本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『部下に9割任せる!』(吉田幸弘)

 お薦めの本の紹介です。
 吉田幸弘さんの『部下に9割任せる!』です。

 吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)さんは、コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・上司向けコーチです。

リーダーは、頑張りすぎると、うまくいかない

 昇格して部下を束ねるマネージャーの立場になったとたんに、仕事がうまく回らなくなる。

 そんな壁にぶち当たり、挫折を味わったビジネスパーソンは多いです。

 その大きな理由の一つが「部下に任せられない」ことにあります。
 プレイヤーとして優秀な人ほど、その傾向は大きいようです。

 私が講演を通して知り合ったある会社のリーダーAさんの話です。
 Aさんはプレイヤーとしても非常に優秀で、昇格して1年ほど経過していました。部下をしっかり管理する必要があると思い、日報を通して行動を細かくチェックしていました。
 また、1on1の面談では、事前に部下の問題点を抽出したうえで課題を設定し、自分が話を主導する形で教え込んでいました。しかし、部下は思い通りに動いてくれず、問題も解決しませんでした。さらにはチームの状態がかんばしくないので、Aさん自身が現場に出て、業績を上げようと努力しました。
 しかし、チームの状態は最悪のままでした。それどころか、悪化していきました。
 Aさんは、プレイヤーとしての仕事が忙しくなったうえに、リーダーとしての仕事がおろそかになる――このような状態の繰り返しでした。
 Aさん自身もかなりのストレスを抱えるようになり、イライラして部下や関連部署の人とぶつかることが増えていたそうです。残業も夜遅くまで続いていました。
 困った挙げ句、私の講演に参加し、終了後に相談にいらっしゃいました。
 明らかにAさんは自分主導で仕事をやりすぎていました。
 実はこのように部下に任せられないタイプのリーダーの方は少なくありません。
 優秀で一生懸命がんばっているのに悪いほうに動いてしまう――このようなリーダーの方たちを研修や講演を通して、これまでたくさん見てきました。
 Aさん以外のリーダーの方々にもお話をうかがうと、次のような意見が出てきます。

「部下が前に失敗して困ったから簡単な作業しか任せていない」
「チームの業務をすべて自分が見ようとしている」
「部下に相談するなんて情けないので、自分1人ですべてのことを決める」
「会議や面談は自分が主導になって進めていかなくてはならない」
「部下の前で自分の欠点などを見せたらナメられてしまう」
「ナンバー2の部下に任せたら、ラクしようとしているように思われそう」
「リーダーはすべての面において、部下に勝っていなければならない」

 任せられない人は、責任感の強い真面目な人なのです。
 だからこそ自分ですべてを抱えてしまう。
 ところが、そのがんばりがかえって仇になってしまい、チーム全体の力を低下させてしまいます。そてし、部下のモチベーションも下げてしまうのです。
 一生懸命やっているのに苦しんでる
 こうしたリーダーの方々のお力になりたいと思い、本書を執筆することにしました。

『部下に9割任せる!』 はじめに より 吉田幸弘:著 フォレスト出版:刊

 吉田さんは、リーダーとしての素養は後天的に自分の努力次第で身につけることができると述べています。

 本書は、部下に仕事を任せ、リーダーが元気になるための考え方と技術をわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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部下の力を引き出す「サーバントリーダーシップ」

 吉田さんは、「サーバントリーダーシップ(奉仕・支援型リーダーシップ)」を持って部下に接すれば、部下自身が考えて行動してくれると述べています。

 なぜなら、サーバントリーダーシップとは、部下たち1人1人の自主性を重んじつつ、成長をうながすリーダーシップスタイルだからです。

 私が以前研修をしていた会社では、「黙ってオレについて来い」というタイプのリーダーが多かったため、ほとんどの部下が自分で考えることをしていませんでした。
 そこでリーダーの方たちにサーバントリーダーシップの考え方を取り入れてもらったのです。
 すると、部下たちは徐々に仕事を「自分ごと」として考えて、自発的に行動するようになりました。
 また、部下たちの想像力、思考力がアップしただけではなく、責任感も身につきました。そして、会社全体の業績も大きくアップしたのです。
 今の時代には、「リーダーに昇格するとみんなをぐいぐい引っ張らなきゃいけないから、自分には向いていないな」とか「自分にはカリスマ性がないからなあ・・・・・」などと思っているような人の中にこそ、リーダーにふさわしい人がいるのです。
 これまで私がいろいろな会社を見てきた中で、他人の痛みがわかり、部下が接しやすいと思えるリーダーのほうが、結果的にリーダーシップを発揮できていました。
 今は、チームのメンバーと横並びのパートナーのような関係を作れるリーダーこそ、リーダーシップを発揮しています。
 何より、そのほうが個々のメンバーが持つポテンシャルを引き出しやすいのです。
 また、会社の外部からはカリスマのように思われているリーダーのなかにも、実はサーバントリーダーシップを実践していた人はたくさんいます。
 たとえば、「やってみなはれ」が口グセだったパナソニック創業者の松下幸之助、ものをつくる力はあるが、売るのが苦手で藤沢武夫のフォロワー役に徹したホンダ創業者の本田宗一郎、打者出身であるために投手のことはコーチにすべて任せていた元中日ドラゴンズ監督の落合博満といった人たちです。
 また、全国展開する居酒屋チェーン「塚田農場」では、各店舗に自由予算枠を与え、その範囲内であれば、現場の判断でさまざまなサービスを提供できるようにしているそうです。つまり、現場スタッフが自発的に動ける仕組みになっているのです。結果、同社のリピート率は居酒屋業界平均の倍以上になっています。
 また、マンガ『ワンピース』が大人気になったのも、主人公のルフィーがみんなを引っ張るタイプではなく、仲間のいいところを上手に引き出すリーダーだからというのも大きいでしょう。
 今後、サーバントリーダーシップの必要性がますます高まることは間違いないでしょう。

