【書評】『QUEST 結果を勝ち取る力』(池田貴将)
お薦めの本の紹介です。
池田貴将さんの『QUEST 結果を勝ち取る力』です。
池田貴将(いけだ・たかまさ)さんは、リーダーシップ・行動心理学がご専門の研究者です。
「終わらない仕事」は、なぜ、終わらないか?
どんな困難にも負けずに突き進み、高い目標を達成する。
そんな「強い意思」がほしい、と願っている人は、多いでしょう。
意思とは、雑多な「やろう」「やらなきゃ」のうち、「たった今、自分がやるべきことはなにか」を、選び取る
ことです。
小さなことですが、スマートフォンを使うにしても、用件だけを確認してしまうか、用もなく触り続けるかは「意思」の違いです。時間内に仕事を終わらせて、帰ろうと思った時刻に帰るのも「意思」です。いつもと違った道で帰ろうとする試みですらも「意思」を必要とするでしょう。
仕事にしても、暮らしにしても、ただやるべきことをこなすだけならば誰でもできるかもしれない。けれども、そこから先の「やりたいこと」を実現するためには、やはり意思の強さが必要です。
意思はそのくらい大切なものですが、どうすれば強くできるのかは誰も教えてくれません。生まれつき「意思が強い人」と「意思が弱い人」に分かれているのでしょうか。体力があって、思考能力が高くて、自己主張のある人だけが、「意思の強い人」になれるのでしょうか。
そうではないと、私は断言します。
数ある選択肢の中から「たった今、自分がやるべきことはなにか」を迷わず選び取れる人が、“意思の強い人”なのだとすれば、そもそも「選択肢なんてはじめから無ければいい」と思っているからです。
ところがそう簡単にはいきません。私たちのほとんどは、たくさんの機能を持った便利な道具をいくつも持っていますし、毎日途切れることなくメール、SNS、電話、相談、誘い、書類、看板、騒音、腰痛・・・・・さまざまな刺激を受けているからです。選択肢の増殖は止められません。
それでも強い意思を持って、毎日行動したい。そんな思いから、学んだ知識と知恵をまとめたのがこの本です。
やろうと決めるのは自分。実際に動くのは、もう一人の自分です。
まずは「もう一人の自分」と向き合うこと。そこから少しずつ「意思」を磨いていきましょう。『QUEST 結果を勝ち取る力』 PROLOGUE より 池田貴将:著 サンクチュアリ出版:刊
本書は、行動心理学をベースにした「強い意思」を育てる具体的な方法をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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”次にやること”を決める。
私たちの行動は、以下の「3つのモード」に分かれます。
- 自分で選んだことをやっている(意思のモード)
- まわりの出来事に対応している(反応のモード)
- 思考を止めて習慣に流れている(惰性のモード)
私たちは無意識のうちに、たくさんの「やろう」「やらなきゃ」を抱えています。
私たち脳は、「終わらせたこと」は、すぐに忘れます。
一方、まだ終わらせていない「やろう」「やらなきゃ」は、頭から離れにくいようにできてい
ます。
やりかけの作業や、まだ手付かずの作業が周りにたくさんある。
そのような状態では、自分の行動を思い通りにコントロールするのは難しいです。
反対に、自分を取り巻くすべての「やろう」「やらなきゃ」を明るい場所に引っ張り出し、その行き先さえ決めてしまえば、目の前の行動に対する集中力が高まり
ます。
まず、最初にやるべきは、この『「やろう」「やらなきゃ」をすべて集める』ことです。
池田さんは、この作業を心の引っ掛かりがなくなるまで、一気に、徹底的に、集めましょう
と述べています。
「やろう」「やらなきゃ」は“物”のように扱います。
箱は4つ用意しましょう(下の図1を参照)。
箱は本物でも、データ上のフォルダでもけっこうです。
「やるつもりがあるかどうか?」自分に問いかけてみて「ない」なら“ゴミ箱”行きです。
やるつもりがあることのうち、今やらなくていいなら“あとでやる”という箱にいれます。
今やったほうがいいなら“やる”という箱に入れます。
どっちでもないなら、“その他”という箱に入れます。やることそのものは、たいてい問題ではありません。
ただどう手をつけていいのか、すぐに判別できないのが問題なのです。
100年前の仕事は違いました。
樵(きこり)の仕事は、木を見れば木を切るんだとわかりました。切った木は、割るのか、燃やすのか、捨てるのか。せいぜいそんなものでした。
ところが現代の仕事はたくさん種類があって、なにをどうすればいいのか、理解するためには時間を要します。
