【書評】『シンプルに考える』(森川亮)
お薦めの本の紹介です。
森川亮さんの『シンプルに考える』です。
森川亮(もりかわ・あきら)さんは、起業家・経営者です。
現在は、自ら設立された動画メディア運営会社の社長を務められています。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のLINEの生みの親として有名な方です。
「何が本質か」を考え尽くすこと
会社にとっていちばん大切なことは、「ヒット商品をつくり続けること」です。
そのために経営者がすべきことは、ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める。そして、彼らが何ものにも縛られることなく、その能力を最大限に発揮できる環境をつくり出す
こと。
森川さんの経営方針は、つねにこの合理的でシンプルな考えで貫かれています。
シンプルに考える――。
これが、僕の信条です。
悩むのをやめた、と言ってもいいかもしれません。
悩むとは、なんとなく「あれも大事、これも大事」と迷っていること。結局、何も決められず、行動に移すことができません。あるいは、「あれもこれも」と力を分散させてしまう。しかし、結局、人間が一度にできることはひとつだけ。結果を出すためには、ひとつのことに全力を集中させなければなりません。だから、悩んでいてはダメだと思うのです。
大切なのは「考える」こと。人が悩むのは、「表面的な価値」に惑わされているからです。だから、「何が本質か?」を考え尽くさなければなりません。そして、最も大切なことを探り当てて、それ以外のものは捨て去る。シンプルに考えなければ、人は何も成し遂げることができないのではないでしょうか?会社も同じだと思います。
「表面的な価値」を「本質」と取り違える愚(ぐ)を犯してはなりませんし、人材、資金、時間などの限られたリソースを、「あれも大事、これも大事」と分散させてはなりません。「ユーザーのニーズに応える」という「本質」に全力を集中させる。それ以外に、ビジネスを成功させる方法はないと思うのです。『シンプルに考える』 はじめに より 森川亮:著 ダイヤモンド社:刊
常識にとらわれず、「本質的な価値」を追い求める。
その作業を地道にこなしてきたからこそ、LINEを短期間で、世界に数億人のユーザーに利用されるサービスに育て上げることができたのですね。
本書は、森川さんが経験から得た、ビジネスに最も大切な「シンプルに考える」ための具体的なノウハウをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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ビジネスの「シンプルな本質」とは?
変化の激しい今の時代。
将来どうなるのか、誰もが不安を抱えて生きています。
森川さんは、「不安は無理に消そうとせず、利用することで、生き残る道が開ける」と強調します。
実際に、明日何が起こるかわからないのですから、不安を消そうとしても消えはしません。それよりも、「それが現実なんだ」「それが自然なことなんだ」と受け止めることが大切だと思っています。なぜなら、不安だからこそ、自分なりに先を見通す努力をして、何か変化があった時に素早く対応できるように準備をするからです。不安には、そんな効用があると思うのです。
むしろ、危険なのは、漠然(ばくぜん)とした安心を求めることではないでしょうか?
大企業に就職すれば一生安泰(いっしょうあんたい)。
偉い人の言うことに従えば大丈夫。
出世すれば安全だ・・・・・。
僕は、こうした生き方ほど危険なことはないと思います。
なぜなら、ビジネスの本質からズレているからです。ビジネスとは何か?
とてもシンプルなことです。
求める人と与える人のエコシステム(生態系)――。
これが、ビジネスの本質です。
お腹が空いた人に、おいしい料理を出す。
冬の寒い日に、あたたかい衣服を差し出す。
手持ちぶさたな人に、手軽なゲームを提供する。
どんなことでもいい。人々が求めているものを与えることができる人は、どんな時代になっても生きていくことができる。それが、ビジネスのたったひとつの原則だと思うのです。
大切なのは、人々が本当に求めているものを感じ取る能力と、それを具体的なカタチにする技術を磨き続けること。そして、人々が求めているものが変化したときには、それをいち早く察知(さっち)して新しいものを差し出すこと。そこにひたすら集中すること以外に、不安から離れる方法があるとは思えません。
大企業に勤めれば、偉い人に従えば、出世すれば・・・・・。
このような漠然とした安心にしがみついていると、いずれエコシステムから排除されてしまう。それが、自然の摂理(せつり)ではないでしょうか?『シンプルに考える』 第1章 より 森川亮:著 ダイヤモンド社:刊
ビジネスの本質は、「人々が求めているものを与えること」。
どんなに文明が進歩し、技術が発達しても、それは変わりません。
守るべきは、やり方や商品そのものではなく、本質の部分。
シンプルに、こだわっていきたいですね。
「空気」を読まない
「すごい人」たちの共通点。
それは、「空気を読まない」ことです。
サッカーにたとえれば、野性的なフォワードのような存在です。
ゴールへのイメージが明確に見えたら、自分でドリブルをしてシュートを打ちにいく。逆サイドでキャプテンが「パスを回せ」とサインを送ってもお構いなし。自分の頭でゲームの全体状況を把握して、「これがベスト」だと確信する方法でゴールを狙うのです。だから、誤解を恐れずに言えば、「すごい人」には、大企業にうまく馴染(なじ)めなかった人が多いように思います。
大企業で、上司のサインを無視して、自分の判断でシュートを放てばどうなるでしょうか? ゴールを外したときはもちろんのこと、たとえゴールを決めても批判されます。「あいつは自分勝手だ」「あいつは使いづらい」・・・・・。周囲の人たちもその空気を敏感に察知して、彼らを遠巻きにし始めます。それでも、彼らはプレーの仕方を変えようとはしません。
なぜなら、恐れているからです。
何を恐れているか?
