【書評】『ゾーンに入る技術』(辻秀一)
お薦めの本の紹介です。
辻秀一先生の『ゾーンに入る技術』です。
辻秀一(つじ・しゅういち)先生は、日本体育協会公認、日本医師会公認のスポーツドクターです。
応用スポーツ心理学を基本としたメンタルトレーニングによるパフォーマンス向上をご専門とし、年間200回以上のセミナーや講演をこなされています。
「フロー状態」とは? 「ゾーン」とは?
パフォーマンスの質を高いレベルで決定する心の状態を、「FLOW(フロー)状態」と呼びます。
フロー状態は、集中力が抜群で、活動に完璧に没頭している最高の状態
です。
フロー状態が進むと、究極の「ゾーン」と呼ばれる状態がやってきます。
野球で、バッターが「ピッチャーの球が止まって見えた」とか、「ボールがバレーボールほどの大きさに見えた」という逸話があります。
「ゾーン」に入ると、そのような状態になり得るとのこと。
一方、気が散って集中できない心の状態を、「ノンフロー状態」と呼びます。
ノンフロー状態を一言でいえば、「揺らぎ」「とらわれ」です。
揺らぎとは、さまざまなマイナス感情が思い起こされた不安定な心の状態
のこと。
とらわれとは、潜在意識の中に形成された、思い込みに支配された状態
のこと。
集中の三大阻害要因は、「環境」と「出来事」と「他人」です。
人間の脳は、固有の意味付けをし、勝手に「揺らぎ」と「とらわれ」を自分自身の中に起こします。
本書は、脳機能を磨くことで「気が散る」という習性を改善し、常に集中状態を作り出すためのアイデアや方法を解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
集中を生み出す「ライフスキル脳」
人間の脳の機能は、大きく「認知脳」と「ライフスキル脳」の2つに分けられます。
認知能とは、外部の状況や出来事を判断して、「すること」を明確にする脳です。
「何をするのか」の部分を支える重要な脳ですが、気が散る状態を生み出す「意味付け」の原因にもなります。
そこで必要になるのが、「ライフスキル脳」です。
この脳機能は、心の状態を「揺らがず」「とらわれず」のフロー状態にしてくれる。どちらかと言うと内側の、心の状態に向けた脳の働きである。
集中状態を作り出している人は、間違いなくこのライフスキル脳が優れている。
パフォーマンスの質が高い状態を集中状態と言うなら、パフォーマンスの質は「何をするのか」ということとそれを「どうやってするのか」という心の状態で決定しているのだから、その両者がそろって広義の意味の集中状態となる。
その集中状態を生み出すには、「何をするか」を明確にする認知能だけでは難しい。「どうやってするか」の心の状態を、何をしていてもフロー化させることができなければならないからだ。
すなわち、集中状態を私たちにもたらしているのはこの2つの脳なのだ。
つまり、集中状態はこの2つの脳機能がバランスよく働いているバイブレインという集中脳によってもたらされているのである。『ゾーンに入る技術』 第1章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
フロー状態では、どんなパフォーマンスの質も向上します。
パフォーマンスの質が向上することは、その瞬間の時間の質が向上するということ。
「気づけば、あっという間に数時間の勉強や仕事が済んでしまった」
というのが、最高の心の状態といえます。
そのようなフロー状態で生きている時間の流れの感覚を、「カイロスタイム」と呼びます。
心の状態をフロー化させる「4大ツール」
「揺らぎ」や「とらわれ」から逃れるためのライフスキルの原点。
それは、「自分の心は自分で決める」という意識です。
その意識を持ったうえで、心の状態を決める「自己ツール」を最大限に使用する必要があります。
心の状態をフローに傾かせる自己4大ツールとは、「表情」「態度」「言葉」「思考」だ。
しかし、ほとんどの人はこの4つを自分の心のために使っていない。どうしているかと言えば、「環境」「出来事」「他人」によって受けた心の状態を表現しているにすぎないのだ。
雨が降った上に蒸し暑いから、心はノンフローで、だから今日の思考はネガティブに考えてしまうのだとか。
(中略)
外部の「環境」「出来事」「他人」に支配され、その出来事に反応しているだけで、心のために4つのツールを使うためのライフスキルの能力などまったく使っていない。
それまでは犬が餌をもらえたら尻尾を振り、自分が気に入らない侵入者がいればただ吠えるのと何ら変わりがない。すべては、外部の出来事に反応しているだけの動物だ。
それでは、人間の脳の機能として実にもったいない。
