【書評】『バーサタイリスト』(松原晋啓)
お薦めの本の紹介です。
松原晋啓さんの『バーサタイリスト 35歳までに「1万人に1人」の実力者になる方法』です。
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松原晋啓(まつばら・のぶあき)さんは、産業コンサルタントです。
CRM(Customer Relationship Management)のコンサルティング支援を主要業務とするアーカス・ジャパン株式会社の代表取締役を務められています。
会社の中でも、成り上がれる!
今の時代、会社という組織に不満や幻滅を覚えている人は多いです。
その傾向は、若い世代ほど顕著で、独立や転職をする人増えてきました。
ただ、松原さんは、会社の中だって、成り上がれる
し、誰もが、会社員のままでも才能を開花させられるし、突き抜けられる
と述べています。
「今の会社にい続けても・・・・・・」というマイナス発想は、残念ながらほとんどの場合、真実ではない。会社で大成できることは、このわたしが身をもって証明している。
若者が退職・転職したくなる最大の理由は、華やかな仕事で活躍するはずだったのに、実際に入社したら下積みばかりというギャップだろう。
確かに、下積みは泥くさい。単調な作業が多いだろうし、注目される業務はほとんどないだろう。しかし、どんな業界や業種であれ、下積みは必ず通る道である。むしろ下積みは、基礎力を養うために最も重要なステップである。そして、下積み時代に重ねた努力は決して裏切らない。
下積みこそ、社会人として大成するためのベースなのだ。それを知らずに、勘違いゆえに生じたギャップを理由に諦めてしまうのは、何とももったいない。
自己肯定感にワークライフバランス、タイムパフォーマンスーー。現代には、賢そうな雰囲気でありながら、本質を突いていない言葉がなんと多いことか。
もちろんどれも否定はしないが、流行ワードに流されているだけの人、そして若者を甘やかすのをよしとする社会の風潮には、強く異議を申し立てたい。わたしには、アクセンチュアやマイクロソフトをはじめ、世界が認める一流企業で尋常じゃない結果を出し続けた自負がある。
世界中を探してもなかなか存在しないとされる「バーサタイリスト」の呼称を受けたのは、会社と社会に貢献していることの何よりの証だろう。詳細は第3章に譲るが、バーサタイリストとは、「スペシャリストの深さ」と「ゼネラリストの広さ」を兼ね備えた人間を指す言葉だ。要は、何でもできるスーパーマンということ。
バーサタイリストになるには膨大な知識と経験がいるので、非常に険しい道をたどらねばならないが、バーサタイリストに一度なりさえすれば、万事の本質を瞬時につかめるようになる。1万人に1人の実力者になるのも、夢ではない。しかし、こんなわたしも、もともとは凡人だった。
学生時代は赤点ばかりの問題児だったし、高校卒業後にはホームレス経験だってしている。むしろ平均以下だろう。
それでも、バーサタイリストになれたのには、理由がある。やる気さえあれば誰もが真似できる、とてもシンプルな理由が。ただし、タイムリミットは35歳。「20代だから社会人人生は先が長い」と思っていたら大間違いである。本書では、凡人以下のわたしが、なぜここまで大成できたのかを具体的に記した。
どのような下積み時代だったか、どんな道を歩み「CRM2.0」の生みの親と呼ばれるに至ったか、失敗談も含めて全て正直に書いている。
アーカス・ジャパンを設立した後、一人ひとりに向き合うパーソナライズドCRMであらゆる業界の課題を解決している今、最も大事だと考えている仕事論や思い、そして今後のビジョンについてたっぷり記した。
この仕事術を全て取り入れたなら、10人分の価値を出すことも可能である。「大きな成果を上げたい」「成功したい」など野心あふれる若者はもちろん、目の前の仕事がうまくいかず悩んでいる人、逃げたい気持ちで押しつぶされそうになっている人にも、ぜひ読んでほしい。
あなたはわたしほどダメな学生生活を送っているとは思えないし、だからこそわたし以上に大成する可能性に満ちている。諦めてはいけない。
本書が、あなたの気持ちを奮い立たせる一助になれば幸いである。
『バーサタイリスト』 はじめに より 松原晋啓:著 講談社:刊
本書は、学歴や生い立ちに関係なく成功し、1万人に1人の実力者「バーサタイリスト」になるためのノウハウをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「35歳まで」にどれだけ自己研鑽を積んだかが勝負!
