本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『心が整うマインドフルネス入門』(ニーマル・ラージ・ギャワリ)

お薦めの本の紹介です。
ニーマル・ラージ・ギャワリさんの『心が整うマインドフルネス入門 エグゼクティブが実践するニーマルメソッド』です。

ニーマル・ラージ・ギャワリ(Nirmal Raj Gyawali)さんは、ネパール出身で、9歳の頃から祖父が創立したアローギャ・アシュラムでヨガの研鑽を積まれ、15歳よりネパール王族やエスタブリッシュメントの人々へのヨガの指導を開始されました。
現在は、世界20カ国で主にセレブリティやトップエグゼクティブを対象にヨガメディテーションを教えられています。

5000年の叡智から生まれた「心を整える方法」

現状に大きな不満を抱いているわけではないけれど、決して満たされているわけでもない。
今の世の中、そんなモヤモヤを抱えている人は多いです。

そんな“現代人病”ともいえる症状に、特効薬はないのでしょうか。

「本当にこのままでいいのだろうか?」という思いが頭の中をかすめながらも、朝はバタバタと出かける準備をし、満員電車ですし詰めになり、日中は仕事に忙殺され、またいつものように家路を急ぎ、夜が更けていく。あるいは、リモートワークが定着した影響で、仕事とプライベートの境界が曖昧になり、朝起きてから夜寝るまで、常に仕事のことが頭から離れない。
そんなふうに繰り返される日々のなかで、あなたはきっと、何らかの変化を求めているのではないでしょうか。

ようこそ、マインドフルネスの世界へ。
あなたは大丈夫です。なぜなら、もう「気づいた」のだから。

私たち人間の脳は、1回呼吸をするたびに、3つの思考を働かせるといわれています。思考の8割は無意識に行われているので、実は私たちの気づかないうちに、一日あたり6万(!)もの思考が、私たちの頭の中を巡っているのです。
しかも、アメリカの市場調査会社IDCのリサーチによると、2020年の全世界のデジタルデータの総量は、2000年の約1万倍に増えているそうです。
つまり、私たちの脳はただでさえ思考でいっぱいなのに、日々、情報の洪水にのまれて、もはや想像が及ばないほどの力で稼働しているわけです。
電車に乗ると反射的にスマートフォンを取り出し、SNSや動画サイトを観(み)る人、ゲームに熱中する人はとても多いですよね。動画配信サービスの映画やドラマを何も考えずに何時間も観てしまう、という人も少なくありません。
これは、情報の荒波に無防備でダイブしているようなもの。現代を生きる人の多くは、偏った情報や自分にとって不必要な情報の波にのまれて、その人が本来目指すべきゴールとは違う方向に流されてしまっています。しかも、ほとんどの人がそのことに気づいていません。
夜にベッドに入ってもなかなか寝つけない、寝ても疲れが取れない、朝の目覚めが悪い。こういった不調を感じている人は、もしかしたら、外側の刺激を味わうことが癖になり、知らず知らずのうちに、情報の波に流されているのかもしれません。

例えば、パソコンにたくさんのデータをダウンロードし、それらをずっと溜(た)め込んだままでいると、パソコンの動作が遅くなったり、フリーズしやすくなったりします。みなさんもご自身のパソコンに不具合が起きないように、ときどきは不要なデータやバックアップ済みのデータを削除しているのではないでしょうか。
私たちの脳も同じように、情報を整理する必要があります。

まずは、情報の洪水にのまれて過ごす時間を、ほんの少しでも減らすこと。外側の刺激を味わうのは楽しいものですが、それは一時的な喜びにすぎません。人生にとって本当に大切なのは、自らを成長させていくことです。そのためには、フル稼働している脳を休ませて、自分自身の内側と向き合う時間を取る必要があります。
それから、「あんなこと、しなければよかった」という後悔や、「この先、どうなってしまうんだろう」という不安。これらも、脳にとっては不要な情報です。既に終わった過去や、まだやってこない未来のことを、いくら考えても意味がありません。あなたの力が及ぶのは、このたった「今」だけなのですから。

マインドフルネスを実践し、「今」に意識を向ける。
すると脳が休まり、あなたの内側にあるさまざまな力が引き出されます。
その結果、あなたの日常が、よりよい方向へと変わり始めます。

マインドフルネスは1970年代に世の中に広まったものですが、そのコンセプトははるか昔から存在しています。ヒマラヤ地域で5000年以上の歴史を持つヴェーダ哲学の叡智(えいち)のひとつである、瞑想(めいそう)を実践するためのテクニックでもあります。
近年では世界中の多くの先進的企業が社内教育などに取り入れ、また最先端の科学でもその効果が証明されてきています。
(中略)
この本で紹介しているマインドフルネスの基本的な考え方と実践法は、私が先祖から受け継いだ5000年続く教えを現代の人たちが理解しやすいようにブラッシュアップした、ニーマルメソッド®️に基づいています。
古代から続く優れた生命科学の知恵から導き出したメソッドであり、現代の忙しい日常生活においても、私たち一人ひとりが心身のバランスを取り戻し、本来あるべき姿のままで生きられることを目指す、いわば、幸せに生きていくための手引きです。

マインドフルネスを習慣づけると、まず、自分自身が変わります。それにつられるようにして、仕事や人間関係が好転し、人生への満足度が高まっていきます。
このことが事実だということを、私のもとで学んでくださっている数多くのビジネスパーソンが証明してくれています。
あなたもぜひ、この本を通して、マインドフルネスの持つ素晴らしい効果を実感していただけたらうれしいです。

『心が整うマインドフルネス入門』 はじめに より ニーマル・ラージ・ギャワリ:著 小学館:刊

本書は、心身を整え、より充実して幸せな人生を送るためのノウハウ「マインドフルネス」をわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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マインドフルネスで得られる効果とは?

