【書評】『グーグルが消える日』(ジョージ・ギルダー)

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 お薦めの本の紹介です。
 ジョージ・ギルダーさんの『グーグルが消える日』です。

 ジョージ・ギルダー(Geoge Gilder)さんは、米国の経済学者・未来学者です。

まもなく「グーグルの世界」が終わる

 ギルダーさんは、グーグルは、単なる一企業ではなく、まさに「世界のシステム」になった一方、今、インターネットは、このイデオロギーに耐えられなくなりつつあると指摘します。

 表面化している代表的な問題のひとつが「セキュリティ」です。

 セキュリティシステムが崩壊し始めたのは、コンピュータ業界にいる者たちが機械の能力を妄信顧客である人間の能力の限界について傲慢な言葉を発するようになってからだ。
 そうした企業側の思い上がりによって、IPO市場は低迷し、グーグルを代表とする勝ち組企業は独占禁止法上の制約を受け、企業としての評価額が10億ドル以上の「ユニコーン企業」は、収益を上げられずに時価総額ばかりが高騰する事態となってしまった。
 さらに深刻なのは、IPO市場においてシリコンバレーのスタートアップに優位性がなくなり、ベンチャーキャピタルの資金が、中国に向かっていることである。
 そのため、シリコンバレーでは「新マルクス主義」とでもいうようなイデオロギーや技術的展望を取り入れ始めた。
 もしかしたら、あなたは、誰よりも強欲で、成功しているように見える資本家たちを、なぜ「新マルクス主義」と呼ぶのかと不思議に思うかもしれない。
 マルクス主義に関してよく議論になるのは、革命期の不満の受け皿、労働者の暴動、絆の剥奪、私有財産の否定、様々な階級、生産手段の強奪といったテーマである。ただし、その根底には、「19世紀の産業革命が生産の根本的な問題を解決した」という前提がある。
 マルクスによると、第一次産業革命は蒸気機関、鉄道、電力、タービンなどの「闇のサタンの工場」による産業の大躍進である。
 マルクスは、将来の経済問題は「不足しているものをどのように生産するか?」ではなく、「大量にあるものをどのように分配するか?」になると確信していた。
(中略)
 シリコンバレーの巨人たちの新マルクス主義は、かつてのマルクス主義と同じ考え違いをしており、蒸気機関や電気に代わってシリコンマイクロチップや人工知能、機械学習、クラウドコンピューティング、アルゴリズムを使った生物学、ロボット工学などの現代技術が、人間の「最終的」な功績だと信じている。
 そうしたアルゴリズムに頼った終末は、人間の頭脳を確実に廃れさせてしまうだろう。
 その発想は、まさに一時的な視野偏狭であり、近視眼的発想である。
 自分たちの時代の成果、自分たちの企業、自分たち独自の考え方や妄想、さらには自分たち自身を過大視している。
 もし、グーグルが開発した「Go」が使われているマシンと様々な気象理論が歴史的成果につながったとしたら、きっと、すべて自分たちの成果にしてしまうのだろう。
 奇妙なことに、このような「思い込み」はシリコンバレーに批判的な人たちにも共通して見られる。
 シリコンバレーに否定的な立場の人たちも、理想とする立場の人たちも、皆がグーグルをはじめとする企業が圧倒的な情報と知識を握り、驚異的な競争力と発想を持ち合わせていると思っている。ダーウィンの『種の起源』と同様、AIが人間の意味を再定義すると信じているのだ。
 ダーウィンは人間を「類人猿が偶然変異した別の動物」と考えた。
 それに対して、グーグルの新マルクス主義者たちは、人間を「自社のアルゴリズムよりも知的レベルが劣る存在」と位置づけている。
 本書は、そうした主張に異を唱えるために執筆した。

『グーグルが消える日』 第1章 より ジョージ・ギルダー:著 武田玲子:訳 SBクリエイティブ:刊

 グーグルが築き上げた現在の世界システムは、限界を迎えつつある。
 ギルダーさんは、現在の新マルクス主義は「妄想」だと言い切ります。

 本書は、グーグルが創り上げた世界システムの問題点を解説し、「グーグル後の世界」はどうなるのかをわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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グーグルがつくり上げた「世界システム」