松原さんは、社会に出て12年は、現場で経験を積むことに専念して構わない
と述べています。
大学卒業した22歳から12年間、34歳までは、下積みを含めた実務経験をどれだけ積めるかが問われるということ。
そして、35歳からは、それまで現場で培った能力を、幹部として発揮する
ことが望まれます。
松原さんは、社会人のキャリアは、35歳までにどれだけ自己研鑽を積んだかで決まるといっても過言ではない
と指摘します。
わたしは、深夜3時まで勉強すると決めていた。とはいっても会社を出るのが遅かったので、終電で帰って夕飯を食べたら、勉強時間は1時間や1時間半ほどしか確保できない。
わたしの場合、学歴は高卒と変わらない。自分以外の人は大学で基礎知識としていろいろなことを学んでいると思っていた。どれだけ学んでも、人並みになったかどうかわからない。だからこそ鍛錬しなければと、焦るとともにやる気が高まった。
基礎は会社の業務時間外でやる。現場は、外で学んだことを生かす応用の場。そういう意識で取り組んだ。かといって、学習時間を長く取ればいいということではない。大事なのは、どれだけ時間をかけるかではなく、いかに集中するかだ。
学習効果が高まるのは、興味が湧いているとき。だから、やる気がなければやらなくて構わない。そのぐらい割り切っていいと考えている。そもそも人には、バイオリズムがある。ホルモンや自律神経の関係もあり、やる気が起きない日があるのは普通のことだ。もちろんわたしだって、やる気のない人はある。
勉強する最大目的は、続けることではなく、自分の人生を豊かにすることだろう。だから、細かいことは気にしなくていい。やる気が起きないのには理由があるのだし、身体の声を聞き、コンディションを優先するほうが大切だと思う。また、やる気が出ること、興味のあることだけ勉強するのも大事だ。仕事をしていると、知りたいと思うことが何かしら必ず見つかるだろう。知りたいと思うのは、まさに気力が満ちているサインだ。心身の調子がいいので、エンジンを全開にして取り組むべきである。
勉強を続けていると、仕事の役に立ったと感じるシーンが必ずやってくる。その瞬間のやりがいや、仕事の幅が広がる喜びを原動力にするのも大事である。要は、いかにして興味を向けるかが重要なのだ。ちなみにわたしが興味を持つかは、感情移入できるかどうかで決まる。
ただ参考書を読んでいるだけでは、すぐに眠くなってくる。しかし、その方法で成功した人のストーリーを知ると、「かっこいいな」「こうなりたい」と興味が湧き、自然と目が冴えてくるのだ。会計や経理など、アカウンティングの勉強をしたときは、あまりに難しくて取り組む気にならなかった。そんなときには、ドラマや漫画でモチベーションを高めた。
法律は、『ミナミの帝王』から始めた。『ミナミの帝王』は、法律の知識で悪者を成敗する漫画で、実写化もされている。
わたしは、「法律を知っていると、こんなにかっこいいことができるのか」と感銘を受けた。すると、法律の内容が、頭にスーッと入ってくるようになった。やる気のない状況が続くのが、最もいけない。漫画やドラマは休日と決めず、平日だって見ていい。やる気が起きないときは、興味を高めることを最優先すべきだ。
それでも、どうしてもやる気の起きないときもあるだろう。どうしようもなくなったら、わたしは宮城野昌光氏の『孟嘗君(もうしょうくん)』を読むようにしている。孟嘗君は、戦えば必ず勝つ、負けたことがない人。かといって積極的に力を使うわけではなく、人望が厚く人から好かれていた。