メールがたくさん届いても、一件一件聞いてみないと、どういう対応をすべきかがわかりません。
そして瞬時に判断できないと、その次の行動は「ぱっと見て、なにをすればいいのかわかる行動」に流されやすくなります。それは主にメールチェックをしたり、スマートフォンを見たり、同僚に話しかけたりといった〈惰性のモード〉でやるようなことです。
そうならないためには、“次にやること”をはっきりした状態にして、つねに自分に知らさなければなりません。
ではこの場合の「はっきりした状態」というのは、どういったものでしょうか。
それは、子供が聞いても理解できるほど、「簡単」で「わかりやすく」表現されていることです。
なにがあってもできる“次にやること”。どんな状態でも、すぐに理解できる“次にやること”。
どれだけ体調が悪くても、それならばできる。どれだけ頭がまわっていなくても、それならばわかる。という表現です。
たとえば「ジョギングをする」よりも、「明日ベッドから出たら、ジョギングウエアに着替える」と表現した方が、すぐにイメージできて、その行動に移りやすくなるでしょう。
また「報告書を作成する」というよりも、「“報告書”というフォルダの中にある、前回テンプレートを開く」や「報告書のテーマを、とりあえず一行書く」と表現した方が、自分に対して親切です。
意思が途切れないようにするために必要なのは、精神力よりも、国語力だとも言えます。またひとつの「やろう」「やらなきゃ」からは、複数の“次にやること”が出てくることがあります。
“次にやること”は、大きく「手を動かすこと」「考えること」「誰かと決めること」の3つに分かれます。
たとえば「予算を見直さなきゃ」からの“次にやること”は、「ネットでもっと安い業者を探してみる(手を動かすこと)」「削れる項目がないかを検討する(考えること)」「予算を増やせないか、上司に相談してみる(誰かと決めること)」、などに分けることができます。『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER1 より 池田貴将:著 サンクチュアリ出版:刊
図1.「やろう」「やらなきゃ」を集める
(『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER1 より抜粋)
「やろう」「やらなきゃ」という“敵”は、事あるたびに私たちの意識に現れます。
そして、大切な「意思力」という“ライフ”を奪っていきます。
まず、倒すべき“敵”をすべて把握し、可視化してわかりやすく区分する。
そして、優先順位をつけて、片っ端から倒していく。
それだけで戦いやすくなりますし、無駄なダメージも大幅に減りますね。
「今日のあらすじ」を書く
上で仕分けたうち、「やるつもりのあるもの」は、一冊のカタログにします。
「やることカタログ」は、以下の項目に分類します(下の図2を参照)。
A.ここでやる
B.カレンダー
C.連絡待ち
D.あとでやる
E.判断材料
F.ルーチン
図2.やることカタログの中身
(『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER2 より抜粋)
では、この「やることカタログ」を使って、具体的に日々の作業をこなすには、どうすればいいか。
池田さんは、「今日のあらすじ」を書き出すこと
を勧めています。
次の場所や状況でなにをすればいいか、「やることカタログ」の〈ここでやる〉を見て、自分の行動の流れを想像しながら、やることを書き出していきます(私はその“あらすじ”のことを、気分を盛り上げるために「脚本」と呼んでいます。
普通のToDoリストと違い、「今日のあらすじ(脚本)」のいいところは、自分の行動を“流れ”として把握できることです。
書き方はこういう具合です。
まず書きはじめる前に、先に「さて」「ここからまず」という言葉をノートに書いておきます。
なぜこの2つの言葉を先に書いておいた方がいいかというと、私たちの脳は「これからやること」を考えるとき、まず過去のことに意識を向けがちだからです。ああいう言い方はまずかったかもしれない、そもそも自分が引き受ける必要があったのだろうか? あのアイディアを提案したのは誰だろう? といった具合です。
事後検討をはじめてしまうと、思考がなかなか先に進みません。
そこで、「さて」、「ここからまず」「さて」、「ここからまず」というシグナルを脳に送りこんでから、“これからやること”を一気に流れに乗って書き連ねていきます。
「さて」のあとには〈さて、週明け一発目! 新プロジェクトをついに始動〉〈さて、今日は定時で帰るぞ!〉(さて、恒例の第2金曜日、アポ取りまくりDAY〉などのテーマを書きます。自分を鼓舞するためのテーマといってもいいでしょう。
