【書評】『脳はどこまでコントロールできるか?』(中野信子)

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 お薦めの本の紹介です。
 中野信子先生の『脳はどこまでコントロールできるか?』です。

 中野信子(なかの・のぶこ)先生は、脳神経医学がご専門の脳科学者です。
 脳神経医学専攻の博士課程を修了後、二年間フランス原子力庁サクレー研究所の研究員を務められています。

「脳」を使いこなすと人生が変わる!


 よく、「日本人は創造性や発想力がない」と言われます。
 その理由について、中野先生は、日本人が「大人すぎる」からだと述べています。

 ひらめきや妄想の力は、子供の頃には誰もが持っているもの。
 成長するにしたがい、脳の「抑制機能」が働くようになります。

 中野先生は、日本のような、空気を読むことを極度に強いる「ハイコンテクスト(文脈の抽象度が高い)社会」では、口にしたら子どもっぽく無能に見えてしまいがちな妄想などより、空気を読む力やコミュニケーション能力のほうが、圧倒的に重要視されていると指摘しています。

 ユニークな発想や創造性が発揮できないのは、生まれつきではなく、育った環境のせい。
 鍛えることで、誰でも“妄想の達人”になることができるということですね。

 本書は、私たち人間の脳がどれほど錯覚によって騙(だま)されやすいかを説明し、妄想力を使って人生を変える方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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自分を大事に扱うことが成功につながる


 中野先生は、“妄想の達人”のひとりとして、ナディーヌ・ロスチャイルドを挙げています。
 ユダヤ人でもなく、名家の出でもないナディーヌは、あるとき、世界の大富豪であるエドモンド・ロスチャイルド男爵と出会い、求婚されます。

 ロスチャイルド夫人となった彼女は、著書のなかで、こんなふうに語っています。
「あなたがまず心を配るべきなのは、自分自身です」
 さらに彼女は続けます。
「もしあなたがひとり暮らしなら、部屋は常にきれいに片付けるべきです。ひとりでお茶を飲むとしても、ふちの欠けたカップなどではなく、いちばん上等なカップを使ってください。家でひとりで夕食をとるなら、帰りにお花とおいしいデザートを自分に買ってあげましょう」と。

 つまり、自分で自分を好きになれるよう、自分自身に心を配る。自分で自分をかまうべきだ、というのです。
 このくだりを読んだとき、さすがだな、と思いました。これこそ、妄想の技術の真髄(しんずい)と言ってもいいことです。
(中略)
 ではなぜ、自分を大事に扱うことが、成功につながるのでしょうか。
 大成功といっても、実は小さな信頼の積み重ねだったり、周囲の人といかに良好な人間関係を築けるかというところに左右されているものです。
 ここが重要なポイントなのですが、自分を大事にしている人は、ほかの人からも大事にされるのです。逆に、自分を粗末に扱っている人は、他人からも粗末に扱われるようになってしまいます。

 たとえば、あなたの目の前に二台の車があるとしましょう。一台は手入れが行き届いて、きれいに磨かれた車。もう一台はホコリだらけで汚れていて、車体にキズや凹みがあるような状態です。
 もしあなたが「この二台の車のうち、どちらかを棒で思いきり叩いてください」と言われたら、あなたはどちらの車を叩くでしょうか?
 おそらく多くの人が、ホコリだらけの車を選ぶと思います。

 心理学に「割れ窓理論」という理論があります。これは、軽微な犯罪がやがて凶悪な犯罪を生み出すという理論です。人間には、秩序の乱れがあると、それに同調してしまうという性質があるのです。
(中略)
 人間は、自分を大事にしている人を粗末に扱うのには、抵抗を感じます。しかし自分で自分を粗末に扱っている人には、こちらも同じように粗末に扱ってもいいような気になってしまうのです。

 『脳はどこまでコントロールできるか?』 第1章 より 中野信子:著 KKベストセラーズ:刊

「一事が万事」ということです。
 些細なことをおろそかにしている人は、いずれ思いもかけない大トラブルに巻き込まれかねません。
 とくに、自分自身は絶対に粗末に扱ってはいけないということ。
 気をつけたいですね。

なぜ教科書を繰り返し読むと、「理解したつもり」になるのか?


