【書評】『リーン・スタートアップ』(エリック・リース)

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 お薦めの本の紹介です。
 エリック・リースさんの『リーン・スタートアップ』です。

 エリック・リースさんは、起業家です。
 アントレプレナー(起業家)の支援やスタートアップ(起業)のアドバイザーとして著名な方です。
 現在は、多くの大企業やベンチャーキャピタルへのアドバイスを提供し、「スタートアップの教訓」というブログも執筆されています。

起業は、「マネジメント」である


 起業は、創造的な才能や勤勉さなど、全ての条件がそろう人だけが成功するもの。

 そういう世の中の一般的な考え方について、リースさんは異を唱えます。

 アントレプレナーとして10年あまりの経験を積んだ結果、私は、こういうふうに考えるのはまちがいだと思うようになった。自分自身の成功と失敗から、また、ほかのアントレプレナーたちの成功と失敗から、おもしろくないことこそが大事なのだとわかったのだ。スタートアップは遺伝子が優れていれば成功するものでもなければ適時適所で成功するものでもない。正しいやり方で進めるからこそ成功するのだ。それはつまり、やり方を学べるということであり、また、やり方を教えられるということでもある。
 起業とはマネジメントの一種である。読み間違いではない。「起業」と「マネジメント」はいずれもさまざまな意味で使われる言葉だが、最近のイメージは、一方はかっこよくて革新的、もう一方は退屈・まじめで刺激がないというものだ。そういう先入観は捨ててしまおう。

 「リーン・スタートアップ」 はじめに より  著:エリック・リース 訳:井口耕二  刊:日経BP社

 リースさんは、イノベーションを継続的に生みだせる新しいアプローチとして、「リーン・スタートアップ(Lean startup)」と呼ばれる手法を提案します。

 この手法は、製造業のマネジメント手法である、「リーン生産方式」を応用したものです。

 リーン生産方式とは、1980年代にアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で日本の自動車産業における生産方式(主にトヨタ生産方式)を研究し、その成果を再体系化・一般化したものであり、生産管理手法の一種(Wikipediaより)です。

 本書の中にも、「カンバン」「アンドン」「カイゼン」など、日本語のまま世界中で通用する、トヨタ発のアイデアや概念がたくさん出てきます。

 従来のスタートアップに関する常識と、「リーン・スタートアップ」との違い。

 リースさんは、それを「宇宙船の開発」に例え、以下のように説明しています。

 たとえばあるスタートアップは、新製品に何百万人という規模で顧客がつくと予想していた立ち上げは世の中の注目を集め、計画どおりの滑り出しだった。しかし、顧客は予想ほど集まらず、その時点でインフラストラクチャーと人員、サポートについて想定顧客に対応できる規模を用意していた会社は状況の変化に対応できずに終わってしまった。計画を忠実かつ的確に実行することに成功した結果、「失敗を達成」してしまったのだ——ふたをあけてみれば計画に大きな不備があったために。
 これに対して、スタートアップをうまく操縦できる方法を教えるのが、リーン・スタートアップ方式である。リーン・スタートアップでは、さまざまな仮説に基づいて複雑な計画を立てるのではなく、構築ー計測ー学習(Build-Measure-Learn)というフィードバックをハンドルとして継続的に調整を行なう。ピボット(pivot:方向転換)をいつすべきなのか、そろそろすべきなのか、あるいはまた、いまのまま方向性を維持して辛抱(persevere)すべきなのかは、この操縦プロセスを通じて学ぶことができる。順調にエンジンの回転が上がったあと、スケールアップして事業を急速に成長させるわけだ。その方法もリーン・スタートアップには用意されている。

 「リーン・スタートアップ」 第1章 より  著:エリック・リース 訳:井口耕二  刊:日経BP社

 製造業で発展したマネジメント理論(しかも日本発)が、スタートアップの方法論に応用できるのは、驚きです。

 本書は、リーン・スタートアップの基本的な考え方と、具体的な方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップして紹介します。 

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最初の製品で完璧を狙わない理由


 市場に製品を投入した直後、重要なカギを握る顧客は、「アーリーアダプター」です。

 アーリーアダプターは、出来としては80%の製品でもいいので、まだあまり世に出回っていない最先端の製品を手に入れたいと考える人たちです。

 画期的なアイデアを盛り込んだ製品ほど、このアーリーアダプターの支持が不可欠になります。

 iPhoneやグーグルの検索エンジン。
 それら常識を覆す製品も、アーリーアダプターの間で人気となったことで市民権を得ました。

 アーリーアダプターは製品に欠けている点を想像力で補完する。その状態を好むのがアーリーアダプターだとも言えるだろう。新しい製品や技術をいち早く使ってみることが一番の関心事なのだ。家庭用製品なら、新しいバスケットシューズや音楽プレーヤー、クールな電話などを地域でまっさきに買い、見せびらかしたいと思ったりする。企業向け製品なら、他社がまだ持っていない何かを採用するというリスクを取り、競争力を強化したいと思う。そう思うアーリーアダプターは、逆に完成度が高いと不安になる。誰にでも使えるレベルに仕上がっているのなら、早く使ってもどれほどのメリットが得られるのかと考えてしまうのだ。だから、アーリーアダプターが求める以上に機能を増やしたり完成度を高めたりするのは、資源も時間も無駄にする行為となる。

