本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『RAPPORT 最強の心理術』(ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン)

お薦めの本の紹介です。
ローレンス・アリソンさんとエミリー・アリソンさんの『RAPPORT 最強の心理術―――謙虚なネズミが、独善的なライオンを動かす方法』です。

RAPPORT 最強の心理術―――謙虚なネズミが、独善的なライオンを動かす方法 (三笠書房 電子書籍)

ローレンス・アリソン(Laurence Alison)さんは、リバプール大学の教授です。
これまで、ロンドン同時爆破テロ(2005年)などへの対応や、無数のレイプや殺人事件の捜査など、400件以上の重大インシデントの主要な心理的デブリーフィング(大規模災害や悲惨な事故などで精神的ショックを経験した人に対する支援)を担当されてきました。

エミリー・アリソン(Emily Alison)さんは、リバプール大学の研究員です。
20年以上にわたり、暴力や虐待などで人間関係が崩壊した家族の治療法を考案し、実施されてきました。
その治療プログラムは、イギリスの80以上の学校、10以上の犯罪対策チーム、その他多くのケアサービスや警察の専門チームで採用されています。

人間関係を動かす原則「ラポール」とは?

アリソン夫妻は、心の結びつき、すなわちラポールを形成するための公式には、具体的な「構成要素」があると指摘します。

 ラポールという用語は頻繁に使われているが、具体的に定義するのは難しい。いったい「だれかとラポール形成する」とはどういう意味なのか。2人の人間がいて、心が「カチリ」と音を立てて結びつくことがラポールだと、たいていの場合には理解されている。辞書を引くと、ラポールとは、「お互いの同意、相互理解、および共感によって特徴づけられる調和的関係」ということがわかる。言い換えれば、ラポールとは2人の人間がお互いに「知り合う」ことで形成されるのだ。
こう言うと、なんだ、単純でわかりやすい話ではないか、と思われるかもしれない。たとえラポールという言葉を定義できなくとも、ラポールができているのか、できていないのかはおそらく認識できるであろう。しかし、たまたまだれかとラポール形成ができたとして、「どのようにして」ラポール形成できたのか、みなさんはわかるだろうか。もしラポールを失ったとき、「なぜ」つながりをなくしてしまったのかがわかるだろうか。だれかと関係を持ちにくいなと感じるとき、どうして事態がそんな風になっているのかを診断することができるだろうか。読者のみなさんは、だれかとあっという間に、しかも簡単につながりを持つことができたという事例、いくつ思い浮かべることができるだろうか。
毎日毎日、私はだれかと関係を形成し、維持しているのだが、私たちの人付き合いがうまくいっているとき、その背後にはラポールがきちんと働いている。にもかかわらず、それに気づくことはほとんどない。どのようにして私たちは人間関係を形成しているのか、どのようにして維持しているのか。面識のない人との天気についてのたわいないおしゃべりもあれば、複雑で、何層にも入り組んだ非常に親しい間柄とのやりとりもある。しかし、たいていの人は、それらすべてをそっくり「ラポール」と呼ぶことで片付けてしまっている。これでは、ラポールの公式を学ぶことができないし、自然発生的にラポールが形成できないときに、どうやってラポールを作り出せばいいのかを理解することはさらに難しいであろう。

私たちは、ラポールの作り方を学ぶことができるのだろうか。心理学者としての私たち夫婦の研究によると、答えは完全にイエスだ。ラポール形成の公式を学べば、みなさんはどんな人が相手でも、今より満足できる関係を築くことができる。ラポール形成をするには、相手に共感する技術、あるいは相手に自分を合わせる技術など、たくさんの人間関係の技術を必要とする。それらの技術のうちで、もっとも大変なのは、自分のことばかりを考えるのではなく、自分の労力を費やして他の人に耳を傾け、相手のことを理解しようとする技術である。
多くの人にとって、これはものすごく難しい。私たちは、自分が一番ということに慣れているので、だれよりも大きな声を出し、他の人を黙らせるからである。相手が何を欲しているのかに耳を傾け、相手を理解しようとすることは、後部座席に座っているような戦略だと感じるかもしれない。しかし、相手に耳を傾けることで、みなさんは相手の望みが何かを知ることができ、その人と仲良くやっていけるか、それとも自分とぶつかり合う人なのかどうかを判断できる。相手が求めていることを理解することにより、うまく妥協点を見つけられるかどうか、あるいは、いくらかぶつかることがあっても自分の言い分を相手にわかってもらえるかどうかの判断ができる。
自分の言い分のほうを先に相手にわからせようとするのではなく、まずは相手の言い分を聞き、理解してあげることこそ、ラポールを形成するうえで、もっとも単純な、しかしもっとも重要なステップなのである。

『RAPPORT 最強の心理術』 プロローグ より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

ラポールは、人間関係を構築するうえで、自分に敵意を持っている相手、さらにテロリストや凶悪な犯罪者などに対する非常に困難な状況においてさえ、一番うまくいくやり方です。

本書は、アリソン夫妻が20年以上の研究で培った、ラポール形成の公式と具体的な活用方法をわかりやすく解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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ラポールの根幹となる「HEARの原則」

ラポールは、次の4つの基礎から成り立ちます。

1 正直さ(Honesty)  あなたが言いたいこと感情を伝えるときには、客観的で、直接的でなければならない


2 共感性(Empathy)  相手の核となる信念や価値観を認めてあげ、理解してあげなければならない


3 自律性(Autonomy) 相手にも自由意思があり、協力するかどうかは相手に決める権利がある、ということに共感を示さなければならない


4 反射 (Reflection)目標に向かって会話を進めたいのなら、大切なこと、意味のあることを探り出し、それをくり返して相手に伝えなければならない

アリソン夫妻は、この4つの法則の頭文字をとって「HEARの原則」と呼んでいます。

HEARの原則による会話アプローチの例として、以下のような例を挙げています。

 70代半ばのお父さんがいるとしよう。お父さんは、いつでも独立して生きていて、身体的にも健康で、有能で、何でもできる男であることを誇りに思っているとする。しかし、最近、黄斑変性のため、視力に影響があるだろうと医者に告げられた。あなたは、お父さんが運転するときに、事故でも起こしてケガをするのではないか、あるいは、他の人にケガを負わせてしまうのではないかと心配に思う。しかしまた、お父さんに二度と運転をさせないとしたら、お父さんの自尊心はひどく傷つけられることもわかっている。お父さんに、運転を止めるようにうまく伝えたいときには、どのような会話をしたらいいのかなど考えたことはないが、心の中では、それを告げることからずっと逃げつづけることもできないと感じている。

