【書評】『FUTURE INTELLIGENCE』(スコット・バリー・カウフマン)

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 お薦めの本の紹介です。
 スコット・バリー・カウフマンさんとキャロリン・グレゴワールさんの『FUTURE INTELLIGENCE ~これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣~』です。

 スコット・バリー・カウフマン(Scott Barry Kaufman)さんは、知性と創造性を専門とする心理学者です。

 キャロリン・グレゴワール(Carolyn Gregoire)さんは、ネット新聞「ハフィントンポスト」のシニアライターです。

「クリエイティブ思考」は、いかにして生まれるのか?


 一流のアーティストが発揮する驚異的な「クリエイティブ思考」。
 それは、いかにして生まれるのでしょうか。

 例えば、ピカソが描いた名画「ゲルニカ」。
 その製造過程は、かなり混乱したものでした。

 ピカソは、依頼を受けて3か月の間、どうしてもインスピレーションが湧かなかったそうです。

 しかし、ナチスが行なった爆撃を目撃したことをきっかけに、たちまちインスピレーションを得て、一気に描きあげることができました。

「ゲルニカ」に取りかかった時のピカソは、すでに数十年にわたって傑作を生み出してきたベテランの画家のようだったが、この絵を描くプロセスは雑然としており、完成に向かって順を追ってというより、気の向きままに進められた。
 数多くのアイデアとスケッチは、始まったかと思うとすぐにやり直しになり、一部の美術史家が言うように、スケッチの大半はゲルニカに反映されなかった。
 探求と手探りの試行錯誤が、ピカソの創作スタイルのカギだった。
 彼は、すでに持っている世界観を描くのではなく、創作を通じて新しい世界観を築き、再構築していたようだ。直観的な構想はあったものの、最終的な作品にたどり着くまで、自分がどこに向かっているのか、わかっていなかったのだろう。
 ピカソは自らの創造プロセスについてこう述べている。
「絵画というのは、考え抜かれたものでも、予(あらかじ)め決められているものでもない。思考のように、描いている間に変わり、また描かれた後も見る人の心の状態に応じて変わり続けるのだ」
 ゲルニカのスケッチの進化は、ピカソの創造スタイルの真髄を垣間見せてはくれるが、同時に多くの謎をもたらす。
 彼は、自分が何をしているのかどこまでわかっていたのだろうか。
 仮にわかっていなかったのであれば、彼の創造のプロセスをどう理解すればいいだろう。
 この問いに答えるのに、ピカソのパーソナリティを分析しても意味はない。
 この画家はアーティストとしても人間としても変幻自在だった。彼はきわめて情熱的でありながら強烈な皮肉屋であり、気難し屋と言われた。「ある瞬間には創意に富む非凡な天才であり、次の瞬間にはサディスティックな支配者になった」
 ピカソ自身、自らの人生と作品の矛盾を示唆している。「わたしはいつも、自分にはできないことをやっている」と。
 そして、自分の創造のプロセスを「破壊行為」と呼んだ。
 このような天才の複雑な創造のプロセスと思考をどうすれば理解できるだろう。

『FUTURE INTELLIGENCE』 はじめに より スコット・バリー・カウフマン、キャロリン・グレゴワール:著 野中香方子:訳 大和書房:刊

 本書は、クリエイティブ思考とパーソナリティにまつわる疑問について深く掘り下げ、私たちをイノベーションに導く具体的な方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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柔軟な発想は、「遊び」を通して鍛えられる


 クリエイティブ思考の人は、大人になってからも想像力豊かな遊び心を大いに発揮します。

 彼らにとっては、創作すること自体が遊びだからです。

 著者は、「遊びの体験」という財産は子ども時代に培われ、クリエイティブな作品の誕生を後押ししていると指摘します。

 ピアジェ、フロイト、エリクソンといった20世紀の傑出した心理学者たちは、子どもの発達において遊びが重要な役割を果たしていることを認めていた。
 たしかに、遊びに本質的な機能が一つあるとすれば、それはクリエイティブ思考と柔軟な脳の発達を促すことだ。
 空想遊びをしている子供たちを観察していると、子どもたちはやすやすと、楽しみながら、作家と俳優と監督の役割を担い、物語を創作したり演じたりする。これは誰に教えられるでもなく、2歳半ころから自然に始まり、9歳か10歳ころまで続く。最も多い時には、子どもの起きている時間の最大20パーセントまでを空想遊びが占める。
 ごっこ遊びをしている時、子どもは複数の視点に立ち、遊びながら、さまざまな感情や発想を操る。
「子どもたちは、自分が経験から知っていることだけでなく、こうあってほしいという願望も組み入れて物語を作る。こうして彼らは遊びの中で怖れを克服しようとする。遊びを通じて、リハーサルをしているのだ」とラスは説明した。
「空想遊びの中では、ごくありふれたものが、象徴的に用いられる。バナナは電話になり、動物のぬいぐるみは赤ん坊に、レゴブロックは車に、裏庭は魔法をかけられた王国になる。この象徴化には、思考だけでなく感情も関与している。子どもは遊んでいる時、アイデアと想像と感情で実験しているのだ」

