【書評】『シグナル:未来学者が教える予測の技術』(エイミー・ウェブ)

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 お薦めの本の紹介です。
 エイミー・ウェブさんの『シグナル:未来学者が教える予測の技術』です。

 エイミー・ウェブ(Amy Webb)さんは、未来学者です。
 著作や論文は数々の賞を獲得され、多数の言語に翻訳されるなど、その分野における世界的な権威としてご活躍中です。

未来を読むための「方法論」


 未来を先取ったかのような革新的なアイデアや商品。
 それらは、ある日突然、完璧な形で現れるわけではありません。

 少しずつ、社会の端っこに、ぽつぽつと出現し、何の脈絡もなく登場します。

 最初は、小さな「点」と「点」として現れます。
 それらは、共通点も関連性もなさそうに見えるため、意味のあるつながりを探すのは難しいです。

 しかし、時間とともに一定のパターンが形成されていきます。
 そして、まぎれもない「トレンド」となって浮かび上がってきます。

 ウェブさんは、たくさんの点が収斂(しゅうれん)し、一つの方向性や傾向を指し示すことで、何らかの人間のニーズと、それを実現する新たなテクノロジーを組み合わせ、未来を形づくる力となると述べています。

 私は未来学者として、台頭しつつあるテクノロジーを研究し、トレンドを予測することを生業(なりわい)としている。「未来学(futurology)」という言葉は、「未来」を意味するラテン語(「futurum」)と、「学」を意味するギリシャ語の接尾語(「-logia」)を組み合わせたもので、1943年にオシップ・フレッチハイムというドイツ人の学者が生み出した。フレッチハイムはその数十年前、作家のH・G・ウェルズとともに新たな学問分野として「未来主義(futurism)」を提唱している。数学、工学、芸術、テクノロジー、経済学、デザイン、歴史、地理、生物、神学、物理学、哲学を組み合わせた学際的分野だ。
 未来学者の仕事は、予言を語ることではない。データを集め、台頭しつつあるトレンドを見つけ、戦略を考え、未来におけるさまざまなシナリオの発生確率を計算することだ。こうした予測は、組織が破壊的変化に直面するなかでもリーダー、チーム、そして個人が、質の高い情報に基づいて判断を下す一助として使われる。
 過去500年にわたり、世界を一変させた発明のほぼすべては、ひとえにテクノロジーがもたらしたものだ。活版印刷、六分儀、耕うん機、綿繰り機、蒸気機関、石油精製、低温殺菌、組立ライン、写真、電報、核分裂、インターネット、パソコン、すべてそうだ。どのテクノロジーもある時点までは、端っこの科学であり、技術的実験にすぎなかった。
 本書は、テクノロジー・トレンドそのものを論じる本ではない。それでは書店に並ぶ頃には、時代遅れで価値のないものになってしまうからだ。世界の変化はそれほど速い。いくつかのトレンドを取り上げた本は結局、あなたの組織、産業、市場の未来に対する他人のビジョンを押しつけるだけだ。スマートウォッチ、仮想現実(VR)、モノのインターネット(IoT)などは、メディアの見出しにはうってつけだが、あらゆる組織を日々悩ませる問いの答えにはならない。
 今、どんなテクノロジーが台頭しつつあるのか。それはわれわれや顧客にどのような影響を与えるのか。ライバルはこのトレンドにどう対処する気なのか。新たにどのような協力・提携の可能性が生まれるのか。産業全体ないし部分にどのような影響を与えるのか。変化の推進力となっているのは誰か。結果として、顧客の要望、欲求、期待にどのような変化が生じるのか。
 こうした問いに答えるには、他人の立てた予測に頼るだけでは不十分だ。研究者、他の経営者、各分野の思想的リーダーなどの見立てを評価し、取捨選択するための体系的プロセスが必要となる。自分自身で未来を読むための方法論が必要だ。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』 INTRODUCTION より エイミー・ウェブ:著 土方奈美:訳 ダイヤモンド社:刊

 本書は、社会の端っこで生まれつつある、一見、関係なさそうなアイデアを評価するための体系的アプローチを紹介した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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未来を予測するための「6つのステップ」