『部下に9割任せる!』 第1章 より 吉田幸弘:著 フォレスト出版:刊

図 従来のリーダーシップとサーバントリーダーシップの違い 部下に9割まかせる 第1章
図.従来のリーダーシップとサーバントリーダーシップの違い
(『部下に9割任せる!』 第1章 より抜粋)

 先頭に立って、部下をぐいぐいと引っ張る。
 そんな“機関車”のような人だけが、リーダーに向いているわけではありません。

 下から支えながら、全員を同じ方向に向けさせて目的地に導く。
 これからは、そんな“レール”のようなリーダーが求められるということです。

「部下の信頼」を失う言動に注意する

 サーバントリーダーシップを身につけるために大切なこと。
 そのひとつが「部下の信頼を失う言動に注意する」ことです。

 あなたにとっては気軽に言ったひと言であっても、部下はしっかり覚えています。「言ったのにやらなかった」では部下の信頼を失います。
 部下は「あれっ、頼んだのにやってくれないんですか?」とは言いませんから、知らぬ間に信頼を失うわけです。
 まるで、商品に問題があっても文句は言わないけれど、次からは買わない「サイレントクレーマー」と同じです。
 ですから、部下に言ったことはどんな些細なことであっても期日通りに実行するようにしましょう。
 しかし、そうはいってもリーダーも人間です。間違えること、失敗すること、忘れてしまうこともあるでしょう。
 そのような場合は、きちんと謝るようにしましょう。部下にきちんと謝れるリーダーは信頼されます。

 また、以前言ったことと違うことを言わないようにする、一貫性を保つことも重要です。
 たとえば、月曜日の会議で「今月は新規に力を入れよう」と言っておきながら、水曜日には「今月は既存顧客の拡販に力を入れるぞ」といった具合に、言うことをコロコロ変えるのはよくありません。
 しかし、ビジネスを取り巻く状況が変化すれば、朝言ったことと違うことを夕方に言わなくてはならないケースはよくあることです。
 また、正しいと思って決めたことが、あとから間違えていることが判明したということもあるでしょう。
 このような場合、言うことが変わったことの「理由」と「背景」をリーダーが自分の言葉でしっかり説明できれば、部下は納得します。
 ここで、「上層部の指示だから」「そうなったのだから仕方ない」などと言うと、部下はリーダーを信頼しなくなります。
 仕事をするとき、「自分ごと」として取り組めるか、あるいは「他人事のやらされ仕事」と感じてしまうかは「その仕事をする理由と背景」が明確かどうかにかかっています。
 なお「朝令暮改」は、多少は仕方ないにしても、言うことがあまりにもコロコロ変わりすぎると、信頼を失うので注意が必要です。
 口に出す前にそれが適切かどうかをきちんと吟味するようにしましょう。

『部下に9割任せる!』 第2章 より 吉田幸弘:著 フォレスト出版:刊

 サーバントリーダーシップは、部下に自発的に動いてもらうことが必須となります。

 言うことをコロコロ変えない。
 約束したことは必ず守る。

 誰に対しても大切なことですが、部下だからこそ、とくに気をつけたいですね。

「なぜ」を使わない

 多くのリーダーが抱える悩みに、「部下から報連相が上がってこない」ことがあります。

 吉田さんは、その解決方法のひとつとして、『「なぜ」を使わない』ことを挙げています。

 皆さんの中には「なぜと聞くことは大切ではないか」と反発したくなった方もいらっしゃるかもしれせん。
 確かに要因を考え、掘り下げていくことは必要です
 トヨタやリクルートなどでは「なぜを5回繰り返す」といわれていますし、私も大切だと思います。
 ただし、気をつけなければいけないのは、「なぜ」は自分に問いかけるときにだけ使う言葉だということです。
 たとえば、計画と結果がかけ離れてしまったときにその要因を検証する、あるいは新規のアイデアを考えたりするといった場合です。
 このようにな自分への問いかけとして「なぜ」を使うことはいいのですが、部下に対して使うのは良くありません。