あなたなら、どういう会話をするのかをしばらく考えてみてほしい。あなたの会話に、お父さんはどう反応するだろうか。会話を始めることを考えると、恐怖でいっぱいになるだろう。もし恐怖を感じているのなら、自分の言いたいことをただ口に出すだけでも難しいかもしれない。結局は、口ごもったり、不明瞭なことしか言えないかもしれない。年配者の視力検査に関する新聞記事を見せて、さりげなくほのめかしたいと思うかもしれない。あるいは、「最近、運転のほうはどう? お父さん」と尋ねるかもしれない。
あなたのコメントに対するお父さんの反応はどんなことが考えられるだろうか。困惑だろうか。疑いだろうか。不快感だろうか。お父さんは、あなたが真に言いたいことをきちんと理解してくれるだろうか。怒りだすだろうか。言いたいことを理解してもらう必要はないのではないか。他にやり方があるのではないか。もしズルくて、まわりくどいやり方で伝えたとして、お父さんがあなたの言いたいことがわかったら、2倍も悩ませてしまうのではないか。第一に、自分の視力に関して悩まなければならないし、2つ目に、なぜあなたがまわりくどい言い方をしてきたのかについても悩まなければならなくなる。あなたが避けなければならないのは、お父さんの悩みを増すことではないか。

うまくいく可能性を高めたいなら、HEARの原則を使った会話を構成しよう。第一に、正直に(H)、直接的でなければならない。問題を暗示でほのめかすようなやり方はダメである。明確に、率直である必要がある。深く深呼吸して、問題の核心を伝えよう。
共感性(E)を示すことが必要である。難しい会話になることを認めなければならない。お父さんの反応を十分に予測し、その反応に理解を示すのである。話題を持ち出すだけでも、お父さんは防衛的になるかもしれないし、怒りだすかもしれない。お父さんがどういう態度に出てきても、それに対する準備をしておこう。つまり、こちらは決して怒ったりしないのである。
これらを踏まえると、会話は次のようになる。

あなた:お父さん、話したいことがあるの。簡単な話じゃないかもしれないけど(共感)
私が話したいのは、お父さんの視力についてなの。運転に支障があるんじゃないかと思うのよ(正直)
父  :(顔をあげることもせず)お父さんの視力は問題ない。運転も大丈夫だ。話すようなこともない。
あなた:わかったわ。でも私が気になっているのは、黄斑変性のことなの。お医者さんも言ってたでしょ。黄斑変性は進行性だから、視界の中心に影響し始めるだろうって(正直)。自分で運転することがお父さんにとってどれだけ大切なのかは、わかってるのよ(共感)。病気が治るためなら、何でもしてあげたいと思う(共感)。でも、病気が進行して、事故が起きて、お父さんがケガをしちゃったり、他のだれかにケガをさせてしまうのが心配なのよ(正直)
父  :(明らかにムッとした目を向けて)つまり、お前はお父さんから運転免許証を取り上げたいというわけだな。お前が生まれる前からずっと運転してきたし、これまで一度も事故を起こしたことがないのに、お前は私の運転を禁じたいのだな。

お父さんは怒っていて、防衛的である。しかし、それは予測できることだ。けれども、ここでひとつ重要なポイントがある。お父さんが怒ったり、防衛的になったりしたとき、あなたは本能的にどう反応するだろうか、ということだ。「お父さん。私はただお父さんの心配をしているだけよ。そういう言い方はフェアじゃないわ」と言ったりするのではないか。あるいは、「お父さん、私は運転禁止だなんて言ってないわ。話を大きくしないでよ。どうして私の話を聞いてくれないのよ」と言ったりするのではないか。
これでは、怒って、防衛的になっているのはどちらだろう。お父さんのやり方と同じ反応をとってはならない。お父さんが怒ることは、あらかじめわかっていたことではないか。であれば、人間関係を重視するという基礎を忘れず、HEARの原則を厳守しよう。つまり、お父さんの自律性(A)を最大限に尊重してあげるのだ。つまり、運転を止めるかどうかの判断は、お父さん自身に決めてもらうのである。最後に、お父さんがあなたに言っていることに慎重に耳を傾けて、あなたが聞き、理解したことをお父さんに反射(R)しよう。

あなた:お父さん、私に腹をたてるのはわかる。私がお父さんを責めているように聞こたのよね(反射)
父  :責めているのではないことはわかる。だが、まったく何の心配もいらないのにお前は心配している。
あなた:本当にそうだったらいいと思うわ、お父さん。お父さんは正しいと思う。1度も事故なんて起こしたことがないし。お父さんは素晴らしい運転手よ(反射)。でもね、視力が悪くなっているという、はっきりした事実もあるのよ(正直)。1日の終わりには、目が疲れていることが自分でもわかるでしょ。いつ運転を止めるのかをお父さんに決めてほしい。それは他の人にはできないから(自律性)
父  :うん(ため息をつきながら)。
あなた:私はただ、いつ問題が起きてしまうのかを話し合いたいだけなの(正直)。ひとつもお父さんの責任じゃないのよ(共感)。でも、事故なんて起こされることを考えると、私は怖くて(正直)
父  :わかる。事故なんて私も起こしたくはない。正直に言うと、今は問題ない。誓ってもいいが、視力は大丈夫だ。じゃなかったら、お父さんは今こうして生きていないだろう(父のジョーク)。真面目な話をすれば、本当に視力は悪くなっていなのか、問題を引き起こすかどうかをお前と話し合いたい。もしだれかにケガを負わせてしまうだろうと、自分でも納得できれば、運転をつづけたいとは思わない。

