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【書評】『男性不況』(永濱利廣)

 お薦めの本の紹介です。
 永濱利廣さんの『男性不況』です。

 永濱利廣(ながはま・としひろ)さんは、大手生命会社系の経済研究所の主席エコノミストです。

「男性不況」は日本社会の変質のキーワード

 過去十数年間、数々の大変化が日本を襲いました。

 大手金融機関の破綻、歴史的にも類を見ないデフレ、さらには東日本大震災。
「失われた20年」とも言われ、色々なメディアで多くの問題提起がなされています。

 永濱さんは、それらと同時期に、ほとんど語られることはないけれど、非常に重大な変化が起こっていたと述べています。
 その変化とは、「労働市場における日本の男性の価値の低下」です。

 就職における男女差別が少なくなり、職場における女性の地位が向上した。
 そういった変化は、多くの人が実感していることです。

「女性の地位向上」自体は、もちろん、よい変化です。
 しかし、その影響で男性には困った問題が生じ、日本社会は大きく変質している事実もあります。

 その変質を考える際のキーワードが、『男性不況』です。
 男性不況とは、簡単にいうと男性向きの仕事が減り、女性向きの仕事が増えた結果、男性の価値が低下した状況のこと。

 本書は、なぜ「男性不況」が起きたのかを解き明かし、その結果、日本に何が起きているのかを解説する一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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カギを握るのは、「製造業」と「建設業」

 日本の過去15年の就業者数の推移を見ると、景気の波により上り下がりがあるものの、ほぼ右肩下がりのトレンドとなっています。
 男性の就業者数も、このトレンドとほぼ一致した動きをしています。

 しかし、同じ時期の女性の雇用は、そのトレンドと逆行して右肩上がりで増加しています。

 永濱さんは、男女でこのような大きな違いが生じる理由は、日本の産業構造に見いだすことができると指摘します。

 2011年までの14年間で、313万人も就業者が減ってしまったのですが、実にその91%にあたる285万人が男性就業者でした。
 一方で2011年までの14年間で、70万人も失業者が増えたのですが、実にその71%にあたる50万人が男性失業者ですので、「男性不況」が叫ばれてしかるべきなのです。

 就業者の減少がとくに著しいのが製造業と建設業で、2002年と比較するとそれぞれ205万人、145万人少なくなっています。
 もともと、2002年段階では、男性就業者の22.2%が製造業、14.7%が建設業に従事していました。当時の男性就業者の4割近くがこの2業種に集中していたので、製造業と建設業の就業者減が、男性の就業者が減った最大原因なのは間違いありません。

 『男性不況』 第1章 より  永濱利廣:著  東洋経済新報社:刊

 これまで日本の産業界を支えてきた建設業と製造業の就業者が減った。
 その理由については、さまざまな要素が考えられます。
 本書では、以下のような理由が挙げられています。

  • 円高対策などで、国内製造メーカーがこぞって海外に生産拠点を移転させる流れが続いていること。
  • 正規雇用者が減り、派遣やパートなどの「非正規雇用者」が増える雇用形態の変化あったこと。
  • 急激に進む少子高齢化や国の財政悪化による公共投資の減少が続いていること。

 一方、女性の雇用が増えた理由は、医療や介護などの女性中心のサービス業での就業者が増えたためです。
 このような産業構造の変化は、今後も続くことが予想されます。

給与減少にも「男女格差」

 不況が続き、雇用状況が悪化すると、支払われる賃金も減っていきます。
 しかし、ここでも「男女格差」が表れています。

 男性の賃金は、明らかに右肩下がりで下がっています。
 一方、女性の賃金も下がってはいるものの、その下がり方は男性に比べると極めてゆっくりです。

 その理由は、2つ考えられます。

 1つ目の理由が、男性の給与が下がったのは、非正規雇用者の増加だけではなく、正規雇用者の賃金低下にあることです。
 2つ目の理由が、女性の正規雇用者給与が上がったことです。

 ご存知の通り、日本では長年、年功制の給与体系をとっていた企業が大半だったので、勤続年数が長くなるほど、給与は高くなるのが一般的でした。
 しかしながら、1997年金融システム不安の後に始まった各企業の人件費の見直しによって、正規雇用者の給与にもメスが入りました。
 年功序列型賃金制度の崩壊です。
 その際にとくに給与を減らされたのが中高年男性で、中でも管理職の給与が減らされました。管理職というのは、以前はほとんど男性が占めていたので、男性正規雇用者の給与が落ち込む要因となりました。
(中略)
 2009年の段階で、係長以上の管理職の11%を女性が占めています。この水準は国際的に見るとまだまだ低い水準ですが、増加のトレンドにあるのは確かです。
(中略)
 このように役職に就く女性が増えれば、当然、女性全体の給与水準は上がっていきますので、下落傾向にある男性との給与格差はますます縮まっていくと考えられています。

