【書評】『人たらしの流儀』(佐藤優)
お薦めの本の紹介です。
佐藤優さんの『人たらしの流儀』です。
佐藤優(さとう・まさる)さんは、作家です。
大学卒業後、外務省に入省し、在ロシア日本国大使館に勤務、その後、本省の国際情報局で、主任分析官として対ロシア外交の最前線でご活躍された経験をお持ちです。
日本の超エリートに足りないのは「胆力」だ!
2011年3月11日に起こった東日本大震災と福島第一原発の事故。
東京電力幹部、経済産業省や原子力安全・保安院幹部の記者会見で見せた狼狽(ろうばい)ぶりは、私たち不安にさせ、国に対する疑心暗鬼を強めるものでした。
彼らは、一流大学を卒業し、競争社会を勝ち抜いた日本の超エリートです。
頭の回転が早く、専門能力にも長けていますが、何か重要なものが足りません。
佐藤さんは、それが「胆力」だと指摘します。
佐藤さんは、信頼感、指導力、共感力などの数値化されない、筆記試験で測ることができない能力が真のエリートには必要とされる
と述べています。
胆力とは、この「数値化されない、筆記試験で測ることができない能力」を統合した力のことです。
佐藤さんは、胆力は人間関係によってしか鍛えることができない
と強調します。
本書は、現代社会を力強く生き抜くのに必要な「胆力」を学び、強化するためのノウハウをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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嘘をつかないこと
国家の命運を決めるような情報を「インテリジェンス」といいます。
そして、国家外交を舞台に、そのような情報を得る活動のことを「インテリジェンス活動」といいます。
佐藤さんは、個人におけるインテリジェンス能力のことを、生き残りの知恵
であると説明しています。
世の中にあふれている膨大な量の情報(インフォメーション)から、必要なものを拾い上げて、適切に評価する能力のこと。
いわゆる「地頭のよさ」のことですね。
インテリジェンス能力を鍛えるために、まず重要なことは「嘘をつかないこと」です。
――諜報(ちょうほう)社会において、嘘は相手を欺(あざむ)く重要な手段のように思えますが?
それはね、結局インテリジェンスの世界はゲームだから、嘘をつくと、そのゲームが複雑になり過ぎる。
嘘を許容するゲームにするか、嘘を許容しないゲームにするかで、ゲームの幅が大分、違ってくる。
(中略)
――簡単に言いますと?
この世の中、国会や、世間、論壇などでやっている議論、論争は嘘をつかず正直に思っていることを言ったり、書いたりしているという建前の上で行なわれているんです。その発話自体に嘘が混じる、即ち、発話主体の誠実性が疑われる時は、論戦にならないんですよ。
最も政治家や論壇人は立場に縛られると、正直な発言をしないことがあります。これに対して裏の世界で生きるインテリジェンスの人たちには、プロの間では嘘をつかないという掟(おきて)があります。これが意外と守られているのです。インテリジェンスの世界で重要なのは、内心では相手が嘘をつくかもしれないと思っているとしても、表面上は、相手に対して、嘘をついたら怖いよと、牽制(けんせい)していくわけ。
――なるほど。確かに小さい嘘を重ねていくと、やがて、大きい嘘をつかなくてはならなくなる。だから、嘘をつくなと。
そうそう。だから、インテリジェンスの新人教育で重要なのは嘘をつかないこと。これは、非常に重要です。
一般企業でも同じ。
最近は若者も中年も、一部上場企業などのそこそこの会社で働いている方々は、子どもの頃から褒められ続けて、怒られるということをあまり経験していない優等生連中が多い。
こういう連中は小嘘をつく。そういうことを続けていけば、どこかで大嘘をつかざるを得ない状況に追い込まれてしまう。
だから、どうすればいいか?
普段から嘘をつかない仕事や生活をする。『人たらしの流儀』 講義1 より 佐藤優:著 PHP研究所:刊
インテリジェンスの世界は、情報のやりとりで成り立っています。
いかに正確な情報を素早くキャッチし、その意味を読みとくかが死活問題です。
情報は「人」を介して伝わります。
いかに相手から信頼されるか、それが正確な情報を掴(つか)むための一番のカギになります。
一般のビジネスにも、通じるものもありますね。
「天に宝を積む」ことで人を呼びこむ
「人たらし」と呼ばれるには、自分に相手の関心を向けさせる力が必要です。
相手を惹(ひ)きつける、魅力のある人間になるためには、どうしたらいいのでしょうか。
佐藤さんは、自分の魅力を向上させるために何が大切かと言うなら、端的に『儲けた銭をばら撒(ま)く意思があるか否か』
という点に尽きる、と述べています。
たとえば、ビジネスマン諸氏もご存知かもしれませんが、勝間和代さん。彼女は『私は本を書くエネルギーの五倍、本を売ることに懸けているんだ』と言っています。
その勝間さんご自身は、印税の二割を、ある団体に寄付している。
それが、かっこつけてやっているかというと、そういうのではなく、むしろそうしないと、自分の思想が腐るということをわかっていてやっている。
勝間さんはインテリジェンスの何たるかがわかっていて、彼女自身インテリジェンス能力が高い人です。
社会を数字だけ、結果だけの価値観で判断するなら、そんな社会は、まるでリスが檻(おり)の中に設えたクルクル回る玩具(がんぐ)でずっと回り続ける状態になってしまいます。つまり、世界は常に広がることなく、延々と同じ風景が続くのです。それを避けるためには経済の合理性という観点からは違うことを行なう必要があります。
私が神保町フォーラムという任意団体を友人たちとつくって、お金を使っているのも同じです。これは経済合理性に反する行動です。しかし、儲けたお金を人に、社会に還元することによって、対人関係もうまく動き出す。そんな行動をとると、発想も変わってきます。
だから、まず、お金さえ蓄えれば、自分のすべてが満たされる、という欲を実現させようとする悪い病気から離れることが大切です。あのロックフェラーもそうだったでしょう?
