本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『采配』(落合博満)

 お薦めの本の紹介です。
 落合博満さんの『采配』です。

 落合博満(おちあい・ひろみつ)さんは、元プロ野球選手・プロ野球監督です。
 選手時代には、打者の主要3部門(打率、打点、本塁打)全てのランキングで1位を獲得する、「三冠王」に3度輝くなど輝かしい実績を残されています。
 2004年から中日ドラゴンズの監督に就任、2007年には中日を53年ぶりとなる日本一に導くなど、8年間で4度のリーグ優勝を果たし「常勝チーム」を作り上げた“名将”でもあります。

“アウトロー”な「落合流」勝負哲学とは?

 選手として、指導者として、抜群の実績を残している落合さん。
 エリートコースを歩き続けてきたわけではありません。

 大学の野球部を中退し、恩師のつてを頼って社会人野球チームに拾ってもらい、25歳でようやくスカウトの目に留まってプロ入り。
 本人の言葉を借りれば、「アウトロー」な存在でした。

 本書を一読して感じたこと。
 それは、勝負には厳しいけれど、公平な目で選手を見て判断する、フェアな人だいうこと。

 自らも、山あり谷ありの選手生活を送っているので、いろいろな立場の選手たちの気持ちがよく分かるのでしょう。

 本書は、落合流の勝負哲学をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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目の前の仕事にベストを尽くすこと

 どんな道でも、成功を収めるためには、ある種の「才能」が必要です。
 その才能とは、自分自身の適性のある世界に導く才能とでも表現すればいいのか、セルフプロデュースする能力です。

 人材が動く時代では、能力を認められればヘッドハンティングされる一方で、戦力と見なされずにリストラされる人たちも増えてきた。「サラリーマンは気楽な稼業」ではなくなった以上、契約社会であるプロ野球のように、しっかりセルフプロデュースすることによって道を開いていく考え方は必要なのではないだろうか。
 どうしても使う側と使われる側に考え方の違いがある以上、頑張っているつもりでも評価されなかったり、上司との人間関係に悩まされることはあるはずだ。その際に「ここに留まるべきか、別の道を探すべきか」を自分で判断しなければならない。そのためには、普段から目の前の仕事にベストを尽くすことが条件だ。
 野球の世界で言えば、練習でできないことは試合でもできない。このことを選手本人も自覚している段階では前向きに努力できるのだが、練習でできるようになると、首脳陣と選手の間に認識の違いが生まれることがある。
 つまり、こちらはまだ試合で使えるレベルではないとみているのに、選手本人は試合でもできると思い込むケースだ。それでチャンスがないと悩んでも道は開けない。要は、自分だけができるつもりになるのではなく、「誰が見ても試合でできると思えるレベル」まで、自分のパフォーマンス(仕事)の質を高めていくしかない。
 自分には何ができるのか正しく認識し、できないことはできるように努力し、できるようになったら質を高めていく。こうやって段階を踏みながら仕事に取り組めば、次第にその仕事は自分に合っているのか、あるいは別の分野で頑張っていくべきなのか、客観的な視点でも判断できるようになる。そして、仕事を通して知り合った人の助言も得ながら、自分の道を模索してみるのがいいだろう。

  『采配』 第1章 より 落合博満:著  ダイヤモンド社:刊

「普段から目の前の仕事にベストを尽くすこと」

 現役時代、いくつもの球団を渡り歩き、バットひとつで、自分の道を切り開いた落合さんの言葉。
 重みがありますね。

今日経験したことの「復習」がすべて

 落合さんは、試合前、相手ピッチャーの予習は、ほとんどしませんでした。
 その代わり、対戦した後に自分で感じたことをしっかりまとめて、次の対戦のときにそれを生かす「復習」は徹底しました。

 それは、バッティング技術の習得など、すべてにおいて当てはまります。

 どんな仕事でも、ひとつの技術を身につけていく作業は地味で、相当の根気も必要となる。つまり、技術の習得方法には変化も進歩も当てはまらない。胎児が1日、1日と母親のお腹の中で育っていくように、コツコツとアナログで身につけていくものなのだ。
 だからこそ、「明日取り組むことの予習」よりも、「今日経験したことの復習」が大切になる。技術を身につける際、修得するスピードが速いと「センスがある」と評されることがある。実際、春季キャンプで1週間も経たないうちに、レギュラークラスと同じように動ける新人もいる。ただ、これは昔からの指導者の悩みの種と言われているのだが、飲み込みの早い人は忘れるのも早いことが多い。
(中略)
 一方、内心でいら立つくらい飲み込みの悪い選手ほど、一度身につけた技術を安定して発揮し続ける傾向が強い。彼らの取り組みを見ていると、自分でつかみかけたり、アドバイスされた技術を忘れてはいけないと、何度も何度も反復練習している。自分は不器用だと自覚している人ほど、しっかりと復習するものなのかもしれない。技術事に関しては、飲み込みの早さが必ずしも高い修得率にはつながらない。だからこそ、じっくりと復習することが大切というのが私の持論だ。

   『采配』 第1章 より 落合博満:著  ダイヤモンド社:刊

 徹底した練習によって這い上がってきた、苦労人の落合さんらしい持論です。
 天才的なバットコントロールも、何万回と練習で繰り返したスイングから生み出されたものです。

ミスは叱らない。だが手抜きは叱る

 落合さんは、監督時代に若い選手にありがちな「ミス」を責めることはなかったと述べています。
 その理由は、その選手が同じミスを繰り返さないようにと思い過ぎて無難なプレーしかしなくなってしまうことを懸念したからです。

