本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ギグ・エコノミー』(ダイアン・マルケイ)

 お薦めの本の紹介です。
 ダイアン・マルケイさんの『ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方』です。

 ダイアン・マルケイ(Diane Mulcahy)さんは、米国で著名な起業家支援団体のシニア・フェローであり、かたわら大学の非常勤講師を務められています。

新たな労働形態「ギグ・エコノミー」とは?

 今、新たな労働形態として、米国で話題となっているのが「ギグ・エコノミー」です。
 ギグ・エコノミーとは、「正社員」と「無職」という、両極のふたつに挟まれたさまざまな労働形態を幅広く含む概念のことです。

 コンサルティングや業務請負、バートやアルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業。
 それらは、すべて「ギグ・エコノミー」に含まれます。

 ここ数年、日本においても、ギグ・エコノミーは急激に拡大を続け、今後もその規模はさらに大きくなると想定されます。

 ギグ・エコノミーはまだ発展の初期段階であるが、すでに世の中の働き方を大きく変えようとしている。ひとつ前の世代までは、正社員としてフルタイムの職に就き、定年まで同じ会社に勤めあげるか、転職してもせいぜい1回というコースが当たり前だった。安定した昇給、手厚い福利厚生、長期勤続の末にもらえる退職金。これらを期待して人生の見通しを立てることが、今引退を迎えている世代までは可能だった。そんな敷かれたレールの上を走っていればよかった出世の道は、これらかはきわめて狭い道になる。労働者を取り巻く環境はたった一世代のうちにがらりと変わり、安全・快適・着実に働ける定職をたっぷりと積み込んだ最終列車はもう発車してしまった。
(中略)
 また、現在の労働者は「ひとりの従業員にひとつの職務」という伝統的な就業モデルの融通の利かなさに不満を抱くようになってきている。ギャラップ社が2014年にアメリカの従業員を対象に実施した調査によれば、自分の仕事にやりがいや愛着を感じると答えた割合は3分の1にも満たなかった。別の調査では、アメリカ人の過半数が今の仕事に満足していない状況が10年も続いているという結果も出ている。それに対して、組織に雇われていない独立した就業者は仕事に満足してやりがいも感じている場合が多いということが複数の調査で明らかになっている。彼らはフルタイム従業員にはない自主性・柔軟性・裁量の大きさを重要視しており、その多くが高い収入を得ている。
 こうした変化にともなって、キャリア構築やライフプランの考え方は様変わりするだろう。大学を出て就職し、結婚して家を買い、子供が独り立ちするのを見届けて引退するという昔ながらの人生すごろくは今でも不可能ではないが、定職・安定収入・定期昇給が支えてきた強固な足場が崩れゆくなか、成し遂げるのがどんどん難しくなってきている。ギグ・エコノミーなら、一人ひとりにあった見通しと道筋を描くチャンスが広がる。ギグ・エコノミーに参加する人々が増えていくにしたがって、世の中の働き方は言うに及ばず、生き方までもが変わると考えられるからだ。

『ギグ・エコノミー』 はじめに より ダイアン・マルケイ:著 門脇弘典:訳 日経BP社:刊

 本書は、ギグ・エコノミーについて解説し、その理論を実践に移すためのノウハウをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「チャンス思考」を身につける

 マルケイさんは、ギグ・エコノミーで成功するための条件のひとつとして、仕事に対する意識を“従業員思考”から“チャンス思考”へ切り替えることを挙げています。

従業員思考―どんな職に就こうか?
チャンス思考―どんな仕事をして、どんな価値を生み出そうか?

