【書評】『脳リミットのはずし方』(茂木健一郎)

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 お薦めの本の紹介です。
 茂木健一郎さんの『脳リミットのはずし方』です。

  茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)さん(@kenichiromogi)は、脳科学者です。
ご自身のご専門に留まらず、幅広い分野で活躍されています。

自分の限界(リミット)は、脳が勝手に決めつけている!


「自分にはムリ」
「これが精一杯だ」
「どうせムダな努力にきまっている」

 多くの人は、勝手に自分の限界を決めつけてしまいがちです。

しかし、こうした考え方は、脳科学的な見地からいうと、実は自分の脳に呪いをかけているようなものです。

 茂木さんは、人間の脳は、私たちが想像している以上にすばらしい能力を持っていると強調します。

 人間の脳は例外なく限界がない。つまり、誰もがどんなことにもチャレンジできる、無限の可能性を秘めているのです。
 これは、決してきれいごとではありません。
 私自身についてお話すると、これまで人生で後悔したことは、一度もありません。なぜなら、どんなことに臆(おく)さずにチャレンジを続け、自分の限界を超えてきたからです。

 では、どうすれば自分の限界を決めつけることなく、新しいことに果敢(かかん)にチャレンジできる自分になれるのか。

「脳リミットをはずすことができれば、自分の限界を超えられる!」

 これが脳科学者として、私が出した結論です。
「脳リミット」とは、自分の脳が日頃から感じている「限界値」を意味しています。さらにいえば、長年かけてつくられた「脳リミット」ほど、その脳回路が強固になっているので、はずすのが難しい。
「自分にはムリ」「どうせムダ」または「普通は」「一般的には」という固定した考え方こそ、まさにあなたの脳に限界をつくる「脳リミット」なのです。
 新しことに取り組むのが苦手だったり、限界までがんばった経験がない人の多くは、こうした脳リミットを外せない人たちです。
 つまり、自分自身でつくりあげた「思い込み」が、脳にブレーキをかけて、自分の力を最大限まで発揮できないのです。
 こうした脳リミットがかかっている状態には、意外な落とし穴が隠れています。
 なぜなら、私たちの脳というのは本来、「安定した毎日」や「ラクをして生きる」ことに喜びを感じないからです。つまり、そうした状態を続けていると、脳の成長が停滞するだけでなく、衰退の一途(いっと)を辿(たど)ってしまうことにもつながります。
 逆に、脳がもっとも喜びを感じる瞬間とは、脳リミットをはずし、その人がチャレンジできるかできないかという、ギリギリのことに挑戦しているときです。
 少し不安でありなからも、ドキドキするような初めてのことにチャレンジし、たとえ失敗しても、そこが自分の限界だと決めつけずに、また果敢にチャレンジする。すると、脳は大喜びして、神経伝達物質であるドーパミンを放出し、脳全体がどんどん活性化していきます。

『脳リミットのはずし方』 はじめに より 茂木健一郎:著 河出書房新社:刊

 本書は、「脳リミット」のはずし方をテーマに、誰もが実践できるように脳科学からわかりやすくアプローチした一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ドーパミン」の活用が、脳リミットをはずす!


 人間の脳は、ある行動をとったあと、脳のなかで「報酬」となる物質が放出されると、その行動が強化されるという性質を持っています。

 ここでいう脳の報酬とは、以下のようなことを指します。

  • 誰かに褒められる
  • これまでできなかったことができるようになる
  • 新しい知識を手に入れる
 脳のこの性質のカギを握っているのが「ドーパミン」という物質です。

