本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ハラスメントの壁』(吉田幸弘)

お薦めの本の紹介です。
吉田幸弘さんの『一流の人は知っている ハラスメントの壁』です。

吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)さんは、コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・上司向けコーチです。

「ハラスメント」は、今後ますます問題になってくる!

時代が大きく変わり、働き方の慣習やルールも大きく変わっています。

昔は許されていたものが、今は許されない。
その象徴といえるのが「ハラスメント」といえるでしょう。

2020年6月、大企業向けに、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称:労働施策総合推進法)」の改正、いわゆる「パワハラ防止法」が適用されました。
2022年4月には、中小企業にも適用されるとのこと。

また、2019年5月には、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の改正で、セクハラに関しての規制の強化策が新たに盛り込まれ、「セクハラ禁止」が明文化されました。

これらの法律の施行により、ますます「パワハラ」「セクハラ」に対して厳しい時代が到来したといえるでしょう。

 ハラスメントはセクハラ・パワハラだけではありません。テクハラ・コロハラ・エアハラ・スメハラ・リモハラといった新しいハラスメントも出てきています。
いつの間にか自分が「ハラスメントの行為者」になってしまう危険性があるということです。気をつけないといけないことは数限りなくあるということでもあります。これでは、何も部下と接しないほうがいいではないか、何もできないではないかと言いたくなった経営者・管理職の方もいらっしゃるかもしれません。

それでも企業は業績を上げていかなくてはなりません。部下の活動状況がよくないなら厳しいフィードバックも時には必要です。部下によっては、良いフィードバックばかりでは今後の自分の成長につながらないと感じ、改善点があれば指摘してほしいと思っているので、悪いフィードバックをしない上司には不満を抱いてしまうこともあります。

ハラスメントの研修をすると、具体的に言ってはいけない、行動してはいけないハラスメントって何ですか、何を言わなければ大丈夫ですかと管理職の方からよく聞かれます。しかし実のところ、何を言ってはいけないかという答えはないのです。

セクハラ問題に関して、同じことをされても相手によってはセクハラだし、相手によっては嬉しい場合もあると聞きます。パワハラも同様で、同じ言葉を発しても、その相手によって変わるということです。たとえて言うなら、Aさんが「ふざけんなよ」と言って頭をこずいたらハラスメントになるのに、Bさんが同じことをやっても、ハラスメントにならないというケースもあるのです。
これはハラスメントを受けた側の視点なのです。ハラスメントかどうかの境界線は、相手側にあるということです。境界線のポイントは、「信頼できる上司かどうか」ということです。
逆に信頼できる上司であれば、ハラスメントにならないということですから、過敏になってはなりません。腫れ物に接するようなコミュニケーションをとる必要はありません。

大切なのは信頼関係をしっかり構築することです。
本書では、信頼関係をつくるためのコミュニケーション術、考え方を解説していきます。また、ハラスメントのなかには明らかによくないこととわかるものがある以外に、良かれと思ってやっていることがハラスメントになっているものもあります。
特に以前ならば親しみを込めて相手にやっていたことや、かつての上司から自分がされていたことなど、成長につながるからと無意識にしてしまっていることもあります。
すなわち、良かれと思っていたことがハラスメントになりうることで、そうならないために事例を交えてお伝えしていきます。
なお、私は法律家のような専門家ではありませんので、裁判例や法律の観点からというよりも現場で3万人以上のリーダーを見てきた経験およびハラスメントに困っている、あるいはハラスメントをしてしまったという人々と接してきたなかで、得た現場の観点から鑑みた適正なコミュニケーションをとる方法をお伝えします。

『ハラスメントの壁』 プロローグ より 吉田幸弘:著 KKロングセラーズ:刊

吉田さん自身、パワハラの行為者になり、降格人事になったこともあるうえ、ハラスメントをされたこともあるとのこと。

本書は、そんな吉田さんの豊富な経験と、数多くのリーダーを指導したノウハウをもとにした「ハラスメントの壁」を越えるためのコミュニケーション法をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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たった一言で相手への印象は「天」と「地」の差になる!