 未来予測は、本来、確率論的なものです。
 テクノロジーがどのように進化するか、可能性と方向性を見きわめることが大切です。

 ウェブさんは、未来という織物のごく小さなかけらではなく、全体像を見る方法さえわかっていれば、未来の要素を現在のなかに見出すことができると指摘します。

 私が考案した未来予測の方法論は、もちろん他の未来学者の影響を受けているが、分析方法と範囲に独自性がある。それは6つのステップから成り、フューチャー・トゥデイ・インスティテュートでの活動と10年に及ぶ研究から磨きあげたものだ。最初の4つのステップはトレンドの見つけ方にかかわるもの、最後の2つはとるべき行動を決定するためのものだ。

①社会の端っこに目を凝らす:端っこからの情報をとらえられるように、幅広く網を張る。ここにはノードとノード同士の関係性を示すマップをつくり、「想定外のニューフェース」を絞り込む作業も含まれる。
②CIPHER(サイファ)を探す:端っこから集めたデータを分類し、隠れたパターンを発見する。パターンはトレンドの手がかりとなるので、矛盾(Contradiction)、変曲(Inflection)、慣行(Practice)、工夫(Hack)、極端(Extreme)、希少(Rarity)を徹底的に探さなければならない。
③正しい質問をする:パターンが本物のトレンドかどうか見きわめる。ひとたびパターンを見つけてしまうと、探すのをやめたくなるものだ。だがこれから見ていくとおり、反論を考えるのは予測プロセスに不可欠のステップだ。ほとんどの人が、自分の仮説や主張に穴がないか、徹底的に探ろうとはしない。
④ETA(到着予定時刻)を計算する:トレンドを解釈し、タイミングが合っているか確認する。これはいわゆるS字カーブを描き、屈曲点を探すという話にとどまらない。テクノロジー・トレンドが軌道を進む際には、二つの力が働く。一つはハイテク企業内部の変化であり、もう一つは外的変化である。後者は政府や隣接する業界の動きなどで、どちらも計算に入れる必要がある。
⑤シナリオと戦略を考える:未来に起こりうる、起こるかもしれない、そして起こりそうなシナリオを考え、それぞれに対応した戦略を立案する。このステップではテクノロジーの進歩の時間軸と、それのもたらす結果に対する感情的反応の両方を考える必要がある。それぞれのシナリオにスコアを付与し、そうした分析に基づいて行動計画を立てる。
⑥行動計画の有効性を確認する:あなたが選んだ行動は正しいかどうか。最後のステップでは、トレンドに対して選んだ戦略が、望ましい結果をもたらすことを確認しなければならない。現在と未来の両方について問いを投げかけ、ストレステストにかける。

 ここに挙げた6つのステップは「X」の未来を予測するのに役立つ。Xに入るのは、車の運転、政府、金融、医療、ジャーナリズム、国家の安全保障、買い物、保険、オーケストラ、義務教育、警察、映画、投資をはじめ、ありとあらゆる分野だ。なぜなら、テクノロジーはこれから先ずっと、人間のありとあらゆる活動にかかわってくるからであり、またテクノロジー・トレンドの調査は21世紀の組織が日々の活動の一部に組み込むべきことだからだ。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』 1 より エイミー・ウェブ:著 土方奈美:訳 ダイヤモンド社:刊

 ウェブさんは、これら「6つのステップ」は、次の「3つの原則」に基づいていると指摘します。

  • 未来はあらかじめ決まっているのではなく、たくさんの糸が織りなすものであり、その糸は現在にも織り込まれている。
  • 未来を織りなす可能性のある糸は、現在に織り込まれている姿によって観察できる。
  • 現在の時点で、起こりうる未来、起こりそうな未来に影響を与えることは可能である。
 無秩序に、突然、世の中に現れたように見える新しいテクノロジー。
 それらも「未来という織物」のデザインのなかで、必然的に描き出されたということです。

 この瞬間も「社会の端っこ」で、私たちの生活を劇的に変えるアイデアが、次々と生まれています。
 私たちにも、しっかり目を凝らして見つけたいものです。

「トレンド」とは、何か?


 本物の潮流である「トレンド」。
 一時的な流行である「トレンディ」。

 両者を区別するのは、難しいのが現状です。

 トレンドとは、特定の産業や公共セクターや社会で持続的に発生している変化、あるいはわれわれ相互のかかわり方の持続的な変化が、新たに表面化したものです。

 トレンドは、外部の力によって影響を受け、形づくられていきます。

 ウェブさんは、テクノロジーという切り口から、日々の生活のさまざまな側面を整理することも重要だと述べ、その切り口として、以下の「変化の10の要因」を提示します。

  1. 富の分布
  2. 教育
  3. 政府
  4. 政治
  5. 公衆衛生
  6. 人口動態
  7. 経済
  8. 環境
  9. ジャーナリズム
  10. メディア

