本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『「静かな人」の戦略書』(ジル・チャン)

お薦めの本の紹介です。
ジル・チャンさんの『「静かな人」の戦略書』です。

「静かな人」の戦略書: 騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法

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ジル・チャン(Jill Chang)さんは、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラムを修了され、現在は、母国台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的にご活躍されています。

控えめで強力な「静かな力」

ある国際機関で20か国以上にまたがるチームのマネージャーを務め、欧米のテレビ番組にたびたび出演し、多国籍企業で講演を数多くしているチャンさん。

そんなチャンさんですが、自身のことをおとなしくて恥ずかしがり屋の女性で、とても無口で、コーヒーを買ったときのおつりがまちがっていても、言い出せないほどだと述べています。

 子どものころから、あっという間に友だちをつくれる外向型の人を、うらやましいと思っていた。
外向型はたやすく信頼を勝ち取り、頭の回転も速く、行動も迅速だ。性格もほがらかで、魅力にあふれている。そして職場でも、ごく自然にリーダーシップを発揮する。
それにひきかえ、私はかなりの内向型で、小さいころからおとなしかった。
新しい環境では、緊張で身体が硬くなってしまう。何をするにも優柔不断で、起こるはずもないことを、いつもくよくよ心配している。
「もしこんなことが起こったらどうしよう」「あんなふうに言ってしまったけど、誤解を招かないだろうか」など、私のひとり反省会は止まらない。
大人になるにつれて、「外向型の人のほうが強い」という価値観が、私のなかで少しずつ育まれていった。子どものころから身近な存在だった『ドラゴンボール』の孫悟空や『ONE PIECE』のルフィなど、漫画の主人公たちも、みんな外向型だった。
外向型人間が世界を救うと決まっているなら、私はいったいここで何をしているんだろう? そんなモヤモヤを抱えながら、私は社会に足を踏み入れた。

だが年齢を重ね、職場経験も豊富になるにつれ、私は少しずつ自分の強みを見つけていった。そして、その強みを生かすために、自分に合った戦略を練り、うまく操(あやつ)れるようになっていった。
「優柔不断」は裏を返せば「思慮深い」ということだし、「心配性」はリスクマネジメントにおいては有用な資質だ。
それに私は、パーティーで必死に名刺を配らなくてもすむ方法や、友だちをつくる方法も見つけた。おとなしくてもリーダーになれる手段も探り出した。
いまでは、声を荒げなくても、自分にとって重要なことを効果的に主張する方法も心得ており、なかなかうまくいっている。

内向型の人は、アイデアや野心をもっていないわけではなく、夢を追うのにいちいち騒がないだけだ。
本書は、私が十数年来、さまざまな職場で培(つち)ってきた知恵と経験をまとめたものだ。
「口数は少なくても、誰もが耳を傾ける」ような、自分の意見をきちんと主張するための実践的な方法をお伝えしたいと思っている。
私は内向型の人に関する各国の優れた本をたくさん読み、深く影響を受けてきたが、その著者の多くは企業家や、心理学者や、企業アドバイザーなどだった。
そうした本と本書との大きなちがいは、インターンから始めた私の経験が詰まっていることだ。
会議のときマネージャーに意見を求められるのを恐れたり、電話をかける前には深呼吸をし、あらかじめ話す内容をメモしておかねば、と思ったりする気持ちが、私にはよくわかる。
内向型であっても、外向型であっても、自分の個性を大切にして、安全地帯(コンフォート・ゾーン)から一歩踏み出すこと。他人に貼られたレッテルのせいで、自分の可能性を狭めてはいけないこと。この本でいちばん伝えたいのは、そういうことだ。

『「静かな人」の戦略書』 日本語版への序文 より ジル・チャン:著 神崎朗子:訳 ダイヤモンド社:刊

本書は、チャンさん自身の体験をもとに、内向型人間の特徴を解説し、その強みを普段の生活に生かすためのノウハウをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「内向型」と「外向型」の違いとは?