それから「ここからまず」と書きます。
そして、「やることカタログ」の〈ここでやる〉を開きます。
その〈ここでやる〉を見ながら、自分の行動計画を「こうしたら、こうして、そのあとこうして・・・・・」と流れを想像しながら書きます。
ポイントは、文章の形をすべて「〜して」「〜して」「〜して」でそろえることです。
最後は続きを書き足す可能性もあるので、しめくくらずに、「〜して」のままにしておきます。
「今日のあらすじ」に書く上で、次のことを優先しましょう。1、その状況でしかできないこと
その場所、その会社、その人、その会議、その移動中、その待ち時間など、「その状況でしかできないこと」をなるべく優先しましょう。その状況でなくてもできる“思いついてしまった”ことは、メモに残すか、「やることカタログ」の〈あとでやる〉に入れて、忘れます。2、その時間の長さでしかできないこと
まとまった時間が取れるときは、誰かとのアポイントを入れたり、観たい映画を観たり、整体に行ったり、少し離れた場所での約束を入れるなど、その時間を使い切れる行動を優先しましょう。3、すぐにできること。
「すぐにできること」を、合間合間に、散りばめておきましょう。どうしてもやる気がでない日は、「今日のあらすじ」に書かれている、「すぐにできること」だけでもせめてかたっぱしからやろうと決めておきます。やる順番を変えたくなるときもあるでしょう。でもそれはあとで考えれば良いことです。すべての行動を書き終えたら、順番を変えたい行動を赤ペンで囲み、そこに順番をふっていきましょう。
これで完成です。
あとは「移動したらその場所で『今日のあらすじ』を見る」だけです。『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER2 より 池田貴将:著 サンクチュアリ出版:刊
図3.「今日のあらすじ」の例
(『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER2 より抜粋)
大事なことは、
「移動したらその場所で『今日のあらすじ』を見る」ことです。
つい、やらなくてもいいこと(スマホをいじったりとか)をしてしまうのを防ぐためにも重要です。
その日のどの場面においても、「やること」を作っておく。
これも、意思力の消耗を防ぐには、とても効果的ですね。
「時間」を区切る
「やろう」「やらなきゃ」を整理し、優先順もつけた。
あとは、行動するだけ。
その前にやるべきことが「時間を区切る」ことです。
対象以外の物事を消して、今自分がやっていることだけに集中する。
そういう状態を作り出すためには、自分なりの時間の区切りが必要です。
私のおすすめは「15分間単位」で区切ること。
ある研究において、60分ぶっ通しで学習したグループよりも、休憩時間を挟んだ15分を3セット(合計45分)学習したグループの方が、テストの点数が良かったという実験結果があります。私の実感としても「15分間」は集中力を保つことができます。
ためしにタイマーを15分間にセットしましょう。
そして「この15分間は、これしかやらない」と頭の中で宣言し、作業に取りかかりましょう。すぐ集中することができるはずです。
15分間でメールを5通返す。15分間でこの本を読めるところまで読む。15分間で報告書を書けるところまで書く、などです。
できればその間は、新たに届いたメールにも、スマートフォンにも、声がけにも反応しないようにします。
気が乗らないことも、とりあえず15分間だけ試してみましょう。
そして、うまく自分を「やる気」にさせることができたら、さらに15分間追加します。集中できなければ、別のことを15分間はじめます。読書なら、別の本を読みます。15分間集中できなかったとしても、ゼロよりはよっぽどいいに決まっています。
あまり細かく中断したくない作業は、15分間を1単位として、「30分間」か「45分間」で区切りましょう。ただし45分間までとしてください。時間をそれ以上かけると能力が落ちますし、46分間以上かかりそうなことであっても、「45分間でやらなきゃ」と思うからこそ集中しやすく、意外とその時間内に終わらせられるものだからです。
気が散ることも、やりたくないことも、タイマーをつけて、ちょっと我慢してやるかと思ってやりはじめると、楽しくなってくるもの。その状態にさえもっていければ、あとはやるだけです。
ちなみに、自分では没頭しているつもりでも、疲労から“トカゲの脳”になっていて、まったく見当違いな仕事をしていることもあります。