マインドフルネスとは、自分が今やっていることや今ここで起こっていることに完全に集中している状態のことです。

それは、過去や未来のことを考えるのではなく、「今、ここ」に完全に意識が向いている状態を指し、常に「気づいている」状態、と言い換えることもできます。

ギャワリさんは、マインドフルネスの効果を数多く挙げていますが、ここではその中のいくつかをご紹介します。

効果|1 脳の緊張が取れる

脳には生命維持や運動などのはたらきのほか、外側からの情報を知覚する、考える、判断する、記憶するといった知的活動を行う機能があります。
知的活動のことを、私たちはよく「頭を使う」というふうに表現します。私たちは常に頭を使いながら、物事を整理したり、誰かと会話をしたり、テレビやインターネットから情報を得たりして、日常生活を送っています。
ですから、人間にとって頭を使うことはごく自然なことであり、欠かせない行為です。

ただし、現代人は頭を使いすぎている状態にあります。特にコロナ禍の2020年以降はリモートワークの増加でオンとオフをうまく切り替えられず、1日24時間ほぼ仕事のことを考えている、なんて人も少なくないのではないでしょうか。
これはスマホにたとえると、アプリをいくつも立ち上げっぱなしにしているようなもの。すると、どうなりますか? バッテリーの消耗が速くなったり、動作が鈍くなったりして、自分の思いどおりにスムーズに使うことができなくなってしまいます。
私たち人間も同じように、頭を使いすぎていると、脳が疲労し、パフォーマンスがどんどん下がってしまいます。

マインドフルネスは、「今、ここ」に意識を完全に集中すること。食べる、飲む、本を読む、メールを打つなど、自分が今やっていることだけに意識を合わせ続けます。それ以外のことに気を取られることはありません。
これは先程のスマホのたとえで言うと、ひとつのアプリだけが動いている状態。他のアプリは立ち上がっていないので、その分、メモリやバッテリーを休ませることができます。
つまり、日常の作業や行為をマインドフルネスに行えば、その間、私たちの脳は休むことができるということ。常にフル回転で緊張状態にある脳を、リラックスさせることができるのです。

効果|2 ストレスが軽減する

人間が抱えるストレスには2つの種類があります。
ひとつは、肉体的なストレス。間違った姿勢や歩き方、負担のかかるルーティンなどに起因し、肩こりや腰痛、足のむくみ、ドライアイといった身体的な痛みや違和感、疲労を伴います。もうひとつは、精神的なストレス。仕事でプレッシャーを感じたときなどに起こります。
どちらのストレスも蓄積されていくと不調や病気の原因となりますが、現代人にとっては特に、精神的なストレスが強烈なダメージとなります。それだけに、精神的なストレスを減らすことができれば、リラックスした状態を保ちやすくなると言えるでしょう。
これらのストレスは脳に蓄積されていくので、私たちが健やかに生きていくには、脳にたまっているストレスを日頃から意識的にリセットしていくことが大切です。
長い距離を歩き続けると足や腰に疲れが出るように、ストレスは、特定のパートを使いすぎることによってたまっていきます。脳も延々と働き続けると、次第に疲れて、ストレスが増えていきます。
「今日は丸一日たいしたことをしなかったのに、なんだか疲れたなぁ・・・・・・」という日はありませんか? それは、脳が疲れている証拠。駅のホームや電車の中で反射的にスマホを見たり、ロクに観るわけでもないのにテレビや動画サイトをつけっぱなしにしたりなど、私たちは日常生活のなかで無意識のうちに、大量の情報を脳に注(つ)ぎ込んでいます。
それはつまり、自分でも気づかないうちに、脳を酷使し続けているということ。そこへさらに、仕事や人間関係のトラブルなど、外的要因によるストレスが頻繁にのしかかっているとしたら・・・・・・私たちの脳は、私たちが思っている以上に疲れている、ということが想像できるでしょう。

マインドフルネスは、いわば、脳は休ませる時間です。「脳をひとつのことに集中させると、むしろ疲れるのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、逆です。あれをやらなきゃ、これも気になる、いやそっちも、と四方八方に気が散っていて注意力散漫な状態のときこそ、脳はいちばん疲れます。パソコンの画面上にウインドウがたくさん開いている状態で仕事をしようとすると、あっちこっちをよそ見して、目も頭も疲れてしまうのと同じです。
ひとつのウインドウだけを残してあとは全部閉じれば、目が完全にそのウインドウへと向き、仕事をスムーズに進めることができます。同じように、意識をひとつのことだけに集中させるほうが、脳へのストレスは減るのです。

効果|3 集中力がアップする

私たちの脳はマルチタスクができない、という事実をご存知でしょうか。
特にビジネスシーンにおいては、いくつもの案件を同時にこなしたほうが効率がよいと考えてる人は少なくないでしょう。電話で会話をしながらメールをチェックする、会議で議論しながら明日のスケジュールを考えるなど、2つ以上のことを同時に行うのが常態化している人も多いかと思います。
ですが、実際にはすべての作業は、同時には行われていません。脳がものすごいスピードでそれらを切り替えながら、進めているだけのことなのです。

例えば、あなたが自宅で夕食を食べながら、スマホでメールを打ち、同時に家族とおしゃべりしているとします。このとき、脳内は「食べる」「メールする」「おしゃべりする」の3つを高速で行ったり来たりしています。本人はマルチタスクしているつもりでも、実際には同時にできることではありません。
私たちの身体(からだ)に置き換えてイメージしてみると、ダイニングとリビングとワークスペースの3部屋を大急ぎでぐるぐる走り回っているようなものですから・・・・・疲れますよね(笑)。

複数のことを同時に行おうとすると、当然ながら、一つひとつ100パーセントの力を費やすことはできません。先程のたとえで言うなら、「食べる」に30パーセント、「メールする」に30パーセント「おしゃべりする」に40パーセント、といった具合です。
そんなふうにパワーを分散して使う状態が常態化すると、もの忘れやうっかりミスがポロポロと出てくることも。誰かとのアポイントメントをすっかり忘れてしまったり、自分で入力したはずのスケジュールが何のことだか思い出せなかったりするのは、マルチタスクの弊害の可能性もあります。
本当の意味で効率を上げたいなら、マルチタスクをしようと頑張るのではなく、シングルタスクに集中するべきです。

とはいえ、いくつもの仕事を並行して進めなくてはならないときもありますよね。そんなときに役に立つのが、マインドフルネスです。
マインドフルネスこそ、目の前の一つひとつのことに100パーセントの力を費やすこと。先程の例で言うと、まずはマインドフルネスに食べて、次にマインドフルネスにメールして、マインドフルネスに家族とおしゃべりする。そうすれば、全部に対して100パーセントの力を発揮することができます。すると、一つひとつにかける時間を短縮でき、中身の精度もグンとアップします。
(中略)

効果|4 判断力が高まる

このまま進むのか、ここでやめるのか、それとも別の道を探すのか、いくつかの選択肢を前にしたとき、判断材料として的確な情報を入手することができれば、自分が今何をするべきかを決断するのはそう難しくはありません。
困るのは、情報が曖昧だったり圧倒的に足りなかったりして、信ぴょう性に欠けるときです。そうなると、その時点ではまだ判断ができませんから、不安になったり、追加であれもこれもと情報をたくさん仕入れようとします。すると、今度は情報が集まりすぎて、一つひとつを精査するのに時間や手間がかかり、判断するのがますます遅れます。そうこうしているうちに、タイミングを逃してしまうこともあるかもしれません。
判断力を高めるには、自分にとって本当に必要な情報が最小限の量だけ届くように、フィルターをかけることが大切です。
例えば、大きな会社の社長は、通常、現場の人たちと直接話しません。もちろん、現場の人たちのケアやコミュニケーションを目的に交流することはあるでしょうが、現場からの声を吸い上げたり、逆に現場に指示を出したりといった日常的なやり取りは、社長室の部下を通して行うのが基本です。
社長室は、まさにフィルターのような存在。日々どんどん届く案件の数々を、社長に判断してもらう必要があるものとそうでないものとに選(よ)り分けて、前者のみを社長に報告し、後者は現場レベルで解決するように動く、という役割を担っています。優秀な社長の下には必ずといっていいほど、優秀な社長室のスタッフがいるものです。