チャンさんは、内向型と外向型の特徴のちがいを以下の表にまとめています。

図 内向型と外向型のちがい 静かな人 の戦略書 CHAP4
図.内向型と外向型のちがい
(『「静かな人」の戦略書』 CHPTER 4 より抜粋)

 実際、内向型の特徴は職場でも日常生活でも表れている。いくつか例を紹介しよう。
●始業30分前には仕事を始める、あるいは30分ほど残業するのが好き。そのほうがオフィスが静かで、仕事がはかどるため。
●ブログやSNSでは饒舌(じょうぜつ)で面白いことを書けるのに、リアルでいろんな人との集まりに出ると、にっこ笑って、おとなしく聞き役に徹する。まわりの人が気づかないうちに、さっさと姿を消してしまうことも。
●ひとりのなかに真逆のふたりの人物が存在するかのよう。複雑な事業計画が得意で、明確な戦略を打ち出し、骨組みのしっかりとした文章を書くという定評があるいっぽうで、ミーティング中に突然、名指しで質問をされたりすると、気が動転し、すっかりあわててしまう。
●いざとなれば壇上に立ち、聴衆の前に堂々とスピーチができるのに、大勢の人の前で不意にほめられたりすると、ひと言もしゃべれなくなってしまう。まるでわざと自分の能力を否定(あるいは謙遜、卑下)して、情けない姿をさらしているかのように。
●100ページ近い契約書をチェックする際、どんなにささいなミスでも見つけることができる。
●仕事のあとは、同僚たちとディナーやパーティーに出かけたり、バーで飲んだりするよりも、家でごろんと横になったり、マグカップで紅茶を飲みながら本を読んだりするほうが、くつろいで元気になる。
●近所の講演で子どもを遊ばせるときは、よその親たちと一緒に子育ての話題でおしゃべりするより、公園の端っこで本を読んでいるほうがいい。
●10年以上同じところに住んでいても、近所の知り合いは一人か二人しかいない。知り合いといっても、車寄せなどでたまたま顔を合わせたら、あいさつするという程度の仲。

内向性は生まれつきだという人もいれば、内向性は変えられると固く信じている人もいる。
科学的見地からすれば、唯一の明確な答えはないものの、内向性には先天的な側面と後天的な側面の両方があるというのが通説となっている。言い換えれば、遺伝および環境だ。
アイオワ大学のデブラ・ジョンソンと同僚たちは、内向型と外向型の脳における情報伝達および反応を、陽電子放出断層撮影(PET)スキャンを用いて観察し、米医学誌『アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー』に論文を発表した。
ジョンソンらの研究によって、たとえは「質問に回答する」といった刺激が与えられた場合、内向型の脳は外向型の脳にくらべて、前頭葉および視床への血流が増えていることがわかった。内向型の脳のほうが活性化していたのだ。
さらに内向型の脳では、記憶や問題解決や計画を司る部位においても、血流がより増えていることが明らかになった。
内向型と外向型は生まれつき異なる脳をもっているのだ。

神経伝達物質におけるちがい(感度やドーパミンおよびアセチルコリンの需要)に加えて、脳の神経経路(交感神経系および副交感神経系のどちらが優勢か)や、自己制御を司る神経中枢の機能分析などを行った結果、神経分析学者のマーティン・O・レイニーは、著書『小心者が世界を変える』(ヴィレッジブックス)において、人にはそれぞれ内向的な部分と外交的な部分があると述べている。
どちらかの性格が優勢で、前面に出てくることが多いかだけのちがいなのだ。
後天的影響には、私たちが育つ環境や、社会的期待、教育方法、家庭や職場において求められることなども含まれる。人はこうした要素によって、内向型か外向型のどちらか寄りに「教育」されていくのだ。
ドリス・マーティンは著書『静かな人が勝つ(Leise gewint)』(未邦訳)において、次の世に説明している。「それに関連する生理的および心理的要因は、きわめて複雑に絡み合っている」
もしあなたが35歳の内向型なら、「あなたはそういう性格に生まれついたのだ」、あるいは「35年の人生経験によって、あなたは内向型になったのだ」などと決めつけることは誰にもできない。
確かなのは、遺伝的に内向型の特徴が顕著な人たちが存在するということと、とはいえ内向型の性格を形成しているのは、遺伝的な特徴だけではないということだ。