わたしも人として好かれたいし、いざ力を使うなら負けたくはない。だから孟嘗君には、心底憧れる。『孟嘗君』を読むと、心が自然と燃えてくる。平日は昼夜を問わず仕事に全てを注ぐ。一方、休みになったら、全力で遊ぶのがよい。集中力を保つには、切り替えが大事。休日は、仕事なんて気にしなくていい。遊びだって体験だし、学びでもある。
ただし、仕事も遊びも全力で向き合うこと。中途半端が一番よくない。
わたしは、休日はバスケをすることが多い。ときには、温泉やテーマパークへ行くこともある。
ITの仕事は、基本的に精神的な疲労しかなく、体力が余ったままであることが多いのだ。精神と身体の疲労のバランスが悪いと、いくら寝ても回復しない。
だから、休日は体を動かす遊びを積極的にしていた。人によっては、「全力で遊ぶとは、具体的にどのようなことをするのか」と疑問を抱くかもしれない。わたしが考えるに、全力の遊びとは、目の前にあるものに集中し、自分の中に「なぜ」の問いをたくさん立てることだ。
観光地にせよ、うまいものにせよ、出かけた先にはそこでしか経験できないものがたくさんあるだろう。日常では得られない気づきで満ちているはずだ。
そのときに、「なぜ」の問いを立てるのだ。温泉に行き落ち着いたのなら「なぜ落ち着くのか」と考える。ワクワクするなら、「なぜワクワクするのか」を考える。
行列ができている店があったら、どうして行列になるほど人気が出るのかと考えるのもいいだろう。疑問を持つと、人間力が高まる。つまり休日は、ソフトスキルを向上させるための絶好の機会なのだ。
遊びの中でしか得られないものは、意外と多い。平日をオン、休日をオフと呼ぶ人もいるようだが、わたしは正直、その表現が好きではない。曜日を問わずいつもオンであるべき。どんなときでも、目の前のことに一生懸命であるべきだと思う。
寝ている時間だって、疲労回復と記憶の定着を目的にしているのでオンと呼べるだろう。オフになるのは、死んだときだけだ。それまで常にオンであり続けることこそ、仕事はもちろん自分の人生を豊かにするためのカギだと思う。徹夜をできるのも、35歳ころまでの特権だろう。規則正しい生活も大事だが、35歳までであれば多少の無理は利く。
しかし、体の声を無視してはいけない。体は、具合が悪いと事前に何かしらのサインを出してくる。風邪をひくと喉がイガイガしたり節々が痛くなったりする。胃腸に問題があると、血便が出ることもある。
体調不良には誰もがなるし、仕方のないことだと思う。
しかし、放っておいて悪化させるのは論外だ。無理をせずに休み、健康を維持するのも大事なスキルだと覚えておいてほしい。同時に、体調を崩しても問題ないよう、自分の仕事のタスク管理をするのも大事である。3日の猶予がある仕事を、3日間フルで使ってこなしているようでは二流と言わざるを得ない。2日目まで予定通りに進んでいても、最終日に体調を崩す可能性だってあるのだ。
仕事に取り組むときは、最悪1日潰れてもいいようにバッファを持ち、前倒しで取り組むこと。
体調に振り回され納期を過ぎるような人間は、プロの世界では通用しない。『バーサタイリスト』 第2章 より 松原晋啓:著 講談社:刊
短い時間で大量の知識をインプットをするには、集中力を最大に発揮する必要があります。
集中力を高めるには、やる気のあることや興味のあることをテーマにすることです。
今の仕事に役に立つとか、資格が取れるからとかだけだと、モチベーションとしては弱いです。
同じことを学ぶにしても、どこから手をつけるか、“切り口”が大事です。
やる気のあること、興味のあることを手当たり次第に学んでいく。
その姿勢を貫けば、オンもオフもない充実した生活を過ごせますね。
まずは「スペシャリスト」を目指せ!
