【書評】『アイデアのちから』(チップ・ハース、ダン・ハース)

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 お薦めの本の紹介です。
 チップ・ハースさんとダン・ハースさんの『アイデアのちから』です。

 チップ・ハースさんは、スタンフォード大学ビジネススクールの教授です。
 ご専門は、組織行動論です。

 ダン・ハースさんは、ビジネスコンサルタントです。
 デューク大学社会企業アドバンスアドバンスマネジメント・センターのシニア・フェローです。

「記憶に焼きつくアイデア」には、理由があった!


 世の中に、あふれているさまざまなモノや言葉、映像。
 それらは、もとをたどれば、誰かの考えついたアイデアから生まれたものです。

 では、「記憶に焼きつくアイデア」とは、どのように組み立てられるものなのでしょうか。

 著者は、「成功するアイデアの6原則」を挙げています。

  1. 単純明快である(Simple)
  2. 意外性がある(Unexpected)
  3. 具体的である(Concrete)
  4. 信頼性がある(Credentialed)
  5. 感情に訴える(Emotional)
  6. 物語性(Story)
 それぞれの項目の頭文字をとって、SUCCESs(成功)と覚えます。

 多くの場合、伝える側は、伝えようとする事柄に関する知識を豊富にもっています。
 一方、その事柄に無知である伝える相手側の状態をうまく想像できないという落とし穴があります。

 知っているがゆえに、その知識がない状態を知ることができないというジレンマ。
 この状態を、“知識に「呪い」をかけられる”と表現しています。

 本書は、「知の呪い」から逃れ、記憶に焼きつくアイデアを生み出す方法を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「単純明快」であること


「単純明快」とは、どんなものなのでしょうか。
 著者は、「米国陸軍」を例に挙げています。

 米国陸軍が行動を起こす際に立てる膨大で綿密な計画は大抵の場合、まったく役に立ちません。
 結局は、敵の出方次第となり、その場その場で対応しなければならないからです。

 慌しく混乱した予測不能の状況のなかで、アイデアを相手の記憶に焼きつけるのは難しい。それをうまくやってのけるための第一歩は、まず単純明快に伝えることだ。ただし「やさしく噛み砕く」とか「ひと言で済ます」という意味ではない。単純明快に伝えるために、素っ気なく話す必要はない。ここで言う「単純明快である」とは、アイデアの核となる部分を見きわめることだ。
「核となる部分を見きわめる」とは、アイデアから余分なものをはぎとって、一番大切な本質をむき出しにすることだ。核となる部分に達するためには、表面的な要素や本筋と関係ない要素を取り除く必要がある。そこまでは簡単だが、大切は大切でもいちばん大切ではないアイデアを排除することは難しい。「司令官の意図」によって、将校は作戦の最重要目標を強調する。「司令官の意図」は、一つのことしか言っていない点に価値がある。北極星が5つもあっては困るように、「最重要目標」や「司令官の意図」が5つもあっては困る。核となる部分を見きわめることは、「司令官の意図」を作成することに等しい。つまり、最も大切な見識を際立たせるために、多くの素晴らしい見識を切り捨てるのだ。フランスの作家で飛行機乗りだったアントワーヌ・ド・サンテグジュペリは、設計の的確さをこんなふうに定義している。
「設計士が完璧さを達成したと確信するのは、それ以上付け加えるものがなくなったときではなく、それ以上取り去るものがなくなったときだ」
 単純明快なアイデアの設計士も、そういう志を持つ必要がある。アイデアが本質を失わないよう、どこまで絞り込めるかを考えなければならない。

 『アイデアのちから』 第一章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 飯岡美紀:訳 日経BP社:刊