これらはすべて、私たちの脳の中で起きていることと同じ。つまり、あなたが判断力を上げていきたいと思うなら、まずは、情報を精査するためのフィルターの機能を高めていくべきなのです。

そのためにとても役に立つのが、マインドフルネスです。
マインドフルネスな状態でいられるようになると、「気づき」のレベルが上がり、リテラシーが高まります。すると、どんな情報に対しても、その情報はいつ誰がどんな意図を持って出したものなのかなど、精度や鮮度を読み取ることができるようになるので、必要な情報だけをピックアップできるようになります。
その結果、物事をスムーズに判断できるようになる、というわけです。

効果|5 やる気が出る

これは、先程お話しした「集中力がアップする」「判断力が高まる」という2つの効果に関連するものです。

ビジネスはもちろんすべてにおいて、正しい判断ができなかったり、注意力が散漫だったりすると、物事はうまくいきません。たとえ全滅ではなかったとしても、10個の案件のうち、うまくいったのは2個だけで、残りの8個は失敗だった、など。すると、「次もまた失敗するかも」「どうせうまくいかない」というネガティブな思い込みに縛られて、やる気が失せてしまいます。
一方、マインドフルネスを実践すると、判断力も集中力も高まるので、10個の案件中、7個、8個くらいは成功するようになっていきます。おのずと、モチベーションもアップします。
「え? 10個全部じゃないの?」と思う人もいるかもしれませんね。ですが、この世の中、全部をあなたひとりの力で動かせるわけではありません。100パーセントうまくいくというのはなかなかないことですし、あなたが「成し遂げたい」と決めたことの7割か8割を達成できたら十分です。

これは余談ですが、自然界ですら、5パーセントのエラーはつきものです。自然も宇宙も、100回のうち5回くらいは間違えたり、失敗したりする。人間も自然の一部ですから、完璧であることは不可能なんですね。

話を戻すと、ビジネスというのは意思決定の連続です。立場が上であればあるほど、日々、小さなものから大きなものまで決断していかなくてはなりません。それなのに、10個のうち8個も間違えたら、どうなりますか? もちろん、やる気も出ないでしょうし、ビジネスが立ち行かなくなってしまいます。
反対に、10個のうち8個程度はうまくいく状態が続くようになれば、毎日、いい手ごたえを感じながら「よし、明日も頑張ろう」とモチベーションを高めていくことができます。「2つくらいうまくいかないのは仕方ない」と流せる楽観性や寛容さもキープできるようになるでしょう。

効果 6 クリエイティビティが増大する

クリエイティビティとは、独自の発想で新しいものを生み出す力のことです。今までになかったサービスを生み出したり、これまで誰も思いつかなかったやり方を編み出したたするには、クリエイティビティが必要となります。
ビジネスでは、世の中に新しい価値や体験を提供することが大事ですから、クリエイティビティには常に磨きをかけておきたいものですよね。では、どうしたらクリエイティビティを開花できるのでしょうか。

そもそも、クリエイティビティは学ぶことによって得られるものではありません。また、必死に頭で考えれば発揮されるというものでもありません。

どういうことなのか、説明しましょう。

私たちはお母さんのお腹(なか)から外の世界に出てくると、外の世界で生きていくために必要なものを吸収し始めます。呼吸やミルクから酸素や栄養を身体に取り入れるように、感情や意思を伝達する方法や、他者とコミュニケーションを取るためスキルなども、周りの人たちから学び、記憶していきます。
私たちの脳は言わば、そういった無数のデータを取り込んだハードディスクのようなもの。たくさんの情報を記録していますが、そこにある情報はすべて、世の中に既に存在するものから学んだり、集めたりしたものです。
そうではなくて、世の中にまだ存在していないもの、つまり、自分のハードディスクの中にはないものを生み出すのがクリエイティビティの力。ハードディスク内にあふれる大量のデータといくら懸命に向き合ったところで、今まで見たことのない新しいものは作り出せないのです。
「そんなことはありません。私は情報をたくさん集めて、それをもとに頭を働かせて必死で考えて、今までにないものを生み出しました」と反論する人もいるでしょう。それは残念ながら、模倣にすぎません。そのアイデアに類似したものをあなたがたまたま見たり聞いたりしたことがないだけで、私たちが頭で考えて生み出したものはすべて、オリジナルではあり得ないのです。
だとすれば、私たちのクリエイティビティをもっと輝かせるには、どうしたらよいのでしょうか。

実は、クリエイティビティは本来、私たちが自然のなかに身を置き、脳をすっかり休ませているときに生まれるものです。
それはたとえるなら、青空の下、爽やかな風が吹く草原に仰向(あおむ)けに寝転んで、自然の心地よさを感じながら、リラックスしているような状態のこと。時間にゆとりがあり、空間にもゆとりがあり、そして心にもゆとりがあるとき、今までになかったものがパッとひらめく、あるいは、どこからか降りてくるようなことが起きるのです。
脳が休んでいる状態というのは、私たちがハードディスクにたくさんの情報を取り込む前の状態、つまり、赤ちゃんの状態に似ています。赤ちゃんは恐れを知らない、自由な存在。怖いもの知らずで、何でもやろうとするし、どこにでも行こうとします。それが成長とともに脳が発達していくにつれて、社会性が身につく一方で、恐れや不安の感情を抱くようになります。
あなたも、子どものころは今よりずっと無鉄砲だったのではありませんか? 振り返ってみると「よく、あんなに無謀なことができたな」とあきれるような経験のひとつやふたつはあるのではないでしょうか。
クリエイティビティの開花とは、大人の知恵に赤ちゃんの奔放さが加わるようなものです。正しい知識や良識を備えながらも、いつだって自由でいられる。
脳を休ませてあげれば、そんな魅力的な人になれるのです。

では、朝から晩まで頭をフル回転しながら忙しく働いている人が、休みの日に草むらに寝転んで青空を眺めるだけでクリエイティブな人になれるのかというと、そうではありません。そういう人はおそらく、空を眺めているうちにいつのまにか考えごとをしてしまうか、気づいたら眠ってしまっているかのどちらかでしょう。
私たちの思考のパワーは強力です。脳を休めるつもりで寝転んだとしても、ついつい仕事のことや気になっていることが頭に浮かんできて、意識がすっかりそっちに向いてしまい、結局は脳が忙しく働いている状態に。それでは、クリエイティビティが生まれてくる余地はありません。

