本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『向上心』(サミュエル・スマイルズ)

 お薦めの本の紹介です。
 サミュエル・スマイルズさんの『向上心』です。

 サミュエル・スマイルズさんは、19世紀の著述家です。
 はじめは医者でしたが、のちに文筆業に専念しています。

人間はいかに生きるべきか?

 スマイルズさんは、本書の中で「人間はいかに生きるべきか」の大原則を示し、歴史上の偉人や彼と同時代の著名人などを例に挙げながら詳しく解説しています。
 一世紀以上の時を超えて、読み継がれてきた歴史的名著です。

 人類の英知の結晶ともいえる言葉の数々。
 そのなかからいくつかピックアップしてご紹介します。

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「陽のあたる道」を見つける人、見つけられない人

 スマイルズさんは、人生には、考え方しだいで常に二つの面がある述べています。
 二つの面とは、「陰(ネガティブ)の面」「陽(ポジティブ)の面」です。

 充実した人生を送るか、最悪の道をたどるか。
 それは、一人ひとりが、どちらの面を選ぶかにかかっているということです。

 この選択を行うにあたって、われわれは意思の力を働かせ、幸福になるか不幸に甘んじるか、そのどちらかの習慣を身につけていくのである。努力すれば、物事の暗い面ではなく明るい面だけを見ようとする性格を伸ばすことも可能なのだ。灰色にたれ込める雲が頭上をおおっていても、その裏側に輝く金色の光を見落とさないようにしっかりと目を見開くことだ。
 瞳の輝きは人生のあらゆる場面を鮮やかに美しく、また喜ばしく照らしてくれる。冷たい心を照らしてそれを暖め、悩める者を照らして慰め、無知な者の上に輝いて啓蒙し、悲しめる者を勇気づける。
 瞳の輝きは知性に光沢を添え、美しいものをますます美しくする。この輝きがなければ、人生を照らす太陽の明るい光を感じることはできず、花はむだに咲き、天地万物すべてのものが薄汚れて生命も魂もない抜け殻同然に見えてしまうのである。

   『向上心』  第1章 より  サミュエル・スマイルズ:著  竹内均:訳  三笠書房:刊

 厚い雲に覆われて、激しい暴風雨にさらされるとき。
 私たちは、自分の身に起きた不幸を嘆いてしまうことが多いです。

 しかし、そんなときこそ、雲の後ろに隠れている太陽のありがたさに感謝したいですね。

 止まない雨はないし、明けない夜もありません。

 再び頭上に太陽が輝くことを信じつづけて、歩き続けること。
 それが、人生を成功に導きます。

考える以上に「行動する」こと

 スマイルズさんは、仕事は、行動力あふれる人格を養うためにはいちばんいい方法であると述べています。
 働くことによって、従順さや自制心、集中力、順応性、根気強さなどが芽生え、鍛えられていくからです。

 どんな分野であれ、本物の実力者というのは、例外なく優れた実務能力を持っています。

 思索能力と実務能力は別ものである。書斎にこもってペンを握り、人生や自分の方針について遠大な理想を練り上げる能力がある人物でも、書斎を一歩出れば、その理想を具体的に実現するには適さないことがわかるはずだ。
 思索能力は旺盛な思考力を必要とし、実務能力は精力的な行動いかんによって発揮される。そして、普通この二つの能力はバランスを欠いて結び合わされている。
 思索的な人間は優柔不断な傾向がある。彼は一つの問題をあらゆる角度から考える。巧みに組み立てられた賛否両論の意見にはさまれて、行動は宙ぶらりんの状態になり、結局はどっちつかずに終わってしまうことが多い。
 ところが実務的な人間は、理屈っぽい前置きは抜きにしてはっきりした確信に到達し、自分の信念を行動に移すために前進するのである。
 偉大な科学者の中にも、すぐれた実務能力があることを証明してみせた人は多い。アイザック・ニュートンが学問の知識豊かな賢人だったからと言って、造幣局監督官としての評判を落としたという話は聞いたことがない。ドイツのフンボルト兄弟は文学や哲学、言語学、鉱業、それに外交や政治など、何をやらせても同じように才能を発揮している。

『向上心』  第3章 より  サミュエル・スマイルズ:著  竹内均:訳  三笠書房:刊

「思索能力」と「実務能力」
 どちらも大事な能力です。

 ですが、問われるのは実際に行動した結果です。
 どんな素晴らしい理想やアイデアも、実際に行動に移さなければ、「絵に描いた餅」です。

 私たちも、口先だけの評論家にならないようにしたいですね。

「自慢話」をやめ、「行動」で自分のよさを示せ

 スマイルズさんは、「心くばり」の大切さを指摘します。
 心くばりとは、「他人の人格を尊重すること」です。
 自分が尊敬されたいと思うなら、相手の個性をまず尊重し、相手の考え方や意見がたとえ自分のそれとはちがっていても、それを快く認めてあげることが大事だと述べています。

