【書評】『エクスポネンシャル思考』(齋藤和紀)

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 お薦めの本の紹介です。
 齋藤和紀さんの『エクスポネンシャル思考』です。

 齋藤和紀(さいとう・かずのり)さんは、経営者・コンサルタントです。

これからの時代に必要な「エクスポネンシャル思考」とは?


 私たちは今、予測を超えたテクノロジーの進化を目のあたりにしています。
 それは、恐怖を覚えるほどのスピードで、世の中に衝撃を与え続けています。

 ますます大きく、高くなる技術革新の波。

 齋藤さんは、この波を起こす者と、波に呑(の)み込まれる者の差は悲劇的とすらいえると述べています。

 これからの世界で求められること。
 それは、エクスポネンシャルな進化を遂げるテクノロジーを利用し、いかに理想の未来を作り出すイノベーター(革新者)になれるかです。

 本書で紹介する「エクスポネンシャル思考」は、グーグルやフェイスブックといった世界を席巻するドミナント企業、ゲームチェンジを仕掛けるイーロン・マスクやソフトバンクの孫正義氏など、世界のトップリーダーたちが見据える考え方の根底にあり、事業戦略そのものです。
 しかしこの思考は、一部の巨大企業の経営者だけが理解しておくべきものではありません。未来創造への手綱を握る私たちすべてが、これからの激動の時代を生き抜くため、この極めて強力な「エクスポネンシャル思考」を身につける必要があります。
 とくに、次世代を担う若い世代には、基本部分と位置づけたテクノロジーを俯瞰(ふかん)する力が必須の教養になります。最先端のテクノロジーは文字通り、日々加速していますから、既存の教育システムではなかなか扱うことが難しいものでしょう。
 これから、私たちには前例のない変化の波が容赦(ようしゃ)なく押し寄せてきます。しかし、本書を読めば、それが「史上かつてないほど大きなチャンス」であることも理解できるはずです。人類の歴史上、これほどワクワクする時代があったでしょうか。ぜひ、本書を通して、この時代に生きている意味を感じていただき、一緒に未来を創造する同志になっていただければと強く思います。

『エクスポネンシャル思考』 はじめに より 齋藤和紀:著 大和書房:刊

 本書は、これからの時代を生き抜くために不可欠となる「エクスポネンシャル思考」とは何か、わかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「エクスポネンシャルな成長」が及ぼすインパクト


 急速に進化するテクノロジー社会。
 その行く末には、どんな世界が待っているのか。

 それは誰にもわかりませんし、予測するだけ無駄な部分も多いです。

 齋藤さんは、今現在加速しているテクノロジー進化のスピード、この一点に議論を集中するべきだと述べています。

 キーワードとなるが、「エクスポネンシャル(Exponetial)」です。

 エクスポネンシャルとは直訳すると、倍々に進んでいく「指数関数的」という意味です。指数関数の成長のグラフを時系列に見てみると、そのカーブは直線的(リニア)な成長と比べて、急上昇を描くことがわかります。実はカーツワイルが指摘するのもこのエクスポネンシャルなカーブが物事の本質であるということに対してであり、以来、多くのテクノロジーに関する指標が、エクスポネンシャルな成長を遂げていることが指摘されるようになりました。
 地球上のあらゆる事象、とくに情報テクノロジーはわかりやすいといえますが、このエクスポネンシャルなカーブのように成長していきます。たとえば、コンピューターの計算能力が倍々のスピードで成長を遂げているのはご存じのとおりです。これは前述のとおり、ムーアの法則ともいわれています。インテル社の創業者であるゴードン・ムーア氏が発見した半導体の集積密度が18ヶ月から24ヶ月ごとに倍になるという法則です。
 さらに、世界中でありふれている膨大な写真もエクスポネンシャルに成長しています。かつて非常に高価なフィルムで撮影して現像に出し、数日後の仕上がりをワクワクしながら待っていた時代が懐かしいですね。写真は、紙という媒体からデジタルに置き換わり、さらに携帯電話のなかに取り込まれたあとにデータセンターに移動して、ソーシャルネットワークに掲載され、無限にコピーされ、膨大な数が世の中に存在するようになりました。
 かつて高価で貴重だった写真は、いらないやつは消しちゃえ、というありふれたレベルのものに変わりました。これはまさにエクスポネンシャルなカーブにのった進化です。
 しかし、これで驚いていてはいけません。エクスポネンシャルなスピードのすごいところは、今がすごいのではなく、この後さらに成長が加速していくところです。私たちは常にそこを見越していかなければいけません。
 写真でいえば、今後「写真」という概念すらなくなるでしょう。画像はより高画質化し、3D化し、リアルタイム動画になり、デジタルなAR(Augmented Reality、拡張現実)の情報などが付加され、デジタルとリアルが混ざっていくのだと思われます。実際、アメリカの若者の間で流行っているSNSのSnapchat(スナップチャット)はAR動画へのシフトを明確に打ち出しています。

