本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(柿内尚文)

お薦めの本の紹介です。
柿内尚文さんの『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』です。

柿内尚文(かきうち・たかふみ)さんは、編集者・コンテンツマーケターです。

「伝わる技術」とは?

柿内さんは、人は、言葉はもちろん、態度や表情も含めて「ちゃんと伝えてもらわないとわからない生き物」だと指摘します。
それだけ、自分の意思を相手に伝えることは難しいということですね。

柿内さんが考える「伝えること」についてのポイントは以下の3点です。

 1 人は、伝えてもらわないとわからない。
2 ただ伝えるだけでは伝わりにくい。うまく伝えない伝わらない。そして、伝え方には技術がある。
3 言葉だけでなく「態度+表情」も伝わるための大きな要素。

 自分をアピールするのも苦手で、学生時代、就職活動では集団面接が鬼門でした。集団面接ではほかの人がみんなすごい人に思えて、それに比べて自分には自身が持てず、うまく話せなくて落ちるということが何度もありました。
そんな僕が変わることができたのは、ある言葉がきっかけでした。
仕事を始めて数年たったころ。
僕に仕事や大人のたしなみなど、いろいろなことを教えてくれた、少し古い言葉ですが「ちょいワル」な師匠がいました。彼に言われた一言が、自分を変えるきっかけになったのです。

仕事に恥ずかしさをもちこんじゃいけない。
性格と仕事を切り離せ。

目からウロコでした。
僕はそれまで自分の性格まる出しで仕事をしていたので、悩むことも多く、たくさんの壁にぶつかっていたのですが、いま思えばそれはすべて「自分の性格」をベースに仕事をしていたからだと思います。
「仕事と性格を切り離せばいいということか!」
これは大きな気づきでした。

考えてみれば、たとえばお笑い芸人でテレビではすごく活溌な面白い人が、プライベートでは物静かというような話はよく聞きます。アスリートでも試合中はとにかく熱いのに、普段は穏やかな人がけっこういるみたいですね。

以前、僕が関わった『松岡修造の人生を強く生きる83の言葉』という本の中に、松岡さんのこういう言葉があります。

「二重人格は素敵だ!」

まさに性格を切り離すということを伝えている言葉です。
松岡修造さんのこの言葉と出合ったことで、自分の壁を超えられたという日本を代表するアスリートの方がいます。一流の選手でも性格が壁になり、どう乗り越えるかで悩んでいる人は多いようです。

話を戻します。
僕自身、性格と仕事を切り離せるようになってから、変わることができました。

「これ、伝え方の話なの?」と思うかもしれませんが、伝え方の話しです。
伝え方で最初に知っておいてほしいのは、伝え方がうまくなるためには「自分の性格を切り離して伝える」ということ。

こんなこと言ったら相手に嫌がられるかも。
間違ったことを言っているのかもしれない。
誤解されたら嫌だ。

そんな不安があると思いますが、だからといって伝えないまでいると、その事柄は相手にとっては存在しないことと等しいことになります。

存在を示すためにも、まずは「伝える」ことが必要です。

伝えにくいなと思ったら、そのときは
性格を切り離して、別人格になったつもりで伝える。

別人格になりきるには、自分がイメージする「伝え方がうまい人」をマネシてみるのがおすすめです。
「◯◯さんだったらどういう伝え方をするだろう?」
知り合いでも有名人でも誰でもいいと思います。その人になりきったつもりで伝えてみてください。
そしてもうひとつ大切なこと、それが「伝わる構造」「伝わる技術」です。構造を理解して技術を身につければ、伝え方の精度が高まり、性格の壁を越えることもできるはずです。

『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 はじめに より 柿内尚文:著 かんき出版:刊

本書は、話を盛ることやイエスを引き出すためのものではなく、伝えたいことが相手にちゃんと伝わるためのノウハウをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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人は「伝わったこと」で判断する

以前『見た目が9割』という本がベストセラーになりましたね。
この本のタイトル『見た目が9割』というのは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した非言語コミュニケーションを説く「メラビアンの法則」がベースになっています。