大切なのは、普段からマインドフルネスの練習をしておくこと。そうすれば、自分の思考をコントロールできるようになります。青空の下で寝転んでいるときに、ふと考えごとが頭に浮かんだとしても、「あ、考えごとをしてしまったな」と気づくことができれば、「考えるのはあとにして、この時間は自然の豊かさを味わおう」と、意識を空や風や草むらの気持ちよさへと戻すことができるのです。

『心が整うマインドフルネス入門』 第1章 より ニーマル・ラージ・ギャワリ:著 小学館:刊

私たちの社会は、頭を使って作業することが多いうえ、五感を刺激する情報に溢れています。
脳にとって、これほどストレスがかかる環境はないといえるでしょう。

マインドフルネスは、脳の疲労回復やリフレッシュに最適です。
これからの時代を生きる人には、必須のスキルですね。

選択と行動は「気づき」から始まる

「気づき」とは、意識を「今」に完全に向けている状態です。

ギャワリさんは、「気づき」のあるときは、自分の思考や感情、行動、あるいは周囲で何が起きているかを明確に見ることができていて、「気づき」の力が磨かれていくと、自分の考えや感情を深く観察したうえで、自分がどう行動するかべきかを的確に判断できるようになると述べています。

 私たちにとって「気づき」はとても重要なものです。なぜなら、私たちの選択と行動はすべて「気づき」から生まれるからです。

例えば、喉が渇いていることに気づいたとします。すると、そこから選択肢が生まれます。水を飲むのか、お茶を淹れるのか、それとも、もうしばらく我慢するのか。「気づき」があって初めて、私たちは自分がどうするのかを選択できるようになります。
さらにその先には、おのずと行動が生まれます。喉の渇きを潤すためにどうするのか、自分で決めた選択肢に従って、コップに水を注いだり、お茶を買いに行ったりします。
逆に、「気づき」がないのはどういう状態かと言うと、無意識の状態です。暇さえあれば反射的にスマホの画面を見る、マンガに夢中になりながらご飯を食べるなど、周りで今起こっていることや今行っていることに意識が向いていません。

「気づき」がないと、選択も行動も生まれません。言うなれば、電車でお年寄りに席を譲ると言う選択肢は、そもそも「お年寄りがいる」と気づかなければ起こらない、ということです。

「気づき」がない人は、自分の思考や感情、行動に対して意識が低いので、セルフマネジメントが苦手。まず、時間やタスクの管理ができません。集中力や忍耐力が低く、自分の感情に振り回されがちです。
自分の管理すらできないのですから、ビジネス上では、部下を管理することもできないでしょう。例えば、「気づき」の力の低い社長は、人を見る目がなく、スタッフに不適切な仕事を振ってしまいます。数字を扱うのが得意な人に、突然マーケティングチームのリーダーを任せて、「やればできるでしょう?」なんて言ったりします。そのせいで、会社のお金とマンパワーをムダ遣いしてしまうこともあるでしょう。

一方、「気づき」の力の高い人は、セルフマネジメント力も高いので、自分のやる気と行動を上手にコントロールすることができます。自分が決めた目標を達成するために、自らを律しながらも、決して無理をせず、健康にも気を配ります。その結果、仕事で成果を上げることができ、周囲からも信頼されるようになります。
「気づき」の力の高い社長は、対応力に優れています。なぜなら、自身の会社を俯瞰(ふかん)して見ると同時に、細かいところも見ているからです。足さなくてはならない部分はどこか、逆に減らさなくてはならない部分はどこかを常に見て、調整を繰り返します。一人ひとりのスタッフに対し、その人の得意分野を理解し、適材適所の配置をします。

アメリカでは多くの企業がマインドフルネス研修を取り入れていますが、その目的のひとつは、社員のセルフマネジメント力を高めることにあります。セルフマネジメント力は、ビジネスを成功へと導くうえで欠かせない能力です。ビジネスリーダーとして活躍するにあたっては「気づき」が非常に重要だという研究結果も、数多く存在しています。

マインドフルネスを実践して「気づき」の力が高まると、自分に対して意識的になれるので、成長への意欲が湧き、セルフマネジメント力も高まってきます。

職場で困った顔をしている人に「何があったの?」と尋ねると、だいたいの人は「問題が起きた」と答えます。
でも、ちょっと考えてみてください。私たち人間にとって、何の問題も課題もない社会なんて、現実的にあり得るでしょうか。そもそも、問題も課題もなければ、この世に仕事も会社も必要ないのではありませんか?
私が何を言いたいかというと、問題は常にある、ということです。ですので、みなさんの言う「問題」は問題ではなく、「問題を解決できないこと」が本当の問題なのです。

すべての問題には、何らかの解決法があります。「気づき」の力が高い人は解決できますが、そうでない人は対処できず、問題はいつまでも問題として存在し続けます。
ですから、ビジネスパーソンには「気づき」の力が必要なのです。「気づき」の力で問題を発見し、対応力で解決へと導かなくてはなりません。
「気づき」の力は、言ってみれば健康診断のようなものです。健康診断をなぜ毎年受けるのかというと、身体に何か問題があっても、早い段階でわかれば対処しやすいから。どんな病気でも発見が早ければ、さまざまな対処法のなかから自分に最適なものを選ぶことができるでしょう。

しかし、人間は一日の8割以上は前日と同じ思考で過ごしていると言われている。これはどういうことかというと、日常生活の8割以上を「デフォルトモード・ネットワーク」という脳の神経活動により、脳内の記憶に従って、まるで自動運転のように無意識に過ごしているということです。歯を磨くときに「さあ、今日はどうやって磨こうか?」と悩む人や、トイレに行くときに「どんなふうに用を足そう?」なんて考える人と、普通はいませんよね(笑)。
では反対に、意識的に生活しているというのはどんなときかというと、例えば、五感を使いながら何かをしているときや、新しい言葉を学んだとき、新しい場所に行ったときなどです。私たちが自分の思考や感覚をこのように能動的に働かせている状態は、一日の1〜2割程度しかありません。
だからこそ、意識的に自分の今の状態に「気づく」ことが重要になってくるのです。

「気づき」の力がいかに大切かということ、そして、意識的にならない限り「気づかない」ままに生きることになるということを、おわかりいただけたと思います。
ここからは、「気づき」の力を高めるための方法をお伝えします。