松原さんは、たやすい道ではなくとも、バーサタイリストを目指したい。その覚悟があるのなら、まずはスペシャリティを1つ築くところから始めてほしい
と述べています。
(前略)わたしのようにエンジニアでなくても構わないし、世界的に通用するものなら何でもいい。
ゼネラリストではなくスペシャリストを最初に目指すのは、スペシャリストになると誇りが生まれるからだ。険しい道中では考えが揺らぐこともあるだろう。しかし、スペシャリティが1つあれば立ち返ることができる。ちなみにスペシャリティがないと、バーサタイリストはおろか、ゼネラリストにすらなれない。
ゼネラリストとは、全てにおいて平均的にできる人を指すわけではなく、何事においても頭1つ抜きん出ている人を指すからだ。さまざまな分野において知見を十分に深めるのは、何か1つよりどころとなるものがないと厳しいだろう。
ゼネラリストになるのだって、本来はとても難しいことなのだ。
まずは、自分の武器を見つけてほしい。自分がどんな武器を持つかを決めたら、その武器のスキルをどんどん高めていく。スキルを効率よく磨くには、どんな手法を取るのがいいかと悠長に考えている暇はない。何より、現場に1回でも多く立つこと。そして、トライ&エラーをどんどん繰り返していくのだ。
わたしがグリーンシステムに在籍していた頃は、まさにスペシャリストへの道を一目散に駆け上がっていたことになる。
会社では頭を下げて教えを請い、終業後は近くの本屋で専門書を読みあさり、さまざまな専門知識をどんどん吸収しては現場で試していった。スペシャリストになったかどうかは、決して自分一人で判断してはいけない。なぜなら、自己評価ではどうしても私情が入るし、正確に判断できないからだ。
そもそも自分で自分を判断するのは、一生できないことだろうと思う。スペシャリストになると、他人が知らせてくれる。
「〇〇だったら、あなただよね」と、周囲が自然と話し始めるのだ。自分の所属している部署だけでなく、他部署でも言われるようになったら、スペシャリティを極めたと思っていいだろう。
何せ、スペシャリストというのは自然と目立ってしまうものなのだ。だから、人からどんどん話しかけられるし、頼られる機会が格段に増える。
特に、仕事と関係のないことで頼られるのは、スペシャリストの証し。たとえば経理部に所属しているなら、業務上の相談をされるだけではまだ担当者の域を出ていない。業務関連ではなく、プライベートなこと、たとえば家計の相談を受けたなら、スペシャリストとして認められていると思っていい。
勘のいい人は、気づいただろう。スキルを磨くだけでは、スペシャリストにはなれないのだ。性格のねじ曲がっている人に、プライベートなことを相談しようとは思わない。
スペシャリストは、その職種におけるハードスキルはもちろん、人格面でも卓越していなければならないのである。そもそも仕事というのは、人一人では成り立たない。スペシャリストとして十分なソフトスキルを身につけていれば、ゼネラリストやバーサタイリストになっても生きてくる。
「ハードスキル」と「ソフトスキル」の、両輪を意識してほしい。スペシャリストになったら、スペシャリティを補完するものを次から次へと身につけていくステップに移る。
森をイメージするとわかりやすい。自分自身のスペシャリティが御神木、そして補完目的で学んでいくのが周囲の木々というわけだ。地上の見えている部分は、仕事で成し遂げたこと。土の中は、自分で学んだものだと思ってほしい。そうすると、根っこ、つまり自己学習がいかに大切かわかるだろう。根がしっかり張っていなければ、立派な御神木にはならない。御神木がしっかりしていないと、豊かな森にはならないのだ。
わたしの場合、御神木はエンジニアということになる。どんな御神木を建てるかは人によって異なるので、周囲に生かす木々も人それぞれだ。
広報のスペシャリストであれば、心理学やデザインのスキルから学び始めるのもいいだろう。調理師のスペシャリストは、別ジャンルの調理はもちろん、接客や酒を学びたくなるかもしれない。
一見関係なさそうに思えることでも、興味が湧くならどんどんチャレンジして構わない。軸となるスキルが確立されているので、自分自身がブレることはないからだ。そしてどんなことも、いずれ必ず何かしらの役に立つ。
バーサタイリストになるかスペシャリスト止まりかの大きな違いは、スペシャリティと直接的には関係のなさそうなことにも、いかに興味を持って向き合えるかにかかっている。
趣味のような気持ちで取り組んでいたらスペシャリスト止まりかもしれないが、仕事として本気で向き合っていれば、必然的に周囲の知識を身につけたくなるものだ。そう考えると、スペシャリストは、バーサタイリストの入り口に立っているとも言い換えられる。
ただし、スペシャリティを極めたからといって天狗になっているような人や、経験はおろか学びもせずただ傍観している人は、バーサタイリストには決してなれない。