 実際に『見た目が9割』なのかどうかは、いろいろな考えがあるようですが、人は目に入った印象で判断してしまいがちなので、「見た目だけ判断してはいけない」といったことが言われているのだと思います。
「見た目」という情報が相手に伝わり、それが判断材料になる。それはつまり、心の中など、見えない部分は判断材料になりにくい=「伝わりにくい」ということでもあります。

「言わなくてもわかってもらえるはず」
「自分のことをわかってくれてるはずだから、わざわざ伝えなくて大丈夫」

残念ながら、そんな期待はしないほうがいいと思います。

こんな話を聞いたことがあります。

話してくれたのは努力家で地道に頑張るタイプで、自分をあまりアピールしない人です。
彼がこんな愚痴をこぼしていました。

「うちの上司は僕のことをまったく見ていなかった。仕事を一生懸命やってないのに、上司にしょっちゅうゴマをすっている社員の評価が高くて、僕みたいな地道にやっているけどアピールしないタイプの評価は高くない。やってられない」

確かに彼の気持ち、よくわかります。
でも、こと「伝え方」という側面から見れば、彼の伝え方は失敗しています。

人は伝えられたことで判断しているので、ちゃんと情報を伝えないとなかなかわかってもらえません。
おべんちゃらを言う必要はないかもしれませんが、「言わなくてもわかってくれるはず」という考えは捨てるべきです。

うまく伝えることができれば彼の評価はきっと上がるはずです。実際に頑張っているし、成果も出始めているので、そこをちゃんと伝えればいいわけです。

ではどうやって伝えたらいいのか。
誰にでもできる、とても簡単な方法があります。
それは「接触頻度を高める」こと。

こんな経験はありませんか?
芸能人で、初めて見たときはなんとも思わなかったけど、テレビや動画で何度も見ているうちにファンになってしまった。
会社や学校で、最初はなんとも思ってなかったけど、毎日会ううちに恋してしまった。
宅配便を毎回同じ人が持ってきたら、その人に親近感がわいてきた。
通販のテレビCMで初めて見たときは「何だこの人は」と思っていた人が、何度も見てるうちにだんだん気になってきて、気づけばそこの商品を買っていた。
僕にもそんな経験があります。

「ザイアンスの法則」を知っていますか? 人やモノやサービスなどに何度も触れることで警戒心がどんどん薄れていき、関心や好意を持ちやすくなるという心理的な効果のことです。
上司に評価されていない彼の場合は、頻度を高めて、上司に報告や相談をすればいいんです。これならそんなに難しくありませんよね。「頻度」はとても大切です。

「一度言われたことを忘れないのが仕事のプロだ」
20代のころ、先輩によくこう言われました。
理由は、僕が何度も忘れてしまうから。

そして僕が先輩の側になると、今度は後輩に同じことを言っているときがありました。
「プロなんだから、一度言われたことは忘れないで」
でも、いまはそのことを反省しています。

学生のころ、先生から授業で教わったことを一度で覚えるなんて、僕にはできませんでした。復習して、繰り返しインプットすることで頭の中に入れていきました。そのことを忘れて、大人になり、「一度で覚えて」なんて言っていたわけですから、難しいお願いをしていたんだと思います。

一度で伝わらないとき、それでも伝えたいのであれば「繰り返し伝えること」が必要です。

ただ、何度も繰り返すのはけっこう面倒です。なので、何が伝わって、何が伝わっていないかを確認する時間を作ってみてください。

たとえば、仕事の打ち合わせ。打ち合わせの内容を相手がちゃんと理解しているか不安なときは、その場で相手と「打ち合わせたこと確認」をします。
打ち合わせの最後の5分を使って、その日打ち合わせた内容をあらためて相手に話してもらう。それだけです。
「打ち合わせたこと確認」で大切なのは、「伝わっているかどうか不安な人」に話してもらうこと。
自分の中で理解、納得できていないことはうまく相手に伝えることができないので、何が伝わり、何が伝わっていないか、確認することができます。