 トレンドとは、現在の要請に応えつつ、同時に未来に備えるための「いとぐち」である。ある意味ではトレンドは、われわれが変化について考え、理解するのに必要なアナロジーの役割を果たしているともいえる。
 あらゆるトレンドは日常生活のさまざまな側面ともかかわっている。またトレンドには、明確かつ普遍的な特徴がいくつかある。すべてのトレンドに見られるこうした特徴を、自動移動手段の例を使って説明しよう。

 トレンドは、人間の基本ニーズから生まれ、そのニーズを新たなテクノロジーが叶える。社会の進歩に伴い生活は忙しくなり、それに役立つような一段と高度な技術が求められる。だとすれば、場所の移動にかかる時間を減らす必要が生じる。スケジュールが過密になると、移動が増え、道路も電車も空港もどんどん混雑していく。輸送手段やテクノロジーが進歩するほど会議、イベントなどの機会はますます増え、さらに移動の必要性が高まるという循環が起こる。混雑した道路での怒鳴り合いが頻発し、自由に使える時間は減っていく。あるいはそれを回避するための運転中にメールに返信したり、電話会議に参加したり、モバイルアプリをクリックしたりとマルチタスクをこなそうとする。
 トレンドは、タイミングよく登場し、しかも存続する。移動手段は常に効率、スピード、自動化へのニーズを満たすためにあった。古代シュメールの王の1人、エアンナトゥム王が戦車を発明していなかったら、敵を破ってウンマの街を征服できていただろうか。できたかもしれないが、車輪つきの荷馬車があったことで戦場でのすばやい攻撃が可能になり、また兵士や馬が重い荷物を運んで疲労困憊するのを防げた。何千年にわたり、われわれは荷物を軽くし、速く動ける工夫を重ねてきた。
 トレンドは、出現して以降も変化を続ける。二輪式戦車からグーグルの自動運転までの進歩は直線的ではなかった。技術的イノベーションは新たなモノの考え方を生み出し、その結果、新しいタイプの車両が生まれた。新たに出現するバージョンは、常に過去の成功と失敗の教訓を踏まえている。
 1950年代にGMとRCAは、スピードとステアリングを無線操縦する自動高速走行車の試作品を開発した。自動運転車が道路から外れないように、アスファルトにはスチールケーブルが埋め込まれた。それからの60年で自動移動手段は進歩を続け、やがてグーグルがカリフォルニア州マウンテンビューとテキサス州オースチンで大量の自動運転車を走らせるまでになった。グーグルにはアルゴリズムを使った自動運転車用の教習コースが有る。スケートボードを乗りこなすティーン・エイジャーと同じように、自動車は明確に「これを避けろ」と指示されなくても、物体を認知し、回避することを「学習」する。
 2020年代末には、現在テスト中のものとそっくりのグーグルカーを運転するようになるのだろうか。おそらく、そうはならないだろう。だがグーグルの研究のおかげで、今よりはるかに運転席に座る人間の注意力や監督を必要としない車に乗っているのは間違いない。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』 2 より エイミー・ウェブ:著 土方奈美:訳 ダイヤモンド社:刊

 ウェブさんは、トレンドは、互いに結びつけることのできない多数の点として社会の端っこで出現し、主流へと移動していくと述べています。

「自動車」というテクノロジーは、「より速く、より簡単に移動する」という目的のもと、進化しています。

 このベースとなる縦糸に、「人工知能」「高感度センサー」「無線情報伝達技術」など色とりどりの横糸が交わる。
 そうすることで、「完全自動運転車」という新たな「トレンド」が浮かび上がりました。

 新しく出てきた、このアイデアは、どんなバックグラウンド(背景)から生まれたのか。
 それを注意深く分析することで「トレンド」か「トレンディ」か、判断することが可能となります。

トレンドは「社会の端っこ」で、ひっそりと進行する


 ウェブさんは、未来の世の中の仕組みを一変さてしまうようなトレンドは、社会の端っこで生まれ、メディアや一般大衆が一切関心を払わないうちに社会に浸透していくことが多いと指摘します。