 細かく詳しく解説すれば、相手の頭にインプットされるかといえば、まったくそうではありませんね。

 一番伝えたい「核となる部分」を見きわめて、それを取り出し、いかにストレートに伝えるか。
 それが、良いアイデアを生み出す秘訣です。

好奇心の「隙間理論」


「意外性がある」ということについて。
 伝える相手の一瞬の驚きを、持続的な関心へ移行させるためには、どうしたらいいでしょうか。

 行動経済学者ジョージ・ローウェンスタインは、好奇心が生じるのは、自分の知識に隙間を感じたときだと指摘し「隙間理論」を提唱しました。

 ローウェンスタインによると、隙間は苦痛を生む。何かを知りたいのに知らないというのは、どこかが痒(かゆ)くて掻(か)きたくなるのと同じだ。その苦痛を取り除くためには、知識の隙間を埋めなければならない。くだらない映画を見るのは苦痛なのに、我慢して最後まで見るのは、結末がわからない苦痛の方がはるかに大きいからだ。
 この興味の「隙間理論」こそ、いくつかの分野が熱烈な興味を掻き立てる理由だろう。つまり、そうした分野はおのずと知識の隙間を生み出す。映画についてもマッキーが同じことを言っている。
「物語の働きは、疑問を提示し、状況を曖昧なままにすることである」
 私たちは、映画を観れば「次はいったい何が起こるんだろう?」と思い、ミステリー小説を読めば「誰がやったんだろう?」と思う。スポーツの試合を見れば「誰が勝つだろう?」と思い、クロスワードパズルをすれば「『精神分析学者』がヒントの6文字の単語とは何だろう?」と思う。そして、ポケモン・カードを集める子どもは、「足りないのはどのキャラクターかな?」と思うわけだ。
 隙間理論は、ある重要なことを示唆している。つまり、隙間を埋める前には、隙間をつくる必要がある、ということだ。私たちは、ついたくさんの事実を告げたくなる。だがその前にまず、その事実の必要性を相手に認識させる必要がある。ローウェンスタインによると、メッセージの必要性を相手に納得させるための秘訣は、まず欠けている知識に光を当てることだ。相手の知識の隙間を突く質問やクイズでもいいし、あなたの知らないことを他の誰かが知っていると指摘してもいい。選挙やスポーツ、ミステリーのように、結末のわからない状況を提示したり、結末を予想させる手もある(そうすれば、「何が起きるのか」と「自分の答えは合っていたか」という2つの知識の隙間を生み出すことができる)。

 『アイデアのちから』 第二章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 飯岡美紀:訳 日経BP社:刊

 雑誌や漫画の連載や連続ドラマも、この「隙間理論」で読者や視聴者の興味を引きつけています。

 すべてを出してしまうのはなく、相手にとって「謎」な部分を残しておく。
 それが、アイデアを持続させるためのコツです。

記憶の「マジックテープ理論」


「具体的」であることが、アイデアを記憶に焼きつける。
 それはなぜでしょうか。

 著者は、その答えは、人間の記憶の性質にあると述べています。

 デューク大学の認知心理学者デービッド・ルービンは、脳に記憶することは、ファイルを書類棚に入れるのと同じだが、その書類棚は、記憶の種類に応じて全く異なることを実験で明らかにしています。

『カンザス州の州都を思い出すこと』と『「ヘイ・ジュード」の出だしの歌詞を思い出すこと』は、脳の全く違う場所から引っ張り出さなければならないということです。

 カンザス州の州都(トピーカ)を思い出すのは、抽象的な作業だ(あなたがトピーカの住民なら別だが)。対照的に、「ヘイジュード」の歌を思い浮かべると、ポール・マッカートニーの声とピアノの音が聞こえてくるだろう(「ヘイ・ジュード」を知らない人は、この本を買うよりビートルズのアルバムを買った方がいい)。
 モナリザの記憶は、あの謎めいた微笑の視覚的イメージを眼前に呼び起こす。子どもの頃の家を思い出すと、匂いや音、光景などさまざまな思い出も一緒に呼び起こされる。家の中を駆け回る自分に戻ったり、両親がいつも座っていた場所を思い出す人もいるだろう。
「真実」の定義を呼び起こすのは、ちょっと難しい。「真実」の意味は何となくわかるが、モナリザのように記憶から引き出せる既存の定義がないため、自分なりの定義を考え出すしかない。
「スイカ」の定義も悩むところだ。「スイカ」という言葉は、ただちに感覚的記憶を呼び覚ます。緑に黒い縞(しま)模様の外皮、赤い果肉、甘い匂いと味、丸ごと手に持ったときの重み――。ところが、これらの感覚的記憶をひとつの定義にまとめようとすると、ギアが入れ替わった感じがするのではないだろうか。
 つまり、記憶は単一の書類棚ではないのだ。むしろそれは、マジックテープに似ている。マジックテープの両面をよく見ると、一方には無数の小さなフックが、もう一方には無数の小さな輪がついている。この両面を押しつけあうと、大量のフックが輪にひっかかる。マジックテープはこうしてくっつく。

