【書評】『成功はすべてコンセプトから始まる』(木谷哲夫)
お薦めの本の紹介です。
木谷哲夫さんの『成功はすべてコンセプトから始まる』です。
木谷哲夫(きたに・てつお)さん(@petsuji01)は、ビジネス・コンサルタントです。
マッキンゼー・アンド・カンパニーに十年間在籍し、数多くの新規事業戦略立案、業務改善プロジェクトを手掛けられた経験をお持ちです。
なぜ、「コンセプト」が必要なのか
成果を出す人と、そうでない人。
両者の間の大きな差は、「何か」の実現のために本当に集中しているのかどうか
です。
出来たときのことを考えると、ワクワクする。
実現すれば、良いことが続いていくはず。
そういう気持ちにさせる、将来のあるべき姿が、「コンセプト」です。
コンセプトとは、「自分が実現したいことの包括的なイメージ」。
新規事業において、いま最も必要なのは、「コンセプト立案力」です。
iPhoneやフェイスブックなど、近年大ヒットを遂げている商品や製品開発。
それらは、品質や性能ではなく、コンセプトそのものが受け入れられているものばかりです。
日本人は、この「コンセプト立案力」が元々弱いわけではありません。
木谷さんは、きちんと取り組めば身につけられる能力
だと強調します。
本書は、「コンセプト立案力」の高め方、集中する対象である「何か」をどうやってつくっていくべきかを具体例を交えて解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「コンセプトありき」のアプローチ方法
「良いコンセプト」とは、チャレンジしがいのあるもので、実現すれば大きなインパクトをもつもの
です。
とはいっても、まったく実現できないものは、ただの妄想でしかありません。
「インパクト」と「実現可能性」の二つの軸でマトリックスを描くと、目標に到達するには、以下の二通りのまったく違った道筋があります(下図1−1を参照)。
- (A) コンセプトありき(コンセプト・ドリブン)のアプローチ
- (B) 実現可能性ありき(実現可能性ドリブン)のアプローチ
図1−1 大きなコンセプトを実現する二つの道筋
(『成功はすべてのコンセプトから始まる』 第1章 より抜粋)
木谷さんが提唱しているのは、インパクトの大きい(A)「コンセプト・ドリブン」です。
大切なことは、実現できるかどうかに縛られないことです。予見を持たず、インパクトを優先して、あるべき姿、到達点を鮮明に描き切ることに集中してください。明確なゴールを描けたら、そのあとで、実現段階で直面するさまざまなハードルを想定し、問題を解決していけばよいのです。
インパクトが大きければ大きいほど、そのコンセプトを実現可能かどうかという点から見れば、大きな疑問符がつくことでしょう。しかし、そのぶん確実にチャレンジのしがいがありますし、困難を克服した暁(あかつき)には、競争相手に圧勝できるというわけです。
非常に面白そうに見えるのに、これまで誰もやっていなかったことには、できない理由がちゃんとあるものです。しかし、かつてできなかったからといって、いまもできないとは限りません。技術は進化していますし、環境も変わっています。
大切なのは、それが本当に実現したらどうなるか、です。顧客や市場の目をわっと引くかどうか。その目的に向かってみんなで走り出したくなるかどうか。インパクトの面で最初から「日和(ひよ)って」しまっては、何の感動も生まれないのです。『成功はすべてコンセプトから始まる』 第1章 より 木谷哲夫:著 ダイヤモンド社:刊
コンセプトを立案する上で、まず考えるべきなのは、
「どれだけのインパクトを与えられるか」
「どれだけ人を惹き付けることができるか」
一見、実現不可能なアイデアを、「どうすれば実現できるか」という視点から徹底的に掘り下げる。
それが、コンセプト立案のカギになります。
「オリジナル」より「リソースフル」を目指そう
コンセプト立案は、以下の四つのステップを通ります。
- ステップ1・・・コンセプトの持つパワーを理解する
- ステップ2・・・アイデアをつくる
- ステップ3・・・持続できる将来像を描く
(うまくいかなければ、ステップ2に戻る) - ステップ4・・・人に伝える、人を巻き込む
ステップ2の「アイデア」のつくり方で、最もありがちな失敗パターン。
それは、「アイデア出しの段階でハードルを上げすぎること」です。
アイデアのオリジナリティにこだわるのは、失敗の第一歩。
木谷さんは、アイデアはあくまでもコンセプトの一部にすぎないと強調します。
木谷さんは、クリエイティブな能力を磨くため、「リソースフル」な人になることを勧めています。
リソースフルな人とは、「発想するためのいろいろな経験値の多さ、引き出しの多い人」のことです。
クリエイティブとは、オリジナルを目指してこぼれ落ちたもの、オリジナルに劣るものということではありません。両者はまったく種類の違うものです。
クリエイティブな能力とは、「既存のものの組み合わせ」により面白いものが発想できる能力です。つまり、そこへ至る道筋としては、オリジナルからではなくリソースフルから、絵(下図2-2を参照)で表せば、上からではなく、下から目指すというイメージです。
まったく新しいことをゼロから生み出そうとするのではなく、いかに自分なりの新しい組み合わせを発見するかが大事です。