「気づき」とは、意識を「今」に完全に向けている状態です。私たちの意識が「今」に向いているときは、必ず五感を使っています。
例えば、お茶をガブ飲みするのではなく、意識を向けながら飲もうとすると、そのお茶がどのくらい温かいのか、またはどのくらい冷たいのか味や香りはどんな具合なのかといったことにおのずと気づくでしょう。これが、五感を使うということです。
現代に生きるみなさんは残念ながら、五感を使えていないことがほとんど。たとえ自分では使っているつもりでも、感覚が鈍化してしまっているので、100パーセントは使えていないのが現実です。

そのため、「気づき」の力を高めるには、毎日の暮らしのなかで、「五感を使って自分が今、何をしているのかを観察する」というトレーニングを行っていくのがベストです。
といっても、ジムで筋トレをするのと違い、わざわざ時間を捻出したり、着替えたりする必要はありません。

何をするのかというと、あなたが日常生活のなかで、ごく自然にやっていることがありますよね。朝起きてシャワーを浴びる、ご飯を食べる、駅までの道を歩くなど、それらのやり方を、少し変えるだけです。

では、いつものやり方をどのように変えていくのか、「水を飲む」という行為を例に説明します。

デスクワーク中、デスクの隅に水の入ったグラスを置き、ときどき飲みながら仕事をしているとします。あなたはその水を飲むとき、どんなふうに飲んでいるでしょうか。目の端でチラッとグラスを見て、パソコンの画面に集中したまま、手を伸ばしてグラスを取り、そのグラスに目をやることもなく口元に運び、水を飲んで、元の位置に戻す。こんな感じではありませんか?

そうではなく、まず、水を飲みたいと感じたら、テーブルの隅のグラスに目を向ける。グラスの中にどのくらい水が残っているのかをちゃんと見て、「今から水を飲むぞ」と意識をしてから、グラスを口元に運ぶ。水を飲んでいる最中も、「どのくらい飲もうかな」「このくらいかな?」と、水を飲んでいる自分に対して意識を向けます。そして、グラスの中を見て、どのくらいの量を飲んだのかを確認してから、元の位置に戻します。このときも、グラスから目を離しません。
「水を飲む」という日常の行為を、こんなふうに意識的に行ってみる。これが、「気づき」の力を高める練習になります。

『心が整うマインドフルネス入門』 第2章 より ニーマル・ラージ・ギャワリ:著 小学館:刊

ギャワリさんは、以下のような日常生活で簡単にできる「気づき」の5つの練習法を紹介しています。
ぜひ、試してみてください。

図1 気づき の力を高める5つの練習法 マインドフルネス入門 第2章
図1.「気づき」の力を高める5つの練習法
図1−1 練習 1 マインドフルに歯を磨く マインドフルネス入門 第2章
練習(1)マインドフルに歯を磨く
図1−2 練習 1 マインドフルにシャワーを浴びる マインドフルネス入門 第2章 jpg
練習(2)マインドフルにシャワーを浴びる
図1−3 練習 3 マインドフルにコーヒーを飲む マインドフルネス入門 第2章 jpg
練習(3)マインドフルにコーヒーを飲む
図1−4 練習 4 マインドフルに食べる マインドフルネス入門 第2章 jpg
練習(4)マインドフルに食べる
図1−5 練習 1 マインドフルに歩く マインドフルネス入門 第2章 jpg
練習(5)マインドフルに歩く
(『心が整うマインドフルネス入門』 第2章 より抜粋)

「ポジティブ思考」を習慣づける8つの方法とは?

ギャワリさんは、私たちがネガティブな状態にあるときは、過去への後悔や未来への不安など、意識が「今」ではなく「過去」と「未来」のどちらかに向いていると述べています。

 人間は、暇なときほど余計なことを考えるものです。直近のいい思い出に浸ったり、失敗を反省したり、この先のことが気になったり。私たちが意識的に「今」に集中しようとしない限り、私たちの頭の中はそんなふうに「過去」や「未来」をぶらぶらと歩き始めます。
この自動運転のような状態を脱し、「過去」や「未来」ではなく「自分が今、何をしているのか」に意識を向けられるようになるには、意識を「今」にセットする習慣を身につけていく必要があります。いつでもポジティブな人は、まさに意識を「今」に向ける習慣ができている人、と言えるでしょう。

私たちは生きている以上、ネガティブな出来事を完全に避けることはできません。日常的に襲ってくる不安や心配をポジティブに転換していくには、常日頃からポジティブ思考を習慣づけておくことが大切です。そうすれば、ネガティブな思考は自然と消えていきます。
さっそく、ポジティブ思考を習慣づける8つの方法をお伝えします。

方法|1 朝、感謝の気持ちを持つ

朝、目覚めたら、起き上がってベットや布団の上に静かに座り、自分が今朝も元気に目覚められたことに感謝をします。
ときには、身体のどこかが凝っていたり、痛みがあったりするかもしれません。それでも、自分が生きていることへの感謝を忘れてはいけません。私たちが今日という新しい日も、自分が生きて迎えることができるのは、大げさではなく、奇跡です。このことは、パンデミックを経験した今の私たちにとっては、以前よりもずっとリアルに感じられるはずです。

私たちの身体が今ここに存在しているのは、自然界のおかげです。光や空気、水、食べ物を与えてくれる自然界に「ありがとう」の気持ちを持ちましょう。感謝の気持ちを持つことで、セロトニンやオキシトシンといった、いわゆ流「幸せホルモン」が分泌され、ポジティブな気分へと導いてくれます。
さらに、青い空や広い海、森林などの美しい風景が、心の中に広がっていく様子をイメージしてみるのもおすすめです。明るく穏やかな気持ちで一日をスタートすることができるでしょう。
同様に、夜寝る前に感謝を捧げるのもおすすめです。今日一日生きて過ごせたことへのお礼を心の中で述べて、眠りに入りましょう。

方法|2 アファメーションで一日を始める

アファメーションとは、ポジティブな自分の状態をイメージし、それを言葉で宣言することです。朝、起きたら、「私は今日、穏やかな気持ちで過ごします」「私は今日、みんなに笑顔で挨拶をします」など、心の中でアファメーションをしてから一日をスタートすると、朝から夜まで、ポジティブなムードを保つことができます。
朝、目覚めた瞬間、私たちはとても静かな状態になっています。よく耕された畑が、静かに待機しているイメージです。朝一番のアファメーションは、そこにポジティブな種を蒔(ま)くようなものだと思ってください。
起き抜けの私たちの頭の中には、もちろん前日までの思考も存在していますが、表面的な意識がポジティブになるかネガティブになるかは、その日のスタートで決まります。
朝、ギリギリの時間に設定したアラームで飛び起きて、急いでトイレに行き、コーヒーを淹れながら歯を磨いて・・・・・・と、一つひとつのことに意識を向けないまま、バタバタと自動運転のように過ごしたら、どうなるでしょうか。あなたの一日は朝のムードのまま、自動運転のように過ごしたら、どうなるでしょうか。あなたの一日は朝のムードのまま、「あれもこれもやらなきゃ!」といった具合に慌ただしく過ぎていくでしょう。
これは、朝の時間をネガティブに過ごしたから、その日がネガティブになる、という話ではありません。人間は放っておくとネガティブになってしまうので、朝を意識的にポジティブに始めない限り、一日がネガティブになっていく、ということです。