このやりとりでは、あなたは問題にだけ目を向けようとし、父親の怒りや防衛反応に応じようとしなかった。口論しようともしていないし、強い言い方もしていない。正直であろうという気持ち、理解を示そうという気持ちを持っているので、あなたが望んでいるように、この問題について将来的に話し合いを持つ、という重要なドアを開くことができたのである。あなたはまた、お父さんに何が問題なのかを悟らせることにも成功している。お父さんも、運転が危険でリスクを伴うようなら、運転を止めるとはっきり約束している。これは2人の間に行動的な契約が結ばれたということだ。
あなたは忍耐強く、父の約束を大切にしてあげる必要がある。お父さんは、あなたと話したことについて自分なりに消化した後で、それは1か月後になるか、1週間後になるか、あるいはその日の午後になるかはわからないが、あなたの元に戻ってくるだろう。そして、運転を止めるべきときがきたと言ってくれるかもしれない。大切なことは、ラポールの橋をしっかりと地につけて築き上げ、それを発展させることである。
このように会話を組み上げていくことは、慣れないうちは、何とも不便だと感じるかもしれない。何が目標なのかに焦点を当てつづけ、どんな言葉を使ったらよいかを慎重に考えつづけなければならない。これは必ずしも容易ではない。本能的な反応として、「もう止める」という休止ボタンを、際限なく押しまくりたいと思うかもしれない。しかし、くり返し練習をつづけ、この原則が会話の血肉になってしまえば、それが自然なやり方になり、努力なども感じなくなる。

『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 3 より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

自分の主張を相手に伝えるだけでは、自分の思い通りに動いてもらうのは無理です。
かえって、相手との間にある心の壁を高くしてしまうだけ。

心のつながりを作るには、まず相手の言い分を「聞く」こと。
そして、相手の立場を理解すること。

「HEARの原則」は、まさに人間関係の基本といえますね。

「リフレーミング」は、“究極の会話のラリー”

「HEARの原則」の中で、特に重要なのが「反射」の技術です。

反射とは、相手が言った内容の一部、あるいは文章全体をくり返して相手に聞かせるやり方のことです。

反射的傾聴の具体的なテクニックは、頭文字をとって「ソナー」(SONAR)とまとめられます(下の図1を参照)。

図1 ソナー SONAR の技術 RAPPORT 最強の心理術 CHAP4
図1.ソナー(SONAR)の技術
(『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 4 より抜粋)

反射のテクニックのうちで、もっとも難しいのが「リフレーミング」です。

 単純反射が直接的にオウム返しする方法で、両側反射が矛盾する内容に焦点を当てる方法だとすると、リフレーミングは、相手の発言を受け止め、その発言が意味しているところ、あるいは表面の下に沈んだ価値観や信念を推測することである。相手の発言のより深いレベルに目を向ける必要がある。そのためには、反射の蓋と、肯定的な要素を見つけ出すやり方をとらなければならない。
たとえ相手が語っていなくとも、その価値観や信念を正しく反射してあげれば、強力な効果をもたらす。彼らは、あなたが自分を深く理解してくれていると感じる。また、自分自身の心をよりはっきりと知ることができるようになる。
著者の一人エミリーが問題のある子どもを扱うときには、この戦術をいつでも使っていた。子どもたちは、しばしば権威に反抗する。授業をサボり、麻薬をやり、酒を飲み、犯罪に手を染める。彼らは、自分の人生などどうにもならない、だれも自分のことなどわかってくれないと感じる。それでいて、なぜルールは守らなければならないのかと感じている。そこで彼らには、自分自身に十分に価値かあることを気づかせてあげる必要がある。自分に価値があると思えば、自分の行動を変えることにも価値が出てくるからだ。私たちの価値観を彼らに押しつけても、彼らは変化しようという気持ちにならない。彼ら自身に、変化には意味があることを理解してもらわなければならない。そうしてこそ、彼らの行動変化はうまくいき、目標が達成できるのだということを覚えておこう。

私たちが取り組んだ女の子の一人は、信じられないほど聡明だったが、また信じられないくらい暴力的であった。その子はいつもケンカばかりで、停学処分を受けた。その子は、階段の上から、先生に向かって椅子を投げつけたことがある。また、他の生徒の指をケンカで骨折させたこともある。
私たちは、ありとあらゆる理由をぶつけて、彼女の行動をやめさせたいと思うかもしれない。成績に響くとか、卒業の見込みがなくなるとか、犯罪歴がついてしまうとか、他の人にケガを負わせてしまうとか、退学になるとか、刑務所に行くことになる、などだ。しかし彼女はそれらの理由など、まったく気にしないであろう。なぜなら、それらは彼女の価値観ではないからだ。私たちの作業は、彼女の行動を変えたいと思うような彼女の価値観を明らかにすることであった。
彼女は音楽が好きだった。彼女は、学校で実施されるDJ指導者プログラムに参加することを強く望んでいた。彼女の夢は、イビサ島(訳注:地中海のバレアレス諸島に属すると、スペイン領の島)にあるクラブでDJになることだったのだ。彼女は、世界中の音楽フェスでDJとしてツアーめぐりをしている自分を夢想していた。これが彼女を動かすレバーであった。私たちは、DJ指導者プログラムに参加するには、半年間、すべての授業にしっかりと出席しなければならないと話した。日数的に無理であったのだが、私たちは校長先生に掛け合って、もし彼女がこれからの4週間、すべての授業に完ぺきに出席するのなら参加を考慮してもらえるようにしてもらった。また私たちは、麻薬を使用していると授業に集中できなくなり、自分の夢を叶えられなくなってしまう、ということも話し合った。もし麻薬で逮捕されたりすると、海外ツアー、とりわけアメリカへのツアーには支障が生じるだろうとも伝えた。初めて、彼女の顔に心配が浮かんだ。自分のしていた行動が、他の人に脅威を与えることは彼女にとってはどうでもいいことだったが、自分の夢や目標を脅かすことに気づいたのである。それこそ、彼女が本当に気にかけていたことだったのだ。

