【書評】『フォーカス』(ダニエル・ゴールマン)

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 お薦めの本の紹介です。
 ダニエル・ゴールマンさんの『フォーカス』です。

 ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)さんは、米国の作家、心理学者、ジャーナリストです。

能力より大切な、「注意力」と「集中力」


 ゴールマンさんは、集中力(注意力)は、人生に多大な影響を及ぼすものなのに、あまり認識されておらず、重視もされていないと指摘します。

 集中力は、自己への集中、他者への集中、外界への集中、の三つに分類できる。よりよく生きるためには、三つの集中すべてに熟達することが必要だ。さいわいなことに、神経科学の研究や学校現場からは、注意力を向上させることは訓練によって可能である、という報告がある。注意力は筋肉とよく似ていて、あまり使わなければ退化し、鍛えれば向上する。本書では、適切な習慣によって注意力の向上が可能なこと、集中が苦手な脳でもリハビリ可能なことを紹介する。
 リーダーの立場にある人が結果を出すためには、三種類の集中力すべてが重要だ。自己への集中は、自分の直観や指針となる価値観に波長を合わせて賢明な判断を下すために必要だ。他者への集中は、他者との関係を円滑にするために必要だ。外界への集中は、より広い世界で生きていくうえで必要だ。自己への集中ができないリーダーは、舵取りを誤る。他者への集中ができないリーダーは、混乱を招く。より大きなシステムに向けた外界への集中ができないリーダーは、思わぬところで足をすくわれる。
 三タイプの集中力は、リーダーのみならず、すべての人にとって有益な能力だ。わたしたちは誰もが環境問題と直面し、現代生活の緊張や競争や誘惑だらけの環境に生きている。三つのタイプの集中力を活用してバランスのとれた生き方をすれば、幸福で充実した毎日を送ることができるだろう。

 『フォーカス』 第1章 より ダニエル・ゴールマン:著 土屋京子:訳 日本経済新聞出版社:刊

 集中力や注意力は、それ単体で使われることは、ほとんどありません。
 しかし、理解、記憶、学習、自己の感情を分析する能力、他者の感情を読む能力など、すべての知的活動に内在しています。

 あらゆるパフォーマンスの質を決める。
 そういっても過言ではありませんね。

 本書は、過小評価されている漠然とした心の能力である、集中力にスポットをあて、そのメカニズムや強化方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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集中力の高い人と、そうでない人の違い


 集中を乱す要因は、「感覚的なもの」「情動的なもの」に大別できます。

 感覚的なものは、音、形、色、味、においなど、五感を通して感じられる刺激です。
 情動的なものは、悩みごと、不安感、イライラなど感情からくる刺激です。

 では、集中力の高い人と、そうでない人の違いは、どこからくるのでしょうか。

 一つの目標に集中して他のすべてを無視する能力は、脳の前頭前野が支配している。前頭前野にある特定の神経回路が、脳に入ってくる信号の中で集中したいもの(メール)を増幅し、無視しようと決めたもの(隣のテーブルでしゃべっている人たちの声)を弱めようとするのである。
 集中力を保つには、気を散らす情動的要因を無視する必要があるから、選択的注意を支配する神経回路には情動を抑える働きも含まれることになる。つまり、集中力の高い人は情動面での動揺を受けにくく、危機的状況にも動じにくく、人生の大波をかぶっても情動面で落ち着いていられる、ということだ。
 一つの関心事を捨象して次の関心事に移ることができないと、いつまでも心配ごとの堂々めぐりを続けることになる。これが病的なレベルになると、うつ状態に陥ったり、不安障害に陥ったり、強迫性障害に陥ったりする。一つの関心事を捨象して次のことに関心を向ける能力は、健やかに生きるうえで欠かすことができない能力だ。
 選択的注意の能力が高ければ高いほど、目の前の活動に没頭できる。パーティー会場でも、集中力の高い人は、すぐ目につく。集中力の高い人は会話に没頭でき、すぐそばのスピーカーから歌が大音量で流れていても、相手の目をしっかり見つめて話を聞くことができる。一方、集中できない人は、視線が次から次へと移って、注意が定まらない。
 ウィスコンシン大学の神経科学者リチャード・デイヴィッドソンは、人生に欠くべからざる能力の一つとして集中力をあげている。デイヴィッドソンは、集中力が高まっている状態において前頭前皮質が意識の対象と同調することを発見し、これを「位相同期」と呼んだ。たとえば、一定の音が聞こえるたびにボタンを押す、という行為に集中している人の脳波を測定すると、前頭前野の電気的活性が対象になる音と正確に同期していることがわかる。
 集中が強ければ強いほど、「位相同期」も強くなる。集中が切れて、よそごとを考えたりすると、同期は解消してしまう。そうした状態は、注意欠如障害の人たちに特徴的に見られる。
 集中できると、学習効果も上がる。学習課題に集中しているとき、脳はその情報をすでに知っている情報と照らし合わせ、新しい神経結合を作ろうとする。注意が散漫になると、脳の中では、学習しようとしていたことと無関係ないろいろなおしゃべりの回路が活発になる。集中が失われれば、学習している内容はきちんと記憶されない。