内向型の顕著な特徴をいくつか挙げてみよう。

●内向型はじっくり考えるため、考え事に時間がかかり、会話のときで黙っている時間が長い(頭のなかでつねに新しい情報や、過去の経験や、感情にまつわる記憶を甦らせているせいだろう)。もの柔らかな口調で話す。
●内向型は自分が話しているときは視線をそらす(もっとも適切な言葉や表現方法を探しているため)が、相手の話を聞くときは、目を合わせる回数が増える(情報を取り込むため)。
●なんでもきちんと準備をしないと気がすまない。
●細かい部分を大切にし、よく注意を払う。
●記憶力に優れているが、思い出すのに時間がかかる。
●話すよりも書くほうが、自分の言いたいことを明確に表現できる。
●昔のことをくよくよ考えてしまうことがある。
●人の外見に無頓着で、顔をよく覚えていないことが多い。
●友人の数は少ないが、つながりは深く、友情は長続きする。
●仕事などの場での人柄と仲間内での人柄は少しちがう。

以上のような特徴は、内向型が仕事をする上で有利に働く場合もあれば、課題となる場合もある。それについては、のちほどさらに詳しく説明しよう。
ここでひとつ、覚えていただきたいことがある。性格にいては詳細な分類が存在するが、世界的に普及している性格診断テストのMBTIは、人間の性格を16タイプに分類するものだ。
人間の性格はじつに多種多様なのに、たった16タイプに分類できるわけがない。
本書で取り上げる外向型の人たちやその性格も、いくつかの典型にすぎない。MBTIで「内向型はこういうタイプです」と書かれた内容を、一人ひとりの個人にそのまま当てはめることはできないのだ。
「私が〇〇なのは、内向型だから」とか「私は内向型だから××できない」などと、内向型をひと括りにして決めつける発言は、危険なだけでなく、みずからの成長の可能性を著しく狭めてしまうことになる。
なんと言っても、本書の最大の目的は、内向型の人たちが自分自身をよく理解し、仕事で成功するために、自分ならではの方法を見つけるお手伝いをすることなのだ。

『「静かな人」の戦略書』 CHAPTER 4 より ジル・チャン:著 神崎朗子:訳 ダイヤモンド社:刊

「内向型」と「外向型」の違いは、優劣ではなく個性です。
ただ、脳の構造からして異なるので、自分で自由に選べるものでもありません。

自分がどちらの型なのかを知り、その強みをいかに活かすか。
それが何よりも大切だということですね。

内向型の人間関係は「量より質」!

内向型の人が最も苦労するのが「人間関係」でしょう。

チャンさんは、内向型の私たちがやるべきことは、あまり頻繁には話さずとも、自分には能力もあり、面白い人間であるということをまわりの人たちにわかってもらうことだと指摘します。

「友人」という言葉に関する私の定義は、おそらく、ほとんどの人とはやや異なるだろう。以前の私は、一度しか会ったことのない相手を「友人」と呼ぶ人や、ほんの30分前に会ったばかりの相手に対し、「親友」みたいになれなれしく振る舞う人を見て、よく驚いたものだった。
だがやがて、私もだんだん世慣れてくるにつれ、世の中にはいろんな種類の友情があるのだと思うようになった。
私にとって友人とは、互いに気心が知れた間柄で、信頼できる人。一緒にいて、居心地の悪さや不安を感じることがなく、相手の家族とも知り合うほど親しくなる場合もある。どちらかが困ったときは、すぐに相手のもとにかけつけ、全力を尽くして助けようとする。
私のような内向型は、友人のハードルをこんなふうにきわめて高く設定することで、多くの人を除外してしまう。
そういうわけで、私にはあまり多くの友人がない。
万が一、私がいつか落ちぶれて借金をする必要に迫られたら、融資しましょうか、と言ってくる高利貸しの数のほうが、私の本当の友人の数よりも多いのではないだろうか。