 ミスそのもの、またミスをどう反省したかが間違っていなければ、私は選手を叱ることはない。その選手の自己成長を「見ているだけ」だ。では、私が選手を叱るのはどういう場面か。
 それは「手抜き」によるミスをした、つまり、自分のできることをやらなかった時である。打者が打てなかった、投手が打たれてしまったということではない。投手が走者の動きをケアせずに盗塁された。捕手が意図の感じられないリードをした。野手がカバーリングを怠った。試合の勝敗とは直接関係なくても、できることをやらなかった時は、コーチやほかの選手もいる前で叱責する。だから、私に叱られるのはレギュラークラスの選手のほうが圧倒的に多い。

 一般社会に置き換えれば、取引先の約束時間に遅れる。必要な連絡をしなかった。そういうことになるのではないか。一人の「ミス」は自分で取り返せることもあるし、チームメイトがフォローしてやることもできる。しかし、注意しなければ気づかないような小さなものでも、「手抜き」を放置するとチームには致命的な穴があく。
 勝負の世界で私が得た教訓である。

  『采配』 第3章 より 落合博満:著  ダイヤモンド社:刊

 精一杯やった中での「ミス」は許す。
 しかし、「手抜き」に関しては、たとえ失敗につながらないものでも許さない。

 評価の明快さ・公平さと判断基準の厳しさを徹底したこと。
 それが、常勝チームを作り上げた、大きな要因のひとつです。

職場に「居心地のよさ」を求めるな

 落合さんは、監督として、練習環境の改善に取り組んできました。
「すべては選手たちに気持ちよくプレーしてもらうため」です。

 しかし、それは決してチーム内の人間関係を円滑にするためのものではなく、選手やチームスタッフに恨まれるのを覚悟して断行したものでした。

 二軍から誰を引き上げようか。
 その判断に迫られたときも、同様です。

 若手の中から誰を抜擢するか。それは実績だけではなく、運や巡り合わせのようなものも絡んでくるものだろう。だが、実績を残したのに一軍から声をかけられなかった選手にしてみれば、やり切れない気持ちの矛先は私に向く。不運にも、その後は目立つ実績を残せず、何年かして自由契約を通告したのも私となれば、「落合が監督じゃなければ、俺も活躍できたかもしれないのに」ということになる。
 乱暴な書き方かもしれないが、それがビジネスの世界の現実だ。実力第一、成果主義、好き嫌いで人は使わないとはいえ、チャンスをつかめるかどうかには運やタイミングもある。これも事実だ。
 そうした現実を踏まえ、若いビジネスマン諸君に伝えたいのは、自分の職場に「居心地のよさ」を求めるなということだ。
 どんな世界でも円滑な人間関係を築くことは大切だ。しかし、「上司や先輩が自分のことをどう思っているか」を気にしすぎ、自分は期待されているという手応えがないと仕事に身が入らないのではどうしようもない。物質的な環境がよくない感じたら、上司に相談したり、改善の提案をすることは必要だが、人間関係の上での環境に関しては「自分に合うか合わないか」などという物差しで考えず、「目の前にある仕事にしっかり取り組もう」と割り切るべきだと思う。
(中略)
 組織の中には、いい思いをしている人とそうでない人が必ず混在している。ならば、職場に「居心地のよさ」など求めず、コツコツと自分の仕事に打ち込んでチャンスをつかむことに注力したほうがいい。運やチャンスをつかめる人ほど、このことをよくわかっている。

  『采配』 第5章 より 落合博満:著  ダイヤモンド社:刊

「居心地のよさ」は安心感を生み、自分を高めていこうという気持ちを削いでしまいます。

 どんな環境に身を置いても、上司の評価や、周囲の人間関係に惑わされずに、自分の実力をつける。
 それが自らの道を切り開くことに繋がります。

 腐らず、諦めず、時機を待ちたいところです。

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 落合さんは、最後に、以下のようなエールを読者に送られています。

 齢を重ねれば重ねるほど、あるいは人生がうまくいっていないと感じた時ほど、そうやって自分の人生を振り返るものだろう。だが、自分が歩んできた道は、すでに歴史になっているのだ。ならば、「これでいいんだ」と踏ん切りをつけることが、その先に進んでいくための原動力、次への一歩になるのではないか。私はそう考えている。
 どうすれば成功するのか、どう生きたら幸せになれるのか、その答えがわかれば人生は簡単だ。しかし、常に自分の進むべき道を探し求めること、すなわち自分の人生を「采配」することにこそ、人生の醍醐味があるのだと思う。
 人や組織を動かすこと以上に、実は自分自身を動かすことが難しい。それは、「こうやったら人にどう思われるのか」と考えてしまうからである。だからこそ、「今の自分には何が必要なのか」を基本にして、勇気を持って行動に移すべきだろう。

  『采配』 おわりに より 落合博満:著  ダイヤモンド社:刊

 周りに振り回さず、「今の自分に何が必要なのか」を考えて、重要な決断を下すこと。
 それが「采配」をふるうということです。

 長年、厳しい勝負の世界に身を置く落合さんの、厳しくも温かい言葉。
 それらは、そのままビジネスの世界にも通用するものばかりです。

 求められる「一流プレーヤー」は、野球の世界でもビジネスの世界でも、基本は変わりません。

 毎日、バットを振ることで、自らの道を切り開こう。
 私たちも、そんな心構えは忘れないようにしたいですね。

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