 『フォーカス』 第2章 より ダニエル・ゴールマン:著 土屋京子:訳 日本経済新聞出版社:刊

 集中力の有無は、脳の前頭前野の働きが大きく左右します。
 前頭前野は、仕事やコミュニケーション能力に深く関わりのある大事な部位で、脳の部位の中で、他の動物と比べて、最も発達しています。

 そのため、集中力は、前頭前野の機能を発達させた人間だけが持つ、高度な能力といえます。

「ボトム・アップ」と「トップ・ダウン」、ふたつの脳の回路


 人間の脳は、大きくふたつの神経回路が働いています。
「ボトム・アップ(下から上へ)」「トップ・ダウン(上から下へ)」です。

 ボトム・アップは、脳の深いところ(大脳皮質下)から大脳のいちばん上の部分である新皮質に伝えられる回路です。
 トップ・ダウンは、逆に、大脳新皮質レベルから他の部分へ働きかける回路です。

皮質下の回路には、次のような特徴がある。

  • 反応速度が速い(1000分の1秒単位)
  • 無意識で自動的
  • 直感的で、連想ネットワークを通じて働く
  • 衝動的、情動に支配されている
  • 習慣的行為を実行させ、行動を導く
  • 世界観を決める
 一方、新皮質の回路には、次のような特徴がある。
  • 反応速度が比較的遅い
  • 随意的
  • 努力的
  • 自制をつかさどり、ときには自動的な習慣行為を制止したり衝動を抑え込む
  • 新しいモデルを学習し、新しいプランを作り、自動的な行動をある程度まで管理することができる
 能動的注意、意志力、意図的選択は、トップ・ダウンであり、受動的注意、衝動、自動的習慣はボトム・アップである。
 ボトム・アップのシステムはマルチタスクで、じつにさまざまな情報のインプットを同時進行でスキャンしている。周囲の状況も、まだ完全に集中の対象となっていないことがらまで含めてチェックし、知覚の及ぶすべての分野を分析して、重要であると判断して選択したものを知らせてくる。トップ・ダウンの回路は、ボトム・アップ回路が知らせてきたことがらを一つずつ取り上げて、もう少し時間をかけて吟味(ぎんみ)分析する。
 われわれ人間は、自分が意識的にとらえている世界こそが脳の働きのすべてだと思いこんでいるが、実際には、脳の働きの大部分は、舞台裏のボトム・アップ・システムによって処理されている。
 トップ・ダウンの脳が集中の対象に選んだと思っていること、考えたと思っていること、実行したと思っていることの大部分(すべてという説さえある)は、実際にはボトム・アップの脳がやらせていることなのだ。これが映画だとしたら、トップ・ダウンの脳は「自分が主役だと思っているけれども、じつは脇役だった、という役どころだろう」と、心理学者ダニエル・カーネマンが皮肉っている。
 進化の過程を何百万年かさかのぼってみると、ボトム・アップの神経回路が短時間の思考や衝動や即決を好む理由がわかる。前頭部にあるトップ・ダウンの回路はあとから脳に付け加わったもので、完全に成熟したのはまだほんの数十万年前にすぎない。
 トップ・ダウン回路のおかげで、人間の脳には自己認識、思索、熟考、計画などの能力が加わった。トップ・ダウンの集中によって、脳を意識的に働かせることが可能になる。私たちが一つの課題、計画、あるいは感覚などから別の課題や計画や感覚へと注意を移すと、脳内ではそれに関係する回路が活性化する。楽しくダンスを踊った記憶を心に呼び起こせば、喜びと動きに関係するニューロンが活発になる。愛する人の葬儀を思い出せば、悲しみの回路が活性化する。頭の中でゴルフのスイングをしてみると、そうした動きを調整するニューロンの結びつきが少し強化される。
 人間の脳はたしかに進化の優秀な産物ではあるが、完璧なものではない。脳の中でも起源の古いボトムアップの回路は、先史時代の人類にとっては、おおむね有効に機能していたようであるが、今日では、その構造が問題を引き起こすこともある。浪費癖、依存、無謀なスピード運転などは、このシステムの失調が引き起こす問題だ。