 従業員思考の労働者は、出世コースも業務内容も決まった職と、役員室・肩書き・高給というあらかじめ定義された成功のビジョンを雇用主が編成・構築・提供してくれることを希望し、当然視さえする。生活の保障も、経済的な安定も、仕事での成長も雇用主に任せてしまうし、成功を実現したり家計の保障を手に入れたりするのに雇用主の助けを求める。従業員思考は雇用主が業務内容を決めて福利厚生を整えることを当てにする、どちらかと言えば受身の姿勢である。
 このような思考が根強く残っているのは、ひとつには企業がかつて従業員のキャリア形成と家計保障を生涯にわたって引き受ける意思を持っていたからである。終身雇用を提供し、年功序列による定期的な昇進・昇給・待遇改善を行い、定年退職後も年金と医療給付を保証していた。雇用主は実際に頼りにできる存在だったのだ。しかし今の企業はなんの約束も保証もしてくれず、生活保障も提供せず、フルタイム従業員を雇わなくなってきているので、従業員思考を持ちつづけるのは非現実的かつ高リスクである。
 よりリスクを抑えてギグ・エコノミーで成功を収めるアプローチは、積極的なチャンス思考に舵(かじ)を切ることだ。チャンス思考の労働者は自分をキャリア形成の受け手ではなく、自発的に創造・構築する設計者だと考える。ひとつの会社や団体に依存せず、自分用にカスタマイズされた保障・安定・アイデンティティをみずから生み出すこと厭(いと)わず、むしろ当然視する。自分で成功のビジョンを描き、実現のために働く。
 チャンス思考の労働者は積極的に人脈を広げ、新たなスキルを習得し、したことのない経験を求める。フルタイム従業員として働くこともあるが、その場合も今の職場でスキル・経験・ネットワーク・評判・知識を高めて将来への足がかりにしようと戦略的に考える。現在の自分の役割のなかで達成・学習して次に活かせることがないか、常に探すのだ。チャンス思考を実践するには従業員思考よりも多くの労力が必要になるが、リスクは格段に低くなる。

『ギグ・エコノミー』 第1章 より ダイアン・マルケイ:著 門脇弘典:訳 日経BP社:刊

 与えられた仕事をこなすという、受身の姿勢ではだめ。
 自分から仕事を獲りにいく、その積極性が重要だということです。

 自分自身の価値を高め、それをどう、社会に還元していくか。
 それをつねに頭のなかに入れて、仕事をする必要があります。

「働く場」を分散させる

「ギグ・エコノミーで成功する」

 それは、どういうことでしょうか。
 具体的な例を見てみましょう。

 アリソンは古典オペラの歌手になるための訓練を受けていた。大学で声楽とイタリア文学を専攻していたのだが、卒業さえしていない3年生のときに、自分はオペラの道に進むことはないと悟った。ここ2年間でオペラへの情熱は冷め、自分の熱意と能力はオペラの世界に収まらないほど広いと気づいたのだ。別のプランを立てる必要があるということにも。卒業すると、大学のインターンシップ制度を使ってイスラエル領事館で初歩的な仕事を経験し、その後も国際関係の仕事にいくつか携わった。そして卒業から10年以上たった今では、オペラの道を志すきっかけとなった天性の才能と、大学でみがいた演技・歌唱・呼吸のスキルと、国際関係の仕事で培(つち)った経験を組み合わせて、3つの働く場(ギグ)を持っている。

  1. 企業経営者
    声の出し方を身につけ、人前で堂々と話すパブリックスピーキングの訓練を行う会社を設立し、世界中に顧客を抱えている。その教授法には、呼吸テクニックと舞台上で演技するコツが盛り込まれている。
  2. 大学講師
     ジョージタウン大学の経営大学院とハーバード大学の公共政策大学院でパブリックスピーキングとコミュニケーションの非常勤講師を務めている。
  3. 歌手
     独学でギターを演奏し、フォークシンガーとしてCDを2枚リリースして世界中でライブを行っている。

 アリソンのように、すでにあるスキル・経験・興味を活かして、複数のギグからなる多角的ポートフォリオを整えることがギグ・エコノミーで成功するカギだ。ギグ・エコノミーの時代には多角化こそが標準となる。働き方を多角化すればリスクが減り、新たなチャンスが舞い込み、人脈が広がり、スキルが向上する。興味を多角化すれば生活が多様でバランスもよくなるとともに、熱中できることを探し、新しい興味を温め、好奇心を満たすことにつながる。パブリックスピーキング講師とフォークシンガーの二足のわらじを履(は)いているアリソンは、決して特別な存在ではない。誰でも複数のアイデンティティを持つ自由があり、個人的目標と職業的目標のどちらも追求するチャンスを持っているのだ。