 たとえば、英語が上手に話せるようになってきたとき、あるいは仕事がうまく進んでいるときなどに、脳のなかではこのドーパミンと呼ばれる物質が分泌されています。
 ドーパミンは脳内に快感を生み出す物質で、この分泌量が多ければ多いほど、私たちの脳は喜びを感じることができるのです。
 しかも、このドーパミンが分泌されると、ことあるごとにその行動を再現しようとするので、快感を生み出す行動が次第に癖になり、繰り返すたびにその行動が上達していきます。
 また、ドーパミンが多ければ多いほど、あなたの脳は喜びを感じているので、より高いハードルを求めていく。それによって脳リミットがはずせるようになっていきます。
 当然ですが、ハードルが高ければ高いほど、乗り越えたときの喜びも大きくなっていき、ドーパミンがあふれ出るというわけです。
 ここでの注意点は、自分ができるかどうかわからないことに懸命にぶつかり、自分の限界を超えたチャレンジが達成されたときに、このドーパミンが放出されるということ。
 なぜなら、簡単なことを続けていても脳は喜びを感じないからです。脳に負荷をかけることで、初めてドーパミンが放出されるのです。
 こうしたドーパミン活用は、脳リミットをはずして勉強や仕事に取り組むことにも役立ちます。
 たとえば「算数の問題を解く」→「ドーパミンが出る」→「もっと算数の問題を解きたくなる」→「算数が得意になる」というサイクルが回りだします。
 逆をいえば、算数が苦手な子は、単にこのサイクルが回っていないだけなのです。
 仕事も同じです。
 たとえば、「プレゼンがうまくできた」→「ドーパミンが出る」→「もっと人を惹きつけるようなプレゼンがしたくなる」→「プレゼンが得意になる」といった具合です。
 これが、私たち人間が持っている才能のひとつともいうべき、「脳の強化学習」というものです。
 脳の強化学習とは、行動を繰り返して物事が上達していくこと。仕事でも勉強でも、「できた!」という快感が次第に癖になり、2、3回と繰り返すたびにさらに上達していく。こうした脳の強化学習によって、35ページのようなドーパミンサイクルが回り出します(下の図1を参照)。

『脳リミットのはずし方』 第1章 より 茂木健一郎:著 河出書房新社:刊

図1 ドーパミンサイクル 脳リミットのはずし方 第1章
図1.ドーパミンサイクル
(『脳リミットのはずし方』 第1章 より抜粋)

 乗り越えられる程度の「ハードル」を決めて、それをクリアする。
 すると「ドーパミン」が放出され、脳が喜ぶ。

 この繰り返しが、脳リミットをはずし、自分の限界を高めます。
 スキルアップに、ぜひ応用したいですね。

「安全基地」を手に入れよう!


 脳リミットをはずし、自信をもってチャレンジする。

 そのために、茂木さんが提案しているのが、『脳の「安全基地」をつくる』ことです。

 安全基地とは、子どもにとっての母親のようなものです。

「それがあれば、安心できる」

 そんな心理的な「拠りどころ」となる存在のことです。

 大人にとって、安全基地となり得るもの。
 それは、スキルや経験や人脈、それに個々の自信や価値観などです。

 茂木さんは、私たちの脳は、自分のなかでスキルや経験、価値観などの揺るぎない安全基地があるからこそ、臆することなく不確実性に向き合え、どんなことにもチャレンジできるようになると述べています。

 皆さんが自分のなかに安全基地を持っているのかいないのか?
 それを簡単に判別できるテストがあります。

「あなたは、自分の人生で起こる不確実なことが不安ですか? それとも楽しみですか?」

 この問いに対する答えで、あなたのチャレンジ強度がわかります。
 これからの人生で起こる不確実性が楽しみだという人は、自分のなかに安全基地があり、チャレンジ精神が旺盛(おうせい)な人です。
 不安だという人は、これからお話していくことを参考にして、ぜひチャレンジ精神を強化してほしいと思います。