『エクスポネンシャル思考』 第1章 より 齋藤和紀:著 大和書房:刊

図1 エクスポネンシャルの成長と直線的な成長の違い エクスポネンシャル思考 第1章
図1.エクスポネンシャルの成長と直線的な成長の違い
(『エクスポネンシャル思考』 第1章 より抜粋)

 この10年間でパソコンの性能が、どれだけ向上したか。
 それを考えれば、「エクスポネンシャル」な成長の凄さが、どれほどのものかがわかります。

 気をつけるべき、最大の特徴は「成長が加速し続ける」こと。

 齋藤さんが言うように、今がすごいのではなく、この後さらに成長が加速していきます。

「まだまだ、先のこと」

 そう思っていると、あっという間に飲み込まれる。
 そんな怖さがありますね。

自動運転車が「自然に」溶け込む


 これからの時代に最も大きな影響を受けるのは、「製造業」だといわれています。

 3Dプリンターや万能ロボットの脅威は、今後5年から10年の間にさらに大きく顕在化していきます。

 齋藤さんは、その波は一気に来るのではなく、製造業が「蒸発していく」ように徐々に訪れていると警鐘を鳴らします。

 製造業に劇的な変化が訪れたとき、日本にとって影響が一番大きいのは、「自動車産業」です。

(前略)もし仮に日本の自動車産業が家電やエレクトロニクスのように海外勢に大きく遅れをとるようになったり、それこそ日本国内から蒸発するようなことになったりしたら、日本経済へのインパクトはかなり大きいでしょう。
 その兆しがないとはいえません。イーロン・マスクが率いるテスラが電気自動車の分野で攻勢をかけてきているのは間違いないですし、テスラを始めグーグル傘下のウェイモやウーバーは血気盛んに自動運転車を研究しています。
 自動運転車の研究はLiDAR(ライダー)と呼ばれるセンサーの価格の低下や人工知能の普及によって加速しています。私は、日本のメーカーが現時点において技術力で後れをとることはまずないと考えていますが、問題なのは培った生産モデルが逆に足を引っ張って事業モデルが転換できないということではないでしょうか。

 しかし、自動車業界の雄であるトヨタが製造業から脱却し、移動というサービス自体を訴求するモビリティ・アズ・ア・サービスを標榜(ひょうぼう)し始めたというニュースがあります。トヨタはグループを挙げて人が乗れるドローン、つまりエア・モビリティの開発も推進しています。
 数年前トヨタが配車サービスであるウーバーに出資を発表した際、国内のタクシー協会が大反対しました。しかし、状況は変わってきています。今は、製造業からの脱却を声高にいえるようになった。これは日本という国にとって大きなチャンスだと思います。
 人工知能の学習にはデータを蓄積することが重要ですから、まず先に始めてしまってデータを蓄積することです。
 世界に先行して自動運転車に関するデータを集めていたのはグーグルだといわれており、その後スピンアウトしてウェイモという独立した会社になっています。そして、ウーバーも自動運転車の実験車両を走らせてグーグルを上回る量のデータを集め始めました。その直後にテスラが自社製の車に一斉にオンラインでアップデートを行い、一部の自動運転の機能を解禁しました。
 もうすでに膨大な量のデータを取る競争は始まっています。日本のメーカーも表には出てこないだけで相当量のデータを既存の車や純正カーナビから取得しているはずです。