 グーグルは、世界システムを開発し、実現した史上初の企業として位置づけられます。

 ギルダーさんは、グーグルは、世界を席巻する「知識の理論」と「頭脳の理論」によって、貨幣ならびに市場経済の新たな概念と倫理観を提示したと指摘します。

 グーグルの「知識の理論」は、「ビッグデータ」と呼ばれる。
 新たなデータは解釈され、知識として蓄積、調整されるという、ニュートンが提唱した法則は、シンプルだ。誰でも物理学や微積分学の実践が可能で、その研究や成果を生み出せる。
 世界の各国の大学、多くの高校、数々の企業が提供するツールが、そのサポートまでしてくれる。この瞬間も、膨大な数のエンジニアが、人類の知識を蓄積し、データを解釈している。
 一方の「ビッグデータ」は、ニュートンとは正反対の発想でもある。
 人間の脳がゆっくり、不器用に一歩一歩行っていた知識の検索を、「世界中のすべてのデータをひとつの『場所』に集められる」「それらを分析する包括的なアルゴリズムをかける」という2つの条件がそろえば、代替可能だと考える。

「ビッグデータ」を支えるのは、AIの研究から生まれた「頭脳の理論」である。
 この理論によると、脳は基本的にアルゴリズム的に機能し、何度もデータ処理を繰り返して結論に至る。
 しかし、脳の研究では、脳は理論的というより、かなり感覚的にデータを処理することがわかっている。
 それにもかかわらず、AI研究の方向性は、まったく変わっていない。
 役になりきった俳優のように、脳が論理的機械で「あるかのように」行動するのがAI業界の責務だと思っている。だから、人間の知能を複製する作業の多くは、コンピュータの処理操作を一層早くすることにばかり注力し続けているのだ。
 しかも、AI推進者たちは無限のデータを処理する超高速機械が、特定の作業だけでなく、すべての作業で人間の頭脳に勝てると主張しており、グーグルの知識や頭脳の理論は、単なる理論演習にとどまらない。それらの影響を受けて、グーグルのビジネスモデルも「検索」から「満足」に進化している。
 グーグルは、十分なデータと十分な処理能力で、何が私たちの願望を満たすのかを、私たち以上に知ることが、成功への道筋だと考えているのだ。

『グーグルが消える日』 第2章 より ジョージ・ギルダー:著 武田玲子:訳 SBクリエイティブ:刊

 この世界の森羅万象は、すべてデータとして吸い上げることができる。
 そして、それらの関係性はコンピュータの処理速度を上げ、AIの能力を上げるることですべて解き明かすことができる。

 グーグルは、本気でそう考えているのかもしれません。

 AIは、本当に人間の脳を超えて、「神」の領域に入っていくのか。
 人間の未来を左右する、大きな疑問です。

これから、世界はどう変わるのか?

「グーグル後の世界」とは、どのようなものなのでしょう。

 ギルダーさんは、階層的なグーグルと同様に、「グーグル後の世界」もおそらく階層的だろうと述べています。

 グーグルはトップダウンだが、「グーグル後の世界」はボトムアップになるだろう。
 グーグルは何層にも重なる不安感によって支配され、その穴だらけの状況がカネと権力をトップに集中させている。
 一方、「グーグル後の世界」は、個人に安全な基盤があり、デジタル台帳に登録され、日時も記録されるので、そうした階層構造による権力の集中を防げるだろう。
 現在、グーグルがあなたの情報を管理し、無料で活用しているが、「グーグル後の世界」では自分の情報を自分で管理し、その価格を自由に決められるようになる。
 ブレンダン・アイクが立ち上げたブラウザBrave(ブレイブ)を試してほしい。アイクは、プログラミング言語Javaスクリプトをつくり、MozillaのCEOだった人物である。
 Braveにおいて、あなたのデータはあなたのものであり、その価格もあなたが決められる。グーグルが思い描いているのは、「AIを通じてマシンが席巻する時代」だが、マシンを支配するのはあなたである。
 マシンは、まるで「知性ある熱心な奴隷」のように、あなたの役に立ってくれることだろう。
 あなたは「オラクル」となり、自分の人生を構築し、自分のツールを支配する。
「グーグルの世界」では、希少性の法則や価格の波を避けようとするが、「グーグル後の世界」では有料情報があふれ、自分のほしいものや必要なものが最も効率的に手に入るようになる。
 スピードやパワーよりも、作業に対する対価が大切になる。「無料」という無作法な原則は、フリーマーケットや少額決済の物々交換の場に移っていくだろう。
 グーグルの世界では、多様性をふるいにかけてユーザーを疲弊させ、適合性という名のブレンダーに取り込もうとする一方、「グーグル後の世界」は、独自性と個人の選択が前提になるだろう。
 また、新興企業のIPOによる上場を阻止し、過去20年間で90%も減少させたグーグルの世界に対して、「グーグル後の世界」は多彩な新しい道を提供してくれるはずだ。初期の少額投資、モノや行動の提供、クラウドファンディングなど、すでに新たなデバイスが新世代の起業家の力になっている。
 グーグルやライバル企業のM&A部門に列をなしている「ユニコーン企業」(企業評価額が10億ドルを超える非上場のベンチャー企業)は、上場に向かう「ガゼル企業」(雇用を創出し成長著しい新興企業)に追い散らされ、最終的には立場が逆転しているだろう。
 グーグルはユーザーの注目を集めるため、あちこちに広告を出しているが、「グーグル後の世界」ではユーザーが自分の意志で、好きなときに広告を見られるようになり、その時間と注目に対して費用が支払われるだろう。そして、その先駆けはBraveである。
 貨幣は、「魔法の杖」ではなく指標となる棒切れにすぎない。けっして豊かさそのものではなく、その判定指標なのだ。
 グーグルの世界の貨幣は、1日あたり5兆ドル(世界のモノやサービスの取引の75倍に相当)の通貨のやりとりのために存在しているが、「グーグル後の世界」では価値を操作するのではなく、価値の指標となる貨幣を、仲介者なく自由に使えるようになる。