ほんの数人しか友人がいなくても、あなたはやっていけるだろうか?
よく言えば「少数精鋭」と言えなくもないが、親しい友人がわずかしかいないということは、味方が少ないということだ。
もっとも友人を増やせば、誰かと一緒に出かけて楽しみたいときでも、面白い仕事や勉強会に一緒に参加したいときでも、相手に困ることはない。
自分にとって十分な数の友人がいて、生活状況や経歴が似通っている友人がある程度いれば、人脈を伸ばすのが、ずっとスムーズで簡単になるだろう。
だがそうは言っても、内向型の人がみんなそれほどラッキーなわけではない。
誰かと出かけたいと思っても、そもそも自分には、一緒にショッピングに行って、グルーポンの割引クーポンを使えるような友だちなんかいないという人もいるだろう。
転職したいと思っても、紹介してくれる人がいなくて、求人サイトで探しまくっているかもしれない。
職場でも差し支えが生じるのは明らかだ。
たとえば上司から、みんなとすぐに仲よくなれない人だと思われたり、引っ込み思案だとか、もっと悪くすれば、冷淡で、非社交的で、チームプレーヤーではないと思われたりする。
たとえ仕事で有能でも、積極的に同僚の手助けをすれば株が上がるとは限らない。
それどころか、同僚と話をする際、無駄話のひとつもせず、要点しか話さないせいで、そっけない人だと思われているかもしれない。
けれども、それにはあなたなりの理由がある。
無駄話や関係のないおしゃべりで時間を無駄にすると消耗してしまうから、要点だけ話したいのだ。
仕事の話に入る前にくたびれてしまうのは避けたい。
私がアメリカで経験したのは過酷な状況だった。過剰なまでに外交的なカルチャーのせいで、日々の仕事が、まるでエクストリームスポーツみたいだった。昼休みでさえ、なかなかひとりになれなかった。
そんな調子だから、一日の仕事が終わったあとは、どこかへ出かける気力すら残ってなかった。誰にもわずらわされないベランダで、ひとりでぼーっとしていたかった。私は手すりにもたれ、そよ風に吹かれていた。心底、疲れ切っていた。

だがうれしいことに、世界は変わりつつあるーーゆっくりとではあるけど。
以前なら、職場の人たちが誰かのことを「〇〇さんて、すごく静かだよね」とうわさ話をするときは、否定的なニュアンスが含まれていた。
たとえば、反応が遅いとか、自分の考えを持っていないとか、まわりの人とコミュニケーションを取るのが好きじゃないのだろうとか。つまり基本的には、「仕事ができない人」という評価だった。
だが現在では、誰かのことを静かな人だと言うとき、そこに込められた意味は、文字どおり「静かである」という意味しかないのだ。

内向型は相手と深くじっくりと付き合うため、こまやかな人間関係によって、思いがけずよいことが起こる場合もある。
たとえば、私の内向型の友人の例を紹介しよう。
彼女は、友人の数こそ多くはないが、数少ない友人たちとは10年以上の親しい付き合いだ。つねに友人たちのことを気にかけ、相手のことを思っている。新婚旅行のときでさえ、友人たちへ心のこもったおみやげを買ってきたくらいだ。
そんな友人関係は彼女の強みで、転職の際も、多くの場合、友人の友人からの紹介などで、チャンスをつかんできたという。
なぜ友人たちは、彼女に自分の人脈をつないであげるのだろう? それは、友人の誰もが彼女の力になりたいと思っているからだ。いまどき信頼ほど価値のあるものはない。

「社会人になったら仲のよい友人をつくるのは難しい」と誰かが言うのを、あなたも聞いたことがあるだろう。
社会人になったばかりのころは、私も実際にそうだろうと思っていた。とにかくみんな忙しいし、家庭をもったら、人付き合いの時間を捻出(ねんしゅつ)するのは、さらに難しくなる。
また、私はこれまでたくさんのカンファレンスを企画してきたが、毎回、開催後には決まって次のようなお礼のメールが届く。
「〇〇博士にもお声がけしてくださって、ありがとうございます。ずっと再会したいと思っていたんです。おかげさまで、思い出話に花を咲かせることができました」
こういうメールを読むと、友人だと思っている相手とさえ、連絡を取り続けるは難しいことがわがる。だったらなおさら、新しい人たちと知り合って、会話を交わしながらゆっくりと友情を育んでいくなんて、大変なことにちがいない。
職場で本物の友人をつくるのは、ほとんど不可能だという人もいる。そういう人は、職場では誰もがライバルで、互いに相手を出し抜いたり、だまそうとしたりすると思っているのだ。そういえば、日本のテレビドラマ「小さな巨人」には、こんなキャッチコピーがついていたーー「敵は味方のフリをする」。
私の友人のなかには、仕事とプライベートをきっちり分けている人たちもいる。
職場の同僚には秘密を明かさず、家族のことや個人的なことも一切話さない。仕事が終わって会社を出たら、職場のことは一切考えない。
オフィスに来るのは仕事をするためで、友人をつくるためではないというわけだ。