 『フォーカス』 第5章 より ダニエル・ゴールマン:著 土屋京子:訳 日本経済新聞出版社:刊

 ダイエットに何回も失敗する。
 タバコをやめようと思っても、やめられない。

 多くの人が、そのようなことに悩んでいる事実からも、ボトム・アップ回路の働きの強さがわかりますね。

 この強力なボトム・アップ回路を、有効に活用できるか、否か。
 それを制御するトップ・ダウン回路の働きの強さにかかっています。

「プロ」と「アマチュア」の決定的な違い


 一流のパフォーマンスを獲得するためには、ただ、長い時間練習するだけではだめです。
 加えて、高いレベルの「集中力」が必要です。

 どのようなスキルでも、向上をめざすにはトップ・ダウンの集中が必要だ。神経可塑(かそ)性(練習中のスキルを習得するために、脳内の古い神経回路を強化し、新しい回路を作ること)が働くには、注意の集中が必要なのだ。他のことに気を取られている状態で練習しても、脳はルーティン回路を書き換えてはくれない。
 心がうわの空では、練習しても身につかない。テレビを見ながらワークアウトをしているようでは、一流にはなれない。100パーセントの注意を注ぐことによって、脳の処理スピードが速まり、シナプスの結合が強まり、習得しようとしている技術を可能にする神経回路が拡大したり新生したりするのだ。
 少なくとも、最初の段階ではそうだ。しかし、新しい動作を習得するにつれて、練習を重ねるごとに、そのスキルのコントロールはトップ・ダウンの意図的な集中からボトム・アップの回路へ移管されて、やがて苦もなくできるようになる。その時点では、もう考えなくても自動的にその一連動作をこなせるようになっている。
 そして、ここがアマチュアと一流の分かれ目だ。アマチュアは、ボトム・アップで動作ができるようになった時点で満足してしまう。スキーでも、自動車の運転でも、50時間ばかり練習すれば、だいたいの人は「まあまあ」のレベルに達し、それほど努力しなくても必要な動作ができるようになる。すると、もう集中して練習する必要を感じなくなり、そこまでで身についたスキルだけで流すようになる。このボトム・アップ・モードでどれだけ練習しても、向上はほとんど望めない。
 これに対して、一流のプレーヤーはトップ・ダウンの注意を払いつづけ、ルーティンを自動化しようとする脳の衝動に意識的に抵抗する。一流のプレーヤーは、完璧にできるようになるまで能動的に集中を続け、うまくいかない部分を修正し、メンタル・モデルを改良し、コーチから与えられるフィードバックの特定部分に集中する。一流のプレーヤーは、向上の努力をやめない。そうした「理にかなった練習」をやめて惰性でプレーしはじめた時点で、パフォーマンスはボトム・アップになり、スキルは頭打ちになる。
「一流のパフォーマーは現状のパフォーマンス・レベルを超えると目標を設定して、自動化の傾向に能動的に抵抗するようなトレーニングをする」と、エリクソンは言う。さらに、「意識的な練習に100パーセント集中できる時間が多いほど、パフォーマンスがより高度で洗練されたものになる」とも言う。
(中略)
 注意の集中は、筋肉に力を入れるのと同じで、疲労する。エリクソンによれば、世界一流のパフォーマーは、ウェイト・リフティング選手であろうと、ピアニストであろうと、犬ぞりチームであろうと、きつい練習は1日4時間程度に抑えているという。彼らのトレーニング。メニューには、肉体的・精神的エネルギーを回復するための休憩時間が組み込まれている。一流プレーヤーは最大限の負荷をかけた練習をこなすが、練習中に集中力が低下するようなやり方はしない。最適な練習には最適な集中が必要なのだ。