『グーグルが消える日』 第5章 より ジョージ・ギルダー:著 武田玲子:訳 SBクリエイティブ:刊

 グーグルの世界では、ユーザーである私たちはシステムに組み込まれています。
 グーグル後の世界では、逆に、新たな側面、新しい生活や経験の選択肢を見せてくれます。

 さまざまな選択肢が提供され、それらの中から、私たち自身が第三者を仲介させることなく、自由に選べる。
 暗号技術などの進歩により、そんな画期的な世界が間近に迫っているのですね。

膨れ上がるエネルギー消費

 中央集権的なネットワークシステムを構築するグーグルの“アキレス腱”ともいえる弱点。
 それは、「コンピュータのエネルギー効率の悪さ」です。

 ギルダーさんは、人間の推計エネルギー消費量が14ワットなのに対して、コンピュータおよびネットワークは、グーグルのデータセンターでギガワット単位の電力を消費していると述べています。

 ノイマン型マシンに投入する知識が増えるにつれ、メモリも増え、容量が小さくなり、平均的なデータアドレスが遠くなるので、マシンの処理スピードが遅くなる。
 パラレル・スーパーコンピュータを開発したシンキング・マシーンズの共同創業者であるダニー・ヒリスは次のように言う。
「この非効率性は、どんなにプロセッサーを高速化しても解消されない。なぜならコンピュータ処理の時間は、データがプロセッサーとメモリの間を移動する時間によって大きく左右されるからだ」
 コンピュータ処理ごとにかかる時間は光速で決まり、チップ上では1秒あたり約23万キロである。現在のところ、チップに約100キロものワイヤーが使われていることを考えれば、かなりの時間を要することになる。
 ダリーは、逐次コンピュータの限界を実感した。
 今や、多くのコンピュータ(スマートフォン、タブレット、ラップトップ、さらに自動運転の車)が、コンセントで壁につながっていない。スーパーコンピュータやデータセンターも、電力の問題に苦慮している。
 コンピュータの冷却には、巨大なファンを回すにしてもエアコンをつけるにしても、川や氷河に近い立地に頼るにしても膨大なエネルギーが必要になる。
 ちなみに、ヘルツルは、「データセンターの電力のほとんどは熱になっているので、従来の定義では、ほとんど『仕事』をしていないことになる」と語っている。
 エネルギーと光速という壁に直面したチップのアーキテクチャーは、必然的にモジュール化、非同期化、並列化が進むだろう。アインシュタインが相対論的世界における事物をあらわした言葉と同じく、プロセッサー時空間の「軟体動物」と呼べそうだ。その小宇宙では、宇宙空間で「光年」が距離単位になるのと同じように、光の進む距離が1つの集積回路のサイズ指標になるだろう。そうなると、人間の知性が分散しているのと同じように、コンピュータの処理能力も分散せざるを得なくなる。
(中略)
 今後、コンピュータ業界は大型コンピュータのメガワット級の電力消費量や、データセンターの大型エアコン設備の空調費用よりも、人間の脳のエネルギー消費の仕組みに関心をもつことになるだろう。
 また、すべてのコンピュータが、バッテリー式スマートフォン業界で開発された省エネテクニックを導入し、実際の脳のエネルギー効率を探求しなければならない。
「プログラム可能なコンピュータ」と「プログラマー」の間には、大きな違いがある。
 コンピュータは「決定論的」で、人間は「創造的」なのだ。したがって、AIは、人間の脳の代わりではなく、人間の脳を再現する方向に向かうはずである。

『グーグルが消える日』 第7章 より ジョージ・ギルダー:著 武田玲子:訳 SBクリエイティブ:刊

 コンピュータ(AI)が、人間の脳のように、より効率的に、より創造的になる。
 そうなると、必然的に中央管理的なシステムではなく、細かく分散化されたシステムになっていきそうですね。