「なぜ、期限に間に合わなかったんだ?」
「なぜ、競合他社に受注を奪われてしまったのか?」
「なぜ、見積もりを間違えたんだ?」

 このように「なぜ」と言われると、言われた側は自分が責められていると感じてしまうのです。特に、立場の弱い部下にとっては、上司の「なぜ」という言葉には強い圧迫感があります。
 極端な話、部下に対して「なぜ」という言葉を使うリーダーが世の中から減るだけで、職場でメンタル不全に陥る人が減ると言っても過言ではないと思います。
 ただ、ここで誤解していただきたくないのは、「Why(原因・理由)」を分析する「なぜ」という言葉が良くないだけなのです。
 そこで「なぜ」を「何」に変えるようにしましょう。
 先ほどの3つの例文を「なぜ」から「何」に変えてみます。

「何が原因で、期限に間に合わなかったのだろう?」
「競合他社に奪われてしまった要因は何だろう?」
「見積もりを間違えた原因は何かな?」

 先ほどに比べると、聞かれたほうも気持ちが楽になるのではないでしょうか。
「なぜ」が「責められている」と感じさせるのに対して、「何」は人ではなく起きた出来事や事象に焦点を当てています。そのため、聞かれた側は第三者の視点に立てて、解決策を考える余裕が生まれます。
「失敗した部下に厳しくしなくてどうするのだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、大切なのは脅威を感じさせることではなく、今後の行動改善につなげることです。
 そのために、失敗を自分で冷静に考えさせるのです。

『部下に9割任せる!』 第3章 より 吉田幸弘:著 フォレスト出版:刊

 たしかに、上司から「なぜ」と問われると、責められているような感覚になりますね。
 報告をするたびに「なぜ」と問われ続けると、部下の方が敬遠してしまうのも、うなずけます。

「なぜ」を「何」に変える。
 それだけで部下とのコミュニケーションがよくなるのですから、試してみない手はないですね。

「相談」で部下のやる気を引き出す

 人は「指示された通りにやる」よりも、「自分で考えてやる」ほうがモチベーションが上がります。

 吉田さんは、部下の自主性に任せて権限委譲(エンパワーメント)をすることで、部下も成長すると述べています。

 部下が仕事を「自分ごと」ととらえて、自主的に取り組むようする。
 そのためには、上司は部下に対して「命令」ではなく「相談」を心がけることです。

 仮に、あなたが部下に売上が目標に到達していないことを指摘するとします。
 次の2つの言い方のうち、部下のやる気が出るのはどちらでしょうか?

1 「おい、あと1000万円、残り10日で何とかしろよ!」
2 「残り10日であと1000万円か・・・・・、なんとかならないかな?」

 当然、2の言い方のほうが、なんとかしようと思うでしょう。
 また、相談されたので、部下のほうも何か答えなくてはと思い、解決策を考えるようになります。このように、相談や質問の形式にすることで、部下に「考えもらう」ことができるのです。
 反対に、次のように言われたら、部下はどう思うでしょうか?

「おい、あと1000万円、残り10日で何とかしろよ! 来月のこともあるし、何か解決策を考えてくれ」

 このような命令口調で伝えると、部下は「やらされ感」を抱きます。また、仕事を「丸投げ」されたようにも感じます。
 ですから、部下に何かを頼んだり、仕事を任せたいときは「命令」ではなく「相談」の形にしましょう。

 ×「年末のパーティの会場を押さえておいて」
 ×「セミナーのチラシ作成、次回から任せたから」
 ×「来月からE社の担当よろしく」

 言われたほうは押しつけられている気がしますよね。
 相談形式に変えてみましょう。

 ○「年末のパーティの会場、どこがいいだろうか? どこかおすすめの場所ある?」
 ○「セミナーのチラシの作成、次回から担当してもらえないかな?」
 ○「Gさんが異動したから、代わりにE社の担当をお願いできるかな?」

 同じ内容ですが、相談形式にするだけで、言われたほうは「頼られているな」と感じますし、心理的安全性も満たされます。
 それだけではありません。命令だと「やっつけ仕事」になってしまうかもしれませんが、相談ならば部下が「自分ごと」と感じて、仕事のクオリティも上がるでしょう。

『部下に9割任せる!』 第4章 より 吉田幸弘:著 フォレスト出版:刊

 上から「やれ!」と押さえつけられると、反発したくなりますし、やる気も削がれますね。

 上司が部下の目線まで下がって、対等の立場で相談されると、頼りにされている感じます。
 やる気も出ますし、「自分ごと」として取り組もうとするでしょう。

 言い方一つで、相手に対する印象がまったく変わってくる。
 その典型的な例ですね。

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 吉田さんは、成果と実現度、つまり「大きく変わる可能性のあること」や「自分が実現できそうなこと」から取り組んでいくことを勧めています。

 欲張りして、いっぺんに色々変えようとしても、結局、どれもうまくいかない。
 そうなっては元も子もないですね。

 千里の道も一歩から。
 できることから着実に身に着けていくことが、上達の秘訣です。

 部下がやる気を出し、自分で動き、結果を出す。
 部下を引っ張るのではなく、下から支える。

 私たちも、新しいリーダーシップのあり方を、ぜひ、本書から学びたいですね。

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