どんなことでも、好奇心を持って向き合うこと。子どもは好奇心が強く、どんなことでもすごい勢いで吸収していくだろう。あのイメージだ。
金になるからではなく、「知りたい」「面白そう」という純粋な好奇心があってこそ、バーサタイリストへの道は拓ける。
奮起して邁進してほしい。バーサタイリストを目指し始めると、それまで以上に時間かなくなる。とは言っても最低限の睡眠は必要なので、前述した通りわたしは3時には寝ると決めていた。
エンジニアの高みを目指していたときも学ぶべきことは山ほどあったが、フィールドを広げるとやるべきことは次から次へと生まれる。ときには、やりたいことが膨大過ぎて、心が押しつぶされそうになるかもしれないが、そう難しく考えることはない。
なぜなら、バーサタイリストを目指すには、量以上に質、つまり先ほど言及した純粋な好奇心が大切だからだ。優先順位は、本能で考える。決して頭で考えてはいけない。新しいことに取り組むときは、「何を知りたいか」と自らに問いかけ、心に従うのが大事だ。
早く成長したいと思うほど、どの順番で学ぶのが効率的かと考えたくなるかもしれないが、冷静に考えているうちに、好奇心が削がれては元も子もないだろう。
会社で重宝されそうなもの、求められそうなものから学ぼうという気持ちもいいことではあるが、取りかかるものは自分軸で決めるのがよい。
集中してやれそうなもの、今すぐ知りたくて気持ちがはやるものこそ、すぐに着手すべきである。わたしは、学んでいる途中で投げ出したこともある。
投げ出した学問の代表例は、心理学だ。心理学はある程度の基礎こそあるものの、どんどん新しいものに派生していく。ユングの夢分析に行動心理学、犯罪心理学など学問系統があまりに多く、しかも一つひとつが奥深い。好奇心が沸いた分野があまりに広く深過ぎる場合は、ベースの知識をどこにおくべきかを考えるといい。ベースを学んだら、次はそれと関連するものへと学びを広げる。
ロジックツリーで考えると、自然と順番が決まってくる。しかし、わたしは途中で投げ出してもいいと思っている。やりきることよりもモチベーションのほうが大切だからだ。
集中力が続かなくなったら、下手に抵抗せずいっそ一度横に置き、別の気になることに移ってしまって構わない。集中力を高めようと躍起になっても、好奇心が高まることはまずないからだ。
もちろん、あれもこれも投げ出していては全てが中途半端になるので、できる限り極めてから次に進むほうがよい。そして、学んでいるときは、そのことしか考えないこと。そもそも好奇心が沸いている状態で学んでいるなら、楽しくて他のことを考えている余裕はないはずだ。
学び終えたら、しばし休憩。自分の本能の導く先を改めて確認したら、また新しい学びに着手しよう。
『バーサタイリスト』 第3章 より 松原晋啓:著 講談社:刊
何はともあれ、まずは軸となるスキルを一つ極める。
スペシャリストになることが、バーサタイリストへの道の第一歩です。
スペシャリストになったら、さらに興味を持ったスキルや必要なスキルが出てきたら、それらを一つひとつ自分のものにしていく。
その先に、バーサタイリストがあるのですね。
「ロジカル」「ラテラル」「クリティカル」の三軸で考える
松原さんは、仕事で失敗しないための秘訣は,「ロジカル」「ラテラル」「クリティカル」の三軸で考える思考法にある
と述べています。
「ロジカル」「ラテラル」「クリティカル」の三軸での思考法は、コンサル界ではもはや常識である。わたし自身は、アクセンチュアで身につけた。
しかし、コンサル以外の職種でも通用する。これ以上に完璧な思考法はない。3つの思考の中で、最も需要なのはロジカルシンキングだ。ロジカルシンキングは物事を整理して、主張と根拠を筋道立てて考える思考法。漏れやダブりがないかをチェックする際は、MECE(Mutually Exclusive,Collectively Exhaustive)という考え方を取り入れることもある。
ロジカルシンキングを経ると思考が深掘りされるので、基本的にはロジカルだけでも十分な深みを得られる。ロジカルシンキングで大事なのは、思考のレベルを合わせること。
「やりがいとお金のどちらを求めますか」という問いは、間違った例の代表格だ。数式で考えるとわかりやすい。A or Bという命題は、A=Bという数式が成り立つことを証明すると真ではなくなる。
やりがいのある仕事をして、結果お金を手に入れるということは可能だろう。すなわち、やりがいとお金を比べる論理は成り立たないのだ。スポーツに取り組むようなときも、思考のレベルを合わせるのはとても重要。
バスケがうまくなりたいという目的があったなら、第一階層として必要になるスキルアップは基礎体力向上である。その先の第二階層にあるのが、ドリブル練習やシュート練習、筋トレやランニングだ。
ドリブル練習さえしていればいい、筋トレだけをしていればいいという考えでは、バスケを決して上達しない。