 私たちの脳は、もともと何が起きるかわからないということを楽しみとして捉えているものです。
 たとえば、子どもの頃、遠足に行く前の日は、ワクワクしてなかなか寝付けなかった。そんな経験が誰にでもあるはずです。
 その理由は、遠足に行ってどんな経験が待っているかわからない。その不確実性が脳を刺激して、眠れないほど興奮するからです。
 ところが、大人になるとどうでしょうか。大抵のことは経験してしまい、世渡り上手になって、不確実なことや新しいことが苦手な人が多くなるのです。
 すると、大人は何を求めているのでしょうか? そうです、「安定」です。
 私たち大人が安全基地とよく勘違(かんちが)いするのが、「安定こそ安全基地である」という考え方です。
 では、安定と聞いて、何を連想するでしょうか。
 たとえば、学歴や組織での肩書といったもの。これらを安全基地だと考える人が比較的多いのです。
 社会を生き抜く私たち大人にとって、一見すれば安心のもととなってきたこれらの属性は、果たして安全基地になりえるのでしょうか。
 私は、そうは思いません。
 学歴が高い、一流企業に勤めている、肩書があるといった心の拠りどころには、むしろ個々の脳リミットを決めつけてしまい、チャレンジ精神の障害となり、成長を停滞させてしまう危険すら潜(ひそ)んでいるというのが私の考え方です。
 なぜなら、学歴だけで「自分には実力がある」と勘違いしたり、肩書があるだけで「自分は偉い」と勘違いしてしまう。やがて、そうした地位を守ることだけに必死になっていくからです。そうなると、自分の限界を超えてチャレンジできることが限られてしまいます。
 もちろん、必ずしも一流大学卒や一流企業の社員であることがいけないといっているわけではありません。
 これまで必死に努力をして手に入れた学歴や肩書と同じように、自分のなかに蓄積してきた知識やスキルを安全基地にすれば、新しいチャレンジをすることができ、さらなる高みへと到達することができるはずなのです。

『脳リミットのはずし方』 第2章 より 茂木健一郎:著 河出書房新社:刊

 心の拠り所を、自分の中に持っているか、外に持っているか。
 その違いは、天と地ほどの差があります。

「何が起こっても、自分はやっていける」

 どんな時もそう思えるよう、「安全基地」づくりは怠らないようにしたいですね。

自分の限界を超える「セルフイメージ・トレーニング法」


 自分の限界を決めているもののひとつに「セルフイメージ」があります。

 茂木さんは、セルフイメージの多くは、私たちの常識をベースにつくられていて、その常識というのは、幼少期の経験によるものが大きいと指摘します。

 周囲から無理だといわれながらも、民間での宇宙開発に挑み続ける、植松(うえまつ)電機の植松努(つとむ)さんのお話です。
 植松さんがまだ子どもの頃、「ロケットをつくりたい」と学校の先生にいったら、こんなふうにバカにされたそうです。
「お前、バカだな。ロケットなんていうのは、都会の進学校へ通っているような頭のいい人がやることなんだよ」

 ところが、植松さんはいま、ロケットを自分たちの手でつくって、打ち上げ運用まで実現し、TEDトークでも大きな話題になりました。
 植松さんは、世間の常識に捉(とら)われることや「どうせ無理だ」という言葉が、多くの人から自信や可能性を奪っているといいます。
 つまり、セルフイメージをコントロールしながら、「『どうせ無理だ』と思わなければ、宇宙開発だってできる」ということを、植松さんは私たちに教えてくれるのです。

 実際に、「どうせ無理だ」と自分に暗示をかけてしまっている人に、自分の力を発揮できるはずがありません。
 それこそ、70%くらいでお茶を濁(にご)して「これが自分の限界だ」と自分の脳を騙(だま)しているにすぎません。自分の全力を出すことを恐れるあまり、知らないうちに脳リミットに支配されているのです。
 しかし、人間の脳は生まれたときに決まっているわけではなく、限界というものは一切ありません。なぜなら、脳は使い方次第で、どんどん進化するからです。
 意欲を持って前向きに生きていけば、脳の働きは活発化しますが、どうせ自分はダメだと思い込めば、脳もまたダメな脳になってしまう。つまり、セルフイメージ次第で脳も自分も変えることができるのです。

 では、いかにセルフイメージをコントロールすればいいのか。
 それは、自分にフェイントをかけること。もっといってしまえば、自分の脳に意図的にフェイントをかけるのです。
 何かにチャレンジしているときに、「今日はこの程度でいいだろう」と自分を甘やかさず、「えっ、まだやるのか!?」「この時間内に、こんなことをやるのか!?」という新鮮な衝撃と驚きを与え続けることが、私たちの脳を本気にさせるのです。
 きっと、皆さんが考えるセルフイメージにおける限界は、ほんとうの限界ではありません。ほんとうの限界は、もっと先にあります。
 それを知っているだけでも、セルフイメージのトレーニングになっているのです。

『脳リミットのはずし方』 第3章 より 茂木健一郎:著 河出書房新社:刊

 自分でも知らない間に、常識や偏見を「真実」だと決めつけてしまう。
 脳は、それだけだまされやすいということです。

「セルフイメージ・トレーニング法」は、そんな脳の特性を利用した、効果的な脳リミットのはずし方といえますね。

「ギグ集中法」で集中力をアップ!