人間は悪いことばかりを覚えているのに、いいことは忘れてしまいます。例えば、10年間つき合ったカップルにとって、楽しい思い出はたくさんあるはずです。でも、たった一日の大ゲンカでお互いが傷ついて、別れてしまうこともある。その日一日のネガティブな感情が、10年の楽しかった日々を帳消しにしてしまうのです。
これこそが、人間の仕組み。だからこそ、ポジティブなアファメーションが必要なのです。

時間は有限で、しかも元には戻りません。人生の貴重な一日を明るい気持ちでスタートするのか、それとも、バタバタとした気持ちで始めるのか。ぜひ、「ポジティブな気持ちで過ごす」と心に誓って、アファメーションを試してみてください。

方法|3 たとえ小さなことでも、いいことに意識を向ける

私たちはネガティブにならないようにするために、自分の思考をポジティブにシフトしていく必要がありますが、ポジティブになるための要素は大きいほうがいいというわけではありません。重要なのは常に探し続けることですから、むしろ、小さなことでかまいません。
例えば、会社の廊下ですれ違った人が、穏やかな笑みを浮かべていた。ランチに訪れた店で、スタッフが楽しそうに働いていた。あるいは、いつもの通勤路の片隅に小さな花が咲いているのを見つけた。こうしたポジティブ要素を見つけるたびに、「私もポジティブに過ごします」という気持ちを持つように心がけてみてください。

脳科学の世界でも、日頃から物事のポジティブな側面を見る習慣を身につけることで、ポジティブな神経回路が育まれるということがわかっています。

方法|4 嫌なことがあったら、ユーモアで切り替える

「人間の脳はネガティブなものに反応しやすい」というのは、先程お話ししたとおりです。人間はもともと自然界や動物界のなかでは弱い存在ですから、生命のリスクから自らを守るために、このような脳のはたらきが発達したと考えられます。
例えば、チーム内での伝達事項で行き違いやミスが発覚したとき、最初に何が起こるかと言うと、それぞれが頭の中で「なんで?」「誰のせい?」とネガティブな要素を深掘りし始めます。本来なら真っ先に問題への対応を考えるべきなのですが、つい、頭がそちらに行ってしまうんですね。
これこそ、人間の持つ「ネガティブなものに反応しやすい」という機能の影響です。

怒りやイライラなどのネガティブ状態にいったん入ると、そこから先はもう負のスパイラルしかありません。いずれどこかで切り替えなくてはならないのですから、ならば、一刻も早く切り替えるのが得策です。
英語には「It’s not my day」という言い回しがあります。ネガティブなことが重なったときに使う表現で、日本語で言うと「今日はツイてないな〜」というニュアンス。この言葉はボヤキというよりも、「今日はたまたま私の日じゃなかっただけ!」と気持ちをポジティブに切り替えるために使われることも多々あります。

日本には、朝の情報番組やインターネットの占いでその日の運勢をチェックする、という人も多いですよね。そういう人は、何か嫌なことが起きたら「おかしいな、今日は自分の星座が1位だったのに!」、または「朝の占いの結果もイマイチだったし、仕方ないか〜」(これはまさに「It’s not my day」ですね!)なんて冗談を頭に思い浮かべて、気持ちを切り替えるのもいいかもしれません。

方法|5 失敗を学びのレッスンにする

日本の社会は、他人の失敗に厳しい傾向があります。そのため、失敗を心の中で長く引きずってしまう、という人も少なくありません。
ですが、失敗は成功へと向かう道の途中に必ずと言っていいほど存在するもの。誰にでも起こることです。「やってしまった・・・・・・」と落ち込んでいる暇があったら、その失敗から学んでいきませんか?

方法|6 頭の中のネガティブな独り言をポジティブに変える

私たちは無意識のうちに、頭の中で独り言をたくさんつぶやいています。「さて、そろそろ寝ようかな」といった日常の動作にまつわることから、「明日は休みだ。何をして過ごそう?」「昨日、あの人に失礼なことを言っちゃったかも」といった過去や未来に関するものまで、おしゃべりの内容はさまざまです。
中身がポジティブなものやニュートラルなものであればよいのですが、ネガティブなことをつぶやいているときは要注意。それらは反復され、私たちの心身に悪影響を与えます。

ですから、意識的に変えていく必要があるのですが、厄介なことに、多くの人は自分がネガティブな独り言をつぶやいていることに気づいていません。ということは、あなたが無意識のうちに頭の中で繰り返している独り言が、自分自身を苦しめて、望まない現実を生み出しているかもしれないのです。
ネガティブな独り言に気づいて、ポジティブに切り替えること。ぜひ、日常生活のなかで意識してみてください。これを簡単にできるようになるには、マインドフルネスの練習が役に立ちますよ。

方法|7 過去や未来にとらわれず、「今」に集中する

あなたがポジティブになりたいのならば、過去や未来にとらわれず、「今」に意識を合わせることです。なぜかというと、何かを動かすパワーは「今」にしか存在しないからです。

例えば、「お酒の量を減らしたい」と考えている人が、つい飲みすぎてしまったとします。帰り道、その人は思いました。「うっかり飲みすぎた。明日から気をつけよう」。翌日、その人はまた飲みすぎて、再び思いました。「今日も飲みすぎた。明日こそ気をつけよう」。
みなさんがお察しのとおり、この人はこの先もずっとお酒の量を減らすことはできないでしょう。なぜだと思いますか? この人の意志が弱いから?
「飲みすぎた」のは、過去のこと。「気をつけよう」というのは、未来のことです。何かを動かすパワーは「今」にしか存在しませんから、過去や未来のことばかり頭に思い描いては、何も動きません。「今」にフォーカスしない限り、私たちは変わらず同じことを繰り返します。毎回食べすぎる人はずっと食べすぎるし、いつも怒っている人はいつまでも怒り続けます。

ですから、私たちは、自分の過去や未来ではなく「今」に置き続けるべきです。
先程の例で言うと、飲みすぎて反省する人の多くは、「今」に意識を向けていません。最終的に何倍飲んだのか覚えていないのは、そのせいです(もちろん、酔いのせいもあるでしょうが)。大切なのは、「今」を意識してお酒を飲むこと。すると「今が1杯目、次は2杯目、もうこれで3杯目か・・・・・。昨日飲みすぎたから、今日はここでやめておこうかな」と言う選択肢が生まれます。
もちろん、「やめずにもう少し飲む」という選択肢もあります。そちらを選んでもよいでしょう。ここでは、どちらを選ぶかということよりも、「自分で選んで、自分で決める」ということが肝心です。

