【書評】『ゼロ・トゥ・ワン』(ピーター・ティール)

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 お薦めの本の紹介です。
 ピーター・ティールさんの『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』です。

 ピーター・ティール(Peter Thiel)さんは、シリコンバレーで現在もっとも注目される起業家、投資家のひとりです。
 PayPalの共同創業者のひとりとして知られています。

人類を救う「進歩」とは?


 人類の未来への進歩には、「水平的進歩」と「垂直的進歩」の二つの形があります。

 水平的進歩とは、成功例をコピーすること、つまり「1からnへと向かうこと」を意味します。
 世界的な視野で水平的進歩を表すと、「グローバリゼーション」です。
 つまり、ある地域で成功したことを他の地域に広げることです。

 垂直的進歩とは、新しい何かを行うこと、つまり「ゼロから1を生み出すこと」です。
 垂直的進歩を一言で表すと、「テクノロジー」

 ティールさんは、グローバリゼーションとテクノロジーは異なる進歩の形であり、両方が同時に起きることもあれば、片方だけ進むことも、どちらも起きないこともあると述べています。

 このところのグローバリゼーションの進展から考えれば、今後数十年間で世界がより収斂(しゅうれん)し同質化していくと想像してもおかしくない。日々の言葉遣いからも、テクノロジーの進歩が終わりに近いと誰もが信じていることがうかがえる。たとえば、世界をいわゆる「先進国=発展を終えた国」と「新興国=発展途上にある国」に分ける表現には、「先進国」に途上の余地はなく、貧しい国は先進国に追いつけばそれでいいという意味合いも感じられる。
 だけどその思い込みは間違っている。先ほどの逆説的な質問への僕自身の答えは、「ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーの方がはるかに重要だ」というものだ。今のままのテクノロジーで中国が今後20年間にエネルギー生産を2倍に増やせば、大気汚染が2倍になってしまう。インドの全世帯が既存のツールだけに頼ってアメリカ人と同じように生活すれば、環境は壊滅されてしまう。これまで富を創造してきた古い手法を世界中に広めれば、生まれるのは富ではなく破壊だ。資源の限られたこの世界で、新たなテクノロジーなきグローバリゼーションは持続不可能だ。
 新しいテクノロジーが時間の経過とともに自然に生まれることはない。僕らの祖先は固定的なゼロサム社会に生きていた。そこでの成功とは、他者から何かを奪うことだ。富の源泉はめったに生み出されず、普通の人が極限の生活から抜けだせるほどの富を蓄積することはできなかった。でも原始農耕から中世の風車、そして16世紀の地球儀までの1万年にわたる断続的な進化を経て、いきなり1760年の蒸気機関の発明から1970年頃までの間に、たて続けに新たなテクノロジーが発明されていく。そのおかげで、僕たちの世代はこれまでのどの世代も想像できないほど豊かな社会を受け継ぐことになった。
 といっても、両親と祖父母の世代は例外だった。1960年代の後半にはまだ、このまま進歩が続くはずだと考えられていた。週4日勤務、ただ同然の燃料、月旅行を楽しみにしていた。でもそうはならなかった。スマートフォンで生活が変わったような気になっても、実は周囲の環境は驚くほど昔と変わっていない。前世紀の半ばから劇的に進化したのはコンピュータと通信だけだ。といっても、両親の世代がより良い未来を予想したことが間違っていたわけじゃない。その未来が自動的にやって来ると考えたことが間違っていただけだ。21世紀をこれまでより平和な繁栄の時代にしてくれる新たなテクノロジーを思い描き、それを創り出すことが、今の僕らに与えられた挑戦なのだ。

 『ゼロ・トゥ・ワン』 1 僕たちは未来を創ることができるか より  ピーター・ティール:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 ティールさんは、1970年代以降、グローバリゼーションは急速に進んだけれと、テクノロジーの進歩はほぼIT分野だけに限られていると指摘しています。
 現在の延長線上の未来は、破綻が待ち受けているのは間違いありません。

 世界が持続可能な進歩を続けるには、これまでになかったテクノロジーを生み出すことが不可欠。
 スティールさんは、テクノロジーのことを「人類が持っている奇跡を起こす力」と呼んでいます。

 本書は、スティールさん自身の経験も踏まえ、新しい何かを創造する企業の立ち上げ方について記した一冊です。
 起業家にならなくても、多くのビジネスパーソンにとって役に立つ考え方や思考法がぎっしり詰まっています。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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独占企業は本当に「悪」なのか?


