【書評】『〈勝負脳〉の鍛え方』(林成之)

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 お薦めの本の紹介です。
 林成之先生の『〈勝負脳〉の鍛え方』です。

 林成之(はやし・なりゆき)先生は、脳神経外科がご専門の医師です。
 大学付属病院の救命救急センター科長として、長きにわたって救急の患者たちの治療に取り組み続け、その間、数々の画期的な治療法を開発して大きな成果を挙げられています。
 なかでも、多くの脳死寸前の患者の生命を救った「脳低温療法」は、世界的にその名を知られる大発見です。

「モジュレータ理論」の発見


 重度の脳障害の患者が昏睡状態から意識を取り戻した時のこと。
 林先生は、昏睡状態にあるあいだ中、その患者に何度も呼びかけたそうですが、全く反応がありませんでした。
 しかし、患者の方はそのことを覚えていたそうです。

 この事実から林先生は、意識は二つあるという仮説、「意識の二重構成理論」を立てます。

 外からの刺激に反応する「外意識」と呼ぶべきもの。
 外からの刺激をうけとめて脳内で情報処理する「内意識」と呼ぶべきもの。

 林先生は、人間の意識には、この二つがあると考えました。

 更に研究を重ねた林先生は、人間の性格に関係する神経系である、「ドーパミン系神経」と内意識の関係に注目します。

 脳の中で、ドーパミン系神経伝達物質を多く使う部位。
 それは、記憶を司る「海馬回」と、喜怒哀楽の中枢である「扁桃核」です。

 林先生は、内意識が失われている重度の脳障害患者は、これらの部位の機能が失われているケースが多いことを突き止めました。
 そして、人間の「心」と脳の機能を関係づける新理論、「モジュレータ理論」を提唱します。

 ドーパミン系神経は、意識(内意識)によってもたらされる刺激や情報によって、何かを思ったり感じたりするという働きをしている。人間の「心」と呼ばれるものは、このとき発生しているのであり、具体的には、脳の中の海馬回をはじめとするドーパミン系神経群が「心」の生まれる場所なのだと。
 もうひとつ重要なことがあります。海馬回は「記憶」を司る場所であるということです。つまり、人間の「意識」「心」「記憶」は、海馬回でつながっていて、それぞれが連動しながら機能していると考えることができるのです。そして、おそらく海馬回をはじめとするドーパミン系神経群には、この三者の連動を適切に調節する働きが課せられていると思われます。このことから私は、三者の調節(モジュレータ)機能を果たすこれらの神経群を、「モジュレータ神経群」と呼ぶことにし、「意識」「心」「記憶」は連動しているというこの理論を「モジュレータ理論」と名づけました。

 『〈勝負脳〉の鍛え方』 第一章 より  林成之:著  講談社:刊

 脳の機能を十分に発揮して、思い通りに体を動かす。
 仕事をテキパキとこなす。

 そのためには、このモジュレータ神経群の働きが重要となります。

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バッターは、なぜ、豪速球が打てるか?


 モジュレータ理論の中でも、大きな関心の的は「記憶と心が連動している」という点です。

 たとえば、プロ野球のバッター。
 彼らは、ボールの動きだけを見て、ピッチャーの投げる豪速球を打ち返しているのではありません。
 自分の頭の中にあるボールが手元にくるまでの軌道を予測し、バットを振っています。

 その時に利用している記憶を、「イメージ記憶」といいます。

 ピッチャーから投げられたボールの情報は、脳の後頭葉にある視覚中枢を経て、海馬回に入ったあと、さらに前頭連合野に到達し、そこでの判断によって体の運動系が動く、という仕組みになっています。
 ここで重要なのは、どんなボールが来たか、そのボールをどう打ったかという情報は、海馬回を使って記憶されるということです。海馬回はもう言うまでもなく、記憶を司ると同時にモジュレータ神経群の主要な部位でもあるのですが、じつは海馬回によっておこなわれる記憶とは、短期記憶なのです。つまり、記憶が長続きせず、いったん忘れる仕組みになっているわけです。実際にはボールについての過去の記憶は、ほとんど脳内で再構成されたイメージ記憶でつくられているのです。ピッチャーから投げられたボールを見たバッターは、過去のイメージ記憶の中から該当する記憶を呼び出し、それにボールを重ね合わせることで打つことができるのです。
 どんんだボールでも打てるようになるためには、これまでうまく打てたボールをすべて記憶することが大切です。ピッチャーから投げられたボールを見て、これは前にホームランを打ったときと同じ球筋のボールだと脳が判断できれば、再度ホームランを打てる可能性が高くなります。つまり、うまく打てたボールをたくさん記憶していることが優れたバッターの条件となるのです。

 『〈勝負脳〉の鍛え方』 第一章 より  林成之:著  講談社:刊

 過去の経験からたくさんのイメージ記憶を引き出して、現実の問題に対応できる人。
 野球のバッターに限らず、そんな人が、「頭のいい人」「記憶力のいい人」ということになります。

「勝負脳」とは?