次のいくつかの事例で、話し手の人物が抱えている核となる価値観と信念を見つけ出せるかどうかを試してみよう。どのように相手の発言をリフレーミングするのが正しいのかも考えてみよう。

マンディ(20歳)。大学2年生で奮闘中。
「現在は本当に大変。中間試験もあまりできなかったから、やる気も出てこない。私は生化学が好きで、高等学校では科学でトップだったのよ。だけど、今では、クラスの真ん中より上なら、たぶんラッキーなくらい」

何が問題なのか、わかっただろうか。
提案される答えはこうだ。

「大学では、高等学校の頃と比べてうまくやれていないと感じているのですね。あなたは一番ではなかったら何かをやる意味はない、と感じているのではないでしょうか」

トレバー(36歳)。妻に不満を抱えている。
「うんざりするくらいの作業があるんですよ。家に着くなり、紅茶を淹(い)れて、子どものスポーツの道具を洗って、子どもも洗ってあげて、ペットにエサをあげる。台所をきれいにして、子どもを寝かしつける。ああ〜! これがずっとつづくんですよ。私たちは疲れすぎちゃって、お互いに口もききません。夜に連れだって、外に出ることなど考えもしませんし、セックスについても忘れてます。時々ですけど、私は少しだけ長く車の中にとどまっています。そうすれば、うんざりするような私の人生に直面しないですみますからね」

提案される答え。

「あなたの生活が、平凡な作業で埋め尽くされているように感じているのですね。まったく楽しんだり、喜んだりする時間がないというのですね。家族としての生活が中心になってしまっていて、夫婦としての時間がまったく残されておらず、それを寂しいと思っているのではないでしょうか」

ブラッドレイ(27歳)。深い付き合いを望んでいる。
「今どきの、デートしている人たちはおかしいですよ。だれも深い付き合いを求めてません。相手が何に興味を持とうが、おかまいなしのように振る舞うんです。電話をかけなおしてくれなくとも、たとえ他のヤツと出かけていても、気にしてないように振る舞うんです。僕はそういうのが大嫌いなんです。自分にまったく興味を持ってくれない相手と、いったいどうやって付き合えいうんですか」

提案される答え。

「長く付き合える関係に興味を持ってくれる人がどこにもいない、とあなたは感じているようですね。しかし、あなたは、まさにそういう人を求めているのですよね。自分も相手に関心を持ちたいし、相手にも自分に関心を持ってもらいたいと思っているのですね」

すでに述べたように、リフレーミングは、あらゆるテクニックの中でももっとも難しく、かなりの練習を必要とする。相手の発言の裏側にある、より深いメッセージをあなたが理解しているという合図を送るキーフレーズを覚えておこう。
たとえば、「あなたは〇〇と感じていらっしゃるように思えます」「あなたは〇〇を気にしていらっしゃるのですね」などだ。これらのセリフを、あなたが関係改善を求める相手に、次回の会話で試してみてほしい。

『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 4 より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

リフレーミングを使うときのコツは、真心を持って、自分の判断をまじえず、相手に関心を持つことです。

会話という“言葉のラリー”を続けるには、相手が打ち返しやすい場所に、打ち返しやすいボールを打ってあげることが大事です。
リフレーミングを含めた「反射」は、そのために不可欠な技術だということですね。

4つの会話スタイルを示す「動物サークル」

どんなときでも、誰とでもラポールを形成する。
そのためにマスターする必要があるのが「動物サークル」です。

動物サークルとは、4つの基本的な会話スタイルを、4つの動物であらわしたものです。

4つの会話スタイルと、それを表す動物とは、以下のとおりです。

ティラノサウルス:衝突
ネズミ:追従
ライオン:コントロール
サル:協力

アリソンさんは、この4つの動物の相関関係を図に表し、以下のように解説しています(下の図2を参照)。

図2 人とのやりとりにおける動物サークル理論 RAPPORT 最強の心理術 CHAP5
図2.人とのやりとりにおける動物サークル理論
(『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 5 より抜粋)

 ライオンとネズミが、サークルにおける両端に位置していることは、すぐにわかる。ライオンとネズミの間にある縦軸の線は、「パワー」を意味する。どちらが相手にパワーを持ちたいのかということだ。もしあなたがライオンなら、追従してくるネズミの人のほうが望ましいと感じるだろう。相手にもライオンになってもらって、ともに競い合いたいとは思わない。多かれ少なかれ、相手には自分に追従してもらいたいと願う。
逆に、あなたがもしネズミのような追従者の立場をとる人なら、やりとりをする相手は、ライオンのように責任感のある人のほうが頼もしいと思えるだろう。
ようするに、パワーの次元における縦軸の線は、ライオンはネズミを求め、ネズミはライオンを求めることを意味している。
ティラノサウルスと猿も、お互いに対極にある。片方は衝突、片方は協力だ。しかし、ライオンとネズミはお互いに惹かれあう関係にあるのに対して、横軸の2つはお互いに反発しあう。この横軸の線は、「親密さ」に関係する次元だ。単純なレベルでいうと、ティラノサウルスは敵意をあらわし、サルは愛情をあらわしている。敵意は愛情を促すことはない。ただ、敵意を促す。愛情は愛情を促す。
もし私たちが衝突スタイルをとると、相手からも同じスタイルが返ってくる。同じように、私たちが、親密で、温かみがあり、協力的なスタイル、すなわちサルのスタイルを採用すると、相手からも同じものが返ってくることが期待できる。横軸は親密さの軸であり、反対のものは惹かれあうことはない。そうではなく、類は友を呼ぶ。衝突は衝突を招き、協力は協力を招く。
言うまでもないが、これは人間のやりとりを極端に単純化したものだ。しかし、簡略法として利用するなら、どの会話スタイルをとればいいのか、簡単に推測することができるだろう。