同じ内容の言葉でも、言い回しが少し違うだけで、受け取る方の印象が天と地ほどの差が出ることがあります。

 あるYoutube番組で出演者がMCの女性に「今日はきれいですね」と言った時、「今日は?」と何度も笑いながら聞いているのを見ながら、「は」と「も」って実は伝えた側は一文字だけど、受け取った側は一文字では済まないくらいのインパクトを感じるものなのだと改めて思いました。

×「今日は素敵だね」
○「今日も素敵だね」

今までは良くなかったではないかといわれた側は思ってしまいます。

×「今回の資料はいいね」
○「今回の資料もいいね」

今回だけよくなったということでなければ、「も」を使いましょう。仮に今回、良くなったということなら、「今回の資料は、グラフが入っているからいいね」というように、理由も一緒に述べましょう。

なお、「は」を抜くのも注意が必要です。
×「今回の資料、いいね」
今回だけいいと言っているように感じるのではないかと思います。

×「資料作成だけはいいね」
×「返事だけはいいな」

「だけ」をつけると、他が最悪ととられる危険性があります。絶対に使ってはいけないパワハラワードです。

○「わかりやすくていい資料だね」
○「〇〇さんの挨拶は気持ちいいね」

なお、話すときは気にならないのですが、メールやチャットで使うとぶっきらぼうな言葉があります。体言止めです。体言止めとは、文末を名詞や代名詞で終わらせるテクニックです。
具体的に比べてみましょう。
①×「会議は13時30分開始」
②○「会議は13時30分開始です」

助動詞「です」があるかないかの違いです。①は簡潔ですが、ぶっきらぼうに感じます。
かつて、直行直帰型のマネジャーをしている時、ある部下から「今日は新規4件、既存1件訪問。特記事項はなし」という体言止めで送ってくることに対してイライラしたこともありました。やはり、とげとげしさを感じさせないためにはちょっとした気配りも必要です。

「やればできるじゃないか」も危険なワードです。まるで普通はダメ、もっといつも気合い入れてやってよ」と嫌味を言われているように感じてしまいます。
伝えた側は期待を込めて言っているつもりなのに、相手はネガティブなニュアンスと受け取られる可能性が高くなります。

『ハラスメントの壁』 1章 より 吉田幸弘:著 KKロングセラーズ:刊

言った側にそんな気はなくても、何気ない一言が、相手を不快にさせたり、圧力を感じさせたりすることはあります。

特に、部下は上司の言動に敏感ですから、細心の注意を払いたいものですね。

「なぜ」で問い詰めない

最近聞かれるようになった言葉に「ロジック・ハラスメント」があります。
ロジックハラスメントとは、ロジックで相手を追い詰めるハラスメントのことです。

原因を突き止めるために、論理的に考えて深く掘り下げていくことは、悪いことではないです。
しかし、上司が部下に対してそれを強制してしまうと、ハラスメントになる可能性があります。

吉田さんは、ロジックハラスメントを防ぐためには、「なぜ」は自分に対してのみ使うことだと指摘します。

 ある会社の部長は部下と上手くコミュニケーションがとれないと悩んでしいました。そのうちに部下が自分から近寄ってくることも少なくなり、業績が悪化していた影響もあってか、優秀な課長がここ半年で二人も退職してしまっていたのです。
その企業で管理職向けに1on1面談をやっていた際、部長と話したところ、「どうも『なぜ』という言葉をよく使っている」と判明しました。
「なぜ」はデンジャラスワードであり、言われた側は追い詰められていると感じます。

次の二つの例文を比べてみてください。
A「なぜ、納期に間に合わなかったのか教えてもらえるかな?」
B「納期に間に合わなかった原因って何かな?」

実はこの二つの質問の意味は同じなのに、Bのほうが圧迫感を感じないと思います。
「なぜ」を「何」に変えても同じ意味になるのです。
「なぜ」と言われると「人」に焦点を当てているので責められているように感じるのに対し、「何」ならば「出来事・モノ」に焦点を当てているので、いったん自分と切り離して冷静に考えられるのです。
ですから、「何」と聞きましょう。