 私たちは、日々暮らしのなかで、自分が使う身近な道具の仕組みをすべて理解しているわけではありません。

 たとえば、「蛍光灯」。
 どういう仕組みで電気が流れて光が出るのか、なぜ「蛍光」と呼ぶのか。
 きちんと説明できなくても、スイッチのオン・オフ操作の知識さえあればことが足ります。

 仕組みや手順を覚えなくても使いたいときに操作できるという感覚が、「自分は◯◯について理解している」という錯覚を生む。
 それを「知識の錯覚」と呼びます。

 ありがちな典型例が、「あんなに一生懸命勉強したのに、テストで良い点がとれなかった」「必死でやったのに、試験に落ちた」というもの。
 何度も何度も教科書やノートを読み返して、よく理解したつもりだったのに、という訴えを聞いて、私は、おや? と思います。
 これは、知識の錯覚なのです。何度も何度も教科書やノートを読み返すと、見慣れた感覚が生じますね。すると、脳が真の理解と取り違えて、自分は理解している、と錯覚してしまうのです。

 教科書やノートをただ読む(眺める)だけでは、理解したことにはなりません。それは、ただ見慣れただけのこと。そして、読めば読むほど(眺めれば眺めるほど)、馴染んだ感覚は強まり、自分は完璧に理解している、という錯覚はゆるぎないものになっていきます。
 だから、本当に理解しているかどうかを確かめるために、試験をするのです。
 最も効果的な勉強法は、教科書やノートを何度も読み返すことではなく、実際に問題を解いてみること。古い言い方では、「習うより慣れろ」、とも言いますね。

 つまり、教科書を百回読むよりも、問題集を三回こなすほうが、はるかに効率がいいのです。
 さらに言えば、問題集をこなすと同時に、誰かに内容を教えていくのが望ましい。
 そして、相手には「わからないことがあったらできるだけたくさんの質問をしてくれ」と頼みましょう。自分が何をわかっていて、何をわかっていないのか、その質問が教えてくれます。
 これが、「知識の錯覚」の罠から、あなたを救ってくれるのです。

 『脳はどこまでコントロールできるか?』 第2章 より  中野信子:著  KKベストセラーズ:刊

 何度も同じ道を通り、その辺り一帯に詳しくなった気がして、一本外れた道に入ったはいいけれど、まったく土地勘がなくなって迷ってしまう。
 そんな経験をした人は多いのではないでしょうか。

「覚えたつもり」
「知っているつもり」

 そんな知識の錯覚から逃れる一番の方法は、「習うより慣れろ」です。
 頭の中で考えるだけでなく、色々試してみることを忘れないようにしたいですね。

「ラベリング効果」で相手を動かす


 誰にでも、相性の悪い人や苦手な人はいるものです。
 中野先生は、苦手な人をうまく誘導するために使える技のひとつとして、「ラベリング効果」を挙げています。

 ラベリングとは、その名のとおり、コミュニケーションのなかでさりげなく先手をとり、相手に望ましいレッテルを先に貼りつけてしまうこと。そうすることで、相手の行動を自分の思う方向へ誘導できるというのが、ラベリング効果です。
 このラベリング効果も、相手の妄想をうまく利用しています。良いレッテルを貼ってしまうことで、相手の妄想をうまく利用しています。良いレッテルを先に貼ってしまうことで、相手の思考がそのレッテルに影響され、あなたの用意した、都合のいい認知の枠のなかへ、勝手に誘導されてきてくれるのです。
 たとえば、仕事がちょっと雑なんだけど、注意しにくくて困る・・・・。というような人に対しては、こんなふうに使います。
 成果物の仕上がりを見て、比較的ていねいにやってくれた部分を指摘しながら、次のような言葉をかけるのです。
「坂本さん、今日もありがとう。ここのとこ、特に詳しくやってくれて、すごく助かります。坂本さんは仕事がていねいだし、実は几帳面っていうのが、仕事に活かされているよね」
 すると、たいしてていねいでなくても、「ていねいさ」をターゲットに感謝を示してしまうことで、坂本さん意識のなかに「◯◯さんの依頼には、『ていねい』に応えると喜ばれるのだ」という事実が刷り込まれていってしまうのです。そして、次に何かを依頼したときには、よりていねいに仕事を仕上げてくれる可能性が高くなるのです。
 人間には、ほかの人から褒められたい、認められたいという欲求があります。これを承認欲求と言います。自分が価値ある存在であり、他者から尊重されることを求める気持ちです。褒められて悪い気はしない、の根底にある欲求とも言えるでしょう。
 つまり、「ていねいな仕事、ありがとう」という言葉をかけることで、相手に「ていねいさを重視した仕事をすれば、褒めてもらえるのだ」という記憶を刷り込む(ラベルを貼りつける)ことができるのです。