あなたは人から聞いた話をどれくらい覚えていますか?
僕は自慢になりませんが、かなり忘れてしまいます(なのでメモを相当とっています)。
記憶力や集中力の差もあると思いますが、人はかなりの情報を忘れてしまう、もしくは最初から聞いていません。
「エビングハウスの忘却曲線」が有名です。

人が何かを記憶したとき、
・20分後には約42%を忘れる
・1時間後には約56%忘れる
・約9時間後には約64%忘れる
・1日後には約66%忘れる
・2日後には約72%忘れる
・6日後には約75%忘れる
・1ヵ月後には約79%忘れる
という忘却曲線です。

これはインプットした情報に対してなので、最初からインプットしていない情報も合わせれば、ほとんどの情報は「忘却側」に入ってしまいます。

これだけ忘れてしまうわけですから、自分が伝えたことも相手の「忘却側」に入ってしまう可能性は十分ありますよね。
なので、忘れられている前提で、伝える頻度を高めることが大切なのです。

『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第1章 より 柿内尚文:著 かんき出版:刊

図1 エビングハウスの忘却曲線 バナナの魅力を100文字で伝えてください 第1章
図1.エビングハウスの忘却曲線
(『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第1章 より抜粋)

私たちが伝えようとしていることは、自分が思っている以上に、伝わっていない。
そう考えてコミュニケーションしたほうがいいということですね。

より分かりやすく伝えること(伝える質)。
そして、繰り返して伝えること(伝える量)。

その両方を向上させることが、コミュ力向上の秘訣です。

「伝わり方」にも、仕組みがあった!

全体像や本質を理解するには、まず「構造」を知ることが重要です。
柿内さんが考える「伝わる構造」は「7階建てのビル」のような構造をしています(下の図2を参照)。

図2 伝わるビルディングは7階建て バナナの魅力を100文字で伝えてください 第2章
図2.伝わるビルディングは7階建て
(『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第2章 より抜粋)

 伝わる構造1階 ゴール設定

まず、「伝わる」にはゴール設定が必要です。「何のために」ですね。
たとえ雑談であっても、ゴールはあります。「アイスブレイク」かもしれませんし、「相手と仲良くなるため」かもしれません。ただ雑談をすることがゴールという場合もあります。
ゴールを決めることが大切です。

伝わる構造2階 納得感(理解する、腑に落ちる)

次が「納得感」です。納得感があって初めて「伝わる」が生まれます。納得感とは理解する、腑に落ちるということです。

ゴールを達成するために相手の納得感を得ること。

「あなたの言っていることがよくわからない
この状態は相手の納得感を得られていません。
「あなたの言っていることはわかるけど、そうは言ってもなかなか難しい」
これは納得感までは得られた状態です。
相手の納得感がないと、伝わったことにはなりません。

伝わる構造3階
そもそも「伝わる」とは相手に「伝えたいことを言うこと」ではありません。
頭ではわかっていても、行動では「伝えたいことをとにかく言っている」という人もいるかもしれません。
でも、
「伝えること(言うこと)」=「伝わること」ではありません。

こういうことってないですか? 上司と部下の会話です。

上司 「ちゃんとこの件は相手に伝わったのか?」
部下 「言いましたよ。でもわからないって言われたんです」
上司 「それじゃあ、伝わったことにならないじゃないか」
部下 「でも言いました!」

「言いました」=「伝わった」という誤解、よくありますね。
でも相手が理解し、腑に落ちていないならば、それは伝わったことにはなりません。伝えただけです。

なぜ、こういう誤解が起きるのでしょうか。
この部下の人は「自分ベース」な考え方をしていて、相手が不在です。「伝える=自分が言う」と考えているわけです。
でも、伝えることではなく、きちんと伝わることが大切です。

