【書評】『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 (萩野淳也)
お薦めの本の紹介です。
萩野淳也さん、木蔵シャフェ君子さん、吉田典生さんの『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門』です。
萩野淳也(おぎの・じゅんや)さんは、ビジネスコーチ、経営コンサルタントです。
現在、一般社団法人MiLI(マインドフルリーダーシップインスティテュート)の代表理事を務められています。
木蔵シャフェ君子(ぼくら・しゃふぇ・きみこ)さんは、カウンセラー・コーチです。
日本人女性初のSIY認定コーチとしてグローバルな舞台でご活躍中です。
現在、MiLIの理事を務められています。
吉田典生(よしだ・てんせい)さんは、ビジネスコーチ、組織開発コンサルタントです。
現在、MiLIの理事を務められています。
なぜ、世界のトップエリートは忙しくても成果を出し続けるのか?
今、世界のビジネス界に大きな広がりを見せている「マインドフルネス瞑想」。
グーグルをはじめ、フェイスブック、リンクトイン、P&G、フォード、マッキンゼー。
多くの世界のトップ企業が社員教育にマインドフルネスを採用しています。
なぜここまでマインドフルネスが注目されているのか。
その理由は、この現代の厳しく不安定なビジネス環境において、卓越した結果を出し続けるために必要な“何か”を手に入れるヒントが存在している
からです。
近年、マインドフルネスの効果は「脳科学」の見地からも実証されています。
著者は、マインドフルネスな状態は、トレーニングにより誰でも手に入れることができる
と述べています。
必要なのはただ一つ、「継続すること」。
本書は、マインドフルネスな状態を手に入れるためのトレーニング方法をわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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結果を出す人は、あえて「立ち止まる」
マインドフルネスのトレーニングを続けると、さまざまな能力を得ることができます。
その中のひとつが、「立ち止まって考える力」、そして「いままでのやり方を手放す力」
です。
一口に「立ち止まる」といっても、さまざまな状況が考えられます。いろいろと手を打ったものの、うまくいかずに立ち往生し、焦りながらおろおろしていると、意図的に立ち止まって、全体を俯瞰しているのとでは、状況がまるで違います。
しかし、難しい局面を乗り越えて結果を出す人ほど、後者のように落ち着いて立ち止まっているではないでしょうか。
「いま」「ここ」で洞察力を働かせるために、あえて立ち止まることが必要なのです。とはいえ、多くのビジネスピープルにとって、いったん立ち止まって考えることは、じつは、口でいうほど簡単なことではありません。
仕事は増える一方で、プライベートでも役割を果たさなければなりませんし、将来への危機感から勉強もしたい。そんな慌しい毎日で、自分を急き立てることが当たり前になっていると、いつの間にか立ち止まることすら忘れてしまうのです。
本当はいったん立ち止まってじっくり考えたいのに、立ち止まれない――私たちはそれを「自動操縦状態」と呼んでいます。多くの人がこの「自動操縦状態」に陥っていますが、結果を出せる人と、そうでない人を分けるのは、それでも立ち止まって考えることができるかどうか、です。
迷っているのに、それを無視して歩き続けると、本来行くべきルートからはどんどん外れてしまいます。
だから、シンプルに、「知らない場所に来たらまず立ち止まって居場所を確認する」のです。
結果を出す人は、それを意図的に行っています。では、結果を出し続ける人はなぜ意図的に立ち止まることができるのでしょうか。
結論を先にいうと、いまが難しい状況であるとしっかり気づき、焦って安易に反応することがないように、脳の神経回路が鍛えられているからです。
脳神経がそうなっているからこそ、自動操縦モードで中途半端に推測するよりも、まずは完全に立ち止まることで、それを次の施策、意思決定の起点とすること
ができるのです。
現在、私たちはかつてないほど見通しの立ちにくい環境で生き、働いています。「道なき道」を進むため必要なのは、あえて「立ち止まる時間」なのです。『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第1章 より 萩野淳也、木蔵シャフェ君子、吉田典生:著 一般社団法人MiLI:監 日本能率協会マネジメントセンター:刊
自分は目的地に近づいているのか、遠ざかっているのか。
つねに「自動操縦状態」だと、それが自分ではわからなくなります。
ときどき立ち止まって、現在地を確認し、作戦を練り直す必要があります。
どんなときでも、「いま」「ここ」に立ち返ること。
自分の状況を客観的、俯瞰的に眺めること。
マインドフルネスによってそのような力が得られるということです。
瞑想すると「幸せ」になる?