それぞれの階層ごとに考え、取り組むことがいかに大事か、よくわかるだろう。思考のレベルが異なるものが混在しているかどうかをチェックするには、ToC(Theory of Constraints)という方法論の中の「雲」という手法を使うといい。
全ての項目を書き出して、関連性のあるものをグルーピングする方法だ。限界まで関連付けると、漏れやダブりのないロジックツリーを導き出せる。初めのうちは、低階層と思われるようなささいなことから書き出し、グルーピングしていくこと。トップダウンで考えていくのは難しく、初心者には無理だろうと思う。
ラテラルシンキングは、物事を多方向から考察する思考法である。論理に頼らず直感的に発想するので、ときに突拍子もないようなことを思いつくこともあるだろう。
その業界で不可能と思われることをやるときには、ラテラルシンキングが効く。ラテラルシンキングを身につけるためには、物事を抽象化して考えられなければいけない。
わたしが考えたCRM2.0の中心であるxRMを例に説明しよう。xRMでは、当時「モノを売る営業」という行為のない業界にもCRMを広げたわけだが、そもそもモノを売るという具象的行為はSFAというサブシステムの担う部分なのだ。
そこで、まずはCRM=SFAという常識が間違いであることを、理解する必要があった。CRM、つまりCustomer Relationship Managementは、その名の通り本質は「顧客データの管理」であり、必要な「(顧客に対する)活動データ」を全て一元的に管理するためのもの。そう考えると、営業という行為のない場面であっても、CRMを活用できるという理論になる。
結果、行政や学校、非営利団体での展開という発想が生まれたのだ。
CRMの具体的なソリューションのみで発想していたら、非営利団体での活用は思いつかなかっただろう。
CRMの戦略を抽象的に捉えるラテラル思考を駆使したからこそ、本質を見抜き新しい可能性を見出せたのである。ラテラルシンキングでは、次の3ステップを経ること。
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①課題となっているポイントを特定
CRMの場合:CRMは民間企業でしか売れない
②課題となっているポイントから具象的な部分を抜き出す
CRMの場合:CRMは売り上げを上げるための業務フローが備わったシステムである
③具象的な部分を抽象化する
CRMの場合:CRMは顧客情報と活動データを管理するシステムであり、業務フローはそのために必要なものである
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ここから逆算的にアプローチすると、新たな可能性を導き出せるはずだ。ラテラルシンキングの弱点は、ラテラル思考しか持っていないと人に伝わらないこと。人に説明するには、ロジカルシンキングを用いる必要がある。さもないと、何を言っているのかわからない怪しい人と思われかねない。
クリティカルとは疑うこと。すなわち、クリティカルシンキングはとてもシンプルで、ただ疑問を持つだけでいい。
自分の中でこうだと思うことに対して、なぜそう思うのかと考えるのだ。できれば「なぜ」を5回ぐらいは繰り返してほしい。
ただ、「〇〇で決まっているから」といった回答はNG、つまりノーカウントだ。これでは思考は少しも進んでいない。
たとえば「人を殴るのは、なぜいけないことなのか」という問いに対して、「法律で決まっているから」と答えるのはダメ。「常識だから」も、「常識で決まっているから」ということなのでもちろんNGだ。
それ以外であれば、どんな答えでも構わない。人が傷つくから、自分がダメだと思うからなど、自由に回答していい。要は、自分なりの理解があるかが重要なのだ。仕事でも、「〇〇で決まっているから」という理由を引き合いに出すシーンによく出くわす。最も多いのは、「業界の常識だから」という声だ。
CRMの世界にいると、実にさまざまな業界の人と話すが、たいていの人が解決できない問いにぶつかると、「うちの業界は特殊だからね」と言う。
しかしたいがいにおいて、特定の業界だから無理ということは存在しない。
原因はシンプルで、聞けば聞くほど特殊なものは何もなく、ちょっとしたことで解決できることばかり。固定観念にとらわれているのは、何とももったいないことだと思う。何かを考えるときは、やみくもに考えるのではなく、思考の流れをコントロールするのが大事である。そうすると、仕事のアウトプットの質が格段に上がる。思考した数だけ、可能性がある。
『バーサタイリスト』 第4章 より 松原晋啓:著 講談社:刊
松原さんは、「ロジカル」「ラテラル」「クリティカル」の3つで思考する力は、知識が豊富なほど高まってい
き、知識が増えるほど使いこなせるようになるので、バーサタイリストになった暁には思考力はかなり上がる
と指摘します。
このようなフレームワークは、一度身につけてしまえば、一生ものです。
ぜひ、習慣にしてしまいたいですね。
「ギブ&ギブ」が成功のカギ!