でも時間を強制的に区切ることによって、自分の能力が落ちていることにもちゃんと気づけるようになります。『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER3 より 池田貴将:著 サンクチュアリ出版:刊
人間の集中力を保てる時間は、意外と短いものです。
逆に、短い時間でも、「その間は集中してやろう」と決めると、想定以上にはかどります。
何かと忙しく、まとまった時間が取りにくい。
そんな現代人こそ、「時間を区切る」意識が大切ですね。
新しい仕事は「選り分ける」
「今日はこれをやろう」
そう決めていても、すべてがその通りにいくわけではありません。
メール、電話、上司からの依頼。
そんな外部からの新しい刺激があるたびに、私たちの頭は〈意思のモード〉から〈対応のモード〉に切り替わり
ます。
〈対応のモード〉でいる時間を最小限にとどめる。
それが、意思力の消耗を少なくし、集中力を高めることにつながります。
もちろん「対応するのが自分の仕事だ」という人もいるでしょう。しかし新しい仕事を反射的にこなしていくことと、いったんその仕事を手元に預かったあと、自分の意思で進めていくこととは同じことをしているようで、まったく違います。すぐに対応するべき仕事であっても、刺激と反応の間に空白の時間をつくり、なるべく〈意思のモード〉で進めた方が良いのです。それだけ質が高くなり、またスピードも早くなります。
では、新しい仕事がきたら、どのように対処すればいいでしょうか。
まずその仕事は、自分がやるべきかどうかを判断します。
他の人にもできることならば、断るか、その場で他の人にお願いすることを検討します(ただし他の人に仕事をふるときは、注意が必要です。あとでくわしく説明します)。お願いしたら〈連絡待ち〉に記録だけを残して、この時点ではきれいさっぱり忘れてしまいましょう。
もしその仕事が、自分が対応すべき仕事で、しかも「2〜3分で終わること」ならば、その場ですぐにやりましょう。手元に「今日のあらすじ」があるので、その仕事が終わったらただちに「今、ここで、自分がやるべきこと」に戻ってこられるはずです。
しかしスムーズに戻ってこられる制限時間は、せいぜい2〜3分の間しかないのです。
対応を5分も10分も続けていたら、そのうち「今、ここで、自分がやるべきこと」を見失ってしまいます。「今日のあらすじ」が目に入ったとしても、頭がなかなか切り替わらないので、そこに書かれていることの価値を見いだせず、他のことに流されてしまいやすくなります。
ですから「2〜3分では終わらないこと」、あるいは「すぐやる必要はないこと」は、付箋(メモ)に残します。
この付箋(メモ)は、あとでまとめて処理をします。
対応が難しく、すぐに結論が出ない問題もあるでしょう。しかしそこで考え込んでしまうと、対応のモードからなかなか出られなくなります。そんなときは、心の声で「今は道からそれているよ」「早く戻ろうよ」としつこく自分に伝え、「そのことについて考える」という予定を入れて、思い切って忘れる勇気を出しましょう。そうすればただの反応ではなく、その問題を自分の意思としてとらえることができ、より前向きな結論が出やすくなります。『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER4 より 池田貴将:著 サンクチュアリ出版:刊
図4.仕事の選り分け方
(『QUEST 結果を勝ち取る力』 CHAPTER4 より抜粋)
降りかかってくる業務に反射的に反応する。
それよりも、いったん自分の中に留めて、選り分けてから対応する。
その方が、仕事全体を自分でコントロールしている安心感もありますね。
急に入った仕事は、一呼吸入れて、選別してから取り掛かる。
習慣にしたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
池田さんは、クエストとは、自由の拡大だ
とおっしゃっています。
冒険に出なければ、失うものもなく、危険もありません。
ただ、冒険に出ない限り、自分の中に眠っている「可能性」を発見することもありません。
「意思あるところに道あり」
冒険に出るか、今の場所に居続けるか。
それを決定づけるものが「意思力」です。
意思力という「ライフ」がゼロにならない限り、冒険は続けることができます。
より遠くへ進めるということですね。
まだ見ぬ「未知なる大陸」を目指す。
QUEST(大いなる探索)を始めるかどうかは、私たちの決断次第。
本書は、最初の一歩を踏み出す勇気をくれる“最強の武器”といえます。
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