著者は、私たちはマインドフルネスを通して、脳をアップデートし、グローバル化とデジタル化が加速する時代に合わせて最適化する
ことができると述べています。
そのことは科学的な研究によっても証明されています。
リチャード・デビッドソン博士は、1万時間以上瞑想経験のあるマチュー・リカールらチベット僧の脳の状態を調べる研究をしています。
その結果、長時間の瞑想経験者と瞑想経験のないコントロールグループとの脳の機能を比べたとき、幸福感と結びつく脳の部位の働きに大きな差がある
ことが判明しました。
ここで重要なのは、瞑想経験者がたまたま幸せな人々だったわけではなく、瞑想経験のないグループとさまざまな条件を比べたうえで、統計的に有意な差があったということです。
人の脳のなかで前頭前野の左側の特定部位の活動が、相対的に右側の特定部位の活動より活発であるほど、幸福を感じていることがわかっています。これは「レフト・ティルト(左への傾き)」と呼ばれる現象です。
実験の結果、マチュー・リカールは他の人とは比べものにならないほどの驚異的なレフト・ティルトの脳の持ち主だとわかりました。つまり、リカールは誰よりも「幸せ」を感じているはずなのです。
それ以来、彼は“世界一幸せな男”というニックネームで呼ばれるようになります。
「幸せ」を手に入れるためには、お金、外見、人間関係、名誉、達成など、自分の外側にあるものを手に入れなくてはならない、私たちは思いがちです。
しかし、デビッドソン博士は、さまざまな研究を重ねた結果、「幸せとは、楽器を弾けるようになるのと同じように、訓練し、習慣化できるスキルである」と述べています。
そして、その訓練方法として、マインドフルネス瞑想をすすめているのです。どれだけ大きな富を手にしても、人が羨むような成功を手に入れても、自分の中からわき起こる「幸福感」を感じとることができなければ、その幸せは長続きしません。
一時的に気持ちが昂揚(こうよう)して終わりではなく、持続的・安定的に幸福感を得るためには、それ相応の訓練が必要です。そのスキルを開発するのが、瞑想を含むマインドフルネスの実践なのです。リカールは、長年の瞑想経験によって脳の左側前頭前野の活動を高め、右側前頭前野の活動は沈静化させるという能力(脳力ともいえるかもしれません)を手に入れました。
自分の内側から「幸福感」を生み出し、それを感じとるスキルが誰よりも高いのです。
リカールに会った人は誰でも、並ぶもののない彼のやさしさ、その穏やかな表情、類まれなるユーモアに驚嘆して、すっかり彼に魅了されます。EQ(心の知能指数)で有名なダニエル・ゴールマンは、空港で足止めを食らい、リカールとすごした3時間について、「マチューの純粋たる喜びの影響のもと、あっという間にすぎてしまった」と語っています。
自分のみならず、周囲にいる人たちを幸せにしてしまうリカールの魅力。でも、それは誰でもマインドフルネスの実践によって開発できる脳の機能によるものなのです。『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第2章 より 萩野淳也、木蔵シャフェ君子、吉田典生:著 一般社団法人MiLI:監 日本能率協会マネジメントセンター:刊
瞑想を習慣にしている人とそうでない人とでは、活動させている脳の部位が違います。
瞑想には、脳の中の「幸せを感じる」力を高める効果があるのですね。
瞑想は、思考や考え方だけでなく、脳そのものの構造すら変えてしまいます。
まさに、“脳をアップデートする”という表現がぴったりですね。
注意がそれたことに「気づく」
マインドフルネス瞑想は、大きく次の4つのプロセスで構成されます(下図1を参照)。
- 呼吸に注意を向ける
- 注意がそがれる
- 注意がそれたことに気づく
- それた注意を呼吸に戻す
図1.マインドフルネス瞑想のプロセス
(『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第3章 より抜粋)
呼吸に注意を向けていたはずなのに、いつの間にか雑念がわいて、別のことを考えていた−−この時、注意がそれたことに気づくことが大切です。
気づけば、もとに戻すことができるからです。
ただ、雑念がわいている状態に気づいたけれども、その雑念を追い払おうとすればするほど、かえってそのことに意識がもっていかれてしまう、というケースもあるでしょう。そんな時はどうすればいいのでしょうか。
たとえば「取引先の担当者と意見が対立して少し気まずい空気になった」ことを、瞑想中に思い出したとしましょう。大事な仕事の場面ですから、気になるのは当然です。