また、理由は後づけになることもあります。むしろ今後は予測できないことも多くなるでしょう。コロナ禍だって想像していませんでした。正解がわからず、理論的に考えても解決ができないことも増え、感性が重視されてきてもいます。しかし、人から見ると稚拙で適当、論拠が曖昧と突っ込みたくなることもあるでしょう。

相手は追い詰められた感じがあればあるほど、答えられなくなります。弱い立場である部下は「すみません」を繰り返すだけかもしれません。そこに輪をかけて「謝ってほしいわけじゃないよ。俺は理由を聞きたいんだ」と返したら、それこそロジハラ成立です。
論理的に話すのが苦手な人もいるし、それ以上に追い詰められている時は、思考がストップしてしまいます。

部下が論拠や意見を出しにくそうにしている場合は、次の三つの方法がいいでしょう。

①「たとえば」と質問してみる
「たとえば、両親似この商品をプレゼントするなら、どんな付加価値が欲しいと思いますか」
これは、「両親にプレゼントする」という具体的な場面を想定して、消費者の立場に立った商品のアイデアを問いかける質問です。部下もこれなら答えやすいでしょう。
このように、会議やミーティングがマンネリ化して意見が出なくなった時、「たとえば」を使って具体的な場面を想定するように仕向けて質問していくと、聞かれた部下の頭は柔らかくなり、メンバーもそれに従って考えることができます。

②「一つだけ挙げるとしたら」と質問してみる
一つだけ挙げればいいのだと、心理的に負担を軽減します。「間違っていてもいいから、論拠を考えてみよう」という言葉もいいでしょう。不要な心の負荷は取り除いてあげることです。プレッシャーを与えても思考をストップさせてしまうのでは意味がありません。

③ポジションチェンジトークをする
部下に対してなら、「もし君がリーダーの立場だったとしたら、どうするだろうか」という聞き方です。部下に上位者としての視点で考えてもらうことで、思考の幅が広がり、育成効果も狙えます。新人教育をお願いするなら、「あなたが新人だったとしたら、何を学びたいか? 何に不安を感じるか?」とポジションを変えて考えるように推奨します。

追い詰めることでハラスメントになりやすくなります。考える癖をつける、論拠を探し出す、意見を出してもらうことが目的であって、追い詰めることは目的ではありません。相手が答えやすい質問を意識する必要があります。

『ハラスメントの壁』 2章 より 吉田幸弘:著 KKロングセラーズ:刊

論理的に物事を考えることに長けた優秀な上司ほど、はまってしまう罠。
それが「ロジハラ」です。

部下に質問するときには「なぜ」ではなく「何」で問いかける。
意識して、習慣づけてしまいましょう。

「やらされ感」が出ないようにすること

部下に資料を作らせたけど、思っていたのと違うものが出てきた。
そんな経験をした人は多いかもしれません。

その原因はコミュニケーションの問題、つまり、「伝えたつもり」になっていて、「伝わっていない」ことにあります。

吉田さんは、「伝える」と「受け取る」がセットになって、初めて「伝わった」になると述べています。

疎かになりがちなのは、相手に「受け取ってもう」という視点です。
そのために重要になるのが、「なぜその仕事をやる必要があるのか」、「どのような背景で仕事をする必要が生じたのか」の「Why」を伝えることです。

(前略)この部分を伝えないと、頼まれた側は「やらされ感」が出てしまうので、やっつけ仕事のように、とりあえずの合格点を目指し、最低限やっておけばいいかとなってしまいます。
頼んだ側からすると、「もっと論点を深堀りしてほしい」「詳細なデータが欲しかった」と思うかもしれませんが、頼まれた側から考えれば仕方ないことかもしれません。「もっと高い意識を持って仕事してくれよ」「丁寧さが足りないよ」などと怒るのは本末転倒です。
あなたが頼まれた側だとして、「とりあえず、プレゼンの資料のたたき台を作っておいて」という頼まれ方だと、何だか気持ちが入らず大雑把な資料で済ませてしまうこともあるのではないでしょうか。