たしかに私も、職場がまるで紛争地帯のように思えて、戦場で友人をつくるなんてちょっと非現実的だと感じることもある。
けれども、このことについてはこの数年、私は複雑な思いを抱いているのだ。内向型の友人のひとりで、数学に関する著書のあるアイウェイ・ライも、この問題について、同じような考えをフェイスブックで綴っていた。彼の意見はこうだ。
数学の共同研究の機会を促進するなかで、何人かのよい友人ができた(少なくとも、僕の目から見ればそうだ)。仕事の関係で出会った僕らは、その後も一緒に働く機会があり、何度か顔を合わせるうち、だんだん仕事のあとに、いろいろな話をするようになった。話題の幅も少しずつ広がっていった。
彼らと話すときは、「これを言ったらまずいかな」とか、「あのことは話さないほうがいいか」とか、「時間を取ったら悪いか」とか、そういう余計なことを考えなくてすむ。彼らと話したあとは、リラックスした気分になる。だから、仕事仲間であると同時に、友人だと思う。
難問に取り組みながら一緒に働いていると、相手が何を重要だと思っているかがわかってくる。やがて、同じようなコアバリューを共有していることや、性格が似ているところにも気づく。
見返りを期待した付き合いなんかまっぴらだし、互いに相手の機嫌を取るようなこともない。べつにそういうことを意識していたわけではないが、どちらからともなく暗黙の了解ができあがっていた。
もし僕が問題にぶち当たったら、彼らはどんなことをしてでも助けてくれるだろう。
逆に彼らが大変なときは、僕も我がことのように重荷を背負うつもりだ。
こうしたときおり深い会話を交わすような関係について、莊子は二千年も前に、いみじくもこう言い表している。
「君子の交(まじ)わりは淡きこと水のごとし」(君子の付き合いは水のように淡白なので、その友情は永続きする)
友情をこんなふうにとらえるって理想的だな、と僕は思っている。

この投稿を読んだとき、私の胸に深く響くものがあった。
私はアイウェイ・ライとは昔からの知り合いで、ふたりとも出不精(でぶしょう)なところが似ていて、最近はよく仕事の話をしたりしている。そして私もアイウェイと同じように、ここ何年かでできた友人は、みんな仕事を通して知り合っていたことに気づいた。
職場では、誰もがリソースや機会をめぐって競い合っているため、その人がどんな価値観を重要視しているかがよくわかる。
みんなやるべきことが山ほどあるから、その人が人生の問題にどのように優先順位をつけているのか、その理由も見えやすい。
ともに難問に取り組んでいる仲間なら、逆境に直面したとき、どんな態度を取るかがお互いにわかるだけでなく、力を合わせて困難に立ち向かうため、固い絆と信頼関係を結ぶことができる。
そういうことはいずれも、学生時代にはなかなか難しいし、遊び仲間や合コンの相手などとできることでもない。
アイウェイが、私に言った。
「内向型にとっては、仕事は自分の安全地帯から踏み出すための格好の理由だった、ってわけだ」
私はこう答えた
「そりゃそうだよね。仕事をしてなかったら、私たち、いったいどうやって友だちなんかつくれる?」

『「静かな人」の戦略書』 CHAPTER 8 より ジル・チャン:著 神崎朗子:訳 ダイヤモンド社:刊

友人は、数が多ければいい、頻繁に会う方がいいというわけではありません。

数は少なくても、めったに会わなくても、強い信頼関係で結ばれているなら、長く続く有益な人間関係を築くことができます。

内向型の強みをフルに発揮し、「水」の如き人付き合いを目指したいですね。

「じっくり聞く」という価値の高い能力

チャンさんは、しゃべりがうまいとか、どこへ行っても注目の的だとか、そういう外向型の特長にくらべると、内向型の特長は目立たないものが多いが、いずれも非常に価値があるものだと指摘します。