松原さんは、高みを目指す人には、「ギブ」の意義についても学んでほしい
と述べています。
与えれば得られる。ギブ&ギブの考え方をわたしが学んだのは、インフラジスティックに在籍していたときだった。
ギブ&ギブは、インフラジティック社の方針だったのだ。初めて知ったときは、目から鱗だった。インフラジスティックスは、リッチクライアント(画面の生成や業務データの演算などの処理を、クライアント側で実行するWebアプリケーションの仕組み)を実現するためのツールセット(NetAdvantage)を販売する会社。
わたしは、リッチクライアントを体現する「ユーザーエクスペリエンス(UX)」を日本に広めて、製品を売る仕事を一手に担っていた。マーケティングの世界では、カスタマーをインフルエンサー1割・アーリーアダプター2割・一般ユーザー7割と区分する。つまり、1割のインフルエンサーをいかに築き動かすかで、勝敗が決するのだ。
そこでわたしは、講演会に立つ機会を増やした。なぜなら、講演会に来るような人は、知識が深く感度の高いインフルエンサーだからだ。講演会に登壇する真の目的は、聴衆に正規の製品を無料でプレゼントすること。製品を無料で使えるとなると、人は好感を抱きやすくなる。
程なくして、NetAdvantageの評判は好評ばかりが拡散し、アーリーアダプターも一般ユーザーも、どんど導入し始めた。
結果、インフラジスティック・ジャパンは1年目から大きく飛躍できたのである。もちろんビジネスなので、見込みユーザー全てに無償提供するわけにはいかず、抽選のかたちを取ったが、与えるべき人には与えること。そうするとよい循環が生まれるのだと、身をもって体感した。
ギブ&ギブの手法は、今の会社でも役立てている。
雑誌『経済界』2024年3月号で「関西経済の底力」特集に選出され、大阪メトロの中吊りに掲載されたときも、中吊りの写真を撮ってインスタグラムにアップすると、「膳」の雑煮が半額になるキャンペーンを実施した。
悪目立ちしないようにチューニングする必要があるが、ポジティブな印象を与えるのであればどんどん目立ったほうがいい。
雑煮はコストが高く、店舗の人間からは反対されたが、キャンペーンは本社のお金でやるということで合意を得た。結果は上々。やはり、得になることには、人は食いつくのだと再確認した。本社のコストは発生したが、投資した以上のもを与えてもらっている。雑煮という強みをアピールできたので、認知拡大にも拍車がかかっただろう。
好意には返報性がある。人は、誰かから何かをされると好意がある証だと感じ、好意を返そうと思うものなのだ。だからこそ、先に与えるのが大事なのである。与えれば、必ず何かを得られる。
ここまで一度も潰れずに会社を継続できているのは、ギブ&ギブの精神があるからこそといっても過言ではない。ギブ&ギブは、相手との関係だけでなく自分に対しても同様に作用する。
自分にも知識や経験を与え続けること。そうすると、挑戦の機会をもらったり頼りにされたり、しかるべきものが得られるだろう。テイク、つまり結果を求めると、自分だって成長しなくなるので注意したい。
目の前の欲にとらわれていてはバーサタイリストにはなれないし、お金ももらえない。そして、自分の成長さえ期待できなくなるのだ。そうはいっても、我欲はそう簡単には手放せない。我欲を完全に捨てられたら、バーサタイリストにだって経営者にだってなれる。
ただ、欲の量と質をコントロールするのは、誰でもできるだろう。
欲を抑え、欲の矛先を自分ではなく他人に向けるのだ。誰かのための欲であれば、まだ救いようがある。そもそも人間は、承認欲求を塊だ。自分で自分を認められず、誰かに認められたいと思うから、我欲が生まれる。
プライドも我欲が原因だろう。プライドではなく、誇りを持ちたいものだ。誇りは自分で自分を高める礎になる。
また、誇りがあると、自然と他人に何かをしてあげたいと思うようになるものだ。他人のために何かをしたいという気持ちに承認欲求がくっつくと、よい循環が加速する。欲から逃れ、器を大きくする方法はたった1つしかない。純粋な気持ちで目の前のことに打ち込む、それだけだ。
純粋さが大事なのは、有名な漫画を例に取っても明らかだろう。