頼む相手が「自分ごと」になってもらうためにも、「Why」(なぜその仕事をする必要があるのか)を伝える必要があります。ここでやってしまいがちなのが、頼む側であるリーダーの視点として、「チームに必要だから」「会社に必要だから」という伝え方です。
「うちの会社にはこの分野のラインナップが足りないから、競合商品を調査して報告してほしい」
「Cさんへの教育担当になってほしい。チームとしての戦力アップになるから」

このように伝えれば、部下も動いてくれるだろうと思ってしまいがちです。確かに、「必要な仕事なんだな」ということはわかってもらえるでしょう。しかし、この頼み方はイマイチです。
「別に私に頼まなくても」「私ばかりお願いされて、Fさんは仕事の量が少ないのに不公平だ」と思うかもしれません。もっと部下の琴線に 触れる頼み方をする必要があります。

「なぜ、あなたにお願いするのか」を示すことです。このように書くと、「この仕事といえば、Nさんだろ」「Nさんにだったら安心して任せられるから」と、相手のプライドをくすぐるやり方を思いついた方もいらっしゃるでしょう。もちろん効果的です。
しかし、何度もお願いしていると、頼まれた側も「またか」思ってしまうのです。この頼み方は、あくまで「頼む側の視点、メリット」です。

上級な頼み方をする人は、
「将来のその人自身のためになるか」という先の視点でメリットを考え、頼みます。
人はそれぞれ仕事に対しての考え方、人生における仕事の優先度合い、将来やってみたい仕事・内容が違うものです。
人生における仕事の優先度合いが低い相手、例えば家族を優先したい人に対して、「俺らの時代は何よりも仕事を優先させてきたぞ。甘いんじゃないか」などと言うのは厳禁です。これこそパワー・ハラスメントです。時代は変わり、言い方は悪いですが、企業のビジネスモデルが人生より短くなっているケースも少なくありません。ですから、終身雇用を前提として「会社のため」と言われても、部下からするとモチベーションも上がらないでしょう。
相手の考えを尊重したうえでの、頼み方にシフトしていきましょう。
ここでは代表的な四つのパターンのタイプの人を例にお話ししていきます。

1 キャリアアップ志向 −−「この仕事をすることで評価が上がる」
昇進・昇給など、自分自身の市場価値を上げていくことを重視しているタイプであり、比較的頼みやすいタイプです。
この仕事をすることで、評価が上がるということを伝えればいいでしょう。あるいは将来、部署異動したい場合、「この仕事をやっておくと、将来人事部に行った時に役立つよ」「独立した時に役立つよ」と伝えるのもいいでしょう。

2 リスク回避志向 −−「安心材料を渡して頼む」
安定を求め、リスクを避けようとするタイプです。失敗することを避けることを第一にしています。
「新しいことにどんどん挑戦していかないとダメだぞ」と言いたいところですが、それではハラスメントへ一直線です。
このタイプの人には「どれだけリスクが小さいのか」「心配する部分はこれだけだよ」と、安心材料を渡す必要があります。
また、「今後は全社的に英語の力を求められるから、英語を学んでおいたほうがいい」といった「やっておかないと、今後困ることになるかもしれない」という言い方もいいでしょう。

3 チャレンジ志向 −−「リスクはあるが先駆者になることもできる」
キャリアアップ志向と同じく前進していくタイプなので、昇進や昇給より「前人未到」「業界初」「難関」といった言葉にやる気を求めるタイプです。
チャレンジ志向の人には、「まだ誰もやったことのない企画」「リスクはあるけど、うまくいけば業界のなかで先駆者になれるよ」といった頼み方がいいでしょう。

4 自由志向 −−「あとは任せるから」
他人から指図されたり、束縛を嫌うタイプです。自分でできる裁量が大きいかどうかでやる気が変わります。
自由志向の人は、本人が自分で仕事の進め方を決めたり、工夫したり、アレンジしたりできるようにしてあげる必要があります。
「ここにフォーマットがあるから、この通りにやって」「前回の進行の記録があるから、それに合わせてやって」といった伝え方をすると、途端にモチベーションが下がります。
もちろん、すべてをその人の自由にさせることはできませんが、守ってほしい大枠や条件、期待値を伝えたうえで、「あとは任せるから」と、投げてあげましょう。なお、同じことを伝えるにしても、「この辺りは自由にやっていいけど、ココとココは決められた通りにやって」という言い方より、「この二つのポイントを押さえたうえで、自由な発想で企画を作ってみて」のほうが張り切ってくれます。