「傾聴力がある」

一流のヘッドハンターでキャリアコーチのダンダン・ジューによると、優秀な営業担当者には「答えを上手に引き出す力」が必要だという。
そのため一般に、企業は営業職員研修において、顧客を理解したり、先方の内部事情を入手したり、契約や新規顧客の獲得に役立つ手がかりを見つけるために、適切な質問をする方法を教える。
しかし外向型のジューは、「口を閉じろ、と自分に言い聞かせる」ことがしょっちゅうあるという。たとえ適切な質問をしても、肝心の相手の話をちゃんと聞かなければ意味がないからだ。
同じ話を聞いたとしても、その受け取り方が、聞き手によって天と地ほどかけ離れてしまうことがある。
アーロンズ=メーレーは、内向型はどの会社にとっても、秘密兵器になると考えている。相手の話をしっかりと聞くからだ。
内向型は顧客の真のニーズに注意を払う。これは顧客とだらだらと長話をするよりも、はるかに効果的なことが多い。
アーロンズ=メーレーは、大きな契約を勝ち取ったときの経験をこう語っている。
「ミーティングは7回行われた。私は終始、顧客が何を本当に求めているかに注意しながら、じっくりと耳を傾けた」
外向型には、これができないことが多い。だが内向型にとっては、傾聴はいともたやすいことだ。

「深い関係」を築ける

内向型は敏感で、思いやりや共感にあふれているため、相手の感情をさっと理解できる場合が多い。
人は誰でも購買欲をもっているが、物を売りつけられるのは嫌いなことを、内向型は本質的に理解している。
実際、内向型の人たちは、しつこいセールストークで客に物を売りつけるようなまねはほとんどしない。
『静かな人が勝つ』の著者、ドリス・マーティンは、顧客は営業担当者のこうした自制的な態度を見て、かえって相手を信用すると考えている。
さらに、内向型は長期的な深い関係を結ぶのが非常に得意だ。アーロンズ=メーレーはそれを如実に表す例として、つぎのような比喩を用いている。
「ビジネスマンにとって重要なのは、取引が成立したかどうかだ。だが職人は取引のずっと後になっても、顧客が商品を愛用してくれているかどうかを気にかけている。これこそまさに、ビジネスライクな態度と職人気質のちがいである」
世界で初めて大量生産の自動車を発明したヘンリー・フォードは、つぎのように語っている。
「車を1台売って、『はい、終わり』ではなく、そこから関係が始まるのだ」
そのような関係を維持するためにも、プロとしての内向型の職人気質は重要な役割を果たすのだ。

「分析能力」が高い

コラムニストのジェフリー・ジェイムスは、「紹介する、説得する、粘る」という従来の3段階のビジネスモデルとは異なり、効果的なビジネスモデルは、「顧客のことを徹底的にリサーチし、顧客のニーズに耳を傾け、それに応えること」だ、と述べている。
その3つはまさに内向型の得意技だが、外向型の場合はよほど努力しなければ上達しない。
オンラインで情報を収集し、それを読み込んで分析し、相手の話にしっかりと耳を傾けるといった活動は、どれも忍耐力を必要とする。つねに新しいアイデアに心を開きつつ、相手のペースや反応に合わせることで、見事に契約を成立させるのだ。
企業コンサルタントのシルビア・レーケンは、内向型は優れた分析能力によって、商取引における双方の立ち位置や条件を精査することができると考えている。
さらにレーケンによれば、内向型はもともと和を重んじるため、双方のニーズを調和させるべく、交渉の余地を設けるのが得意だという。

ヘッドハンターのダンダン・ジューはこう考えている。

商談が大詰めの段階になったら、最終的な意思決定をするのはひとりか、多くてもふたり。
外向型は、大勢の人たちを相手に魅力を振りまくことは得意だ。だがこういう場面では、彼らの魅力は役に立たない。言い換えれば、これは内向型の領分なのだ。
こういうとき、内向型は必ずしも不利ではない。それどころか、内向型のほうがむしろ有利なのだ。

