【書評】『上から目線の構造』(榎本博明)
お薦めの本の紹介です。
榎本博明先生の『上から目線の構造』です。
榎本博明(えのもと・ひろあき)先生は、ビジネス関係がご専門の心理学者です。
現在は、その方面の企業研修や教育講演を行うかたわら、多くの著書を出版されています。
「上から目線」とは何か?
榎本先生は、本書を執筆した目的について、以下のように述べています。
対等な関係であるはずなのに、上から目線でものを言われるとムカつく。それはわかる。だが、近頃気になるのは、明らかに本人よりも上位の相手から言われたことに対して、「上から目線で言われてイラッときた」などというセリフをしばしば耳にすることだ。
(中略)
このように言うときの「上から目線」とは何を指すのだろうか。
経験を積んだ上司やベテランからのアドバイスや指示、あるいは注意が「上から」なのは当然のことのように思われる。それさえも「上から目線」として批判されるべきなのだろうか。
このような「上から目線」の心理構造を解剖しようというのが本書の目的である。『「上から目線」の構造』 プロローグ より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
目上の方からの指摘に対して「上から目線だ」とイラッとする。
ちょっと違和感がありますね。
本人は、親切心からアドバイスしている。
それにも関わらず、受け取る方は、そうは思っていない。
榎本先生は、このような人の心理状態について、以下のような解析をしています。
相手が親切で言ってくれたという解釈よりも、相手が優位に立ってものを言ってくるという解釈に重きを置いている。ゆえに感謝の気持ちなど湧くはずもない。アドバイスをしてくるという姿勢が、こちらに対する優位を誇示しているように感じられてならない。だから、ムカつく。バカにするなと言いたくなる。
そこには、親切心から言ってくれた相手の思いに対する共感がない。そもそも相手の方が経験も知識もはるかに豊かで、こちらにアドバイスできる立場にあるといった認識や敬意が欠けている。
(中略)
見下されているのではないかといった不安が強いために、本来は役に立つアドバイスも、こちらに対して優位を誇示する材料と受け止めてしまうのだ。見下され不安の強い心の目には、親切な態度が見下す態度に映る。その結果、感謝どころか、「その上から目線はやめてください」となる。『「上から目線」の構造』 第1章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
もちろん、アドバイスを送る側に問題がある場合もあります。
ただ、そうでない場合は、受け取り側の相手への敬意の欠如や不安があるということです。
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「上から目線」はなぜ気になる?
「見下され不安」には、「劣等コンプレックス」が大きく絡んでいます。
劣等コンプレックスは、自分に自信が持てないため、他者の視線をネガティブな方向に歪めて認知してしまう心理状態
です。
「劣等感」は、誰もが持っているものです。
それを克服しようとすることが、その人の成長力の源になります。
劣等感を持つこと自体が、悪いわけではありません。
ただし、自分が能力的にも人格的にもまだまだ発展途上で至らないところだらけだということ、自分には弱点がたくさんあるということを認めることができず、そこからめを背けようとするとき、「劣等コンプレックス」となる。なぜ認めることができずに目を背けるのか。
それは、自分に自信がないからだ。心に余裕がないからだ。『「上から目線」の構造』 第1章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
「劣等コンプレックス」を持つ背景には、幼少時代の経験が大きく影響しています。
足の遅い子のことを思い出してみよう。自分も足が遅かったという人は、自分の子ども時代を振り返ってみよう。
足が遅いことが「劣等コンプレックス」になっている子は、運動会の日が来るのが脅威であり、駆けっこや運動会の話題を極力避けようとする。だが、足が遅いという自分の劣等性を受け入れ、そのことがべつにコンプレックスになっていない子は、自分の鈍足をネタにして笑うことさえできる。勉強ができる、友達に人気がある、音楽が得意、絵が上手、腕力には自信があるなど、足の速さ以外の何かで自信を持つことで、鈍足がコンプレックスになるのを防ぐことができる。
足の遅い子が傷つくからと小学校の運動会の駆けっこで順位をつけない動きが全国に広がったときに感じた違和感は、そのあたりにある。能力の差にフタをしてしまう。
これでは何かとコンプレックスを感じやすい子をつくるばかりで、その克服にはつながらない。
教育の方向を間違えていると言わざるを得ない。『「上から目線」の構造』 第1章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
偏差値を重視。
単一価値観で、相対的に評価しよう。
そういう教育方法は、評価する側は、管理しやすいです。