 「リーン・スタートアップ」 第6章 より  著:エリック・リース 訳:井口耕二  刊:日経BP社

 パソコンやスマートフォンのアプリで、『ベータ版』と呼ばれる”完成一歩手前”の製品を無料で提供するメーカーが多いです。
 アーリーアダプターに実際に使ってもらって、その反応をみることが大きな目的です。

 新製品に対する改善要求や、継続して使ってもらえる理由などを知る。
 そうすることで、消費者のニーズに沿って改良された製品を、短期間で送りだすことができます。

「バッチサイズ」を縮小する


 市場に投入された製品を、ユーザーの反応によって、素早く改良を繰り返す。
 そのループを上手く回すことが、起業を成功させるカギです。

 通常、製品が作られる過程は複雑なものが多く、最終製品までには、いくつもの工程を経る必要があります。

 作業効率を考える上で問題となるのは、「バッチサイズ」です。

 バッチとは、ある製品の製造工程を必要な作業を細かく分けていったときに、一度に作業する区分けの単位のことです。

 一つの工程での操作や作業を、簡略化して少なくし、細切れにする。
 そうすると、工程の数は増え、バッチサイズは大きくなります。

 逆に、バッチサイズがもっとも小さくなるのは、製品を作る全行程を一つのバッチとして捉える場合です。
 いわゆる「一個流し」と呼ばれる方法です。

 リースさんは、ニュースレターの発送作業を例にとって、説明しています。

 全部のニュースレターを全部折る → 全ての封筒に宛名ラベルを貼る → 全ての封筒に切手を貼る

 リースさんは、このように作業を細切れに分ける(バッチサイズを大きくする)より、封筒を一つひとつ仕上げていくアプローチの方が一見非効率に見えるけれど、実はその方が早いと指摘します。

 一つひとつのプロセスに要する時間がまったく同じだった場合でも、バッチサイズは小さい方が効率的になる。理由はさらに反直感的だ。もし、折ったニュースレターが封筒に入らなかったらどうなるだろうか。バッチサイズが大きい場合、作業がかなり進んでからでなければこの失敗に気づけないが、バッチサイズが小さければ、作業を始めると同時に気づく。封筒に問題があってうまく封ができなかったらどうなるだろうか。バッチサイズが大きい場合、全部の封筒からニュースレターを取りだし、新しい封筒を用意してそちらに詰め直さなければならない。バッチサイズが小さければ、作業を始めると同時に気づき、方向修正ができる。
 郵送というごくシンプルな作業なら、プロセスに潜むこのような問題がすぐに理解できるが、同じような問題は、大企業から小企業までどのような企業の仕事にも潜んでおり、深刻なトラブルを引きおこす。バッチサイズが小さければ完成品が数秒おきに出てくるが、バッチサイズを大きくするとたくさんの製品を最後にまとめて送りだすことになる。この時間的スケールが時間単位だったら、日単位だったら、週単位だったらどうなるだろうか。完成した製品を顧客が気に入らなかったらどうなるだろうか。この問題を早期に発見できるのは、どちらのプロセスだろうか。

 「リーン・スタートアップ」 第9章 より  著:エリック・リース 訳:井口耕二  刊:日経BP社 

 リースさんは、バッチサイズの縮小に大きなメリットがあることは、リーン生産方式を進める企業が何十年前も前に気づいていたことだと述べています。

 第二次世界大戦後、米国の巨大自動車メーカーに立ち向かうために、日本の自動車メーカーが必死に考え出した方法。
 それが、バッチサイズの縮小によって、少量多品種の製品を効率よく作るやり方でした。

 トヨタは、少量多品種の部品が作れる小型の汎用加工機を採用し、機械の設定を変えることで、同じ製造ラインでいろいろな車種の完成車が製造できるように工夫しました。

 スタートアップのお手本は、意外に身近なところにあったのですね。

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「起業はマネジメントである」

 リースさんのこの言葉は、新しいことへのチャレンジ精神を失い、リスクをとることを嫌う、今の日本にこそふさわしいです。

 ぜひ、多くの若い技術者やプロジェクトリーダーに読んでもらいたい一冊です。

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