 ゼロから1を生み出し、新しいテクノロジーを発明すること。
 企業にとって、それは自らがつくり出した市場を独占できるという大きなメリットがあります。

 一方で、「市場を独占する企業があると、新たなイノベーションが起こらない」という人もいます。
 しかし、ティールさんは、その考え方に異論を唱えます。

 新たな独占が起こるそのダイナミズムを見れば、過去の独占がイノベーションを阻害していないことがわかる。アップルのiOSがリードするモバイル・コンピューティングの台頭で、マイクロソフトの長年にわたるOS市場の独占は大きく崩れた。それ以前に、60年代と70年代のIBMによるハードウェアの独占を奪ったのはマイクロソフトによるソフトウェアの独占だった。AT&Tは20世紀のほとんどの間、電話市場を独占していたけれど、今では誰でも数ある通信会社の中から安い携帯プランを選ぶことができる。もし独占企業に進歩を妨げる傾向があるなら、独占は危険だし、それに反対するのはもっともだ。でも、進歩の歴史とは、より良い独占企業が既存企業に取って代わってきた歴史なのだ。
 独占は進歩の原動力となる。なぜなら、何年間、あるいは何十年間にわたる独占を約束されることが、イノベーションへの強力なインセンティブとなるからだ。その上、独占企業はイノベーションを起こし続けることができる。彼らには長期計画を立てる余裕と、競争に追われる企業には想像もできないほど野心的な研究開発を支える資金があるからだ。
 では、なぜ経済学者は競争を理想的な状態だと説くのだろう? それには歴史的な経緯がある。経済学の数式は19世紀の物理学の理論をそのまま模倣(もほう)したものだ。経済学者は、個人と企業を独自の創造者ではなく、交換可能な原子と見なす。経済理論が完全競争の均衡状態を理想とするのは、モデル化が簡単だからであって、それがビジネスにとって最善だからじゃない。19世紀の物理学が予測した長期均衡とは、すべてのエネルギーが均等に分布し、あらゆるものが静止した状態──いわゆる宇宙の熱的死だ。熱力学をどう考えるかはさておき、これは強烈な喩(たと)えで、ビジネスにおいて均衡は静止状態を意味し、静止状態は死を意味する。競争均衡にある業界では、一企業の死はなんの重要性も持たない。かならず同じようなライバルがその企業に替わるからだ。
 宇宙のほとんどを占める真空は完全均衡によって説明できるだろう。多くのビジネスにも、それが当てはまるかもしれない。でも、新しい何かが創造される場は、均衡とはほど遠い。経済理論の当てはまらない現実世界では、他社のできないことをどれだけできるかで、成功の度合いが決まる。つまり、独占は異変でも例外でもない。独占は、すべての成功企業の条件なのだ。

 『ゼロ・トゥ・ワン』 3 幸福な企業はみなそれぞれ違う より  ピーター・ティール:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 テクノロジーが生まれ、クリエイティブな独占が新たに発生する。
 その繰り返しが世の中の進歩の原動力であり、経済にエネルギーを与えているということです。

 人間も、古い細胞が新しい細胞に入れ替わらないと、生命を維持できません。
 企業についても、同じことがいえるということですね。

「クリエイティブな独占」を起こすために必要なことは?


 クリエイティブな独占企業は、以下の特徴を合わせ持っています。

  • プロプライエタリ・テクノロジー
  • ネットワーク効果
  • 規模の経済
  • ブランド
「プロプライエタリ・テクノロジー」とは、その企業にしか持っていない技術のことです。
 ティールさんは、いくつかの例を挙げながら、以下のように説明しています。

プロプライエタリ・テクノロジーは、ビジネスのいちばん根本的な優位性だ。それがあれば、自社の商品やサービスを模倣されることはほとんどない。たとえば、グーグルのアルゴリズムは、他社より優れた検索結果を生み出している。ビジネスの核となる検索エンジンの信頼性と盤石さに加えて、グーグルはスピードの速い検索結果表示と確度の高い検索ワードの自動候補表示というプロプライエタリ・テクノロジーを併せ持っている。2000年はじめにグーグルがほかの検索エンジン企業を引き離したのと同じようにグーグルを引き離すことは、ほぼ不可能に近いだろう。
 確かな経験則から言えるのは、プロプライエタリ・テクノロジーは、本物の独占的優位性をもたらすようないくつかの重要な点で、二番手よりも少なくとも10倍は優れていなければならないということだ。それ以下のインパクトではおそらくそこそこの改善としか見なされず、特にすでに混みあった市場での売り込みは難しい。
 10倍優れたものを作るには、まったく新しい何かを発明するのがいちばんだ。それまでまったく何もなかったところで価値あるものを作れば、価値の増加は理論的には無限大となる。たとえば、眠らなくてもよくなる安全な薬や、禿(は)げをなくす薬は、確実に独占ビジネスとなるだろう。
 または、既存のソリューションを劇的に改善してもいい。10倍の改善ができれば、競争から抜け出せる。たとえば、ペイパルはイーベイでの取引を少なくとも10倍は改善した。小切手を送れば7日から10日はかかるところを、ペイパルは買い手がオークション終了後直ちに支払いができるようにした。売り手も即座に代金を受け取ることができ、小切手と違って不渡りになることもない。
 アマゾンはとりわけ目に見える形で、いきなり10倍の改善を果たした──ほかの書店よりも少なくとも10倍の書籍を揃えていたのだ。1995年にオープンした時、アマゾンは「地球上最大の書店」と謳(うた)うことができた。10万冊の書籍を抱えるリアルな書店と違い、アマゾンには物理的な在庫を抱える必要がない。ユーザーからの注文の都度、サプライヤーに発注するだけだ。そのあまりの効率の良さに、アマゾンの実体は「ブローカー」なのに「書店」と名乗るのは不正だとして、バーンズ&ノーブルはアマゾン上場の三日前に訴訟を起こしたほどだった。
 包括的な優れたデザインによっても、10倍の改善が可能になる。2010年以前、タブレットはまったく実用的でなく、市場も存在しなかった。マイクロソフトは2002年にウィンドウズXPタブレットPCエディションを出荷し、ノキアは2005年にインターネットタブレットを発売したものの、ほとんど使いものにならなかった。その後、アップルがiPadを世に出した。デザイン改善のインパクトを正確に計測することはできないけれど、これまでに世に出たどんなタブレットをも完全に凌駕(りょうが)するものをアップルが生み出したことは明らかだった。タブレットは「売れない」ものから「役立つ」ものに変わった。