 残念ながら私たちの文化には、遊びを肯定的に見ようとしない傾向がある。子どもの自由な時間は、1955年以来、減り続けているのだ。
 有益な活動に使う時間は増えたかもしれないが、その結果、純粋に楽しい時間だけでなく、クリエイティブ思考に欠かせない多くの重要なスキルを育む機会をも奪っている。
 その重要なスキルには、

  • 衝動の制御
  • 計画性
  • 組織力
  • 問題解決能力
  • 読み書きの能力と言葉の発達
  • 象徴化
  • STEM(科学、技術、工学、数学)の理解
  • 数学的能力
  • 好奇心
  • 拡散的思考(仮に〜だったら、と考えること)
  • 多様な内容を認知的に統合すること
  • 柔軟性
  • ストレス解消
  • 認知と感情のコントロール
  • 共感
  • 配慮
  • 社会的交渉力
  • 協調性
  • 他者に対する寛容
 などが含まれる。いずれも、軽視できない重要なスキルだ。

『FUTURE INTELLIGENCE』 第1章 より スコット・バリー・カウフマン、キャロリン・グレゴワール:著 野中香方子:訳 大和書房:刊

 自由な発想を働かせて、「無」から「有」を創り出す。

 確かに、「遊び」と「創作」は、性質がかなり似たものだといえます。

「日本人は、創造性に欠ける人が多い」

 そう言われるのは、国の「知識詰め込み型」の教育方針も、大きく影響しているのでしょう。

「うまくなりたい」という強烈な欲求を持てるものを探す


 発達心理学者のエレン・ウィナーは、研究により才能に恵まれた子どもたちは「困難に直面してもやり遂げ、成長過程で出会う多くの障害を克服することができると結論づけました。

 才能の有無とは、「うまくなりたいという強烈な熱意」を持てるかどうかで決まる、とウィナーは言う。
 さらにその努力に加えて、彼らは自分がしていることに強い愛着を持っていることにウィナーは気づいた。彼らは外からの報酬や称賛よりも、すること自体に強い喜びを感じていたのだ。それをしている時には、桁外れの集中力を発揮し、心理学で言う「フロー」になっていた。フローとは、完全に没頭し、幸福で、時間を忘れるほど集中した状態を指す。
 フローは、スポーツから音楽、物理学、宗教、スピリチュアリティ、セックスにいたるさまざまな分野のパフォーマンスに大いに貢献している。
 フローになる能力は、「うまくなりたい」という熱意から生まれるようだ。
 マーサ・J・モアロックは並外れて賢い子どもたちを研究し、彼らが何かに没頭するのは、もっと学びたいという「脳の強烈な欲求」だと確信した。「身体が食物や酸素を欲するように、彼らの脳は知的刺激を渇望している」のだ。言い換えれば、彼らは技能を学びたいと願っているというより、学ばずにはいられない状態なのだ。
 もちろん、大人についても同じことが言える。
 仕事への愛情は、生産性を高めるためだけでなく、独創的で革新的な仕事のためにも重要だ。
 発達心理学者のベンジャミン・ブルームは、卓越性についての研究において、さまざまなジャンルの天才たちは、幼いころから並外れてそのジャンルに強い関心をもっていたことを明らかにした。
 ある彫刻家は、子どものころにずっと絵を描いていたことや、何かを作るのが好きだったことを覚えていた。ある数学者は、子どものころには機械が動く仕組みに興味をもち、よくおもちゃを分解して、ギアやピストン、計器、目盛盤などを調べていたそうだ。
 そうした子どもの並はずれて強い関心と理解の速さを知った親や仲間やメンターやコミュニティが彼らを励まし支えたので、彼らはますます努力した。
 また、E・ポール・トランスは、影響力のある研究において、小学生に「一番好きなもの」は何かと尋ね、その後の成長ぶりを追跡調査した。驚いたことに、小学生の多くはすでに何かに情熱を注いでいて、それは永続的で、成長するにつれて関心の度合いは高まっていった。
 ポール・トランスは子どものころに学業成績が良かった社会的成功者と、天才的なクリエイターになった人を比較分析し、子どものころに何かに夢中になった人は、22年後も、創造性についてのさまざまなテストで高スコアを出しやすいことを発見した。
 実のところ、大人になって、自分にとって意義があり公にも認められるような仕事ができるかどうかは、学業成績よりも、幼いころににどこまで夢にのめり込めたかによって予測できるのだ。