(前略)太平洋ゴミベルトがはっきりと姿を現すまでに10年以上を要したように、携帯電話の世界的普及という重要な技術的・社会的現象も、60年もの間、ほぼ誰も気づかないうちに進行していた。
 電話が初めて持ち運びできるようになったのは、1947年のことだ。AT&Tの研究者だったダグラス・リングが、電話を自動車のアンテナに接続する新たな方法を発見した。サービスの利用者は多くはなかったが、40年近くにわたって自動車電話サービスはアメリカのいくつかの都市で利用可能な状況にあった。60年代にはAT&Tが当初の技術の発展形として、自動車移動するのに伴い通話を次々とつなぎかえていく中継塔を開発した。
 自動車と一体化したものではなく、携帯電話が単体で初めて販売されるようになったのは84年のことだ。ほんの10年前まで、アンテナ付きの折り畳み式携帯電話をレザーケースに入れて使っていた人も多かったのではないか。留守番電話を聞くには特定の番号に電話をかけ、合図を待ってから暗証番号を入力するという煩雑な手続きが必要だった。写真を撮るには何度か画面を切り替え、撮影ボタンを押したらファイルに名前をつけて保存しなければならなかった。今や面倒なメニューシステムはなくなり、使い勝手ははるかに改善した。携帯電話は「いつもつながっている」ライフスタイルを生み出し、われわれの集合意識の一部となった。
 今日では大多数の人がフラットスクリーン型のスマートフォンを使い、仕事のメールを送ったり、スーパーでの買い物を済ませたり、ウーバーやリフトなどの配車サービスで車を予約したりしている。思えば驚異的な変化であるが、われわれはまったく驚いていない。それは変化の真っただ中で生きているからである。
 自動車電話が原始的な折畳み式携帯電話に進化するまで、60年かかった。対して、今後10年で携帯端末は、人間の脳に匹敵するほどの計算能力を持つようになり、通話機能など最も取るに足らない用途となるだろう。たった10年という短い期間だが、ムーアの法則と技術進歩は、はるかに短いサイクルで進んでいくことを思い出してほしい。携帯ネットワーク、ユーザー・インターフェイス、プロセッサは小さな進歩の積み重ねであり、iPhoneのような明らかな大発明に結実するまでは見過ごされがちだ。
 トレンドを見つけるのは難しい。トレンドの形成につながるすべての変化が地味であるとか、社会で当然とされているモノの考え方を否定しかねないものであるときは、なおさら難しい。ソニーのケースはまさにそうだった。しかし周辺分野の状況に目を向けず、一つの分野のトレンドだけを追いかけていると、目の前のまばゆきいトレンディなモノに目を奪われ、変化の10の要因がはるかに大きな変化をもたらそうとしている様子を観察する機会を逃してしまうだろう。
 未来とは、はるか先の漠然とした時期を指すわけではない。だからこそ、タイムゾーンを踏まえて考える必要がある。トレンドは人間の本質の変化を反映し、われわれの基本的ニーズに立脚しているからこそ、未来の変化を予見し、予測するのに役立つ。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』 2 より エイミー・ウェブ:著 土方奈美:訳 ダイヤモンド社:刊

 トレンドは、「社会の端っこ」で起こります。
 それは、どんな革新的なアイデアでも一緒で、例外はありません。

「社会の端っこ」を“揺りかご”にして、静かに着実に成長していき、やがて私たちの目に留まるようになります。

 世間の耳目を集める、新商品にばかり気を取られていると、その底にある「大きな流れ」を見失います。

 変化の激しい現代社会。
 企業も、個人も、トレンドを見極めることが、今まで以上に大切になりますね。

「社会の端っこ」に目を凝らす


 ウェブさんは、未来を予測する第一歩は、ユニークな実験が起こる場である「端っこ」、すなわち科学、テクノロジー、デザインの世界や社会の辺境に足を運ぶことだと指摘します。