これを読んで私が思い出すのは、以前、出張でアメリカへ行ったときのことだ。
調達案件の商談で、私が所属していた会社は多額の売上を獲得する可能性があった。それにもとづいてリハーサルを行った。
私は上司らと同席し、彼らの話にじっくりと耳を傾けながら、どうしたらうまく交渉を運べるかを考えていた。
外向型の上司がひとしきり自分の考えをまくし立てると、アメリカ人のパートナーが、急に私のほうに向きなおって言った。
「静かな人がもっとも周到に考えていることは多い。これは私自身、数十年に及ぶ経験から学んだことだ。ここでジルの考えを聞いてみたいね」
どうやら彼は、内向型の仕事相手から、チェックメイトに追い込まれた経験があったようだ。

『「静かな人」の戦略書』 CHAPTER 11 より ジル・チャン:著 神崎朗子:訳 ダイヤモンド社:刊

リーダーシップや交渉ごとなど、コミュニケーションが必要なタスク。
それらは内向型の人たちが苦手なことだとされてきました。

傾聴力、分析力、忍耐力。
それら内向型の強みを活かせば、外向型に負けないパフォーマンスを発揮できるということですね。

努力の9割は「ステージの外」で行う

内向型の人が苦手なことの一つに「スピーチ」があります。

チャンさんは、おしゃべりや雑談にくらべれば、スピーチのほうがはるかにコントロールしやすいとし、長年かけて培ってきた準備方法を紹介します。

 おしゃべりや雑談にくらべれば、スピーチのほうがはるかにコントロールしやすい。
会場やスピーチの内容はあらかじめ決まっていて、入念に準備しておけば資料の内容も把握できている。
壇上での流れもだいたいわかっているし、会話をする必要はないのもわかっている。スピーチの途中でさえぎったりする人もいない。
質疑応答にしても、あらかじめどんな感じで行うかを決め、質問数に制限を設けることもできる。
しかも、壇上に姿を現した瞬間、少なくとも30秒は、聴衆の注目を一身に集められるから、出だしはあせらず、間を取ってから話し始めればいい
「注目を集めたい人なんている? それがいちばん怖いのに!」と思っただろうか。
では、ここでちょっと分析してみよう。
会話のときは、相手の話に耳を傾けつつも、自分の過去の経験から、役立ちそうなことを考えなければならない。その上で、相手の話をさえぎって失礼だと思われないように、どのタイミングで自分の考えを述べればよいかも判断する必要がある。おまけに、知的な印象も与えたい。
そういややこしいことを全部こなして、初めてその場にいる何人かに耳を傾けてもらうことができるのだ。

いっぽう壇上でスピーチをするときは、自分のことだけ考えていればいい。聴衆が講演のテーマをあらかじめ知っている場合もあるだろう。その場合は、ますますメッセージを伝えるのが楽になる。
その前提で考えると、もっとも重要なのは準備を完璧にすることであり、それこそ内向型が得意とするところだ。
私は以前、パブリック・スピーキングのコーチから聞いた、「努力の9割はステージの外で行うもの」という言葉を心から信じている。しっかりと準備しておけば、登壇前に、すでに9割は完璧になっているのだ。

私はかつて、あるロックバンドの筋金入りのファンだった。
オンラインのライブはすべて見逃さず、ライブ以外でも、彼らの曲は何百回となく聞いた。歌詞も暗記していたし、リードヴォーカルの無意識の癖まで知っていた。
コンサートに行ったとき、ヴォーカルはあるときは激しく、あるときは甘美にゆったりと歌い上げていることに気づいた。どちらの歌い方にも、彼の「スピリット」がこもっていた。そのスピリットは、たとえ動画でも観客は感じることができる。
内向型の人がスピーチをするときに、自分なりのスピリットをもてるかどうかは、壇上に立つよりずっと前、スピーチのテーマを準備するときにかかっているのかもしれない。
内向型の人にとって、刺激は内側から沸きおこってくる。その考え方や行動に価値や意義を感じるかどうかといったことだ。
スピーチをする際、自身の哲学にとって非常に重要なテーマである場合や、自分が知っていることをぜひ多くの人に伝えたい場合は、準備段階からモチベーションが高まり、当日も俄然(がぜん)はりきって、熱のこもったスピーチができるだろう。価値を感じることとモチベーションが重要なのだ。

