【書評】『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司)

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 お薦めの本の紹介です。
 梅田悟司さんの『「言葉にできる」は武器になる。』です。

 梅田悟司(うめだ・さとし)さんは、コピーライター・コンセプターです。

「内なる言葉」を育てることが「言葉にできる力」を磨く


「伝わる言葉」「共感される言葉」を生み出す。

 梅田さんは、そのためには自分の意見を育てるプロセスこそが重要であり、その役割をも言葉が担っていると指摘します。

 自身の経験を思い出してもらえば分かりやすいが、人は多くの場合、言語は違えども、言葉で疑問を持ち、言葉で考え、言葉で納得できる答えを導き出そうとしている。言い換えるならば、自分という存在や自分の考え、価値観と向き合い、深く思考していく役割も、言葉が担っているのだ。もしかしたら今も「そうか」「確かに」など、頭の中で表に出ない言葉を発していたのではないだろうか。
 発言や文章といった「外に向かう言葉」を磨いていくためには、自分の考えを広げたり奥行きを持たせるための「内なる言葉」の存在を意識することが絶対不可欠である。
 その理由は、至ってシンプルである。

「言葉は思考の上澄みに過ぎない」

 考えていないことは口にできないし、不意を突かれて発言をする時、つい本音が出てしまう。そのため、思考を磨かなければ言葉の成長は難しいとも言える。
 ここで、私が抱いているのは、世の中の風潮として、コミュニケーション・ツールとしての「外に向かう言葉」の比重が高まり過ぎている、という危惧である。
 書店には、伝え方を高めたり、雑談を続けるためのスキルを語る書籍が並び、セミナーや講演も同様のテーマで溢れている。日々の会話力や雑談力を高めたい人にとっては、喉から手が出るほど欲しい情報なのだろう。
 その一方で、これらのスキルを得た人は、一体どれだけ実行できるようになったのだろうか。「理解はできたが、実践できない」というジレンマを感じている方も多いのではなかろうか。もしくは実践しているものの、言葉と頭の中で考えていることが一致しておらず、違和感を覚えている人もいるかもしれない。
 本書を手にしている読者の中にも、同様の体験をしている方が少なからずいると思う。しかし、こうした現象が起きるのは、理解不足でも対人能力が低いからでもない。
 ここまでお読みになっている方であれば、もうお分かりの通りである。

「思考の深化なくして、言葉だけを成長させることはできない」

 本書では、理系一辺倒で、さほど読書経験もない私が、いかにして思考を深め、1人でも多くの人の心に響く言葉を生み出そうとしているのかを、誰もが同じプロセスをたどれるように順を追って説明していきたい。
 短期的かつ急激に言葉を磨くことはできないが「内なる言葉で思考を深め、外に向かう言葉に変換する」といった流れを体得することで、一生モノの「言葉にできる力」を手にすることができるようになることを、ここに約束する。

『「言葉にできる」は武器になる。』 はじめに より 梅田悟司:著 日本経済新聞出版社:刊

 言葉は思考の上澄みに過ぎない。
「外に向かう言葉」を磨くには、「内なる言葉」を意識し、成長させる必要があります。

 本書は、「言葉にできる力」を高めるノウハウを、順を追ってわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「人を動かす」から「人が動く」へ