 ユニークな実験の一例が、マンゴーとロメオという2匹の猿を使ったものだ。どちらも難しい問題に取り組むことが大好きで、オレンジジュースに目がなかった。数年前、2匹は一見単純な課題を引き受けることになった。ディスプレイを見ながらバーチャルアームを操作して、目標物をつかむのだ。成功すればご褒美にオレンジジュースがもらえる。
 とはいえ、この課題には少しひねりが加えてあった。マンゴーとロメオは、ゲームで使うようなジョイスティックやキーボードを与えられたわけではない。むしろ手で何かを操作することはできなかった。さらに厄介なことに、片方は水平方向(ディスプレイのX軸)、片方は垂直方向(Y軸)にしかバーチャルアームを動かせなかった。つまりアームを目標物に近づけるためには、2匹は協力し、互いの動きを同期させる必要があった。おまけに2匹は別の部屋にいた。
 コントローラーもなく同じ部屋にもいないのに、どうやってご褒美にたどりつくのか。実は、2匹の脳はネットでつながっていたのである(『スタートレック』に出てくるバルカン人の種族間テレパシーを思い浮かべた人は、だいたい合っている)。脳の体性感覚皮質と運動皮質に小さな電極が埋め込まれていた。この2つの皮質は、脳のうち運動をつかさどる部分だ。
 2匹は時間をかけてある種のデジタルテレパシーを習得し、互いの思考を送り合い、スクリーン上のアームをコントロールする方法を身につけていった。特定の方向にアームを動かそうと考えたり、またアームを目標に近づけるには相手と協力しなければならないことを理解したりするなかで、2匹は一定の因果関係のパターンに気づいた。互いの動きを同期させることで、2匹は首尾よくアームを動かし、ジュースをもらえるようになった。
 この画期的研究は、デューク大学ニューロエンジニアリング・センターのディレクター、ミゲル・ニコレリスの25年以上に及ぶ取り組みの産物である。ニコレリスとその共同研究者である、ニューヨーク州立大学ダウンステート・メディカルセンターの心理学と薬理学の教授であるジョン・チャピンが「ブレーン・マシン・インターフェイス(BMI)」を最初に考案したのは、199年代後半のことだった。PCワールド誌が「ゲートウェイGシリーズ」を最高の家庭用コンピュータに選出し、ノキアの「9000iコミュニケーター」を「携帯電話であり、ファックスであり、ハンドヘルド・コンピュータでもある。(中略)まさに夢のようだ」と語っていた時代に、なんと彼らは、脳をコンピュータに接続することを考えていたのだ。
 人間の脳を他の人間だけでなく、コンピュータやロボットと接続するというアイデアは、ホラー映画やスーパーヒーローもののマンガに多少似てはいるが、そこから着想を得たものではない。彼らが考えていたのは「歩行を可能にする技術」の未来であり、身体麻痺の患者を再び歩けるようにすることを目指していた。市場にはたくさんの義足が出回ってたが、自由自在に歩くには程遠いものだった。ニコレリスらは、いずれ人間は自らの脳で義足をコントロールできるようになるかもしれない、と考えた。患者が足を動かす感覚を覚えていれば、ロボティクス義肢に脳から信号を送れるのではないか、と。
 はじめはネズミの脳を人工的神経システムに接続し、意思の力だけでロボット工学的給水器を動かして水を出させる、という実験を行った。続いて猿の脳をコンピュータに接続し、標準的インターネットを通じて脳信号を送り、別の都市にあるロボットアームを操作させることを試みた。普通の人にはSF映画ばりの、およそ実用的ではないばかげた実験に思えるかもしれない。
 しかしニコレリスの長期間に及ぶ努力の結果、全世界が見守るなか、SFが現実と交錯する瞬間が訪れた。下半身麻痺の障害を持つ29歳のジュリアーノ・ピントが、ニコレリスの研究チームが制作したロボットスーツに身をつつみ、2014年ワールドカップの競技場を歩いたうえ、開幕式でボールを蹴ったのだ。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』 4 より エイミー・ウェブ:著 土方奈美:訳 ダイヤモンド社:刊

 世の中を大きく変える革新的なアイデアは、既存の技術からは生まれない。
 つまり「社会の端っこ」とは成り得ないということ。

 当たり前のことですが、私たちが見落としてしまいがちな事実です。

「荒唐無稽だ」
「不可能だ」
「想像の中の話だ」

 誰もがそう思う発想にこそ、イノベーションの種が眠っています。

 自動車、飛行機、電話、パソコン・・・・・。

 今は、誰もが日常的に目にするテクノロジーのすべて。
 それらは、誰かの突拍子もないアイデアから生まれたことを忘れてはいけませんね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 約5400万年前の地球上では、「視覚」というこれまでにない能力を得たことで、多様な生物が急激な進化を遂げました。
 それを「カンブリア爆発」と呼びます。

 ひるがえって、次々と新しい技術が世に登場しては、消えていく。
 そんな未だかつてない現象を「現代版カンブリア爆発」と呼ぶ人もいます。

 人工知能(AI)の進歩やコンピューターの処理能力の向上。
 それらは、世の中の変化をさらに加速させるのは、間違いありません。

 浮かんでは消えていく、泡沫のような個々の事象に振り回されない。
「トレンド」という大きな流れを見極める。

 本書の内容は、これからの時代、ますます価値を持つことは、間違いありません。

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