 『男性不況』 第2章 より  永濱利廣:著  東洋経済新報社:刊

「年功序列型賃金制度の崩壊」と「女性管理職の増加」。
 この2つが、車の両輪になり、男性不況を推し進める結果となったとは、衝撃的な事実です。

男性不況は「男の懐」も直撃

 男性の給料と歩調を合わせて少なくなるのが、男性のお小遣いです。
 永濱さんは、大手銀行が毎年発表しているサラリーマンのお小遣いの平均金額の経年変化の調査を解析して、以下のように説明しています。

 この調査によりますと、証券会社や銀行の経営破綻などさまざまな経済事件が起きた1997年、サラリーマンのお小遣いは6万6900円でした。さすがにバブルの絶頂期に比べると減ってはいたものの、まだまだサラリーマンの懐は、比較的余裕があったといってもいいでしょう。
 ところが、翌年の1998年には5万5800円と、サラリーマンのお小遣いは一気に1万1100円も減ってしまいました。前年起きた金融システム不安が、サラリーマンの懐を直撃したのです。
(中略)
 その後、サラリーマンのお小遣いは、一旦6万円台に戻すものの、再び減少し始め、2004年には3万8300円と、ついに4万円を割り込みます。2002年からは、政府の発表では景気は回復期に入っているはずなのですが、サラリーマンの懐は一向に暖まらなかった様子が見てとれます。
 2005年からようやく上昇に転じますが、リーマンショックが起きた2008年を機に再び下落し、2011年にはついに3万6500円と、20年前の半分程度の水準にまで落ち込んでしまいました。
 直近の2012年は前年までの反動か、さすがに少し増え、3万9600円まで戻しましたが、依然4万円を回復するに至っておらず、サラリーマンの苦難はまだまだ続く気配が濃厚です。

 『男性不況』 第4章 より  永濱利廣:著  東洋経済新報社:刊

 男性のお小遣いは、ピークの半分程度まで落ち込んでいるのですね。
 永濱さんは、この影響により、たばこやお酒などの男性が主なユーザーである嗜好品の売上が大幅に減り、税収の落ち込みの大きな要因であると指摘します。

 税収の落ち込みが、さらなる景気の悪化を呼ぶ。
 その悪循環にはまり込んでいるのが、今の日本経済です。

解雇しやすい制度があれば雇用は増える

 男性不況に対する対策は、どのようなものがあるのでしょうか。

 男性不況の大きな要因の一つに、製造業の海外シフトにともなう男性職場の消失があります。
 その要因としてよく挙げられるのが、「高い法人税」「高関税率」「円高」「労働規制」の4つです。

 永濱さんは、これらの要因について、それぞれ対策を提案していますが、ここでは、「労働規制」について取り上げます。

 永濱さんは、解雇のしやすさがむしろ雇用の拡大につながるとし、正社員でも環境次第で解雇できる雇用制度の導入の必要性を訴えています。

 日本の現行制度の下では、よほどのことがないかぎり、一度採用した正規雇用者を解雇することができません。そのため、企業は新規の採用に慎重にならずるをえず、そのしわ寄せが、新卒採用の制限という形で、若年層の雇用に悪影響を生じさせているのが実態です。

 採用する企業の立場に立つと、正社員でも環境次第で解雇できる制度であれば、雇用調整に苦労することもなくなり、今よりは、新卒採用の枠を増やすことも可能になるはずです。
 逆説的ですが雇用についても、解雇のしやすさがむしろ雇用の拡大につながるということは十分にありえます。
 その意味では、一部の議員が主張していた製造業の派遣禁止も、それを実施することによって、期間工でもいいから仕事が欲しい人が職に就けなくなるなど、雇用の拡大にとって悪い影響が出かねません。
 むしろ、景気が回復した段階で再雇用することを条件に一時的に解雇する「レイオフ」のような制度の導入を条件に、経営側に雇用調整の裁量を与えるようにしたほうが、雇用者側、経営側双方にとってメリットが大きくなるのではないかと考えます。

 『男性不況』 第5章 より  永濱利廣:著  東洋経済新報社:刊

 永濱さんは、解雇しやすい雇用制度になった場合、政府によるセーフティネットを構築する必要性について言及します。

 具体的な参考例として、ヨーロッパで行われている、「積極的雇用政策」を挙げています。

 日本の場合、失業認定されると、ほぼ自動的に失業保険が支給されます。
 一方、ヨーロッパでは職業訓練を受けることが、失業保険を受給する条件とする国もあります。

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 男性不況は、少子高齢化するグローバル経済の流れの中で起こった問題で、多くの先進国共通のテーマです。
 永濱さんは、その流れに対応する力は一個人では限定的だとおっしゃっています。

 個人としてできることは、これまでの「男性は結婚して、一家の大黒柱となり、世帯収入を一手に担う」というこれまでの古いこだわりを捨てることです。
 ただでさえ、日本社会を支えてきた終身雇用制度が壊れつつある今、世間体を気にしている場合ではないです。

 既婚者、未婚者、子供の有無にかかわらず、収入源として期待できる手段は全て利用して生活する。
 そんな意識が必要な時代になっているのは間違いありません。

 

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