『ギグ・エコノミー』 第2章 より ダイアン・マルケイ:著 門脇弘典:訳 日経BP社:刊

 多角化とは、さまざまなギグを組み合わせたポートフォリオをつくることです。

 まず、収入の柱となるギグを定める。
 そこから、自分が興味を持つ仕事や役割を、新たなギグとして育てていく。

 それを継続的に行なうことが、安定的なギグの多角的なポートフォリオを形成します。

 ギグは、必ずしも、稼げるものでなくても構いません。
 また、振り幅が大きいギグを加えるほど、経済的なリスクは小さくなります。

「できる/できない」よりも、「やりたい/やりたくない」を基準に選びたいですね。

ネットワーキングをせずに人脈をつくる

 ギグ・エコノミーでは、環境を常に変化させるのが普通です。
 労働者は、新たなチャンスや副業、仕事の可能性を探し続けなければなりません。

 成功のカギを握るのが、「人とのつながりと人脈」です。

 マルケイさんは、いいチャンスをもたらしてくれる仲のよい知り合いとのつながりや人脈を開拓するのが最も効果的だと述べています。

 人脈は深さと広さを兼ね備えているのが理想的だ。深さと広さの利点は、スタンフォード大学の社会学者であるマーク・グラノヴェッターによる権威ある論文「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」を読むとよくわかる。グラノヴェッターによれば、人間同士の深いつながりは「強い紐帯」から生まれる。強い紐帯とは、よく知っていてもっとも頻繁に関わりを持つ少数の人物のことで、配偶者・親友・同僚などが当てはまる。感情面で重要な存在であり、満足いく人生の根幹として欠かせない。しかし、新しいアイデア・視点・チャンスの豊かな源泉とはなってくれないという。なぜなら、強い紐帯は互いに似すぎているからだ。自分と同じ活動範囲や世界におり、交友関係も考え方の多くも共有している。
 広い人脈を持つのが重要である理由は、「弱い紐帯」の利点を暮らしに取り入れることができるからだ。弱い紐帯とは、友人までいかない知り合いを指す。たとえばプロジェクトで何度か顔を見たことがある同僚や、たまに道端で出会う近隣住民など、互いに知っていて共通する要素があるが、頻繁には関わらず強い愛着もない。ところが、新しいチャンスをつかむとなると、弱い紐帯がカギとなってくる。新しい仕事が見つかる経路をグラノヴェッターが調査したところ、強い紐帯を通じて見つかった例は20パーセントにも満たず、80パーセント以上は弱い紐帯から見つかっていたという。友達や家族との深いつながりはたいてい自然とできるものなので、弱い紐帯を積極的に開拓・維持するべきなのだ。

『ギグ・エコノミー』 第4章 より ダイアン・マルケイ:著 門脇弘典:訳 日経BP社:刊

 ギグ・エコノミーでは、ポートフォリオを構成するギグがバラエティに富むほど、安定的な収入が見込めます。

 当然、人脈も「浅く広く」のほうが、幅広い情報を得る機会が多くなります。

 休みの日の行動範囲を少しずつ広げてみる。
 なじみの店の店員さんに話しかけてみる。
 趣味のサークルやボランティア活動に参加してみる。

 そんな「弱い紐帯」のネットワークづくりを意識することが大切ですね。

リスクを軽減して、不安に立ち向かう

 不安は、夢を叶える可能性を狭めて人間を日常生活に縛りつける、最大最悪の敵です。

 不安が、人生の歩みを妨げ、目の前の成長のチャンスを遠ざける。
 その大きな理由のひとつが、きちんと検証しないまま不安を頭のなかで増長するにまかせることです。

 マルケイさんは、不安やリスクは真正面から向き合うと分析しやすくなると指摘しています。

 誰もが抱える、“火のないところに煙が立つ”ような不安。
 マルケイさんは、そんな不安と向き合う、以下のような方法を紹介しています。

■最悪のケースから始める
 不安は感情に強く働きかけてくるものが多く、それに立ち向かうには最悪のケースから始めるのが最善の策である。まずはもっとも恐れているものを書き出してみよう。ベスの場合はこうなる。
 
不安

  • ホームレスになる
  • 全財産を失う

 紙に書くと、客観的に以下のようなことを評価・検証しやすくなる。これが現実になる可能性は? 可能性があるなら、現実になったとき耐えられるか? 立ち直れるか? このシナリオの予防策はないだろうか?