すべてのやりとりは、縦軸の「パワー」の次元と、横軸の「親密さ」の次元に基づく、一連の人間関係の“ルール”に従う。支配的なライオンの行動をとっていると、相手は追従的なネズミの行動をとってくる。
たとえば、もしあなたがクリスマスの夕食を作ろうとしていて、家族のメンバーにそれぞれにやるべきことを割り振って、「芽キャベツを刻んで、七面鳥に肉汁をかけて、ニンジンを刻んで、テーブルをセットして」などと指示しているときには、ライオンになっているかもしれない。あなたは家族のそれぞれに与えた作業を理解し、チームとして動いてもらいたいと思っているのだが、こういうときのあなたは、「私がライオンで、リーダーなのよ。みんなは私の指示に従うこと」と言っているのだ。
こちらが追従的なネズミの行動をとっていると、相手は支配的なライオンの行動をとりやすい。逆に、ライオンの行動をとっていると、相手はネズミになる。10代の子どもに、今日はどうだったかを話してもらいたいとき、あなたは穏やかな会話から始めるかもしれないが(友好的なサル)、子どもが、「普通」としか答えてくれないと、もっと詳しく話してほしくて、より強く質問してしまうかもしれない(威張ったライオン)。すると、子どもは、回避的な行動(静かなネズミ)で返してくるのである。

しかし、横軸の次元では、こちらがティラノサウルスの会話をすると、しばしば相手からも攻撃が返ってくる。だれかが議論のときに大声を出したり、罵ったりすると、相手からも同じ反応が返ってくる。両者とも、相手より上位に立とうとするので、議論が個人攻撃になってしまうということもよくある。
よくありがちな会話は次のような感じだ。「あなたが食器洗いの一番上に赤ちゃんのプラスチックを置くと、水が溢れちゃうのよ。だから、やめてね」これは、事実に基づいて、直接的な発言をしているので、合理的なお願いだといえる(ライオン)。
すると、相手は、「わかったよ、ごめん」と返答するだろう(ネズミ)。
しかし、次の答え方をすると、この流れがうまくいかなくなる。
「私は、もう100万回も言ってるわよね、どうして覚えられないの!」(ティラノサウルス)
こんな発言をすると、相手は先ほどとはうって変わって、攻撃的な反応を返してくる。
「本気で言ってんのか? 赤ちゃんの皿のことで、俺とやりあおうってんだな。少なくとも、俺は手伝ってんだよ。お前は、他のことでも心配してたほうがいいんじゃないか?」(ティラノサウルス)
ううむ、これでは口論だ。次には、お互いに相手の言うことを聞かなくなる可能性が高い。問題は自分にはなくて、相手にあることになってしまうからである。ライオンにはネズミが返ってくるのだが、ティラノサウルスにはティラノサウルスが返ってくるのだ。
同様に、こちらがサルの行動をとると、相手もサルの行動をとってくる。協力的で、温かみがあり、友好的になると、相手からも同じ反応が返ってくる。自分に対して友好的に振る舞ってくれる人からのお願いには、「ノー」と言いにくいという経験はないだろうか。最初は、固く拒絶しようと決めていても、相手が温かく、友好的に接してくると、こちらも友好的にならざるを得ないと感じるようになり、相手に協力してしまうのである。路上の客引きは、このテクニックを使っている。ものすごく大きな笑顔で近づいてきて、どこから来たのかとか、素敵な休日ですねと話しかけてくるのだ。そのため、あなたはオープントップバスのツアーチケットを買わされる羽目になるのである。
ほとんどあらゆるやりとりにおいて、私たちはこの4つの会話スタイルのひとつを使っている。会話をリードすることもあれば(ライオン)、相手についていくこともあれば(ネズミ)、協力的であることもあれば(サル)、ぶつかり合うこともあるのである(ティラノサウルス)。
人とのやりとりを診断するためにこの理論の簡略版を使うときには、単純に2つの質問を考えてみればよい。

1 この人は、心理的に私よりも上位に立ちたがっているのだろうか(ライオン)。
それとも、下位でいいと思っているのだろうか(ネズミ)。
2 この人は、私との関係をぶち壊しにしたいと思っているのだろうか(ティラノサウルス)。
それとも、私と抱擁したいのだろうか(サル)。

この質問により、相手が試みようとしている「パワー」がわかる。
この基本原則がわかれば、相手があなたにどのサークルにいてほしいと思っているのかを予想することができる。あなたがそのサークルにいくべきだと言っているのではない。どんな反応を相手が望んでいるのかが理解できればいい。
自分のよく知っている人で考えてみよう。パートナーでもいいし、子どもでもいいし、上司でもいいし、親友でもいいし、高校時代の天敵でもかまわない。

・その相手は、たいていの場合、どの動物なのかを判断できるだろうか。
・あなたが彼らの近くにいるとき、あなたはどんな動物だろうか。

ある種のパターンが起きていることに気づき始めるのではないだろうか。相手のポジションをうまく操縦するためには、あなたは自分自身のことを知らなければならない。あなた自身は、たいていの場合、どの動物なのかを考える必要がある。人を引っ張るのか得意なタイプか。責任をとるタイプか。追従するのを好むタイプか。指示を与えるより、指示されるほうが好きなタイプか。もっともな理由があっても不満を口にするのをためらうか。できる限り衝突を回避するか。人にお世辞を言い、親密さを示すのには何の抵抗もないか。
もしこれらのパターンに自分自身で気づいていないと、相手からサークルの外に押し出され、自分の反応をコントロールできなくなり、おかしな行動をとってしまう。一緒に働かなければならない同僚と、いつでもパワーをめぐって競争していたら、あらゆるプロジェクトが戦闘になってしまう。10代の若者が嫌味を言ってきたとして(悪いティラノサウルス)、こちらも嫌味を返していたら(さらに悪いティラノサウルス)、さらに相手を高ぶらせてしまうだろう。