『FUTURE INTELLIGENCE』 第2章 より スコット・バリー・カウフマン、キャロリン・グレゴワール:著 野中香方子:訳 大和書房:刊

 才能の有無とは、「うまくなりたいという強烈な熱意」を持てるかどうかで決まる。
 つまり、クリエイティブ思考の人になれるかどうかは、生まれつき決まるわけではない、ということです。

 時間を忘れるほど熱中できることに出会えるかどうか。
 それがすべてです。

 持って生まれた才能の芽は、人それぞれです。
 それを探し当てるには、とにかくいろいろなことにチャレンジすることが大切ですね。

アイデアを広げる「スペース」をつくる


 創造という行為は、しばしば孤独な内省の中で展開されていきます。
 芸術作品を生み出すには、自分の心と親密になれる孤独な場所が必要だからです。

 著者は、孤独な状態で内省すると、最も深遠な洞察が得られると述べています。

 科学は、孤独な内省の時間がクリエイティブ思考の糧になることを裏づけた。
 孤独に耐えられる能力は、成功したクリエイターに共通して見られる特徴だ。彼らは煩わしい日常の雑事や付き合いに背を向けて、自分自身とつながることができる。だが、孤独とは、単に気が散るものを避けて暮らすというだけではない。それは心の中で内省し、新しいつながりを築き、意味を見出すためのスペースをつくることなのだ。
 歴史上の偉大な芸術家や思想家は、比較的孤独な生涯を送っているが、現代の文化は、常に社会とつながっていることを過剰に評価し、孤独でいることの価値を認めようとせず、またその意味を誤解している。
 もちろん多くの仕事は共同作業を必要とし、多様な視点を統合することも欠かせない。
(中略)
 だが、創造行為そのものには、ひとりになる時間が必要だ。ひとりになってスローダウンし、良いものも悪いものも含めて自分のアイデアに耳を傾けなければならない。クリエイティブな仕事をするうえで、ある程度孤独は欠かせないのだ。
 芸術家は頭の中にあるアイデアを使ってずっと作業している――そのようなアイデアを広げるには、スペースが必要とされる。「クリエイティブな人間の精神は、意識していない時でも常に情報をシャッフルしている」と、アシモフは2014年初版のエッセイで書いている。
他者の存在はこのプロセスを妨げるだけだ。というのも、創造とは恥ずかしいものだからだ。優れたアイデアがひとつ生まれるまでに、何百、何千というばかげたアイデアが生まれるが、普通はそれを人に見せようなどとは思わない」
 ひとりでいる時に心の中で起きていることは、人と交流している時に心の中で起きていることと等しく重要なはずだが、わたしたちは、ひとりで過ごすことを「時間の無駄遣い」と見なしたり、反社会的な性格や暗い性格の表れと見なしたりしがちだ。
 しかし、スーザン・ケインがそのベストセラー『内向型人間の時代』(講談社)で明言したように、ひとりでいることは必ずしも寂しいことではない。ケインの作品と彼女が先導する「静かな革命」がきっかけとなって、静かな時間とおとなしい人に対する偏見が変わりつつある。オンライン上の「静かな革命」サイトを拠点として、内向型人間とその擁護者は、孤独とクリエイティブ思考のための空間を、学校と職場に創設する運動を進めている。
 孤独でいられることは、暗い性格や精神疾患の兆候などではなく、情緒が成熟し、心が健全に育った証と言える。