 人あたりのいい分別のある人間は、自分のほうが隣人たちよりも偉いとか、利口だとか、金持ちだなどというふりをしない。自分の社会的な地位や生まれのよさを自慢げに話したりはしないし、自分と同じような特権を持っていないからと言って相手を見下したりもしない。職業や成功した話を吹聴せず、口を開けば、「時と所を構わずに自分の仕事の話ばかり」ということもない。
 それどころか、言葉も行為もすべてひかえめで、見栄を張らず気どりがない。この人たちは自慢話に花を咲かせるかわりに、行動を通じて自分の本当の性格を示しているのである。
 他人の気持ちを尊重できないのは自己中心的な人に多く、それはとっつきにくい、よそよそしい態度になって表れる。悪意があるというよりも、思いやりがなくデリカシーに欠けるといったほうがいいだろう。そういう人は、相手を喜ばせるか傷つけるかという本の些細な気配りもできなければ、それを考えようともしないのだ。
 育ちのよさと悪さがはっきりと現れるのは、その人が人間関係を保っていくうえで、いわゆる自己犠牲の精神をどれくらい発揮できるかによるといっても過言ではない。
 ほどほどの自制心を持たない人間は、仲間にとって我慢のならない存在である。いつも周囲に厄介ばかり起こすので、誰も進んでつき合おうとはしない。大勢の人が、自制心がないばかりに世間を狭くして出世をはばまれ、根性のねじけた思いやりのない性格のために、成功を手にすることができずにいる。
 反対に才能は劣るかもしれないが、自分を抑制し、辛抱強く冷静さを失わぬように努めるだけで、成功への道を切り開いている人たちがいるのである。

 『向上心』  第5章 より  サミュエル・スマイルズ:著  竹内均:訳  三笠書房:刊

 他人の気持ちを考えずに、自分のことだけをひたすらしゃべり続ける。
 そんな人たちは、私たちの身の周りにもいますね。

 自分の気持ちを抑える「自制心」。
 相手の考え方を受け入れる「寛容さ」。

 どちらも手に入れたいものです。

今こそ必要な「流れに逆らって泳ぐ力と勇気」

 スマイルズさんは、見事に練り上げられているが言葉だけで終わってしまうような目的、かけ声ばかりで実行されない行為は、いずれもほんのちょっとした「勇気ある決断」がなされていないのが原因だと指摘します。

 毅然たる態度をとって度量の大きさを見せるよりも、卑屈になって媚びへつらうほうがずっと簡単であり、偏見に立ち向かうよりも屈するほうが容易であると考えている人が現実にいるものなのである。流れに逆らって泳ぐには、力と勇気が必要だ。そのどちらも持っていない魚は干上がるだけなのだ。
 俗受けをねらうこの種の根性は過去数年の間に急速に広がり、結果的に政治家の気質を著しく低下させてしまうことになった。
 つまり、良心がより柔軟性を持つようになってしまったのだ。今では議会用と講演会用に二つの良心を持っている始末だ。
 日常生活では嫌われているが、大衆に迎合するための偏見は公然とまかり通っている。偽善的な行為でさえ昨今では大して不名誉なこととは考えられていないようだ。しかし所詮は、利害にかかわりある人の意見と符丁を合わせたように一致する、わざとらしい嘘の会話はその場限りのものにすぎない。
 これと同じ道徳的卑劣さは、上に向かって広がるのと同時に下にも影響を与える。作用と反作用は常に等しい。上に対する偽善行為とご都合主義は、必ず下に対しても同じ作用を及ぼすのである。

『向上心』  第6章 より  サミュエル・スマイルズ:著  竹内均:訳  三笠書房:刊

 大衆に迎合したいがために、相手によって言うことをコロコロ変える。
 そんな政治家が信用されないのは、今も昔も変わりません。

 政治家ではない私たちも、日常のあらゆる場面で「流れに逆らって泳ぐ力と勇気」は試されます。

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 スマイルズさんが本書を書いたのは150年ほど前。
 日本はまだ明治維新を迎えてすぐの時期でした。
 しかし、その内容はまったく色あせず、逆に輝きを増しています。

 人間の根本的な課題や目指すべき方向性。
 そういったものは、いつの時代もどの場所でも変わらないということです。

 先の見えない不安な時代。
 だからこそ、それに押しつぶされないよう、自らの人格を鍛える必要があります。
 スマイルズさんが強調されているように、「向上心」を持ち、忍耐強く、人生を歩みたいですね。

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