伝わる=相手が理解する、腑に落ちる、納得する
これは「相手ベース」ですね。

自分ベースで考えている人は、伝えたいことが伝わらなかった場合、相手のせいにすることも。よく「あの人には何回も言ったのに」「あの人が悪い」と嘆いている人がいませんか。そういう人は残念ながら「伝え方」が下手な人です。
一方で、相手ベースで考えている人は、伝わらなかった場合、表現を変えたりほかの方法を試したりと、伝わるための動きをとります。
相手ベースで考える。これ、赤線箇所です。

伝わる構造4階 見える化

「伝わる」とは「納得感を得ること」だと説明しました。納得感を得るためには、相手の頭の中に「見える化」させることが大切です。

以前こんなことがありました。
我が家の近くには畑が多く、その一角や自宅前で収穫した野菜の直売所がいくつもあります。散歩のときに通りかかったので、のぞいてみると「大和芋」と書かれた芋が売られていました。
「これって山芋なのかな?」「どんな味なんだろうね?」と一緒に散歩していた妻に聞いてみたのですが、彼女もよく知らないと言います。

すると、農家の方がやってきて、こう説明してくれました。
「大和芋は山芋の一種で、この大和芋は粘りがすごくて、まるで自然薯(じねんじょ)みたいだよ。すりおろしてのりで巻いてもおいしいよ」
これを聞いた僕の妻も、頭の中に自分たちが大和芋をおいしく食べているシーンが思い浮かびました。もちろん買って帰り、その日の夕食でおいしくいただきました。

この話、伝わる構造と技術が隠されています。

●相手は大和芋のことをよく知らないようだ
●相手が知っていそうなものにたとえて説明したらわかるんじゃないか(自然薯にたとえる)→伝わる技術
●食べ方も紹介して「食べてみたい」というイメージを作ってもらう(「のりで巻いたらおいしい」というイメージしやすいものを紹介)→見える化

僕の頭にも妻の頭にも、大和芋が食卓に並ぶイメージが想像できました。これが見える化です。
逆に頭の中にイメージが浮かばないと、それは伝わっていない可能性が高いといえます。

話がわかりやすいといわれている人は、実は「見える化の達人」です。
「うまい落語は景色が見える」ということを落語好きの人に教えてもらったことがありますが、話がわかりやすい人も景色が見えるように伝えることができるのだと思います。

テレビに出ているグルメレポーターを思い浮かべてみてください。
上手なレポーターと下手なレポーターの差はどこにあるでしょうか?

「このカレー、めっちゃおいしい!」
これだけだとカレーの魅力がわかりません。このカレーのおいしさのポイントはどこにあるのか、ほかのカレーとどう違うのか、見ているほうはカレーのおいしさがイメージしにくいですよね。

一方で上手なレポーターはそのあたりが違います。カレーのおいしさを「見える化」させています。

ポイントは、次の五感を意識しながら伝えているところでしょうか。

●視覚・・・・・見た目。形、ボリューム、色など
●味覚・・・・・おいしさ。うまみやコク、甘味、塩分、苦味、酸味など
●嗅覚・・・・・匂い。香ばしい、甘いなど
●聴覚・・・・・音。肉が焼ける音、鍋がグツグツいう音など
●触覚・・・・・舌触り。とろける、噛み応えがある、サクサクした触感など

こういった要素を感情と併せて伝えてくれます。すると「カレーの景色」が見えてきます。頭の中に「見える化」させるというのは、そういうことです。

伝わる構造5階 聞く力

知り合いですごい営業成績を残している人がいます。
彼にどうしてそんなにうまくいくのかを聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。

「営業の仕事は『自分たちの商品を売る』のではなく、『相手に必要な商品を紹介する』ことなんだよね。だから僕は、商品を売り込むことはしない。相手の話をとにかくよく聞いて、相手にとって自分たちの商品のどこに必要性があるのかを見つけ出すようにしている。必要性が見つかればそこをお客さんに伝えるし、もし見つけられないときは、正直にそのことを伝えるようにしてる」

