しいのが実情です。

 テクノロジーの進化は、さまざまな壁をぶち破り、不可能を可能にする力を秘めているということですね。

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 社会が変化していく方向には、大きな「流れ」があります。
 個人に、その流れを変えるほどの力はありません。

 では、私たちの存在意義は、どこにあるのか。

 佐藤さんは、来るべき未来の到来をできるかぎり早めることにあるのではないか、とおっしゃっています。

 人類が目指す未来。
 それは、病気や戦争から解放され、すべての人がやりたいことを実現できる世界。

 すべてのテクノロジーは、その最終目標に向かって進化しています。

 世の中を変えるような革新的なアイデアやサービス。
 それらは、何の脈絡もなく、突然現れたようにみえます。

 しかし、社会の変化の「流れ」を俯瞰して眺めると、それが必然であることがわかります。

 これから世の中は、どう変わっていくのか。
 その中で、個人は何ができるのか。

 そんなことに関心や興味を持つすべての人に、お読み頂きたい一冊です。

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