 『脳はどこまでコントロールできるか?』 第3章 より  中野信子:著  KKベストセラーズ:刊

 誰にもある「褒められたい」「よく思われたい」という気持ちを利用した、一種の暗示です。
 うまく応用して、仕事などでの頼みごとをスムーズに行えるようにしたいですね。

目の前のことに集中するための方法


「何かに集中したくても、どうしてもほかの誘惑に目がいってしまう・・・・」
 中野先生は、そんなときの対応として、ハイマンという心理学者が提唱している以下の方法を勧めています。

 ハイマンが唱えたのは、
「頭のなかに音楽が鳴り続けて消えなくて落ち着かない場合は、適度な難易度のパズルをやるといい」
 という提案です。
 こうすると脳の作業領域をパズルに使うため、音楽のなる余地を圧迫するので、音楽が消えてくれる、という理屈です。

 物事に集中するには、頭のなかの作業領域(ワーキングメモリ)をそのタスクのために確保しなければなりません。すると、ハイマンの方法を使うと、頭になんだかもやもやと残ってしまうゲームのことや、食べ物のこと、集中を乱す誘惑を追いやってくれるのです。
 ハイマンは、パズルとしては、適切な難易度のアナグラム(ある単語の文字の順番を入れ替えて別の単語をつくる遊び)がよいとしています。

 日本語だと、たとえばダジャレを考えたり、さんずいのつく漢字を一分間にどれだけ思いつくか、のようなトライアルも有効でしょう。数独を一題やってみる、というのもいいかもしれません。

 ただし、問題には条件があって、易しすぎても難しすぎてもダメなのです。易しすぎるとパズルに使う領域が小さすぎて、誘惑を追いやってくれるほどのパワーが足りない。難しすぎると、そもそもそのパズルに集中できません。その人の適度な難易度でやることが重要です。

 これは、何か作業を始める前に、机の上をきれいに片付けるように、脳の作業領域を片付ける、というイメージです。
「勉強を始める前の儀式」「何か作業を始める前のおまじない」として、自分の好みに合った、簡単なパズルやゲームを「頭のウォーミングアップ体操」として数問やってから、作業を始めるというのは、とても有効な方法になるでしょう。タスクに集中するための作業記憶領域を空けておくためにとても便利な方法です。

 『脳はどこまでコントロールできるか?』 第4章 より 中野信子:著 KKベストセラーズ:刊

 目の前の作業に集中するためには、頭の中の作業領域から邪魔なものを追い払うこと。
 いざというときのために、自分にあった方法をひとつ見つけておくといいかもしれませんね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 私たちは、眼や耳などを通して、外の世界をありのままに理解していると考えがちです。
 しかし、実際にはそうではないことが、本書を読むとよくわかります。

 人間の脳は、自分の興味のあること、大事だと思うことを外の世界から“選びとって”、自分の都合のいいように解釈しています。
 だからこそ、創造する力や妄想力が発揮される余地が生まれるということもいえますね。

 今見ている世界は、自分にしか見えない世界。
 自分の思い込みや偏見を変えれば、文字通り、世界が変わります。
 脳の「妄想する力」を上手につかって、より良い人生を歩いていきたいですね。

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