 『アイデアのちから』 第三章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 飯岡美紀:訳 日経BP社:刊

 脳には、膨大な数の“輪”が用意されています。
 アイデアについているフックの数が多ければ多いほど、記憶にひっかかるとのこと。

 視覚、聴覚、嗅覚・・・・。
 さまざまな感覚的記憶に訴えかけるものが、長く鮮明に記憶されるアイデアです。

受け身でない「聴き手」


 良いアイデアには、「物語性」も必須な要素です。

 私たちは話を聞くとき、一種の地理的なシミュレーションを行います。
 つまり、物語を聞きながら頭の中でその主人公の行動を再現しています。

 起こった出来事を順番に遡(さかのぼ)ってたどる「事象シミュレーション」を行う。
 そのほうが、問題解決のプロセスとして、将来の好ましい結果だけを想像する(結果シミュレーション)よりもはるかに役に立つという実験結果もあります。

 頭の中でシミュレーションすると、なぜうまくいくのか。それは、出来事や経緯を思い描くと、実際に活動していたときと同じ脳の部位が呼び覚まされるからだ。脳のスキャンをすると、光の点滅を想像すれば脳の視覚分野が活動し、誰かに肩を叩かれるところを想像すれば脳の触覚分野が活動する。頭の中でのシミュレーション活動は、頭の中だけで済むわけではない。bやpの音で始まる単語を想像すると唇が動いてしまうし、エッフェル塔を想像すると目が下から上へ動く。さらに、頭の中でシミュレーションすると内臓まで反応する。「これはレモン汁だ」と思いながら水を飲むと、唾液がたくさん出るし、もっと意外なのは、レモン汁を飲みながら「これは水だ」と思えば、唾液の分泌量が減る。
 頭の中でシミュレーションすると、感情を処理しやすくなる。これは、恐怖症(蜘蛛(くも)、人前で話すこと、飛行機に乗ることなど)の一般的療法としても用いられている。まず、患者をリラックスさせて不安を抑えたうえで、恐怖の対象物を思い浮かべさせる。最初は、恐怖の対象を取り巻くものから想像させる。例えば、飛行機恐怖症の人なら空港へ車で向かうところだ。その後、少しずつ恐怖の核心に近づいていく(「飛行機が滑走路を進んでいます。エンジン音がだんだん大きくなってきました・・・・」)。想像が不安を生むたびに少し休み、リラックス法を用いて平静さを回復する。
 注目すべきは、一貫して出来事そのもの、結果ではなくプロセスだけを思い出させている点だ。恐怖が去ったらどんなに幸せだろうと想像して、恐怖症を克服できた人はいない。

 『アイデアのちから』 第六章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 飯岡美紀:訳 日経BP社:刊

 シミュレーションを行う、つまり、頭の中で練習する。
 それだけで技術が飛躍的に向上するという実験結果もあります。

 物語には、その場にいるのに準じた効果、「臨場感」があります。

 伝える相手にその臨場感をいかに与えることができるか。
 それが成功するアイデアを生むポイントです。

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「記憶に焼きつくアイデア」には、法則性があります。
 逆にいうと、その法則に従えば、記憶に焼きつくアイデアを作り出せるということ。

「優れたアイデアは、クリエイターなど、ごく一部の発想力のある人にしか生み出せないもの」

 そう考えている人は多いですが、それは単なる思い込みといえます。

 とにかく、実行あるのみ。
 数をこなすことが重要です。

 本書を参考に、好奇心を持って、アイデアを創り出そうとする意識を高めたいですね。


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