プロの講演者の場合、聴衆からの期待はさらに高くなる。これについては、モチベーション向上研修の講師、ルイス・シェーの言葉を紹介しよう。
たとえいつもどおりのことをやるだけだとしても、少なくとも、全精力を傾けているように見せる必要はある
これは政府関係者や、政治家、歌手、アーティストなどにも当てはまる。
いずれも、大勢の人びとに自分のメッセージを繰り返し伝えるのが務めだ。
歌手は世界中を旅して同じ歌を繰り返し歌い、政治家はみずからの政治理念を語る。
どちらも聴衆の前に登場するたび、そのとき限りのパフォーマンスであるかのように演じなければならない。
ジョー・ディマジオもこう語っている。
「いつだって、君のパフォーマンスを初めて目にする人がいるかもしれないのだ」

以前、私はアメリカで1か月の公演ツアーを経験したことがある。
毎回、聴衆は異なるが、テーマは同じだった。
ツアーの終わりごろには、私はくたくたに疲れ切っていた。主催者はなぜスピーチ映像や録音を使ってくれないのだろう、と思ってしまったほどだ。
私が疲労困憊していることに気づいた同僚たちは、たびたびこう言ってくれた。
「聴衆にはわからないかしれないけど、私たちには、あなたが疲れ切っているのがわかるよ。もう少しがんばって!」
それ以来、私はツアーを行うすべての歌手を心から尊敬するとともに、自分が疲れ切っていることをまわりの人に悟られないようにしなくては、という思いが強くなった。
内向型は人前で話す機会が続くと、どうしてもエネルギーを消耗してしまう。そんな私のエネルギー節約法をご紹介しよう。

壇上に立ったあなたは、スティーブ・ジョブズやバラク・オバマなど、憧れの人物と同じように振る舞っている自分の姿を想像してしまうかもしれない。本人そっくりの舞台効果と魅力を生み出すため、スピーチのスタイルまで真似したりして。
結構なことだが、ひとつだけちょっとした問題があるーーあなたは、ジョブズでもオバマでもないのだ。
元メジャーリーガーのコリン・バレスターは、メジャーデビューを果たした当初、ルーキーのトップ10に入ると言われていた。
だが3年後、意外なことに、彼は思うような活躍ができていなかった。
フィールド外では、彼はとても明るく屈託のない青年で、身体面でもプレーに支障をきたすような問題はなかったにもかかわらず、彼のパフォーマンスは、誰もが予想していたものとは大きくかけ離れてしまっていた。
のちにある心理学者によって、バレスターはほかのトップレベルの選手たちとは、ちがっている部分があることが明らかになった。
彼は明るくおおらかで、いつもゆったりとした笑顔を浮かべていたが、じつは内心では自分と他人のちがいを過度に気にしていた。
彼は自分を律する完璧主義者になりたいと強く願っていたが、完璧さを追求するあまり、自分らしさを見失ってしまい、それがフィールドでのパフォーマンスに影響を及ぼしていたのだ。
バレスターはカウンセリングに通ったのち、ようやく自分らしいスタイルを受け入れることができ、成功している選手たちにも、さまざまな個性やちがいがあるのだと気づいた。これは、同じような状況に陥った多くの選手たちも経験していることだった。
バレスターはついに自分を信じ、ほかのメジャーリーガーたちとはひと味違った魅力を生かすことにしたのだ。

『「静かな人」の戦略書』 CHAPTER 18 より ジル・チャン:著 神崎朗子:訳 ダイヤモンド社:刊

スピーチは、会話と違って、一人で完結することができます。
だから「準備が9割」だといえるのですね。

一つの作品を作り込み、精度を上げていくことは、内向型の得意分野です。
自分の強みを活かせば、相手の心に届く素晴らしいスピーチは誰でもできるということです。

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チャンさんは、自分の強みや才能、かけがえのない価値をアピールして輝くことができれば、子羊のように静かな人でも、誇り高いライオンの群れを率いることができるとおっしゃっています。

実際、内向型の人の中にも、優れたリーダーがたくさんいます。
ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットなど、枚挙にいとまがありません。

「内向型」だから、と引け目を感じたり、何かを諦めてしまう必要はありません。
内向型でも、いや、内向型だからこそ輝ける。
そんなシチュエーションは、いくらでもあります。

すべては、やり方次第です。
本書は、外向型優位の今の社会で、内向型がどう戦って生き延びるべきかを記した、まさに“戦略書”といえる一冊です。

「静かな人」の戦略書: 騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法

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