 コンピュータ(AI)が、これからどのような方向に進化していくのか。
 それが「グーグル後の世界」がどのような姿になるのかに直結しているということです。

AIは、人間を超越できない

「AIは、いずれ人間の脳を完全に超越してしまうだろう」

 そんな説が、まことしやかに世の中に流れていますね。

 ギルダーさんは、AIには、「オラクル(神託)」、つまりシステムの外部からの知性の供給が必要であり、そのオラクルは「機械のはずがない」ことは確かだと疑問を呈しています。

 そのオラクルが「機械のはずがない」のは、コンピュータのロジカルマシンが必要とする仮定や公理、手順を人間が提供しなければならないからだ。
 AI研究が見落としているのは、「意識が思考から“生まれる”わけではない」ことである。
 逆に、意識から思考が生まれるのだ。

 機械の中に様々な歯車を見つけられるが、認識力は見当たらない。オラクルとなるプログラマーは、外部にいなければならない。ソフトウエアプログラマーが、なぜ本人の仕事の本質がわからないのか私にはさっぱり理解できない。
(中略)
 意識を左右するのは「信念」、つまり十分に知識がなくても行動する能力、驚いたり驚かせたりする能力である。機械は本質的に意識を持たない。「決定論的秩序状態」である。驚いたり驚かせたりする能力もなく、自制的で確定的な存在である。
 意識のない体は、外部からの影響を受けない論理システムにすぎない。そのシステムは、ゲーデルやチューリングも実証したように、必然的に不完全で「オラクル」を必要とする。この不完全性を知ることこそが人間の条件であり、それは直感的に感じられ、意識としてあらわれる。
「自我」は、論理の機械ではなく、信念から生まれるものである。
 真の科学は、宇宙が”稀有な”創造物であることを明らかにしている。
 創造物とは、人間の意識のように、高次の意識による無秩序な産物である。この高次の意識とは、歴史的に「神」と呼ぶのが都合がよいと我々人間は知っており、神は創造力を持つ人間に対して、驚くようなものをつくり出す余地を与えている。
 仮に、ここを宇宙について考えるミラールームとしよう。
 知性が反射している。意識は創造物の先を進み、言葉も肉体に先行する。
 仮想現実の父と呼ばれる科学者ジャロン・ラニア―は次のように述べている。
「最近のデジタル文化の大きな間違いは、人間のネットワークを細かく切りきざみ、ボロボロにしてしまったことだ。その結果、ネットワークで結ばれた生身の人間より、ネットワークという抽象概念に注意が集まり始めている。ネットワークそのものに意味はなく、意味があるのは人間だけである」
 AIは、シンボルと対象を結びつけられる人間の知性には勝てない。
 人間の頭脳にシンボルのシステムと言語を提供してもらい、解の導出に向けた反復と最適化のための目標・報酬スキーム、標的配列を構築する。そうしたアウトプットを生み出すために、複雑なアルゴリズムの中を次々とやってくるインプット構成されているAIには、思考能力がない。
 思考は、意識や意志であり、想像や創造である。ギガヘルツの速度で稼働し、チェスや囲碁のような決定論的ゲームをするコンピュータは機械にすぎない。超人的なのは、あくまで計算が超人的というだけだ。

『グーグルが消える日』 第9章 より ジョージ・ギルダー:著 武田玲子:訳 SBクリエイティブ:刊

 プログラムの世界では、「バグ」として処理されるようなもの。
 例えば、突拍子もない思いつき、ひらめき、妄想、思い違いなど。

 それらは、コンピュータがいくら進歩しても、生み出すことができません。
 人間の人間たる所以は、「意識」を持っていることにあります。

 これからの時代は、論理的な部分はAIが、創造的な部分は人間の脳が、と役割分担がより明確になっていくでしょう。

 人間が、より人間らしく生きられる時代がきた、といえるのかもしれませんね。

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 グーグルによる世界システムは、人間の意識よりも物質的環境、人間の知性よりも人工知能、人間の学習よりも機械学習、真実の追究よりも相対主義的な研究、創造よりも模倣、階層的世界で人間の力を授けるよりも、フラットな宇宙で人間の階層を展開することを重視しています。

 私たちは、そんな人間の頭脳ではなく機械の優位性が尊重されるシステムを変えていくべきときに来ているのかもしれません。

 果たしたて、ギルダーさんが予言されているような、人間が主導権を握る、真の創造的な世界は来るのか。
 近い将来訪れるであろう「グーグル後の世界」が待ち遠しい気もしますね。

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