なるほどと思いました。
確かに、相手から売り込まれるのって嫌ですよね。
たとえばフラッと洋服を見にお店に入って、店員さんからあれこれ勧められるとちょっとうんざりします。
一方で、ときどき「この人すごい!」と思う人もいます。
以前、アパレルの店員さんに「そのかばん、今日着ている洋服とすごく合ってますね。どこのですか?」と聞かれたときは、思わずそのまま話し込んでしまいました。店員さんから洋服をいっさい勧められなかったにもかかわらず、僕は服を買っていました。
店員さんが「聞いてくれた」ことで僕の中に「返報性の原理」と「親近感」が生まれたからだと思います。

「返報性の原理」は、恩を受けたら返したくなるという「お返しの法則」です。恩を受けるだけだとなんだか気持ち悪い。なので恩を返したくなるわけです。
ビジネス書でよく「テイクより先にギブをしろ!」と書かれていますが、これは返報性の原理です。
そもそもお店の店員さんにそんなに「恩を受けた」わけではないんですが、「こんな自分に関心を持ってくれて、話を聞いてくれてありがとう」という感情がわき出たわけです。たったこれだけのことですが、洋服を買いたくなりました。

伝わる構造6階 親近感

「親近感」も、「伝わるか伝わらないか」を左右する重要な要素です。
「親近感」は、正反対の「嫌悪感」を考えるとイメージしやすいです。

(嫌かもしれませんが)嫌いな人を想像してみてください。
嫌いな人が話した内容は、素直に入ってこないものです。間違ったことを言っていなかったとしても、どこかにほころびを見つけてそこを突きたくなるし、言われた内容を認めたくない感情も働きます。
一方で、「親近感」があると、体と脳は「相手を受け入れるモード」になり、少しくらい変だと思っても、思わず「イエス!」と言ってしまいませんか?
そのくらい、親近感は判断を左右します。

そんな親近感には、「わかせ方」があります。

【親近感をわかすコツ】
コツ1 共通点を見つける
コツ2 相手に興味を示す
コツ3 自分のダメをさらけだす
コツ4 笑顔

伝え方というと、「どう話すか」「どう伝えるか」というアウトプットに意識がいきがちですが、聞く力や親近感も「伝わる」の大切な要素です。

思い出してください。
「楽しい!」と思うときって、自分がよくしゃべって、相手がよく聞いてくれたときじゃないですか?
そうなんです。まず相手の話を聞いて距離を縮め、親近感を生むことで、相手はあなたの言うことを聞いてみようと思うようになるわけです。

伝わる構造7階 信頼感

ある有名な経営者がこんなことを言いました。
「たくさんの失敗が、成功を引き寄せます」
これを聞いてどう思いますか? 含蓄があり学びになる言葉だと思いませんか。思わずメモしてしまいそうです。

一方で、あなたの周りにいる、いつも失敗ばかりしている人がこう言ったらどうでしょうか?
「いま僕がしているたくさんの失敗は、将来、成功を引き寄せるはずです」
いつも失敗している人の言葉を聞いて「この人、なに言ってんだ!」と思いませんか?

でも、2人の言葉を文字に起こして比較してみると・・・・・。
「たくさんの失敗が、成功を引き寄せます」
「いま僕がしているたくさんの失敗は、将来、成功を引き寄せます」
ほぼ同じ内容です。
違いは2人に対する「信頼感」です。

「伝わる」で大切なことのひとつが「信頼感」です。

では、どうやって信頼感を獲得すればいいのか。そんなときは「信頼感の構造」を考えます。「信頼感」はどんな構造でできているのでしょうか。

僕が考える構造はこの7つです。

(自分側)①「誠実さ・素直さ」②「スキル・能力」③「結果・成果」④「接触頻度」⑤「モラル」
(相手側)⑥「関心」⑦「意義・価値・動機」

あくまでも僕の考えなので、人によって構成する要素は変わると思いますが、僕はこの7つの要素が信頼感を作るものだと考えています。
あとは一つひとつの要素を自分で意識しながら行動していけば、信頼感が生まれるはずです。
すべての要素がないといけないわけではなく、抜けているものがあっても他の要素が強ければ信頼感が生まれることはあります。あとは相手との関係性です。
「この人が言うなら信頼できる」となれば、伝わる可能性はそれだけで大きく上がります。