自分が今、何をしているのか。そこをちゃんと見て、気づいてください。何もしていないときは、「私は今、呼吸をしている」と呼吸に意識を向けてください。
自分の今の状態を見れば、次はどうするのか、おのずと選択肢が生まれて、自分で決められるようになります。誰かに対して怒っているときに、怒っている自分に気づくことができれば、「十分怒ったからもういいか。やめよう」という選択肢が生まれます。無意識のままに怒り続けて、疲れてぐったりすることや、相手に対して後悔することがなくなります。
「イライラしやすい」「うっかりミスが多い」「飽きっぽい」など、自分の悪い癖を治したくてもなかなか治せない人は、これまで「今」に意識を向けてこなかったのかもしれません。これからは、「今」にフォーカスしていきましょう。

方法|8 サポートし合える仲間を見つけ、自分を勇気づける

方法7までに継続的にトライしてみたうえで、さらにポジティブになりたいと思うならば、周りの人たちの力を借りましょう。あなたの気持ちを理解してくれるポジティブな仲間たちとの交流を通して、お互いを高め合っていくことを目指してみてください。
私の生徒さんたちからは「マインドフルネスを習慣づけるようになってから、人間関係が変わった」という声をよく聞きます。「気づき」の力が高まると、人間関係に対しても意識的になり、自分によい影響を与えてくれる人と過ごす時間を大切にするようになっていくんですよね。あなたもぜひ、ご自身の変化を感じてみてください。

『心が整うマインドフルネス入門』 第3章 より ニーマル・ラージ・ギャワリ:著 小学館:刊

「今」に意識を合わせると、ネガティブな感情に陥ることはありません。
「今」に意識を合わせると、現実を変える力が湧いてきます。

ギャワリさんの提唱する、この「8つの方法」も活用し、ポジティブな習慣を身に付けたいですね。

「瞑想」と「マインドフルネス」の違いとは?

「マインドフルネス」は、私たちが自分本来のポテンシャルを余すことなく発揮するための重要な鍵となります。

さらにもう一つ、大事な鍵となるのが「瞑想」です。

ギャワリさんは、瞑想とマインドフルネスは別物だと指摘します。

 まず、マインドフルネスとは何か、あらためておさらいすると、五感を使って、自分がやっていることに完全に意識を向けている状態のことです。

例えば、歩くときは、足の動きに集中する。または、景色のほうに意識を向けるのもよいでしょう。「道端にこんな花が咲いている」「鳥の鳴き声が聞こえる」「ここに新しい店ができた」「飲食店から美味しそうなにおいがする」など、常に自分の外側に対して「気づき」を持ち続けます(下の図2を参照)。
歩くとき以外にも、食べるとき、コーヒーを飲むとき、シャワーを浴びるときなど、私たちは五感を使って意識を集中しさえすれば、日常のあらゆる場面をマインドフルネスに過ごすことができます。
いつも当たり前のようにやっていることに意識を合わせるだけなので、練習のための時間を特別に取る必要はありません。逆に言えば、あなたがその気になれば、24時間いつでも練習できるということです。

一方、瞑想は何かというと、自分の内側に完全に意識を向けている状態を指します。
マインドフルネスが五感を使うのに対し、基本の瞑想では目を閉じたり、雑音が耳に入らない場所に選んだりして、五感を使わないようにします。なぜなら、五感は目や耳、鼻、舌、肌を通して、私たちの外側にあるものがいったいどんなものなのかを感じるためのツールだからです(下の図3を参照)。
瞑想は自分の内側を感じるものですから、五感のはたらきは使いません。

現在に生きる人たちは日頃から五感を使えていないということは、第2章でもお話ししました。五感を使えていないというのは、人間として不自然な状態です。
食事をしても素材の持つ力を味わえていない、眠ったとしても睡眠の質が低い、季節の移り変わりを楽しめていないなど、五感がきちんと働いていない状態が起こるのは、あなたの心と身体が本来のベースよりも低いレベルにある証拠です。その状態のまま、「夢をかなえたい」「自分の可能性を広げたい」「パフォーマンスを上げたい」と望んだところで、かなうわけがありません。

まずは、今の低い状態からベースのところまで戻すこと。本来の自分に戻って初めて、夢だとか可能性だとかの話ができる状態になるのですから、不自然な状態を自然体に戻す。それが、マインドフルネスを練習する理由であり、目的となります。
一方、瞑想は、マインドフルネスで自然に戻った状態の自分を、さらに高いレベルへと導いていくための手段です。瞑想でレベルが上がると、自分だけでなく周りの人たちの隠れた可能性にも気づき、それを引き出すことができるようになります。

どういうことかと言うと、例えば、あなたが部下を指導する立場だとします。もしもあなたがマインドフルネスな生き方をしていなければ、部下が現場で何をやっているのか、何を考えているのか、どんな長所と短所を持っているのか、気づくことはできないでしょう。
ですが、あなたがマインドフルネスを身につければ、あなたの本来の能力を生かせるようになるので、今まで見えていなかった部下の思考や感情、行動が見えてくるようになります。さらに、瞑想によって高いレベルに到達すると、部下の内側に眠ったままの才能や素質に気づき、それを引き出すことかできるようになるでしょう。
そういった意味では、マインドフルネスは瞑想のための準備、とも言えます。
ただ、こういう言い方をすると「瞑想ができるようになれば、マインドフルネスの練習はもうしなくていい」と勘違いする方がいらっしゃいますが、そうではありません。人間は「気づき」を持ち続ける努力をしなければ、みるみるうちに無意識の自動運転状態へと戻ってしまいます。
マインドフルネスで「気づき」を高め、さらなる成長のためのツールとして瞑想をする。両方を続けることで、最大の効果を得ることができるのです。

この本を読んでくださっているみなさんのなかには、実際に瞑想にトライしたことがある方もいるでしょう。瞑想に興味を持っている方が数多くいる一方で、「難しくてうまくいかない」「なかなか続けられない」と途中で挫折してしまう方も少なくありません。あなたもそのひとりかもしれませんね。
では、なぜ、瞑想を続けられないのでしょうか? それは、瞑想の正しいやり方を知らないからです。

瞑想は、足を組んで目をつむればできるというものではありません。包丁の使い方を知らない人に「魚をさばいて」と頼んでも、急にはできないのと同じこと。やり方を正しく習い、練習する必要があります。