すべてのティラノサウルスが悪いと言っているのではない。出会う人すべてに、かわいい、幸福なサルでいなければならない、言っているのでもない。どの会話のスタイルも、やりとりをうまくやっていくのに必要である。ティラノサウルスでさえ、効果的なコミュニケーション法なのである。ラポールと対人スキルは、「素敵な人」でいるよりも、はるかに複雑なのだ。
実際、対人関係の理論家たちによると、それぞれの会話スタイルには、良い点も悪い点もあるという。尊敬を集めている心理学者で、結婚カウンセラーのジョン・バーチネルは、2つのサークルを構築している。ひとつは、彼が「適応的関係」と呼ぶもので、これは肯定的なコミュニケーションにつながるものである。もうひとつは「不適応的関係」と呼ぶもので、コミュニケーションに有害な効果をもたらしてしまうものだ。
同じように、私たちの理論におけるそれぞれの動物には、良い点もあれば、悪い点もある。お互いの結びつきを高め、コミュニケーションを促進するポジティブな点もあれば、コミュニケーションを破壊し、やりとりをしたくないと思わせてしまうネガティブな点もある。重要なことは、ポジティブなサークルでも、どの動物が優れているとか、どの動物が劣っているということはない、ということだ。「一番の動物」などはいないのである。適切なタイミングに、適切なスタイルを使うけことを知っていることが、スキルなのだ。
それぞれの動物のスタイルの良い点と悪い点を認識するのに役立つ、基本的な特徴を挙げよう(下の図3を参照)。
それぞれのカテゴリーに当てはまる人のことを思い浮かべることができるだろうか。自分がそれぞれの動物になってしまった状況を思い出せるだろうか。あなたが一番多く振る舞っている動物はどれだろうか。もし悪い動物だとしたら、あなたがいつもとりがちな動物はどれだろうか。あなたが今後もっとも取り組みたい良い動物はどれだろうか。

『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 5 より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

図3 4つの動物 良い点と悪い点① RAPPORT 最強の心理術 CHAP5
図3 4つの動物 良い点と悪い点② RAPPORT 最強の心理術 CHAP5
図3.4つの動物 良い点と悪い点
(『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 5 より抜粋)

会話のスタイルをパターン化して動物に例えると、とてもわかりやすいですね。
それぞれの特徴をよく理解し、会話の相手や目的によって使い分けられるようにしましょう。

「良いティラノサウルス」は、不満も穏やかに伝える

良いティラノサウルスは、人との対立を避けることはしないが、たとえ相手に攻撃を受けても、冷静で、穏やかで、しっかりしています。

 良いティラノサウルスでいるための最善の心の持ち方は、穏やかな自信を持つことだ。相手がいくら怒ろうが、関係ない。恩着せがましいことを言ってきても、気にしない。相手の話を聞き、自分の要点だけを伝えるのである。個人的な攻撃は無視し、できるだけ穏やかに、できるだけ明確に、自分の考えをしっかりと何度もくり返すのである。

南カロライナで家族と休日をとったときのことを思い出す。そのときには、家族10人でひとつの休日用アパートメントをシェアした。だれもが素敵な時間を過ごしていたのだが、アパートの真向かいには建設現場があり、毎日朝の8時から夕方の6時まで、解体用の鉄球を打ち付ける音が際限なく響くのがたまらなかった。その音がいつまでも響いて耳障りなため、みんな気が狂いそうであった。
フラストレーションの高まった妻のエミリーが、受付に電話をかけたのだが、応対してくれた女性によって、怒りを鎮めることができた。受付の女性は、自分には何もできないのだが、マネージャーに電話をかけなおさせることを約束してくれたのだ。それから1時間が経った。が、電話は鳴らなかった。
そこで私は外に出て、真向かいの建設現場から聞こえてくるカオスのような騒音を録音した。そこから受付まで歩いていき、マネージャーに会いたいとお願いしたが、不在であった。
「何かご用件でしょうか?」ときわめて丁寧に話しかけてきた受付の女性は、エミリーが電話で話した人とは、明らかに違う人のようであった。
「そうなんです」私は答えた。「ちょっと読み上げますね」というと、私は、チェックインのときに受け取ったホテルからの歓迎の手紙を読み上げた。「当ホテルでは現在、リゾート施設の一部改修工事を行っております。つきましては、多少の騒音がございますがご安心ください。滞在中には、リラックスして、楽しい時間をお過ごしくださいませ」
受付の女性は微笑みながら、うなずいてみせた。「はい、その通りでございます」
「次に、15分前に私が録音してきたものを聞いていただきたいのです」私はそう言ってiPadの「再生」ボタンを押した。2分半の間、絶え間ない削岩機の騒音、サイレンの音、そして60トンの掘削用鉄球が壁に叩きつけられている音の入った録音だった。騒音を一緒に聞いていると、彼女の顔から徐々に血の気が引いていった。
再生を終えると、私は穏やかに、「この騒音は・・・・・、“多少の騒音”だとあなたはお思いになりますか?」と述べた。
「いいえ」彼女は、首を落としながら言った。
「私もそう思うんです。これは多少の騒音ではないですよ。私たちは外国から家族でやってきて、貴重な家族の時間を一緒に楽しみたいのです。この騒音では、お互いの会話すら聞こえませんよ。それも毎日なんです。一日に10時間ですよ」
「本当に申し訳ございません」彼女は再び謝罪した。「ですが、私にはどうしていいかわからないのです」
「あなたはマネージャーに取り次いでくれればいいのです。私はもっと静かな部屋に移らせていただきたいのです。あるいは、騒音を毎日聞かされるので私たちは一日中どこかに出かけなければなりませんから、金銭的な補填をお願いしたいのです」
彼女はうなずき、マネージャーを待っている間にバーで飲み物を注文できるクーポン券をくれた。
受付の女性とやりとりをしている間、私は、大声を出すこともなかったし、騒ぎ出すこともしなかったし、攻撃的な素振りは一切とらなかった。ただし、笑顔も温かさも見せなかった。私は、直接的に、感情をまじえず、穏やかに、率直に、問題があることを伝え、それに対して自分が何を求めているのかを伝えたのである。このやり方は効果的であった。
もし私が罵ったり、叫んだり、攻撃的であったなら、騒音が問題なのではなく、「私自身」が問題だとされてしまっただろう。結局、ホテルのマネージャーは、私たちが別の部屋に移動できるようにしてくれた。そして、私の義理の父とその妻が、その年の終わりにもう一度旅行に来るときには、費用の50パーセントを補填してくれることになった。