 自分の発した言葉が、相手の心を揺さぶるかどうか。
 それを決定づけるのは、「言葉づかい」や「言葉の巧みさ」ではありません。

 梅田さんは、重要なのは、言葉が重い、言葉が軽いといった尺度であると述べています。

 言葉に重みが生まれる、最大の理由。
 それは、言葉を発信する側の人間が、自身の体験から本心で語っていたり、心から伝えたいと思うことによる「必死さ」「切実さ」に因るところが大きい。その結果、どんなに平易な言葉であっても、意図が十分に伝わることで、人の心を惹きつけて離さなくなる。
 つまり、思いが言葉の重みを生むのである。
 その人自身の経験や体験、それによって培われた思考といった人間の源泉から湧き出る言葉にのみ込められる真実味や確からしさこそが、人の心に響くかどうかを決しているのだ。
 その一方、どんなにコミュニケーションを円滑にする訓練を積んだところで、発する言葉が上辺だけのものであったり、どこかで聞いたことの受け売りであったならば、どんなに素晴らしいことを話していたとしても、聞き手は言葉の端々から軽さや浅さを感じ取ってしまう。
 言葉の巧さと重さを軸にすると、次のページのようにコミュニケーションのタイプを分類できる(下の図1を参照)。自分が今どこに位置しているのか、どの位置を目指したいのかを考えてみていただきたい。
(中略)
 私は広告会社のコピーライターとして、10年間、主に言葉を専門に業務を行っている。テレビCMや新聞広告、WEB広告などを組み合わせた広告で、製品やサービスの知名度を高め、購入してもらうことが我々の責務であり、その目的を達成するために、メッセージを開発している。
 そこで求められるのは「人を動かす」広告づくりである。
 しかし、ここで敢えて断言しておきたいのが、「人を動かすことはできない」ということである。
 より正確に表現するならば、「人が動きたくなる」ようにしたり、「自ら進んで動いてしまう」空気をつくることしかできないのだ。
「人を動かす」ことと「人が動く」ことは、同じように感じられるが、似て非なるものである。前者の「人を動かす」は自分の意図するように仕向けるといった強制的かつ受動的な意味合いが強いが、後者の「人が動く」は自らの意志で動きだすといった自主的かつ能動的な行動を促すものになっている。
『星の王子様』で有名なアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは以下のような言葉を用いることで、「人を動かす」と「人が動きたくなる」の違いを述べている。

 船を造りたいのなら、男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに、広大で無限な海の存在を説けばいい。

 製品のセールスポイントを声高らかに語ったり、耳ざわりのいい言葉で語りかければ、製品の魅力を伝えることはできるかもしれないが、実際に製品を購入してもらうことは非常に難しい。なぜなら最終的に自ら「欲しい」「自分の生活に必要だ」と思われなければ、購入するといった行動に移すことはないからである。

 これは、広告だけに当てはまることではない。家族や恋人を巻き込んだり、仲間を鼓舞する際にも同じことが言える。

『「言葉にできる」は武器になる。』 1「内なる言葉」と向き合う より 梅田悟司:著 日本経済新聞出版社:刊

図1 コミュニケーションのタイプ 1章P47
図1.コミュニケーションのタイプ。
(『「言葉にできる」は武器になる。』 1「内なる言葉」と向き合う より抜粋)

 梅田さんは、言葉において大切なのは、人を動かす力ではなく、人が動きたいと思わせる力だと述べています。

「自ら進んで動いてしまう」空気を創り出す。
 それには、言葉を発信する側の「必死さ」「切実さ」が必要です。

 上っ面だけの軽い言葉では、聞き手の感情を揺さぶることはできません。
 自分の内面を深くにある「内なる言葉」を掘り出すしか、道はないということですね。

「T字型思考法」で考え進める〈連想と深化〉


 自分の考えていることを、外に向かう言葉として磨く。
 そのためには、タネとなる「内なる言葉」を把握して、広げていくプロセスが必要です。

 このプロセスは内なる言葉の解像度を上げる行為と理解できます。
 梅田さんは、内なる言葉の幅と奥行きを広げていくことこそが、内なる言葉の解像度を上げ、外に向かう言葉に力を与えることに寄与すると指摘します。

「内なる言葉」の解像度を上げる具体的な方法として挙げられているが、「T字型思考法」です。

 この状況を図解してみると、①で得られた言葉を中心に「T」の形になるように思考が進んでいくため、「T字型思考法」と名付けている(下の図2を参照)。
 では、それぞれの効果について説明を続けたい。

1.「なぜ?」:考えを掘り下げる
 なぜそのように考えるのか、内なる言葉が浮かんだのかを自分自身に問いかけることで、思考を深めていく。自分の根本や、思考の源泉、そもそも持っている価値観に迫っていく。
 物事を考える際、表面的な内容を考えてしまいがちなのだが、「なぜ?」を繰り返すことで、より抽象度が高く本質的な課題について考えることができるようになる。
 ①で書き出した内なる言葉を掘り下げていくことになるため、下へ下へと考えを深化させていくイメージを持つと理解しやすい。

2.「それで?」:考えを進める
「それで?」の後には「それで結局何が言いたいの?」「それで結局何がしたいの?」「それで、結局どんな効果があるの?」といった言葉が隠れている。
 そのため、今考えていることが実現されることで、どんな結果を生むのか、どんな効果を得られるのか、果たして意味があるのかを考えることで、思考を前へと押し進めていくことが可能になる。
 1つのことを長い時間考えていると、本来の目的を忘れてしまい、「考えるために考える」というループに陥りやすい。
 そこで、「それで?」と自分に問うことで、本来の目的を思い出し、正しい方向に考えを進めることができるようになる。