 脳リミットをはずす、とっておきの力。
 それが「集中力」です。

 茂木さんは、人間の脳というのは誰もが例外なく、集中できる回路を持っていると述べています。

 最新の脳科学から生まれた、集中力を高めるための画期的な方法。
 それが、「ギグ(Gig)集中法」と呼ばれるメソッドです。

 ギグとは、音楽の演奏において小さなライブハウスなどで一度だけ演奏することなどを指すスラング(俗語)として、ジャズミュージシャンから広まったといわれています。最近では、「ギグエコノミー」という言葉が使われていて、これは、ウェブサイトなどを通じて単発の仕事を受注し、集中的な働き方をするという意味があります。
 これらを踏まえ、脳リミットをはずすための集中法としての「ギグ集中法」とは、あるひとつのチャレンジにおいて永続的にやるというよりも、短時間集中型の集中法で成果を上げていくというものです。
 なかには、睡眠時間を削って長時間働くビジネスパーソン、あるいは勉強する受験生や学生もいることでしょう。ですが、人間の集中できる時間には限度がありますし、長い目で見ても決して効率がいいとはいえません。そもそも、集中力とは終わりが見えているから、続くものです。
 だからこそ、仕事も勉強もダラダラと長くやるよりも、いかに短い時間で高い集中力を保てるかが大事になってくる。そのときに実践してほしいのがギグ集中法なのです。

 こうした短期集中法は、新しい知識やスキルを習得するうえで、脳科学的にもとても大切なことだといえます。
 なぜなら、記憶の定着度という観点からも、ギグ集中法は、チャレンジしてつかんだコツや気づいた注意点、またミスしてしまったことを忘れないうちに復習できるからです。
 また、人間の脳は、タイムプレッシャーがあるほうが集中して仕事も勉強もできるといわれています。
 特に、頭脳を駆使(くし)するチャレンジにおいて、10%の集中力で10時間のチャレンジをするよりも、100%の集中力で10分のチャレンジをしたほうが、パフォーマンス価値はより高いのです。
 私はよく、勉強が苦手だという子どもに、こんなことをアドバイスしています。

「10分間集中してごらん、どんなに解けなくても10分たったらやめていい」

 すると、チャレンジすること自体が楽になるのです。これもギグ集中法のメリットです。
 実際に、私たちの脳が集中できるのはせいぜい1〜2時間程度といわれていて、常に集中して最高のパフォーマンスを続けることは不可能なのです。
 何を隠そう、私自身も原稿や論文を執筆するとき、あるいはテレビやラジオの収録でも、このギグ集中法をひそかに実践しています。
 いま、目の前のやるべきことにバーッと集中して、あとはもう「解散!」といったイメージを自分のなかで持つように心がけているのです。
 どんなチャレンジにおいても、最初から最後まで全力疾走するのではなく、勝負所でベストタイムを出せるかどうかがチャレンジ成功のカギとなります。
 そのための短時間集中型チャレンジ、ギグ集中法をぜひ実践してみてください。

『脳リミットのはずし方』 第4章 より 茂木健一郎:著 河出書房新社:刊

 何かと忙しく、なかなかまとまった時間をとれない現代人。
 そんな私たちにこそ、ピッタリの集中法ですね。

 脳をフルに使い、短時間で最大限の効果を出す「ギグ集中法」。
 ぜひ、試してみたいですね。

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 茂木さんは、最後に、アインシュタインの以下の言葉を私たちに紹介されています。

「挫折を経験したことがない者は、何も新しいことに挑戦したことがないということだ」

 今の自分は、それまでの考え方や思いこみが形作ってきたもの。
 それを変えるには、思考回路を根本的に作り直す必要があります。

 思考回路を変えることで、新たな道が開け、可能性が広がる。
 それが、まさに茂木さんのおっしゃる「脳リミットをはずす」ということです。

 脳は、負荷をかければかけるほど、それに応えようと力を発揮してくれます。

 いくつになっても、チャレンジする気持ちを忘れない。
 成長し続ける自分でいたいものですね。

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