『エクスポネンシャル思考』 第2章 より 齋藤和紀:著 大和書房:刊

 エクスポネンシャルな変化の特徴のひとつに「Deception(潜行)」があります。

 初期の頃は、規模が小さいので、気付かれることなく成長します。
 そして、誰の目にも留まるようになる頃には、誰も無視できないほどの一大勢力となっています。

 今はまだ、テスト段階にある「自動運転車」。
 それも、知らないところで、技術開発が猛スピードで進んでいます。

 世の中に出回るのも、私たちの想像するよりも遥かに早いと考えたほうがいいです。

「ムーンショット」を掲げること


 国境や産業の境界線が大きく崩れ、新たな枠組みが次々と作られる。

 そんな時代には、周囲から注目を集め、賛同者(フォロワー)をいかに多く作るかが重要となります。

 エクスポネンシャル思考のリーダーに必要になるスキル。
 それが、「ムーンショット(Moonshot)」を掲げることです。

 ムーンショットとは、月にロケットを到達させるような「壮大な夢」を指します。

 齋藤さんは、掲げたムーンショットが組織の志になり、仲間を引き付け、技術の集積につながり、投資を生むと述べています。

 このムーンショットを選定する場合、少しコツがあります。つまり、ムーンショットにはテクノロジーの進化を見越した要素が必ず入るのですが、技術的に可能か不可能かわからない部分、つまりサイエンスの部分を大きくしないことがコツだと考えています。
 今でいえば、たとえば、「不老不死を実現する」ということをムーンショットに掲げても、実際にはまだテクノロジーではわからない部分が多すぎて実現は難しいでしょう。一方で、「太平洋を垂直離着陸可能なドローンで横断する」というムーンショットであれば、実際にテクノロジーを集積することで現在でも実現の可能性が見えています。軍用であれば維持費も含め数十億円もするノースロップ・グラマンの無人航空機グローバルホークが実際にカリフォルニアからオーストラリアまで飛んだ実績がありますから、不可能ではないでしょう。
 あとは誰がやるかだけの問題です。しかもコストをかければできるのであるから、それをいかに汎用技術でできるかが課題であり、これこそがムーンショットであるといえるでしょう。

 考えてみれば、イーロン・マスクはバッテリーにしてもロケットにしてもニューロサイエンスにしても、このポイントだけに注力して大々的にムーンショットをぶち上げる天才です。技術はすでにある、そこで価格が劇的に下がれば、イノベーションが起こせる! というポイントにパワープレイを仕掛けるのです。
 私は彼がパワープレイを仕掛けるポイントをイーロン・マスク・ポイントと呼んでいます。彼を始めとしたシリコンバレー企業は一様にそのポイントを把握する力が鋭い。激烈な競争のなかで体感的にわかっているということもあるでしょうし、それを意識して研究もしていますし、その種を探しているのでしょう。
 一方で日本を振り返ってみると、それより前の基礎技術にパワープレイを仕掛けているようにも見えます。結果、「こんなにすごい技術があるのだけれ何かに使えませんか?」という相談をよく受けます。しかし、イノベーションを起こす段階となるイーロン・マスク・ポイントでは海外にもっていかれてしまいます。
 イノベーションは「すごい技術」からは起こりません。技術の価格が劇的に下がり誰でも使えるようになるポイントにイノベーションが起きるのです。

『エクスポネンシャル思考』 第3章 より 齋藤和紀:著 大和書房:刊

 齋藤さんは、意外なことに、10倍を達成するほうが10%向上させるより簡単なことが多いと指摘します。

 出来上がった技術を、さらにレベルを上げるのは、とても大変です。

 それよりも、実現可能だけれど、注目されずに埋もれていた技術を普及させるほうが、ずっと簡単です。

 ツイッターやフェスブックなどのSNSの普及も、その一翼を担っているのは、言うまでもありませんね。

「エクスポネンシャル組織」の共通項とは?