3.「本当に?」:考えを戻す
 自分が考えていることに対して疑問を持つことは、「建前だけで考えていないか?」「それは自分の本音なのか?」「本当に意味があるのか?」について考える布石になるため、一旦冷静になり、考えを戻す効果を持っている。その結果、今まで考えが及んでいなかった違う方向について考える余地を生み出すことができるようになる。
 考えるという行為をしていると、知らず知らずのうちに、1つの物事を突き詰めることで近視眼的になってしまう。そのため、ある程度考えが進んだところで「本当に?」と自問自答すると、より広い視野で物事を捉え直すきっかけになる。
 あまり考えが進んでいないときに「本当に?」を繰り返してしまうと、せっかく浮かんできた内なる言葉を潰してしまう可能性があるので、注意が必要だ。考えが行き詰まってしまったり、思考が止まってしまった時に試してみるとよいだろう。

『「言葉にできる」は武器になる。』 2正しく考えを深める「思考プロセス」 より 梅田悟司:著 日本経済新聞出版社:刊

図2 連想と深化を促す T字型思考法 2章P94
図2.連想と深化を促す「T字型思考法」
(『「言葉にできる」は武器になる。』 2正しく考えを深める「思考プロセス」 より抜粋)

 まず、テーマとなる「内なる言葉」を一つ選び出す。
 それを、より具体的に、くっきりと浮かび上がらせる方法が「T字型思考法」です。

 ただ下に掘るのではなく、考えを進めたり戻したりしながらより立体的に掘り進めていく。
 それが「内なる言葉」を成長させるポイントです。

「強い言葉」はギャップから生まれる


「内なる言葉」として捉えた思いを、「外に向かう言葉」として出し切る。
 そのために役立つテクニックのひとつが「対句」です。

 対句は、ギャップを生み出すことで、言葉を強化する表現方法のことです。

 梅田さんは、2つの異なる意味の文章や言葉を並べることによって対比をつくり、言葉としての強さを演出することが可能になると述べています。

 ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、
 人類にとっては偉大な一歩だ。         ニール・アームストロング


 この言葉は、アメリカ人宇宙飛行士であるアームストロング船長が月面に降り立った瞬間に発した言葉である。「ひとりの人間」と「人類」、「小さな一歩」と「偉大な一歩」を対比することによって、壮大さを表現することに成功している。
 このように対比を用いて文章にギャップをつくる際には、マイナスとプラス、ネガティブとポジティブを並べることが多い。あえてネガティブな内容を前半に持ちだすことによって、後半にあるポジティブな内容を際立たせているのだ。
 後半の前向きな文章だけを伝えたとしても、意味は十分通じる。月面着陸に成功した時「人類にとって偉大な一歩だ」言っても、意図を十分に伝えることはできる。
 しかし、前半に踏切台のように「凹み」をつけることによって、後半の本当に伝えたいことが一気に光り輝くようになるのだ。
(中略)
 対句はネガティブとポジティブを並べると説明したが、その両者の関係によって、言葉の深みが変わってくる。なかでも効果を発揮するのが、常識や現状をネガティブなものとして捉え、未来を鮮明なポジティブとして描く方法である。
 実際、現状に対して「このままじゃダメだ」「自分は変わらないといけない」と漠然とした不満を持っている人は多い。そんな人たちの心を揺さぶる言葉は、世の中で当たり前とされている常識を否定し、未来を描く対句から生まれる。
 例を挙げればきりがないのだが、私が自分の気分を高めるために用いている9つのフレーズを紹介したい。

〈努力・行動〉
努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る。       井上靖
人間は負けたら終わりなのではない。辞めたら終わりなのだ。  リチャード・ニクソン
生きるとは呼吸することではない。行動することだ。      ルソー

〈価値観・才能〉
大きな目標があるのに、小さなことにこだわるのは愚かです。  ヘレン・ケラー
恐れは逃げると倍になるが、立ち向かえば半分になる。     W・チャーチル
天分は持って生まれるもの。才能は引き出すもの。       ココ・シャネル

〈生活・仲間〉
楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ。       ウィリアム・ジェームス
多数の友を持つ者は、一人の友も持たない。          アリストテレス
人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である。   チャールズ・チャップリン