たまごが先かニワトリが先かの話にはなりますが、「信頼感を生むための伝え方」についてもここで触れておきます。

信頼感を構成する7つの要素は、どれも伝えることで高まるものでもあります。

①「誠実さ・素直さ」は相手に対し、丁寧に、しっかりと対応し、それを伝えていく。相手の話をちゃんと聞くことで届けます。
②「スキル・能力」③「結果・成果」⑦「意義・価値・動機」は、成果や価値をちゃんと伝えないと気づいてもらえない可能性があるので、しっかりと伝わる方法で伝えていきます。
④「接触頻度」は、伝える頻度を上げること。これで信頼感が生まれる可能性があります。
⑤「モラル」については、折りに触れ自分の考えを伝えることで信頼感につながっていくはずです。
⑥「関心」は、相手に対して「あなたに関心があります」ということをしっかりと伝えていくことで、相手もあなたへの関心を高める可能性があります。

『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第2章 より 柿内尚文:著 かんき出版:刊

「話が伝わる」という抽象的な現象も、分解して構造化して考えることで、その仕組みがよくわかります。

「伝わる構造」のうち、どの階がつぶれてしまっても、伝わるビルディングは崩壊する。
つまり、伝えたい内容が相手に伝わらない、ということ。

7階建ての構造を理解し、それぞれの階をしっかり構築すること。
自分の話し方を振り返ってみて、どの階が弱いのかを見つけて、強化するようにしたいですね。

伝え方の「フリ」と「オチ」の作り方

フリとオチは、お笑いの世界でよく聞く言葉です。
フリは、相手に「この先はきっとこうなるんじゃないか」というイメージをさせることです。

伝え方でも、フリとオチは重要になります。
ただ、伝え方における「フリとオチ」は、お笑いのそれとは少し違います。

柿内さんは、伝え方のフリとオチは「振れ幅を大きくして、より価値を見える化する」ための手法だと述べています。

 この「フリとオチ」をうまく活用して大ヒットしたのが『ビリギャル』こと『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』です。
「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げた」というフリがあるから「慶応大学に現役合格」というオチが生きてきます。これが「高校時代ずっと成績上位だった優等生が慶応大学に現役合格した話」だと驚きは生まれません。
「フリ」と「オチ」の間に意外性、驚き、新奇性、憧れがあると、人の関心や興味が生まれます。
絶対値、振り幅を大きくするというイメージです。

たとえば、ダイエット商品でこんな広告がよくあります。
体重80kgの人がこの商品を使ってダイエットに挑戦し、見事20kg減!
いわゆる「ビフォー・アフター」といわれるものです。これもフリとオチの一種。アフターしかないと、何がすごいかよくわからない。ビフォーがあることでアフターのすごさが伝わってきます。絶対値が大きくなったわけです。

実は、この章のタイトルもフリとオチを使っていることに気づきましたか?
この章のタイトルは「伝える技術 伝わる技術」です。
「伝わる技術」だけだと、読んだ人は「そりゃそうだよね、伝わる技術は大切だよね」くらいの印象しか残らないかもしれません。

でも、「伝える技術」に取り消し線を入れるとフリがあるとどうでしょうか。「あれ、自分には『伝わる技術』があると思っていたけれど、本当はただ『伝えている』だけなのかもしれない」そんなことが浮かんでくるかもしれません。
フリを入れることで、オチとしての章タイトルが「自分ゴト」になったり、魅力が増したりすることを考えて、このタイトルにしました。
(ネタ明かしをするのは、ちょっと恥ずかしいですね・・・・・)

では、具体的に「フリとオチ」はどうやって作ればいいのでしょうか。
おすすめは「引き算」で作る方法と「足し算」で作る方法です。
引き算で作るとは、『ビリギャル』や「ダイエットのビフォー・アフター」のケースがそれにあたります。現状(アフター)に対して「大きなギャップがあるビフォー」をフリにします。
また、この章のタイトルのようにバツ(取り消し線)をフリに入れることで、マル(◯)のオチの価値を強めるという方法も引き算で作る方法のひとつです。