『ハラスメントの壁』 3章 より 吉田幸弘:著 KKロングセラーズ:刊

なぜ、この仕事が重要なのか。
なぜ、この仕事を自分がすべきなのか。

ただ「やれ」と言うだけでなく、背景の部分もしっかり伝えてあげること。
頼む相手のタイプに合わせて、コミュニケーションとともにやる気もしっかり上げてあげましょう。

「話しても大丈夫」という心理的に安全な場をつくる

ハラスメントにならない話し方をするには、まず「相手の話を聞くこと」が重要になります。

吉田さんは、その際に大切なのは、「部下がこのリーダーに話しても大丈夫」という心理的に安全な場をつくること、いわゆる「心理的安全性」を確保することだと述べています。

「心理的安全性」はグーグルが、チームを運営する際に、重要な要素としています。
チームの心理的安全性とは、
「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり・・・・・ありのままでいることに心地よさを感じられるようなチームの風土である」(『一兆ドルコーチ』エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。

グーグルが行ったチームを成功に導くカギに関する調査でも、心理的安全性は筆頭に挙がっているそうで、この「心理的安全性」は大変注目されています。
そもそも部下が話しても大丈夫と思わないのは、思っている以上にリーダーとの信頼の土台が築けていないことが要因です。

私がコンサルティングをしていた会社にAさんとBさんというリーダーがいました。Aさんは、非常に重厚なイメージで、ハキハキしています。部下に弱みを見せることなく、チームを引っ張るタイプの頼もしいタイプのリーダーでした。隙が全くありませんでした。
一方のリーダーBさんは、柔らかい表情でどちらかと言うとお茶目なタイプです。もちろん、ここぞという時には大きな力を発揮します。
今回のコロナ禍でテレワークが導入されました。ここで大きく差が出たのです。導入以前は同じくらいの業績だったのが大きくBさんのチームが勝りました。メンバーの活動量が大きく違っていたのです。
テレワークが始まった時、孤独感を感じたり、あるいは慣れることができず、モチベーションも生産性も低下してしまったメンバーがほとんどでした。Aさんは、「気を引き締めていこう。何かあれば相談に乗る。今の時期に頑張れば、むしろ他社に差をつけることができるチャンスだ」とメンバーを情熱的に鼓舞します。

一方のBさんは、まずメンバーがテレワークに慣れるようにすることと、一人ひとりの業務の悩みを解消することを優先しました。そのためにも悩みを言っても大丈夫と感じてもらうように「心理的安全性」を確保しすることから始めました。
リーダーがある時から、「なんか悩みはないか。何でも言っていいぞ」と突然言っても、部下は「本当かな、大丈夫かな」と信じないと思い、ビックリすることに、Bさんは愚痴を言ったり、自分の欠点を自己開示し始めたのです。リーダーが愚痴を言うなんてと思われた方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、愚痴のなかには悪いものもあります。具体例を挙げると、会社や他の人の悪口、誹謗中傷です。
しかしよい愚痴もあるのです。たとえば、「テレワークでずっと家にいると腰が痛くなるな。だから体操が欠かせないな」「お昼を食べに行くところがなくてさ。一つ隣の駅の吉野家まで行っているよ」「昼過ぎになると眠気との戦いだよ。毎日コーヒー5杯飲んでるよ」といったホロッとした気分になるような愚痴なら全然いいことです。
「いや、テレワークになってから、業務の進み具合がイマイチだな」などと自己開示するのもありです。もちろん改善の努力はしなくてはなりませんが、弱気な「まいったな。売上をどうあげていけばいいだろう」という問いかけも「もうしょうがないよ。売上なんていいよ」という敗北宣言のような問題発言でなければいいでしょう。