もしもあなたが「瞑想って本当はどんなものなのか、ちゃんと体験してみたい」「瞑想で自分を変えたい」と思うなら、ぜひ一度は、瞑想のプロが開いている瞑想の会に参加してみてください。もちろん、私のもとでニーマルメソッド®️を学んでいただくのもウェルカムです。

私の瞑想クラスに初めて参加された方に感想を伺うと、「生まれて初めてちゃんと瞑想できました」「瞑想ってこんなに素晴らしいものなんですね!」といった驚きや感動の声が返ってきます。それもそのはず。ニーマルメソッド®️は、ヒマラヤ地域で5000年以上続く瞑想という叡智を、現代の人たちが実践しやすいようにアップデートしたものだからです。

最大の特徴は、瞑想の前にじっくり時間をかけて準備を行うこと。呼吸法で心を、ストレッチで身体を整えてから、瞑想に入ります。ときには10〜15分の瞑想のために、それ以上の準備の時間を取ることもあります。第4章の112ページでご紹介した「自分の身体、思考、感情を観察する練習」も、実は瞑想の準備のひとつです。
スポーツの前の準備運動を怠ってしまったら、ケガをするかもしれません。あるいは、身体を思いのままに動かすことができず、やる気が失せてしまうこともあるでしょう。瞑想も同じこと。準備が大切です。

瞑想の前に行う準備として、私が特に大切にしているのが呼吸です。
私のクラスや講座に通ってくださっている生徒さんには、瞑想を毎日行うことをおすすめしていますが、「もしも忙しすぎて瞑想できないときは、せめて呼吸法だけでも行ってください」とお伝えしています。なぜなら、現代の人たちは緊張が強いので、意識的な呼吸でリラックスしてからでなければ、瞑想することはできないからです。
私たち人間は一日に2万回近く呼吸をしています。体内に新鮮な酸素を取り入れるだけでなく、ヒマラヤ地域では古代から、呼吸によってプラーナというすべての生命体を支えるエネルギーを取り入れることができると考えられてきました。「いくら寝ても疲れが取れない」「集中力が続かない」といった不調は、プラーナ不足が原因で起こることもあります。
あなたは普段、ちゃんと呼吸できていますか? 呼吸が浅くなっていると感じたときや、心や身体の調子がよくないときは、目を閉じて、呼吸に意識を向けながら、深くゆっくりと吸ったり吐いたりしてみてください。新鮮な酸素とともにプラーナが全身に行きわたって、心も身体も軽くなっていきますよ。

瞑想にはたくさんの種類があるのですが、呼吸法にも数多くのやり方があります。なかでも簡単で、特にビジネスパーソンにおすすめなのが、「片鼻呼吸」です。
これは、左の鼻腔(びくう)から吸って右の鼻腔から吐き、右の鼻腔から吸って左の鼻腔から吐く、というように、左右の鼻腔を交互に使って呼吸するものです。本来は吸ったあとに一度息を止めてから吐くのですが、はじめは息を止めずに呼吸を繰り返すだけの簡単バージョンからスタートするとよいでしょう(下の図4を参照)。

この呼吸を行うと、左脳と右脳のバランスが整い、頭はすっきりリフレッシュ、心は穏やかになっていきます。
ニーマルメソッド®️では瞑想の前の準備として行いますが、とても素晴らしい呼吸法なので、ぜひ、日常的に行ってみてください。朝はもちろん、大事な会議やプレゼンといった緊張しやすいシーンの前や、人間関係にストレスを感じたときなどにおすすめです。きっと、効果に驚かれると思いますよ。
(中略)
ここでは瞑想を気軽に日常に取り入れるための入門編として、たった5分でできる瞑想法をご紹介します。

今回ご紹介するのは「沈黙の瞑想」。忙しいビジネスパーソンにぴったりの、脳を休ませる効果のある瞑想法です。
朝から晩までフル稼働し、考えごとでいっぱいになってしまった頭の中を整理して、余計なものを取り除き、必要なものだけを残してくれます。疲れをリセットし、新たなエネルギーをチャージできるでしょう(下の図5を参照)。

詳しいやり方はこのあと説明しますが、目を閉じて、漆黒の夜の空を思い浮かべて、真っ暗な空間に包まれている自分をイメージしながら行うというものです。帰宅後や夜寝る前がやりやすいかと思いますが、仕事の合間に行っていただくのもおすすめです。
場所は、ひとりで静かに落ち着けるスペースで行いましょう。あぐらで座る、イスに腰かける、ベッドやソファで横になるなど、ラクな姿勢で行います。夜に行う場合は、部屋の明かりを消します。音楽や音の出るものはミュートにして、無音状態にします。

みなさんのなかには「夜、なかなか寝つけない」「寝ても疲れが取れない」「朝の目覚めが悪い」という人も多いと思います。OECD(経済協力開発機構)の2021年版の調査によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、統計をとった33カ国のうち最下位。また、さまざまなシングメーカーによるリサーチ結果を見ると、日本人の約半数が自分の睡眠の質に満足していないようです。
そんな方はぜひ、夜寝る前に「沈黙の瞑想」を行ってみてください。心が穏やかに眠りに入りやすくなると思いますよ。

『心が整うマインドフルネス入門』 第5章 より ニーマル・ラージ・ギャワリ:著 小学館:刊

図2 マインドフルネスのイメージ マインドフルネス入門 第5章
図2.マインドフルネスのイメージ
(『心が整うマインドフルネス入門』 第5章 より抜粋)
図3 瞑想のイメージ マインドフルネス入門 第5章
図3.瞑想のイメージ
(『心が整うマインドフルネス入門』 第5章 より抜粋)
図4−1 片鼻呼吸で心を整える マインドフルネス入門 第5章
図4−2 片鼻呼吸で心を整える マインドフルネス入門 第5章
図4.片鼻呼吸で心を整える
(『心が整うマインドフルネス入門』 第5章 より抜粋)
図5−1 心が静けさを取り戻す 沈黙の瞑想 マインドフルネス入門 第5章
図5−2 心が静けさを取り戻す 沈黙の瞑想 マインドフルネス入門 第5章
図5.心が静けさを取り戻す、沈黙の瞑想
(『心が整うマインドフルネス入門』 第5章 より抜粋)

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

今、私たちは大きな時代の転換期を迎えています。
今後、世の中の変化の激流は、ますます勢いを増していくことでしょう。

そこで大事になることが、その変化を必要以上に恐れないこと。そして、自分を整えていくことです。

恐れが過剰になると、身動きが取れなくなっていきます。
精神的にも、物質的にも、余計なものは抱え込まず、できるだけ身軽にしておいた方がいいです。

何か起こったとき、とっさに動ける機動力と、その変化を感知する「気づき」の力。
「マインドフルネス」は、そのどちらも高めてくれます。

皆さんも、本書を片手に、これからの時代に必須のサバイバル・ツールをぜひ、手にしてください。

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