 『フォーカス』 第15章 より ダニエル・ゴールマン:著 土屋京子:訳 日本経済新聞出版社:刊

 ボトム・アップ・モードは、無意識でもできること。
 つまり、「体が勝手に動く」状態です。

 練習すればするほど、ボトム・アップ・モードでできることは、増えていきます。
 ただ、そのレベルでいくら練習を積んでも、それ以上のレベルアップは見込めません。

 つねに、トップ・ダウン・モードの意図的な集中をして、新しいスキルに挑戦すること。
 それが、一流のプレーヤーになるための秘訣です。

「マインドフルネス」がもたらす効用


 トップ・ダウンの神経回路を強化し、集中力を高める。
 そのために効果的なのが、「マインドフルネス」です。

 マインドフルネスを身につけると、どんな場面においてもバランスの取れた落ち着いた対応ができるようになる。一つの考えに拘泥せず、意識にのぼるものに自由に注意を向けられるようになる。このトレーニングは広く一般化できるので、職場でも必要に応じて一つの対象に注意を集中し、それ以外は捨象できるようになる。
 マインドフルネスのトレーニングをすると、前頭前皮質内側部の活動が鎮静し、脳内のおしゃべりが減って、集中が高まる。マインドフルネスの練習を長く積んだ人ほど、脳内の二種類の自己認識を切り離して、目の前の課題に立ち向かう集中力を発揮できる。
 実行制御の能力は、とくに挫折したり傷ついたり失望したりしたときにくよくよ思いつめてしまうタイプの人にとって有益だ。マインドフルネスがあれば、みじめな堂々めぐりにつながりかねない思考の流れを断ち切ることができる。思考に流されるのではなく、立ち止まって「それは単なる思考にすぎない」と見切り、その思考にもとづいて行動するか否かを選択できるのだ。
 要するに、マインドフルネスの訓練は集中力、とくに実行制御、ワーキング・メモリー、そして注意を維持する能力を強化する。1日20分の練習を4日間やっただけでも、これらのいくつかについて効果が見られる(もっと長い時間トレーニングすれば、それだけ効果も持続する)。
「マルチタスキング(同時並行的に多数の仕事をすること)」は、効果を阻害する。「マルチ」と言っても、実際にはワーキング・メモリーを割り当てる対象を切り替えているだけで、集中を頻繁に中断することは、タスクに注ぐ時間が削られるということだ。100パーセントの集中を回復するには、10ないし15分かかる。
 人事のプロにマインドフルネスのトレーニングを受けさせたあと、彼らの多忙な日常業務(会議出席者のスケジュール調整、空いている会議室の手配、議案の作成等々のかたわら、さまざまな電話やメールに対応する)に似た状況を作ってテストしたところ、トレーニングによって集中力がかなり向上し、さらに、課題に集中している時間が伸びて効率も向上したことがわかった。

 『フォーカス』 第17章 より ダニエル・ゴールマン:著 土屋京子:訳 日本経済新聞出版社:刊

 集中力の強化だけではなく、さまざまな効果をもたらす、マインドフルネス。

 まずは、1日10分から。
 時間をつくって、ぜひ、習慣化したいですね。

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 時間は、誰に対しても、1日に24時間、平等に与えられています。
 しかし、それを有効に活用する人もいれば、そうでない人もいます。

 同じ1時間で、「100」のアウトプットを出せる人、「1」しか出せない人。
 両者を別つ、決定的な原因が、「注意力」であり、「集中力」だといえるでしょう。

 ゴールマンさんがおっしゃるように、「注意力」や「集中力」は鍛えられることが、最近の研究で明らかとなっています。
 仕事でも、人生でも、人間関係でも、必ず役に立つこれらのスキル。
 ぜひ、身につけたいものですね。


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