集中やゾーンなどという言葉は、人間にしかない概念だ。それは人間だからこそ認知して集中が阻害されたり、ゾーンに入れないということでもある。『ゾーンに入る技術』 第3章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
この4つはどれも、自分の心の状態が直接表れるもの。
外部の要因に支配され、その出来事に反応している。
それでは、フロー状態に必要な「一定した穏やかな心」を保つのは難しいです。
「集中」と「表情」の関係
辻先生は、「表情」「態度」「言葉」「思考」をライフスキル脳でマネジメントする方法を紹介しています。
ここでは、「表情」について取り上げます。
辻先生は、良い表情の持ち主として、女子プロゴルファーの宮里藍選手を挙げています。
宮里選手は、ボギーでもバーディーでも関係なく、いつも明るい笑顔の表情をしています。
外部の状況に支配されることなく、自分の心をフローに傾けるために、ライフスキルを動員しながら、笑顔でいるというのは素晴らしいライフスキル脳の力なのだ。
単に、「笑顔がいい」と言っているのではない。状況に支配されることなく、自分で自分の表情を作って、心をフロー状態にして生きる。
このことの価値を知って自ら集中を作り出し、スポーツもビジネスも行ってほしいのだ。表情が心の状態に極めて影響するということを知って、実践できることこそがカイロスタイムの生き方だ。『ゾーンに入る技術』 第3章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
顔に喜怒哀楽の表情が出てしまう。
それは、ライフスキルの概念からすると、外部の要因に左右されていることにほかなりません。
周りの状況によらず、いつも明るい表情をすること。
少しずつでも近づけるように意識したいですね。
「与える心」がパフォーマンスを上げる
相手に与えることでも、自分自身をフロー状態にすることができます。
人間には、何かをあげることで、相手が喜んでいる分だけ、自分も喜べるという本能があるからです。
この本能を、「フォワードの法則」と呼びます。
この法則で大切なのは、与えるのは物質やお金ではなく、「エネルギー」だということです。
フロー状態を呼び込む「与えるエネルギー」のひとつに、「感謝」があります。
自分の実力を遺憾なく発揮する選手たちは、結果が出たから感謝するのではなく、感謝するというライフスキルを実践するからこそ、フロー化が起こりパフォーマンスが高まり、結果を出しているのだと考えられる。
このライフスキルの持ち主で思い出すアスリート代表は、マラソンの高橋尚子選手だ。これまでのマラソンランナーは、周りの期待に応えるために走っている中、彼女は違っていた。
まず、どんな時もフルマラソンを走れることに感謝しながら走っていたそうだ。そして沿道の人たちにも感謝。さらには、30キロ付近で競り合っているライバルにすら感謝していたと聞く。
30キロの一番きついところで、「こいつだけには負けるか」と考えていると、身体は緊張し、筋肉は硬くなるだけではなく、末梢血管は収縮して酸素の供給も悪くなり、パフォーマンスは低下する。
相手にすら感謝する状況はフロー状態を作るので、身体のパフォーマンスは低下することなく、パフォーマンスを維持・向上させる。
もちろん、高橋尚子選手が相手にすら感謝したのは、負けてもいいからではなく、本当に勝ちたいからこそ実践できたライフスキルだと思う。
そして、感謝する理由を相手に探していたのではなく、自分のために相手にただ感謝するというライフスキル脳が目一杯に働いているのだ。『ゾーンに入る技術』 第4章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
「感謝」の気持ちを持つのは、相手のためではなく、自分のため。
自分の心をフロー状態保ち、能力を目一杯に引き出すため。
一流選手は、それをしっかり理解しています。
「何かしてもらった」
「何かしてもらいたい」
だから感謝するでは、、すでに外部の要因にとらわれているということです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
辻先生は、ライフスキル脳の活性化に最も重要ななこととして、「今に生きる」意識を持つことを挙げています。
つまり、余計なことを考えずに、今、目の前のことを一生懸命取り組むべきということです。
するべきことを明確にして、「今に生きる」。
その先に、「フロー状態」があり、「ゾーン」があります。
ライフスキル脳を鍛えて、日々充実した時間(カイロスタイム)を過ごす。
そして、いつの日か「ゾーン」体験を味わいたいですね。
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