『ドラゴンボール』では、純粋な心がないとスーパーサイヤ人にはなれない。
『鬼滅の刃』でも、主人公は最後まで柱になっていないだろう。妹を人間に戻したいという純粋な目的のために突き進んでいたからこそ、鬼に打ち勝てたのだと思う。
そもそも漫画の主人公で、欲にまみれている人はいない。欲深い人間は、鬼そのものだ。鬼に勝てるのは、純粋な心のみ。漫画が全てを物語っている。人は一人では生きていけない。生きている限り助けられている。
わたしは一人で生きているような気になったこともあったが、ホームレス時代でさえ、日雇いの仕事があったから食いつなげたのだ。似た境遇の人たちとも、支え、支えられる関係だったのだと、今になるとよくわかる。全て失い、何とか生きてきたので、わたしは骨の髄まで沁みていて忘れることはないが、人はまず、生きているだけで感謝すべきだと思う。
五体満足ならなおのことだ。当たり前になっているようなことこそ、何より感謝すべきだと思う。純粋な心で感謝すると、我欲は消える。日本は本来、万物に神様が宿っているという考え方を持った素晴らしい国である。他人にも神様がいると考え、日本人はおもてなしの心を持つようになった。海外の国でも他人に対するリスペクトはあるが、物に対するリスペクトはない。
日本人のほうが、はるかに澄んだ心を持っているはずなのだ。日本人であれば、我欲なんてすぐに手放せるのだ、本来は。海外の人が日本を美しいと言うとき目に浮かべているのは、ほとんどの場合、今の日本ではなく昔の日本だ。海外で最も評判になるが、「日本では、落とした財布がかえってくる」ということだ。
また、武道では「礼に始まり、礼に終わる」と教えるが、礼の精神を説く格闘技は日本にしかない。
古代中国の思想家は「倉廩(そうりん)実ちて礼節を知る(生活が安定してはじめて、礼儀を重んじるゆとりが生じるという意味)」という言葉を残したが、日本人は本来、衣食が足りなくても礼節を知っている稀有な民族なのである。日本人は、きれいな心をいつ失ったのだろう。ゴミが転がっていてもなんとも思わない人が多いのは、実に情けなく思う。メディアやSNSで、我欲の塊のような人間がもてはやされているのも残念極まりない。
少なくとも高度経済成長には、日本の美しい部分が残っていただろう。「自分を捨てても新しいものを作ってやる」という我欲のない気概で満ちていたからこそ、高度成長を成し遂げられたのだろうと思う。
バブルのころに、我欲が育ってしまったのだろうか。ここまで読んでくれたあなたには、日本の心、日本の文化を大事にしてほしい。
海外の文化をすんなり受け入れる器があるのはいいことだが、日本は、心だけはグローバル化してはいけない。
日本のよき心を取り戻せば、可能性は格段に広がるだろう。きっと、バーサイリストへの道のりを一気に駆け昇れる。『バーサタイリスト』 第5章 より 松原晋啓:著 講談社:刊
「情けは人のためならず」
この言葉通り、他人にしてあげたことは、巡り巡って、結局自分自身に返ってくるということです。
人のため、世の中のためになりたい。
その純粋な想いから、与えて与えて与えまくる。
それを続けていくことが、バーサタイリストになる秘訣です。
さらには、日本の礎を築いた伝説的な経営者たちに近づく扉さえ開いてくれるわけですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
松原さんは、天才というのは、もともと天から才能を授かっている人に対する称号
ではなく、行動し、努力して継続するからこそ、結果的に才能を得た人
だとおっしゃっています。
1万人に1人言われている「バーサタイリスト」である松原さんもしかり、どの分野でも、超一流と呼ばれる人たちは、例外なく、人並み外れた努力を積み重ねてきた人たちです。
努力を継続するために、もっとも必要なもの。
それは、“情熱”です。
夢中になれることを見つけること。
そして、そのことのみに専心し、極めること。
「バーサタイリスト」への道は、そこから始まります。
興味のある方は、ぜひ、本書を手にとって頂き、そのエッセンスに触れてみてください。
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