■具体的なリスクを考える
 感情に強く働きかけてくる漠然とした不安が特定できたら、次は上の表のように最悪のシナリオが実現する条件となる、明確で具体的なリスクを書き出してみよう。この作業をやってみると、自分の不安が現実になるにはきわめて可能性の低いことが重ならなければならないと気づかされる場合が多い。

■リスク軽減策を用意する
 最後に、リスクを軽減するためのアクションプランをつくる。各リスクが予防策を講じる必要があるほど重大で可能性が高いかは、あとから判断することができるが、対策を取るという選択肢があるだけでも不安が軽くなるだろう。
 ここでの目的は、感情に強く働きかけてくる漠然とした不安から具体的なリスクを切り離し、対策のプランを練ることである。ベスの場合は、状況を考えると最悪のケースの不安が的中する可能性は低く、そのような事例は珍しくない。しかし、なかには可能性の高いリスクが不安の根っこに隠れていることもあり、その場合はリスク軽減策を見つけるこの書き出しが非常に役に立つ。
 軽減策をいくら探しても自分の手に余るというリスクが出てくることもあるだろう。そのときは、やりたいことを変更あるいは再編し、規模とリスクを小さくすることが考えられる。たとえば、リスクを書き出してみたところ、起業するには明らかに経済的に厳しいとわかったとする。それならば、本業をつづけながら副業としてビジネスを始めるというプランを進めてはどうだろう。そうすれば、収入と蓄えが増え、顧客基盤の出発点ができる。あるいは、資金事情がよくなるまで待って12ヶ月後に会社を立ち上げるというプランにするのもいいだろう。その1年間を使って計画を練り、ビジスネモデルを改善し、収入と預金を増やし、支出を減らしてから事業を始めることができる。
 この手法は、プライベートか仕事かに関係なく、判断を下さなければならないが不安があるというあらゆる場面で使える。転居・転職・結婚・住宅購入のほか、たとえばスカイダイビングに行くべきかどうかを考えるときなどにも効果を発揮する。

『ギグ・エコノミー』 第5章 より ダイアン・マルケイ:著 門脇弘典:訳 日経BP社:刊

「案ずるより産むが易し」

 不安で仕方がないことも、実際やってみると、たいしたことがなかった。
 そういうことも、よく聞く話です。

 不安の感情は、逃げようとすればするほど、強くなります。

 まずは、自分が抱えている不安の正体を突き止めること。
 具体的に認識してしまえば、怖さも半減ですね。

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 これまでの働き方は、職業(ジョブ)が中心です。

 ある職業に就き、それに関連する仕事を続ける中でキャリアアップする。
 それが一般的な働き方でした。

 しかし、ここ数年で環境は大きく変わり、旧来の働き方が通用しなくなりつつあります。

 これからの時代、主流になっていくであろう働き方、労働(ワーク)が中心の働き方です。

 決まった職業をもたず、複数の専門分野においてプロフェッショナルとして活躍する。
 そんな働き方を選ぶ人が急増することでしょう。

 ギグ・エコノミーでは、肩書きではなく、実力がモノを言います。
 ある意味、弱肉強食の厳しい世界といえます。

 一方、ひとつの職業に縛られずに、やりたい仕事を制限なくやることができる。
 そんな自由自在なライフスタイルを楽しめる、何ごとにも代えがたい魅力があるのは事実です。

 5年先、10年先の生き方、働き方を模索するうえで、とても参考になる一冊です。

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2 thoughts on “【書評】『ギグ・エコノミー』(ダイアン・マルケイ)

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