『FUTURE INTELLIGENCE』 第4章 より スコット・バリー・カウフマン、キャロリン・グレゴワール:著 野中香方子:訳 大和書房:刊

 何かにつけ集団行動を重視する日本では、とくに「孤独」を蔑視する傾向があります。

 孤独な時間を過ごすには、それに耐えられるだけの精神的成長が必要です。
 否応なく、自分自身と向き合うことを強いられるからです。

 だからこそ、その人ならではのオリジナリティを発揮する余地が生まれるということですね。

 著者は、「孤独でいられる能力」は、誰もが鍛えられる筋肉であり、活用すればクリエイティブ思考を後押しすることができると述べています。

 一日の中に、必ず一度は「ひとり時間」を確保する。
 創造性を高めるためには、欠かせない習慣です。

動機は、知識を追い求める「楽しみ」そのもの


 新しい経験は、重要なものとの出会いを提供し、独創的な仕事のきっかけをもたらします。

 著者は、好奇心が強い人は、想像力が旺盛で、洞察力やクリエイティブ思考に優れ、美的感覚が鋭く、思考や知性が豊かな傾向にあると述べています。

 好奇心の強弱は、ドーパミンの働きによって決まる。
 ドーパミンには誤解が多く、一般には、「セックスと麻薬とロックンロール」の神経伝達物質と見られているが、この物質は必ずしも快感や満足度に関連するものではない。
 むしろドーパミンの主な役割は、わたしたちに「欲求を抱かせること」だ。ドーパミンは、大きな報酬を得られそうになった時に、急増して脳内を駆け巡る。心理学者コリン・デ・ヤングが言うように、ドーパミンが分泌されると「探求したいという意欲が高まり、探求に役立つ認知や行動のプロセスが促進される」。
 また、ドーパミンは、行動と認知の両面において、探求したいという意欲と目新しいものに柔軟に反応する傾向を促す。
 この柔軟さゆえに人は有益な情報を求めて未知の領域を探り、何らかの実りを得る。そして、しばしば人としての成長がもたらられる。もちろん、好奇心が常に良い結果を生むとは限らないが、心を開くことでイノベーションを起こすエネルギーが湧きあがるのあれば十分ではないだろか。
 実際のところ、精神面が柔軟な人ほど、多くのアイデアを持ち、仕事に熱心に励み、その業績が広く世間に認知されやすいことが、研究からわかっている。
 柔軟性は、外向性と旺盛な好奇心が入り混じったものであり、ドーパミンは、好奇心のエネルギー源になる。その理由は、進化の側面から容易に説明できる。好奇心、新しい環境に適応する能力、不確かさの中でタフに生き抜く能力は、いずれも生き残るうえで重要な利点になってきたからだ。
 それでも、外向性と旺盛な好奇心との間には、決定的な違いがある。
 外向性は、報酬に対する反応と強く結びつき、多弁さ、社交性、ポジティブさ、自己主張の強さ、刺激への欲求といった特徴が見られる。外向型の人は、チョコレート、社会的注目、社会的地位、性交渉の相手、コカインをはじめとする麻薬など、より直接的に「欲求を満たす」報酬を探したり、求めたりしやすい。
 一方、好奇心が旺盛な人は、報酬を得る可能性ではなく、「新しい発見をする可能性」から活力を得る。彼らを最もエキサイトさせるのは、知識を追い求めるスリルなのだ。
 この認知的探求への意欲は、人の心をとらえ、エネルギーを満たし、活動へと駆り立てる。芸術や科学の分野で、この衝動の影響をわたしたちは何度も見てきた。

『FUTURE INTELLIGENCE』 第6章 より スコット・バリー・カウフマン、キャロリン・グレゴワール:著 野中香方子:訳 大和書房:刊

 これまでできなかったことができた。
 難しい問題を解けた。
 ちょっと高めの目標をクリアできた。

 そんなときに感じる高揚感や気持ちのよさは、ドーパミンによって引き起こされます。

 報酬や称賛などの外部からのインセンティブだけでは、やる気は保てません。
 心の中から湧き上がってくるワクワク感や好奇心などの内部からのインセンティブが不可欠です。

 そのために脳が必要とするのが、ドーパミンだということです。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 著者は、自らの多面性を認め、そのまま受け入れる能力こそが、クリエイティブ思考を発揮して、新しい時代を切り開くために欠かせない要素だとおっしゃっています。

 オープンな心と、繊細な心。
 ひとりの時間を好む姿勢と、仲間との協働作業を好む姿勢。
 遊びを楽しむかのような余裕と、ひとつのことに集中する真剣さ。

 相反する資質を同時に満たすとき、クリエイティブ思考は発揮されます。

 クリエイティブ思考は、一部の天才だけが持つものではありません。
 生まれつき、誰にも備わったものです。

 才能の芽を育てて花を咲かせるか、摘み取ってしまうか。
 それを決めるのは、私たち自身です。

 皆さんも、本書を片手に、自分の中に眠る“未来の知性(FUTURE INTELLIGENCE)に出会う旅に出かけてみてはいかがでしょうか。

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