率直に、直接的に、という良いティラノサウルスのアプローチは、多くの利点がある。まず自分が感情的にならずにすむ。そのため、落ち着いて、言いたいことを伝えることができる。そのため、肝心な点を明瞭な言葉で伝えることができる。こちらがそのような態度をとれば、相手も好戦的になったり、道理のわからないことを言ったり、攻撃してくるようなことをしなくなる。厄介な人だと思われるかもしれないが、こちらは、わざわざ対立しようとしているわけではない。「触れてはいけない人間」だと思われるかもしれないが、相手にもはっきりと自分の立ち位置がわかるので、状況を改善するのに何が必要なのかがわかるのである。
穏やかな自己主張をする良いティラノサウルスをマスターすれば、自分を強化できる。感情をまじえず、目標に焦点を当てると、自己コントロール感と自信が生まれる。良いティラノサウルスを使うときには、相手と戦うことに価値があるのかどうかを考える必要がある。
もし良いティラノサウルスを過剰に使っていると、たとえそれがうまくいったとしても、時間が経ってくると、率直ではあるものの、扱いにくい人間だと思われるかもしれない。良いティラノサウルスは、自分から屈することはないし、妥協もしないので、人間関係を深めるのに必要な温かさや親密さを損なうことさえある。
良いティラノサウルスは、社交的で、友好的なサルとはまさに対局のサークルにあったことを思い出してほしい。良いティラノサウルスになるということは、友達を失うかもしれないということを意味する。そのため、良いティラノサウルスは非常に役に立つとはいえ、理想を言えば、間欠的に、必要なときだけ使うべきである。一方、悪いティラノサウルスはできるだけ消滅させてしまったほうがいい。

『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 6 より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

良いティラノサウルスになるためには、自分の感情をコントロールする必要があります。
怒りの感情に任せて批判したり、非難したりしたら、相手との信頼関係は壊れてしまいます。

自分の怒りを処理するひとつの方法は、相手がどんなことを感じているかを知り、相手の感情を認めてあげることです。

自分の要求は曲げず、妥協もしない。
けれども、相手を傷つけることもしない。

そんな断固たる態度が必要だということです。

「良いネズミ」は、相手から信頼を得る

良いネズミは、他人に操縦はまかせて、自分の身に起きることを、後部座席から見つめる技術であり、謙虚である能力です。

アリソンさんは、ネズミこそ、ラポールを形成するもっも重要で、「唯一」の動物だと述べています。

 ディオラは巨漢で、長くて黒いあごひげを生やしていた。足首までの長い白色のローブを身につけているせいで、厚い黒縁の眼鏡は、さらに黒々と光って見えた。ディオラは、彫像のように座り、DS・ダバーを睨みつけていた。ダバーは小柄で、痩せた男である。あごひげは完ぺきに切りそろえているのに、髪の毛はぐちゃぐちゃであった。まるであごひげに手をかけすぎて、頭のほうをすっかり忘れてしまったかのようであった。ダバーは取調官としては新米であった。特に、テロ対策の世界の取り調べでは新人であった。ダバーはその前の取り調べにおいては、第2取調官としてディオラと会っていたが、今度は第1取調官としてディオラと向き合うことになった。DS・ダバーは、その前の第1取調官が、よくリハーサルされ、徹底的に計画化された作戦を展開するのを観察していた。しかし彼は、ディオラに部屋の隅に追いつめられ、邪魔をされ、取調室から出て行けと言われたのであった。
ディオラは暴力的な雰囲気を漂わせており、それを反映する犯罪歴もあった。この特別な取り調べにおいては、ディオラは警察の士官候補生への攻撃計画について、ソーシャルメディアを使ってメッセージを発信したという容疑をかけられていた。ディオラの住居を捜索し、警察は、ハンマー、キッチンナイフ、警察の士官候補生訓練センターの付近の地図が入ったバッグを発見していた。警察は、ディオラが士官候補生をターゲットにしているとにらんだ。また警察は、ディオラはより大きな組織の一員であり、子どもへの攻撃や誘拐を計画しているとも考えられた。
以前の取り調べで、ディオラは取調官の話をさえぎり、お前らは無知で、愚鈍で、道徳的に弱い奴らだと非難した。ディオラは質問に答えることを拒否した。饒舌にまくしたてるものの、ディオラは、取調官に意味のあることはひとつも語らなかった。ただ、歴史と文化に対する無知について講義するだけであった。