一方で、足し算で作るフリとオチは、こんな感じです。
「おいしい鰻」の例で説明します。

【フリがない状態】
「鹿児島産のおいしい鰻」

鰻の魅力を高めるために「フリ」を入れていきます。

【フリ①】
「炭火で焼いた鹿児島産のおいしい鰻」

→「炭火で焼いた」がフリになります。

さらに
【フリ②】
「創業以来継ぎ足してきた秘伝のたれを使い、炭火職人が作った備長炭で焼いた鹿児島産のおいしい鰻」

→「創業以来50年継ぎ足してきた」「秘伝のたれ」「炭火職人が作った」「備長炭で焼いた」とフリの言葉が4つ入りました。
どうでしょうか? こんな鰻、食べてみたくないですか。魅力がどんどん高まりますよね。
フリを入れることでオチ(結論)の価値が高まる。これが足し算のフリとオチです。

日常会話だと、たとえばこんなふうに使えます。
「このスニーカー、すごく欲しかったモデルなんです。お店に買いに行ったらどこも売り切れで、実は10軒以上まわってやっと手に入れたんです。すごい人気なんですよ

破線部がすべてフリですね。
「このスニーカー、すごく欲しかったモデルなんです」とだけ言われるよりも、フリが入ることで、スニーカーの魅力がより高まって伝わります。
仕事でもこんな使い方ができます。
「資料を提出します。実はかなり苦労しまして、試行錯誤しながら10時間かけて作りました

どうでしょうか。
ただ「資料を提出します」だけだと伝わらない、一生懸命さが伝わります。
受け取った相手も「10時間」と聞くと、その資料をパパッと見るのではなく、丁寧に読んでみようという気持ちがわくんじゃないでしょうか。

フリとオチを使うことは、プロセスを見せることにもつながります。10軒以上まわってまで欲しかったスニーカー、試行錯誤の末に10時間かかって完成した資料、プロセスが見えることで、オチの価値が高まるわけです。

『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第3章 より 柿内尚文:著 かんき出版:刊

料理でも、素材に一手間加えることで、格段に美味しくなることがよくあります。
会話における「フリとオチ」は、そのようなものだといえます。

せっかくの話題(ネタ)を、より美味しく味わってもらう。
そのためにも「フリとオチ」を組み入れた話し方をマスターしたいですね。

「伝わる文脈」を作る!

同じ言葉なのに、伝えたい意味がまったく逆になった。
そんなことが起こるのは、「文脈」の取り違えることから起こります。

文脈とは、前後の関係、背景などから導き出される流れのようなものです。

文脈を読むのが苦手な人がよくやりがちなのが「単語ひろい」です。
これは、言葉の中の「単語」に反応してしまい、文脈を決定する流れや接続詞、助詞をスルーしてしまうことです。

柿内さんは、そういう人には特に「わかりやすく文脈を伝える」ことが大切だと述べています。

 では「わかりやすく伝わる文脈」はどうやって作ればいいのでしょうか。
文脈では、次の3つの要素を考える必要があります。

1 目的、ゴール
2 前文脈
3 後文脈

たとえば、親が子どもに注意するとき。文脈がうまく伝わらないと子どもはただ怒られているという印象を持ってしまいます。

「横断歩道はちゃんと左右を見て、車が来ないことをしっかり確認してからじゃないと渡ったらダメよ。ほかの人が渡ってても安全なわけじゃないだから」

こんなふうに伝えると、もしかすると渡り方について怒られているように感じる子どももいるかもしれません。
そんなときは、文脈をしっかり作って伝えます。

①車にひかれるのは嫌だよね? ②最近、この道で事故があって車にひかれた人がいるんだよ。横断歩道を渡っているときに、車の運転手さんがよそ見をしていてあなたに気がつかないこともあるから、渡るときは、右と左をキョロキョロ見て、車がいないことを確認してから渡ってね。ほかの人が渡ってるからって安全なわけじゃないんだからね。③もしあなたが車にひかれたら、ママは悲しくてしょうがないからね。約束ね

このくらいの文脈があれば、怒っているのではなく、お母さんが心配していることが伝わるんじゃないでしょうか。なかなかここまで具体的に言うのは大変ですが、大切なことを伝えるときには必要なことだと思います。
この伝え方を分解すると、
① 目的、ゴール
親のゴールは子どもが事故にあわないように注意をして横断歩道を渡れるようになること。そのことを子どもに実感してもらうように伝えること。
・車にひかれるのは。嫌だよね?