 エクスポネンシャルな成長を続ける組織の共通項。
 それは、MTPと呼ばれる「野心的な変革目標」をもっていることです。

 MTPは、世界を対象とした人類規模の目標であり、多分に野心的であり、人類にとって大きな変革を意味するものです。

 たとえば、グーグルが掲げた「世界中の情報を整理する」というのはわかりやすいでしょう。そのインパクトは地球レベルに達する必要があります。
 テスラのホームページを見ると、「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」(To accelerate the world’s energy.)と自らのMTPを定義しています。テスラが決して単なる電気自動車のメーカーとなることを目的としていないことがわかりますよね。
 また、サステナビリティの観点で世界の先駆者であるユニリーバのホームページには「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」(To make sustainable living commonplace.)というMTPが掲載されています。ユニリーバのホームページにはそこらじゅうにサステナビリティという言葉が躍ります。石鹸(せっけん)から始まった同社の歴史ですが、単なる石鹸会社で終わらず、同社が世界の課題に挑戦し続けてきたことがよくわかります。

 組織に適切なMTPが設定されると、さまざまな効果がもたらされることは想像に難(かた)くありません。まず、このMTPが向上的なものであればあるほど、組織の内部とその周りにコミュニティが自動構成されていきます。前章で説明した、周りを巻き込む力がそこに生じることがわかるでしょう。
 また、MTPは、優秀な人材を引き寄せ、外への流出を防ぐ力があります。往々にして高給につられて採用された優秀な人材は、さらなる高給につられて組織から出ていってしまう可能性が高いですが、組織の内部にいるか外部で協力してくれるかにかかわらず、MTPに引き寄せられた人材はそう簡単に組織からは離れていきません。結果として、組織の一番のコスト要素である人件費を抑えることができるともいえるでしょう。
 とくに組織の成長の過程では、組織内の成長痛である多くのポリティクスが生じますが、適切なMTPは、メンバーに対して常に立ち戻るポイントを与えてくれます。内部のポリティクスにとらわれるより、世界に対してインパクトを与えるその志に立ち戻る機会をもたらし、結果として組織の速い成長につなげることができるといえるでしょう。

『エクスポネンシャル思考』 第4章 より 齋藤和紀:著 大和書房:刊

図2 MTP とは エクスポネンシャル思考 第4章
図2.「MTP」とは?
(『エクスポネンシャル思考』 第4章 より抜粋)

 最初は小さな雪の塊でも、転がり続けるうちに、想像をはるかに超える大きな雪だるまになる。

 MTPは、組織の核となる、“最初の小さな雪の塊”といえます。

 目的や使命がしっかりしていれば、勝手にフォロワーが広がり、どんどん膨張していく。
 エクスポネンシャルな成長を続ける組織の、共通した強みです。

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 エクスポネンシャル思考は、この時代に私たちが「何をすべきか」自ら考える力を与えてくれる羅針盤です。

 齋藤さんは、エクスポネンシャル・テクノロジーを俯瞰する力、教養としてのテクノロジーを理解する力が、これからの世界を生きるうえではもはや人生の一般教養であり、思い立ったら迷わずやる力、周りを巻き込んでいく力こそがエクスポネンシャル思考を実践していくうえで必要だとおっしゃっています。

 世の中は、ものすごいスピードで動いています。
 驚くべきは、今後、そのスピードはますます加速するということ。

 その指数関数的な速度に、落っことされないようにする。
 そのためには、私たちの頭の中もアップデートする必要があります。

 これからの世界の動きを理解するために、欠かすことができない「エクスポネンシャル思考」。
 私たちも、ぜひ、身につけたいですね。

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