(中略)
――還元ですね。
そうです。これは、『天に宝を積む』というのです。お金がそれで結果的に返ってくる。そうした還元の行為によって、発想が変わってきますから。『人たらしの流儀』 講義4 より 佐藤優:著 PHP研究所:刊
入ってきたお金をすべて自分のものにしてしまうことは、お金の流れを自ら止めてしまうことです。
お金の流れは、人の流れに通じます。
自分のところから出ていくお金の流れが広がれば広がるほど、人脈も広がっていくということ。
与えたものは、いずれ何倍にもなって自分の元に戻ってきます。
インテリジェンス能力の高い人は、それをしっかり理解しています。
『天に宝を積む』
ぜひ、実行したいですね。
人間関係は「最初の三ヶ月」がキモ!
人間には、何かをしてもらったら、お返しをしなければならないという心理が働きます。
佐藤さんは、人間は「何か返さないと」と思うから、「貸し」は得につながる
と指摘します。
人と人との上下関係は、この「貸し」の大小による部分が大きいとのこと。
相手との人間関係を深める、もうひとつの要因が「相手との時間」です。
――今度は時間?
たとえば、相手と三ヶ月以内に三度会うことですね。三ヶ月以内に三度会えば、その後、三年間、相手は、あなたのことを覚えているものです。
――なるほど。佐藤流人たらしの流儀とするなら、相手と会った日を初日とすると、三日以内に必ず、連絡のメール、電話、FAX、手紙を入れる。
そして、三ヶ月以内に必ず二回目のアポを取り付ける。欲を言えば、三ヶ月以内に三回会いなさい、ということですね。
そうです。相手と接触して、最初は挨拶。その時に物を借りて、二回目は物を返す。そして、さらに「お世話になりました」と、次回の話をして、三回目につなげるのです。
――そして、その関係が、三年持てば、もう、何とかなるんですね。
ちゃんと、その三年の間に実績を上げることができればね。
――実績?
相手との共存共栄体制をつくり上げるのです。そうすれば、もう永遠に腐れ縁も同然です。だから、裏返すとですね、その人との人脈を切るには、三年以内にうまくやることです。三年以上、関係を引きずると、人間関係を切るのにコストが高くついてしまうので、結局切れなくなります。
女性との関係にも言えることですが、逆に深入りしないようにするためには、三ヶ月以内に三度以上会うことを避け、必ず、十分な時間を置くことですね。
――それにしても、三日坊主の三日、人のウワサも七十五日の約三ヶ月、石の上にも三年の三年というように古くからの格言は正しいのですね。
古くから伝わる格言は、やはり、真理を相当程度、反映していますね。『人たらしの流儀』 講義7 より 佐藤優:著 PHP研究所:刊
人脈形成は、最初の三ヶ月が重要だということです。
初めて会った日から三ヶ月。
その間に、残すべき人間関係と、切るべき人間関係をふるいにかけて選択する。
すっきりした人間関係を維持するために、頭の片隅に入れておきたい知識ですね。
「同等の相手」との付き合い方
仕事上の相手との付き合い方で気をつけること。
それは、「恨みを買わないこと」です。
誰であれ仕事相手には丁寧に接することが大切
です。
実は、一番付き合うのが難しいのは自分と同等の相手です。同等だと会社が違っても、同じでも、ある意味ライバルですからね。
――同等の場合は、相手に貸しをつくる関係が好ましいですよね?
そうですね。相手に貸しをつくっていると、相手に理解させるには、まず、実力で頭二つ、自分が抜きん出ていることが前提です。
客観的に見て「こいつ、俺より下だな」と自分が思っている相手こそが、実際にはイーブンの相手なのです。
――同等の相手より頭二つ、出るのは大変だなあ。
かつて一億総中流なんて言われたように、日本社会の八割は同等でしたよ。この経済状況下で、八割あった層が、六割に、減りつつあります。二割落ちて、全体の三割が下流層に。一割がズドンと飛び抜けて上のほうに移行しつつあります。
――落ちれば、地獄。そこに留まっても同等との付き合いは、頭二つ抜ける地力がいる。もう、どうしたらいいのでしょうか?
こんな時の人との付き合いの関係では、自分自身が、ある怖さを持たなければダメです。
――怖さ?
相手に与える、怖さ。怖さがないといけません。もし、相手から無礼なことをされたら、大暴れしないといけません。毎回やるのは変人ですが、二十回に一回ぐらいなら大丈夫でしょう。
「舐(な)めてもらっては困りますよ」という意志を、態度で示すということも人間関係の構築において、時には必要なんです。『人たらしの流儀』 講義11 より 佐藤優:著 PHP研究所:刊
実力で頭二つ抜きん出ること。
「怖さ」を持つこと。
個人の力で、相手に貸しをつくっていると思わせる関係をつくるには、この二つが必要です。
自分の思い通りの人間関係を構築するには、周りを圧倒する実力をつけることが前提になります。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
佐藤さんは、対人関係を構築するうえで最も気に留めておくべきは、「相手の内在的論理をとらえろ」ということだと強調されています。
わかりやすく言うと、「相手の立場になって考える」ということです。
人間の行動は、不可解なことでも、必ず、その行動を起こすきっかけとなった「理由」があります。
近づきたい相手、情報を得たい相手に取り入る。
そのためには、「相手が何を望んでいるか」「相手のほしい情報は何か」を把握することが第一歩です。
相手の気持ちを理解して、行動する「大人」の対応を身につけ、「人たらし」への道を踏み出したいですね。
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