ただし、管理される側は、たまったものではありませんね。
さまざまな角度から見て、長所を探すこともできません。
また、固まった価値観でしか、ものごとを見ることができなくなります。
「プライドが高い」とはどういうことか
「劣等コンプレックス」を抱える人は、少し気に障ることを言われただけで、すぐにキレます。
私たちは、そんな人のことを、よく「彼はプライドが高い」と表現します。
榎本先生は、それは本当に「プライド」が高いのではなく、ただ「わがまま」なだけではないか
と指摘します。
「彼はプライドが高いから、扱いに注意しないといけない」
「あの人はプライドが高いから、うっかりしたことを言うとひどい目に遭う」
のように言われる人たちは、プライドが高いのではなく、崩れそうなプライドを高い位置に支えようと必死になっている。だから、自分の脆いプライドが脅威にさらされると過剰な反応を示す。
自尊心が高く不安定な人は、持ち上げられたい欲求が強いのに、痛いところを突かれたり、的確なアドバイスをされたりすると、つい相手を「上から目線」と攻撃したくなる。それは、無理やり高く保ち、必死に支えようとしている脆いプライドが崩れてしまう危険を防ぐための必死の攻防戦なのである。『「上から目線」の構造』 第1章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
「劣等コンプレックス」を抱えた人。
彼らは、無理やり高く保っている、不安定な自尊心が揺らぐのが怖い。
自分のためになるアドバイスも「上から目線」だ、と言って切り捨ててしまいます。
安定した自尊心を持つ、本当の「プライドの高い人」。
彼らは、見下されるのではといった不安もなく、自分の空虚や自信のなさを見透かされるのではといった恐れもない。ゆえに、自分の弱みを笑い飛ばせる心の余裕がある
人です。
そのため、いちいち腹を立てることはありません。
相手の立場に立てない人の心性
榎本先生は、若者を中心に、相手の立場に立てない人が増えていることに危機感を抱いています。
原因の根本には、自分が傷つきたくないので、他人に対してあえて関心を持たない、関わりを持つことを恐れる風潮が広まっている
ことがあります。
そもそも他人に関心がない人が多い気がする。まずは他人に興味を持つこと。そして、その人の視点に立つと周囲のできごとがどんな風に見えているのかを想像してみることだ。
最近の若者が他人に関心がないということないのではないか。人からどう見られるかを気にしすぎるくらいなのだから、むしろ他人に関心がありすぎるのではないか。そんな疑問を口にする人がいた。
だが、それは違うと思うのだ。人からどう見られるかを気にするというのは、あくまでも自分自身への関心だ。 自己愛の視線を相手を通して自分に向けているにすぎない。相手そのものなど眼中にないのだ。人の目に自分がどう映っているかが気になるだけで、他人そのものに関心が向いているわけではない。
今とくに求められるのは、自己中心的心性から抜け出して、もっと他人に関心を向けることである。『「上から目線」の構造』 第4章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
人は、自分の視点からしかものを見ず、一面的で独善的な考えになりがちです。
それを防ぐためには、他者の視点を借りて、ものごとを多角的に観る必要があります。
すべてを「上から目線」だと切り捨てていては、ダメです。
多くの意見を受け入れる柔軟さは、人を成長させます。
肝に銘じたいです。
オンリーワンの落とし穴
榎本先生は、「上から目線」を気にしなくなるためのアドバイスとして、以下のように述べています。
ちっぽけな自分、まだまだ未熟な自分を前にして、「これじゃダメだ、もっと大きな人間にならないと」と思う自分がいる。そのちっぽけで未熟な自分を「ダメ人間」として否定して責めるばかりでは、向上に向かうエネルギーが湧いてこない。そのように自己否定しては、ネガティブ思考に苦しめられるだけで、何も向上しない。ちっぽけで未熟な自分だけど、何とか少しでも大きな人間になりたいと頑張っている、そんな健気な自分を認めてあげよう、応援してあげよう、肯定してあげようというのが、自分を受け入れるということだ。
「そのままの自分を受け入れる」ということと、「そのままでいい」ということは、同じではないのだ。『「上から目線」の構造』 第5章 より 榎本博明:著 日経新聞出版社:刊
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「そのままの自分を受け入れる」ということと、「そのままでいい」は、同じではない
。
その通りですね。
ここを勘違いしている、わがままな人が多いです。
ありのままの自分を認めるということは、言うほど簡単ではありません。
まず、「自分が未熟である」と認めることが大前提となります。
なので、受け入れ難いと感じる人も多いでしょう。
と、あまり色々書くと、また「上から目線だ」と叩かれるので、このへんで、失礼します。
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