DS・ダバーは、前置きの警告を告げてから取り調べを開始した。ディオラは、眼鏡の下から、ダバーを激しくにらみつけた。「この取調べの目的は、お前のノートにある、その小さなチェックリストを全部埋めていくことじゃないだろうな。そんなことをすれば、お前は頭を一叩きされるからよ。もしお前が有名になりたくてここにいると俺にわかれば、話をしてやる。だから、誠実にな」彼の口調は皮肉に満ちていた。
ダバーは、まったく落ち着いており、ディオラのほうに少し近づくと、自分の警察用ノートを見せた。ダバーはディオラの目の前で、ノートをペラペラと指でめくってみせた。どのページも真っ白なままだった。「私は質問リストなんて持ってませんし、チェックリストもないですよ。私はあなたに、あなた自身の言葉で、いったいどんなことを計画していたのか話してほしいだけなんです」
ディオラは、薄笑いを浮かべてダバーを評価した。「いいだろう。それじゃ、1回チャンスをやるよ。俺の質問にお前がどう答えるかで、話すかどうかを決める」
それからディオラは、ダバーに近づき、その顔に指を突きたてながら言った。「じゃあいくぞ・・・・・。答える前には、じっくり考えろよ(休止)。どうして今日、俺はお前に話そうとしていると思う?」
DS・ダバーは、答える前に、たっぷり10秒ほど考えた。部屋の中から、すべての酸素が吸い出されてしまったかのようであった。私たちは、凍りつくような感じがして、監視室のモニターを見ていた。それから、穏やかに、慎重な声で、ダバーは単純に答えた。
「私たちがあなたを逮捕した日、あなたが警察の士官候補生を殺害したかったのではないか、と私は思っているんです(またしても休止をとって、深く呼吸をする)。あなたがどんなことを意図していたのか。どうしてそうする必要があると感じたのか。何を達成したかったのか。私は詳しく知りません。あなただけが事実を知っているんですよ。ディオラさん(また休止)・・・・・、私は上司を喜ばせたいから知りたいのではないのです。私は、人を守りたいから知りたいのです。私はあなたに話すことを強制することはできません。強制したくもないんです。もし話してもいいというのなら、話してください。話したくないというのなら、話さなくてもかまいません。それはあなたが決めることですから」
DS・ダバーは、ディオラに向かってそう発言した。ダバーは穏やかなままで、落ち着いていて、忍耐強く、そして謙虚であった。ネズミが、ライオンの反応を待っているのである。
「そりゃ、素敵な答えだ」ディオラは破顔して言った。「お前は、俺のことをきちんと考えてくれて、敬意を払ってくれているな。よし、話してやる。しかしこの国で本当に起きていることをお前に理解してもらうだけだぞ」
モニターで観察している我々も、ダバーの上官も含めて驚いた。ダバーの正統ではない謙虚なやり方が功を奏したのである。しかし、なぜなのか。

ダバーがうまくできた理由のひとつは、ダバーがディオラをコントロールしようと試みなかったことである。ディオラは、ライオンのように自分が上に立ちたかった。だから、ダバーはそうさせた。すでに述べたことだが、強制力を使おうとすると、同じように相手からも強制的な反発心が返ってきてしまう。その場にいたダバーは、強制力をまったく使わなかった。実際には、まったく反対のことからダバーは始めている。「私はあなたに強制なんてしません。強制したくないんです」と述べている。
ダバーの反応を、HEARの原則と関連づけて考えてみよう。ダバーは、公式的な答え方をしていないし、心理的な操作や差為を試みてもいない。彼の返答は、純粋で、正直だ。ダバーはディオラを殴りつけるようなことをしていない。明確に、「私はあなたが警官の士官候補生を殺そうとしたかったのではないかと疑っているので、あなたはここに来てもらっている」と伝えている。ダバーはまた、ディオラの自律性についても大切にしている。「事実を知っているのはあなただけなんです」という発言がそれだ。自分が何も知らないことも認めている。「私は何が起きたのか、詳しく知りません。何をしたいと思っていたのか、そうすることで何を得たかったのかも知りません」ダバーはまた、ディオラの指導も求めている。ディオラに教育者と先生の役割をとらせている。「俺はお前に理解してもらいたい」という部分からそれはわかる。そして、これが重要なのだが、ダバーは自分がどんな質問をしたいのか、あらかじめ決めるようなことをしていない。まったく何のメモも、質問も書かれていない真っ白なノートを見せていることは、「あなたが議題を決めていいんです。あなたが上なんです。私はここに話を聞きに来ているだけなんです」ということを象徴的に伝えている。
ダバーのやり方は、傲慢で、自己肥大しているテロリストに屈服するものではないか、と文章を読んでいて不愉快になった人もいるかもしれない。しかし、ダバーは、とても正直に本音を語っている。とても人間的なやり方であり、とても謙虚である。そのようなやり方は、相手に武器を捨てさせ、正直にさせ、抵抗できないようにさせるのである。

『RAPPORT 最強の心理術』 chapter 7 より ローレンス・アリソン、エミリー・アリソン:著 内藤誼人:訳 三笠書房:刊

アリソンさんは、良いネズミになるには、自分のエゴを抑え、相手に勝ちを譲ることの影響力を認めなければならないと述べています。

プラスとプラスでは、反発し合います。
相手がプラスなら、こちらはあえてマイナスになる必要があります。

一歩引いて相手を受け入れることで、相手の警戒感を解き、信頼関係を得る。
まさに損して得を取るノウハウですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

アリソンさんは、ラポールは、人とのやりとりを向上させる鍵であり、愛する人との親密深める鍵であり、地域との結びつきを強める鍵であり、他者理解に役立ち、私たちが暮らしている社会全体での衝突を減らす働きをするとおっしゃっています。

価値観の多様化やグローバル化によって世界の分断が進んでいます。
人同士でも、国同士でも、ラポールの形成による信頼関係の構築が今まで以上に重要になってきたといえます。

ラポールも、他の能力同様、鍛えれば鍛えただけ高めることができます。

良いティラノサウルス、良いサル、良いライオン、良いネズミ。

この4つの動物の役割をしっかり身につけること。
そして、日常的に意識して使っていくこと。

私たちも、ラポールを極めて、人間関係の達人を目指したいですね。

RAPPORT 最強の心理術―――謙虚なネズミが、独善的なライオンを動かす方法 (三笠書房 電子書籍)


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