 『ゼロ・トゥ・ワン』 5 終盤を制する より  ピーター・ティール:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 市場を独占するには、他社を完全に引き離さなければなりません。
 そのためには、最も優れた既存の技術の、10倍以上の改善が見込めるテクノロジーが必要です。

 グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブック。
 実際、これらの巨大IT企業はみな、他がマネできない圧倒的な強みを武器に急速に成長しました。

「隠れた真実」を探せ!


 誰も成し遂げなかったことをやるには、世の中の常識に覆われている「隠れた真実」を見つけることが必要です。
 ティールさんは、実際、隠れた真実はまだ数多く存在するけれど、それは飽くなき探究を続ける者の前にだけ姿を現すと述べています。

 隠れた真実には、「自然についての隠れた真実」「人間についての隠れた真実」があります。
 新しいテクノロジーというと、科学や天文学などの自然法則が重要視されますね。
 しかし、ティールさんは、「人間についての隠れた真実」の重要性を指摘しています。

 人間についての隠れた真実はあまり重要だと思われていない。おそらく、人の秘密を明かすのに立派な学歴はいらないからだろう。人々があまり語ろうとしないことは何か? 禁忌やタブーはなんだろう?
 自然の謎も人間の謎も、解き明かすと同じ真実に行き着くことがある。もう一度独占の謎を考えてみよう。競争は資本主義の対極にある。もしこのことをまだ知らないのなら、いくらでも実証的に調べることができる──企業収益を定量分析すれば、競争によって収益が失われることがわかるはずだ。同時に、人間的な側面から問うこともできる。経営者が口にできないことはなんだろう? 独占企業は注目を避けるために独占状態をなるべく隠し、競争企業はわざと自社の独自性を強調していることに気づくはずだ。表面的には企業間にあまり違いがないように見えても、実際には大きな違いがある。
 秘密を探すべき最良の場所は、ほかに誰も見ていない場所だ。ほとんどの人は教えられた範囲でものごとを考える。学校教育の目的は社会全般に受け入れられた知識を教えることだ。であれば、こう考えるといい──学校では教わらない重要な領域が存在するだろうか? たとえば、物理学はすべての総合大学で主要な専攻科目として確立されている。占星術はその対極にあるけれど、重要な領域とは言えない。では、栄養学はどうだろう? 栄養は誰にとっても大切だけれど、ハーバードに栄養学の専攻はない。最も優秀な科学者たちは別の分野に進む。この分野の大規模研究のほとんどは30年から40年前に行なわれたもので、そのほとんどには深刻な間違いがある。低脂肪と大量の穀物中心の食事が推奨されてきたのは、科学の裏づけからではなく大手食品団体のロビー活動の結果だろう。おかげで肥満の問題はさらに悪化している。栄養について学ぶことは多いのに、僕たちははるかかなたの星についての方が詳しい。栄養学は簡単ではないけれど、不可能でないことは明らかだ。隠れた真実を見つけられるのは、まさにこういう分野だ。

 『ゼロ・トゥ・ワン』 8 隠された真実 より  ピーター・ティール:著 関美和:訳 NHK出版:刊

 隠れた真実を見つけ出せるのは、科学者や研究者などに限ったことはありません。
 自然科学への特別な知識がない私たちにも、探しだすことは十分可能です。
 私たちが社会の常識や習慣にどっぷり浸かっているため、見逃されているに過ぎません。

 普段の生活から、「この常識は本当に正しいのか」考える習慣をつけること。
 それが隠れた真実を見つけるカギになりますね。

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 ティールさんがおっしゃるように、IT分野を除くほとんどの分野では、ここ数十年大きなテクノロジーの変化は起きていません。
 逆に考えると、だからこそ、ちょっとした工夫でその市場を独占するテクノロジーを開発できる可能性が高いといえますね。

「ゼロから1を生み出す力」

 企業でも人でも、ますます求められる能力であることは間違いありません。

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