②前文脈
・最近、この道路で事故があって車にひかれた人がいるんだよ。
・横断歩道を渡っているときに、車の運転手さんがよそ見をしていてあなたに気がつかないこともあるから、

③後文脈
・もしあなたが車にひかれたら、ママは悲しくてしょうがないからね。約束ね。

こうすることで、子どもはお母さんの思いもわかりつつ、注意喚起をされたと受け取るはずです。

以前、仕事で知り合いになったAさんが僕を食事に誘ってくれました。
Aさんがお店をセッティングしてくれることになったのですが、お店を決めるときに僕にこんな質問をしてきました。
「柿内さんは会食がよくありますか? ちなみに、僕との会食の前日や前々日もしくは翌日や2日後に会食の予定があるのであれば、そこで何を食べる予定か教えてもらえないですか?」
「文脈」とはちょっと違いますが、こういう流れを考えた気遣いもあるんですね。

ちなみに、文脈はなにも言葉だけではありません。
不機嫌な顔をしたら、不機嫌なトーンが伝わります。やさしく話せば、やさしいトーンが伝わります。どんな表情で伝えるか、どんな声で伝えるか、これも文脈のひとつです。

文脈があって、言葉は意味を持ちます。なので、文脈を飛ばすと言葉の意味が伝わらなくなります。先ほどの「バカ」の例のように、ただ「バカ」だけでは伝わらないのです。

以前こんなことがありました。
「帽子どこだっけ?」
僕が何の説明もなく妻に突然こう話しかけました。
「どの帽子のことを言ってるの?」
妻からしたらどの帽子のことを言っているのかさっぱりわからないわけです。
僕は「黒のキャップ」をイメージしていたのですが、つい「帽子どこ?」と聞いてしまいました。これは前文脈を抜かしてしまったケースです。こういうことは家庭だけでなく、職場でもよくある話じゃないでしょうか。

文脈や前提がわからないと、相手の頭の中は「?」状態です。
話す側は自分がわかっているし、相手もわかって当たり前と思っているかもしれませんが、文脈がわからないまま相手の言うことが理解できたらそれはもうエスパーです。
面倒でも文脈がわかるように丁寧に話したほうが合理的です。いきなり本題は避けたいところです。

本を読むときに一語ずつ読み込まないでも全体の意味がわかるのは、文脈がわかっているからです。文脈を理解しておけば「ざっくり読む」ことができます。
伝え方でも同じです。「ざっくりでも理解してもらう」ためには文脈を伝えることが必要です。

『バナナの魅力を100文字で伝えてください』 第3章 より 柿内尚文:著 かんき出版:刊

「そんなことまで言わなくてもわかるだろう」

そんな考えがコミュニケーションがうまくいかなくなる大きな原因です。

念には念を入れて、ちょっとしつこいくらいに文脈を伝えること。
それが「伝わる」達人になる秘訣ですね。

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本書のタイトルについて、なぜ「100文字」なのか。

柿内さんは、その理由を100文字はイメージしやすい数字であり、記憶にも残りやすい分量だからだとおっしゃっています。

タイトルにまで「伝わる」ノウハウが込められている一冊。
中身の方も、充実の内容です。

どこを切っても同じ金太郎飴のように、コミュ力を高める情報満載です。

相手に話が伝えるのが下手。
自分の言うことが相手にうまく伝わらない。

そんな悩みを抱えている人は、ぜひ、一度手に取ってみてください。

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