つまり、クリエイティブになるためには、まず、「リソースフルな人」になって自分の引き出しを増やした後、その中からいろいろな組み合わせを発想していくのが最もいい方法だと考えています。『成功はすべてコンセプトから始まる』 第2章 より 木谷哲夫:著 ダイヤモンド社:刊
図2-2 オリジナルを目指さない
(『成功はすべてのコンセプトから始まる』 第2章 より抜粋)
まったくの「無」から新しいものを作り出す必要はありません。
すでにあるものや経験から導き出せるものを組み合わせてアイデアを生み出す。
それが、必要とされる「クリエイティブな能力」です。
携帯電話とインターネットの組み合わせ、「iPhone」はその典型的な例です。
「シンク・ビッグ」で筋肉記憶を鍛える
「組み合わせる能力」を高める方法のひとつ。
それは、「筋肉記憶」を鍛えることです。
スキーなどのスポーツでも、いったん筋肉で覚えたものは、ずっと身体に残ります。
これを、「筋肉記憶」と呼びます。
ビジネスでも、筋肉記憶をつくることができます。自分が稲盛和夫さんならどうするだろう、ビル・ゲイツならどうしただろうと、大きな視点で「シンク・ビッグ」することの効果は大です。
ビジネススクールではケーススタディで、自分が社長だったらどうするか議論をします。そのときは何の役に立つのかわからない授業でも、半信半疑で取り組んでいると、いつのまにか筋肉記憶になっています。
(中略)
どんな組織でも、自分がもしトップだったらどうするか、真剣に考えてみるのはいい特訓になります。頭の中の練習ですから、失敗しても誰にも迷惑をかけません。
また、「人の真似をする」ことは練習するのに最高の方法です。特に、自分が目指すレベルの人を真似るのは、いい筋肉記憶をつくるベストな方法です。『成功はすべてコンセプトから始まる』 第2章 より 木谷哲夫:著 ダイヤモンド社:刊
人間は、どうしても、ひとつの固まった視点から物事を考えてしまいがちです。
もっと上の立場の人間の視点で考える。
組織の中で物事を考える場合、それも有効な手段になります。
本当に伝えたいことに集中する
コンセプト立案のステップ4、「人に伝える」についてです。
周りの人にうまく伝えることができなければ、インパクトを与えることができません。
どんなに優れたコンセプトでも、世の中に広がらないまま終わってしまいます。
木谷さんは、プレゼンテーションでは、「あなた自身」を伝えるということを忘れてはならないと述べています。
自分自身に、本当に伝えたいことがあるかどうかが大事
だということです。
木谷さんは、テレビショッピングで有名な「ジャパネットたかた」の高田明社長を例に挙げています。
高田氏はセールスの天才です。長年の経験で得られた「本気で伝えたいことに集中する」ということを実践しているのです。村上龍氏のテレビ番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)で、このように語っています。
「訓練より、自分が扱っている商品を好きになることだと思います。私も自分が好きになった商品でないと言葉が出ません。人間というものは、いいと感じるものはいいと心の中で自然に感じていますから、まずその商品に惚(ほ)れ込む。そして、下手でもいいからお客様の立場で、素直に自分の想いをトークで表現することが大事だと思います。何もうまく喋らなきゃいけないと感じる必要はないと思います。人と人ですから、心というものは伝わるものです」
高田社長は、「基本的に好きでない商品は表現できないので売らない」とも言っていますが、これはコンセプトのプレゼンでもまったく同じです。「お客はものすごく賢いので、すべてを見抜いてしまう」からです。
商品の機能を説明するのではなく、それがあったらこういうときに楽しい、それを使えばこんなことができる、あんなことができる、と本心から言えるかどうかです。
本当に惚れ込み、顧客の生活がどのように変わるのか、これからあなたが起こしうるインパクトを語ることが重要です。『成功はすべてコンセプトから始まる』 第4章 より 木谷哲夫:著 ダイヤモンド社:刊
枝葉末節(しようまつせつ)抜きに、この商品の魅力は何なのか。
「コンセプトは何なのか」だけを伝えることに、集中するということですね。
そのためには、自分自身が、そのコンセプトに惚れ込む必要があります。
人間同士のやりとりは、最後は気持ち。
「心」が伝わるかどうかです。
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今の社会は、インターネットを通じて世界がつながり、得られる情報も爆発的に増え、価値観が多様化しています。
付加価値の高い商品、機能の優れた製品を売り出せば、それだけでお客さんが買ってくれる。
そんな時代は、すでに終わっています。
「こんなものがあったらいいな」
「こんなことができたらいいな」
みんなの心の中にぼんやりとある、そんな欲求を具体的な形にした商品だけがヒットします。
まさに、「コンセプトそのものが商品である」といえます。
ビジネスの世界に限らず、世の中を大きく変える。
そのためには、「まずはコンセプトありき」の考え方が必要です。
硬直化した今の日本の社会にこそ、そんな根本的な発想の転換が求められていますね。
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