ここで挙げたフレーズは、時代や国を超えて、多くの人々の心に響き、動きたくなる空気をつくり続けている。そして注目したいのは、それぞれ用いている言葉や伝えようとしている内容は違えども、すべて対句によって成立していることである。
 人の心を掴んで放さないのは、現在や過去を否定し、未来を肯定する物言いである。


『「言葉にできる」は武器になる。』 3プロが行う「言葉にするプロセス」 より 梅田悟司:著 日本経済新聞出版社:刊

 梅田さんは、重要なのは、対句によって強化された言葉に見合うだけの思いだと述べています。

 言葉は、「思い」を伝える手段にすぎない。
 それを理解したうえで、対句を「内なる言葉」を表現する道具として利用したいですね。

「◯◯って、△△だ。」で、新しい名前を付ける


 人は言葉で考え、言葉で発信し、言葉で理解し合います。
 その言葉が変化していくことは、概念や価値観の変化をもたらし、世の中をより自由なものにする可能性すらあります。

 梅田さんは、積極的に言葉の概念を刷新することで、言葉に新しい意味をもたせる方法を紹介しています。

 言葉に新しい意味を発明するには簡単な方法がある。それは、新しい名前を付ける、というものである。より具体的に言えば、対象となるモノが本来持っている価値ではない、別の役割を与えるのだ。
 その方法は非常にシンプルで「◯◯って、△△だ。」という構造の中に、2つの言葉を入れるだけである。たったそれだけのことで、新しい意味を発明することができるようになる。中に入れる2つの言葉は、できるだけ真逆の意味を持っている言葉のほうが効果を発揮する。
 実際にいくつかの例を挙げてみよう。

「生徒って、先生だ。」

 本来、先生と生徒の関係は教える教えられるという関係であるものの、先生も生徒から学ぶことがたくさんある。その関係を逆転させることで、新しい名前を付けることができるようになる。
 このように、相対する言葉を「◯◯って、△△だ。」の型に入れることで、新しい名前を付けることができるようになる。そのため、私はこの方法を「命名法」として、今までの常識を打ち破る概念を打ち立てる必要がある時に用いている。
 この構造を理解してしまえば、自分が文章や言葉にしたいことを想定しながら「◯◯って、△△だ。」の箇所を埋めていけばいい。

「大人って、子どもだ。」
 大人にも、子どものようにな好奇心や遊び心がある。

「仕事って、遊びだ。」
 仕事を楽しんでやろうという気持ちを持つことで、遊びのように変わる。

「言葉って、武器だ。」
 コミュニケーションを円滑にするために、言葉は大きな役割を担っている。

「欲張りって、長所だ。」
 欲張りであることを好奇心が旺盛な状態と捉えるならば、よい意味に変わる。

 これらの例を見て分かるとおり、新しい名前を付ける際は、今までのイメージと真逆の名前を与えたほうが効果を得られる。さらにひと手間加えてみると、それだけで1つの文章が完成してしまう。

「生徒って、実は、先生なんだ。」
「大人も、案外、子どもだね。」
「仕事なんて、遊んじゃえ。」
「言葉にできるは武器になる。」
「欲張りは、私の長所です。」


 新しい発見をしたかったり、今までとは違ったものの見方を求められている時には、「◯◯って、△△だ。」という構造を思い出して、ぜひ活用してみていただきたい。そして、新しい文脈が発見できた後は、文章にひと手間を加えて、より心に響く形へと変換すればいいのだ。

『「言葉にできる」は武器になる。』 3プロが行う「言葉にするプロセス」 より 梅田悟司:著 日本経済新聞出版社:刊

 言葉に新しい名前をつける。
 それは、それまでとまったく違うものの見方を獲得するということ。
 未知の世界を開拓する、という感じですね。

「◯◯って、△△だ。」

 “常識”という壁を壊すためにも、ぜひ、使ってみたいテクニックです。

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 梅田さんは、言葉を生み出すために必要なのは、動機であると述べています。

 さまざまな文章術を駆使した文章も、その中に「本当に伝えたい思い」がなければ、とても軽薄なものに感じてしまいます。

 メールやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が全盛の現代社会。
 リテラシー(読み書き能力)を高めることは、社会人として必須といえます。

 まさに、「言葉にできる」は武器になる、ということですね。

「伝えたい思い」と「伝えるための技術」。
 その二つがあれば、可能性は限りなく広がります。

 これからの時代を自分らしく、イキイキと生きる。
 本書は、そのための基礎となるノウハウが、ぎっしり詰まった貴重な一冊です。


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