人間は感情の動物と言われています。弱気になっている人には、こちらも弱気なところを見せるのも効果的です。
時には叱咤激励も必要ですが、Aさんのように、「そんな弱気でどうする。人生もっとポジティブに生きなきゃ損だぞ」「つらい時こそ仕事に打ち込め。そうすればおのずと道は開けてくる」と本人を励ますつもりのアドバイスも毎回受けていると部下には辛く感じるでしょう。
本人を励ますつもりで、こういったアドバイスをするのはわかりますが、部下自身も「ポジティブに仕事に取り組んでいこう」という気持ちは持っています。
持ってはいるのですが、感情に流されてしまうこともあるのです。実際、リーダーのあなたでも、他の人の目がないテレワークで、つい休憩を多くとってしまった、インターネットサーフィンをしてしまったということもあるのではないでしょうか。

テレワークの例に限らず、相手の状況に寄り添うことも必要です。
「相談しやすい雰囲気」にしていると、部下がどんどん相談に来るので、部下の情報も把握できます。また、同じ出来事であっても、Aさんは悩まない、Bさんは悩むというように、人それぞれ違いがあります。ですから、一定の部下が相談に来るからといって、自分は相談しやすい雰囲気をつくっていると思うのは危険です。
何よりリーダーは自分で思っている以上に部下に対して「圧」を感じさせています。部下からすると、リーダーは評価する権利も命令権もあるわけですから、当然です。

ある会社でリーダーと一般社員に研修をしたことがありました。
先に中堅社員向けに研修をした時、「リーダーに圧を感じますか?」と質問したところ、なんと八割の方が「感じる」と回答しました。
その後、同じ会社の管理職研修で質問したところ、「圧」を感じさせていますかと聞いたところ、六割以上の人が「感じさせていない」と回答しました。
これだけ違うのです。
リーダーの方は思っている以上に、「圧」を感じさせています。
役職だけではありません。
私自身、見かけは「圧」がないような人間だと思っていました。
確かに以前はパワハラ上司で問題がありましたが、その後克服して現在は講師やコンサルタント活動をしています。
しかし、ある講演のアンケートで、「講師に圧迫感を感じました」という回答がありました。知らぬうちに年齢を重ねて「圧」が出来上がっていたのです。

私は柔らかい表情だし、フランクな感じで話すからと思っているのはもしかすると自分だけかもしれません。いつまでも若いつもりでしたが、年齢も重ね、30代の研修の受講者にとっては圧を感じさせてしまうようになっているのかもしれません。
リーダーと部下の関係も同様です。「話しても大丈夫」という雰囲気をつくるように強く意識していきましょう。

『ハラスメントの壁』 4章 より 吉田幸弘:著 KKロングセラーズ:刊

テレワークによって、物理的な距離が離れてしまった現実があります。
その状況では、心理的な距離感をできるだけ近づけることが、今まで以上に重要になります。

上司は部下とフランクに付き合っているつもりでも、部下はそうは思っていないことも、往々にしてあります。

必要なのは、自分から心を開く勇気です。
目指すは、近寄りがたいカリスマ性のある上司ではなく、親近感のある気さくな上司。

リーダーに求められる資質も、時代によって移り変わります。
私たちも、その流れに乗って進化していかなければなりませんね。

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ハラスメントは、避けるべきこと、してはいけないことです。
ただ、ハラスメントを過度に恐れて何もできなくなってしまうのでは、元も子もありません。

では、部下とのコミュニケーションにおいて、どのような心構えで臨めばいいのでしょうか。

吉田さんは、気遣いをして信頼関係を構築する、ここを目指していけばいいとおっしゃっています。

相手に対して、多少不快な思いをさせる言動をしてしまっても、信頼関係が築けていれば、その後のフォローで挽回が可能だということです。

対面ならば、顔色や表情、声の調子などで、相手の変化に気づくことが容易にできます。
しかし、テレワークの画面越し、電話越しだと、それを読み解くのが難しいのが現実です。

相手の変化に気づく注意力を高めることはもちろん、接する頻度を意識的に高めることも重要です。

あなたも、新しい時代に合ったコミュニケーションを身につけて、「ハラスメントの壁」を越えていきましょう。

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