ユーザーです。
ユーザーが求めているものから、ほんの「1ミリ」ズレただけでも、つくり上げたプロダクトは相手にしてもらえない。そんな、マーケットの厳しさが骨身に沁みているのです。
だから、彼らは「ユーザーが求めているものは何か?」を確信がもてるまで考え抜いて、絶対に妥協しようとはしません。もちろん、いろんな人の意見に耳を傾け、さらに自分のプロダクト・イメージを磨こうとします。しかし、職場の空気に合わせるような曖昧なことはしない。職場で批判されることよりも、ユーザーのニーズからズレることを恐れているからです。僕はこれこそプロフェッショナルだと思います。
こういう人でなければ、ずば抜けたプロダクトをつくり出すことはできません。
「いいもの」をつくるために、いちばんやってはいけないのは調整です。「AさんのアイデアとBさんのアイデアを組み合わせよう」と、「あれもこれも」と機能を付け加えて、複雑で使いづらいものを生み出してしまう。あるいは、「上司の好みに合わせよう」と、焦点のぼやけた曖昧なものを生み出してしまう。それでは、ユーザーの心をつかむことなど、できるはずがありません。『シンプルに考える』 第2章 より 森川亮:著 ダイヤモンド社:刊
高品質で、多機能ではあるけれど、使い方がいまいちよくわからない。
日本のメーカーが作る製品は、とかくそのようなものが多いです。
日本の組織特有の、「空気を読む」文化の弊害といえるでしょう。
このプロダクト(製品)は、誰のためのものなのか。
そこにとことんこだわりを持っていたいですね。
「統制」はいらない
IT業界のように、フルスピードで走る現場のリーダーに求められること。
それは、「的確かつスピーディな意思決定」です。
では、的確かつスピーディな意思決定をするには、どうすればいいか?
僕の答えはシンプルです。「数」を絞ればいいのです。
僕は、意思決定には二つあると考えています。
自分で決める。そして、「決める人」を決める。この二つです。
LINE株式会社にはさまざまな事業領域があります。僕は凡人ですから、そのすべてに精通することなどとてもできません。にもかかわらず、すべての意思決定をしようとすれば、「クオリティ」「スピード」ともに劣化するに決まっています。だから、自分で決めることは最小限に絞り込む。社長にしかできない意思決定に集中するほうがいいと思うのです。
そして、「決める人」を決める。その事業領域について、僕より強い人に権限を移譲して、すべての意思決定を一任するのです。誰に任せるのか? これこそが、リーダーの最も重要な意思決定だと考えているのです。そもそも、意思決定はできるだけ現場に近いところで行ったほうがいい。
なぜなら、彼らにこそユーザーに最も近いからです。ユーザー・ターゲットに近い感性をもち、常にユーザーの気持ちを考えている彼らこそ、最高の意思決定者であるに決まっています。
そこに、ユーザーから遠く離れた社長がしゃしゃり出ても意味がありません。たとえば、僕ももう「おじさん」です。女子高生向けのサービスのデザインについて、「この赤はちょっと違うんじゃないかな?」言っても邪魔なだけです。現場も「やってられない」となってしまう。
それよりも、現場に権限を渡す。そして、自由に思う存分やってもらう。もちろん、自由には責任が伴いますから、結果責任は取ってもらわなければなりません。自由だけどシビア。それが現実です。しかし、だからこそ仕事にも「熱」がこもるというものです。これは、戦略的にも正しい。
興味深い話を耳にしました。近年、軍隊の指揮命令のあり方が大きく変わっているそうです。かつては、世界中の軍隊が厳格な中央統制を採用していましたが、近年は現場に権限委譲するようになっているのです。理由は明確。ゲリラ戦、局地戦がメインになっているからです。戦場ごとに事情はまったく異なります。だから、中央統制ではとても対応しきれないのです。
これは、現代のビジネスにも当てはまるのではないでしょうか?
なぜなら、ユーザーのニーズが多様化しているからです。いわば、事業領域ごと、プロダクトごとに局地戦を戦っているようなもの。それぞれ、ユーザーが異なり、ニーズも異なる。当然、作り手に求められる完成もそれぞれ異なります。であれば、判断は現場に任せるのが正解。中央統制に意味はないのです。だから、僕の仕事は「決める人」を決めること。
そして、すべてをその人に任せて、口をはさまない。
口を出すとすれば、それは辞めてもらうときです。もしも、「決める人」を変えても、結果が出なければどうするか? そのときは、僕が責任をとって辞める。
話は、とてもシンプルなのです。『シンプルに考える』 第4章 より 森川亮:著 ダイヤモンド社:刊
「あなたに任せる」
そう言いつつ、やたらと口を挟んでくる上司。
会議ばかり多くて、物事がなかなか前に進まない。
そんな動きの遅い組織には、このようなリーダーがトップに居座っているものです。
リーダーの仕事は「決める人」を決めること。
そして、「任せる」と決めたら、とことん信頼して任せること。
あくまで、シンプルにこだわりたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
一流のスポーツ選手の動きは、美しく、しかもシンプルです。
まるで水が流れるようで、一分のスキもありません。
その理由は、「ムダな動きがない」からです。
ビジネスについても同じことがいえます。
一流の企業、経営者の考え方はシンプルで、一貫しています。
世の中は、技術の進歩とともに、どんどん複雑に変化しています。
必要な知識やスキルは増え続け、それを学ぶための方法やサービスも同様に増え続けます。
一方で、ビジネスの本質的な部分は、どんなに文明が進化しても変わらないものです。
複雑化する社会だからこそ、求められるのは明快さです。
大切なのは、自分なりの信念を持つこと。
そして、その信念に基づいて、シンプルな決断を下し続けること。
ビジネスだけでなく、人生一般についていえる成功の秘訣ですね。
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