 脳の機能は、

  1. 記憶する能力(知識を脳に取り込む能力)を高め、
  2. イメージ記憶をつくる能力(知識を脳内で再構成する能力)を鍛える
 ことで高めることができます。

 しかし、それだけでは不十分です。
 さらに、「蓄えた知識を現実に応用する能力」が必要となります。

 いくら勉強しても成績が上がらない人、あるいは猛練習をしても運動がうまくならない人は、覚えたことをパフォーマンスする知能、つまり③表現知能(表現する多重知能の能力)の使い方に問題があるといえます。記憶とは、インプットするだけではなく、外に向かって表現する、つまりアウトプットすることができなければ意味をなさないのです。そこで、覚えた知識、技を表現する能力を高める必要があります。この表現知能が劣っていると、結果的に「頭がいい」ことにはなりません。
 表現知能は、一つではありません。言語知能、理論知能、計算知能、音感知能、運動知能、空間認知知能というように、いくつもの知能に分けられます(下図を参照)。特筆したいのは、運動知能がほかの知能と同列にあるということです。「スポーツばかりしていると頭が悪くなる」などという俗説をいまだに信じている人もいるようですが、本当に頭のよい人は、勉強をやらせても運動をやらせてもうまいのです。一流の運動選手がなぜ頭がよいのかも、理解していただけると思います。
(中略)
 頭をよくするためには、もう一つ、第四番目の段階があります。それは④独創性や創造性を生み出す能力(独創的想像能力)です。
 スポーツ、受験、ビジネス、あらゆる勝負で勝つためには、独創的な戦略を考え出して勝利をつかみとる能力を鍛える必要があります。そう、この能力こそが、私が「勝負脳」と呼んでいる能力なのです。

 『〈勝負脳〉の鍛え方』 第一章 より  林成之:著  講談社:刊

レシート 2012 10 04 18 15 48
 表現知能を模式的に表した3次元のグラフ(『〈勝負脳〉の鍛え方』 第1章 より 抜粋)

脳の疲労は勝負の大敵


 過度のストレスは、「勝負脳」を発揮する上でも、大きなマイナスとなります。

 心にストレスがかかると、モジュレータ神経群からドーパミンが大量に放出されます。
 それが、体に有害な活性酸素や過酸化水素を生み出します。

 そして、心のストレスが、ますます強くなってしまうという悪循環となります。
 その結果、やる気が起きないとか、集中力が持続しないなどの脳の疲労現象を起こします。

 じつは、脳には、疲労の解除命令を出す機能も持ち合わせています。
 その部位は、「前頭眼窩野」です。

 脳の疲労を取り除くためには、この前頭眼窩野と、心の発生に関与するモジュレータ神経群の機能を高めることです。
 まず、前頭眼窩野の機能を高める方法についてお話しします。この場所は、ブローカ言語中枢と機能が関連していますので、気のおけない友達だちや家族と話をすることが有効なのです。ただし、そこで愚痴をこぼしているとよけいストレスになります。仕事や上司の話題は避け、必ず楽しい会話にすることが大切です。ただリラックスしているだけでは、体の疲労はとれても脳の疲労はとれないのです。

 『〈勝負脳〉の鍛え方』 第二章 より  林成之:著  講談社:刊

 一見、無駄なようにみえる、仕事中の雑談。
 それらも、ストレス解消に、大きな役割を担っているということですね。

「勝負脳」を鍛える、つまりモジュレータ神経群の働きを高める。
 そのために意識することは、以下のとおりです。

  1. 性格を明るくして常に前向きな思考をすること
  2. 常にやる気をもって鼓動すること
  3. 何事にも気持ちをこめておこなう
  4. 何に対しても勉強し、楽しむ気持ちを持つ
  5. 感動と悔しさは生きているからこその宝物と考え、大切にする
  6. 集中力を高める
  7. 決断と実行を早くする
 前向きな思考が、前向きな記憶をつくる(海馬回)。
 前向きな記憶が、前向きな感情をつくる(扁桃核)。

 その好循環を作り上げることがポイントです。

 一流のアスリートは、例外なく、明るくポジティブな思考を持っている。
 それには、そんな理由もあるのですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

「心・技・体」は、すべて連動しています。
 それらすべてを高めることが「勝負脳」を鍛えることに繋がります。

 普段の行動における心がけや、意識を変える。
 そうすることで、記憶力や運動神経が良くなり、おまけに勝負強くなる。

 本書は、それを理論的に説明してくれる貴重な一冊です。


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