この時、呼吸に注意を戻していくための心がけは、次のとおりです。
- 雑念がわいた自分を責めない、評価しない、判断を加えない
- ただその状態を受けとめ、好奇心をもって観察する
ここが実践してみないとわかりにくいところで、文字だけを見ると、「評価しない」ことと「好奇心をもって観察する」ことに矛盾を感じる人が多いかもしれません。
そこで、まずは次のように単純に考えてみてください。
- 雑念がわくのは人間の習性上、当たり前のことで、けっして悪いことではない
- でも私はいま、マインドフルネスを実践する意図をもってここにいるのだから、あえて解釈したり、意味づけしたりしないで、浮かんだ雑念をいったん脇においておこう
少し表現が難しいのですが、ここで「観察する」対象は、自分自身ではなく、「たったいま経験している雑念がわいた状態」です。
注意力が不十分だと、浮かんできた雑念も自分の「ぼんやりした状態」のなかに入っていきます。しかし、ここで注意力を高めていくと、浮かんできた雑念を、いまは不必要なものとして区別できるのです。『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第3章 より 萩野淳也、木蔵シャフェ君子、吉田典生:著 一般社団法人MiLI:監 日本能率協会マネジメントセンター:刊
マインドフルネス瞑想で大事なこと。
それは、「雑念がわいた状態」の自分を外から観察することです。
雑念が湧いてくることは仕方のないことです。
客観的に自分を眺められれば、雑念にとらわれず、再び注意を呼吸に戻すことは難しくありません。
通勤時間を「マインドフル」に過ごす
マインドフルネスは、日常のあらゆる場面で実践することができます。
例えば、自転車に乗っている時間も、意識次第で立派なトレーニングとなります。
最近、都内では自転車通勤の人が増えているようですが(私も自転車乗りです)、身体性の高い自転車ならば、なおさらマインドフルな状態になるのは容易です。
自転車に乗っている自分の感覚や路面から受ける感触、自転車の操作系のフィーリング、自分と自転車がつながった感覚、そして視野に入ってくる風景や音・・・・・。それら一つひとつを感じながら会社に向かう時間をもてたら、通勤時間全体がマインドフルネスに包まれるかもしれません。
ところで3章の復習も兼ねてここで補足すると、マインドフルネスは一点集中ではなく、あることに集中しながらも全体を認識できている開かれた状態です。
言葉にするとわかりにくいのですが、「集中した注意」と「開かれた注意」が伴っているわけです。武道の達人が相手に注意を向けながら、背後から襲ってくる敵の気配にも気づいているという、あの状態がまさに真のマインドフルネスといえます。
ですから、最高にマインドフルな自転車通勤は、、安全運転にもつながるということです。
図(下図2を参照)のように、もっと短い時間、たとえば信号待ちで立ち止まっている間に呼吸を整えるのも、すぐにできるマインドフルネスを実践法です。これなら自転車通勤ではなく、自宅から駅まで、駅から会社まで歩いている最中にでもできます。さすがに目を閉じて坐って、というわけにはいきませんが、少しの工夫で日常のマインドフルネス瞑想になります。
流れとしては図のとおりですが、立ち止まっている自分を意識し、呼吸を感じるだけでもまったく問題ありません。
いつでも、どこでも、すぐにできるショートワークとして活用してみてはいかがでしょうか。『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第4章 より 萩野淳也、木蔵シャフェ君子、吉田典生:著 一般社団法人MiLI:監 日本能率協会マネジメントセンター:刊
図2.信号待ちのマインドフルネス
(『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』 第4章 より抜粋)
歩く、食べる、話す、本を読む・・・・。
日常の何気ない動作でも、「開かれた意識」を持つだけでマインドフルネスの実践になります。
まさに、時間に追われる現代人にうってつけの集中力強化法といえますね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
近年、(マインドフルネス)瞑想を習慣化する人や企業は急激に増えています。
実際、多くの成功した起業家、ビジネスパーソンは、瞑想を習慣にしています。
「(マインドフルネス)瞑想は、ビジネスにも有効だ」
頭ではわかっても、それがなぜか、具体的にどうすればいいのか、知らない人が多いのも事実です。
本書は、そんなマインドフルネスに興味を持つすべての人にとってわかりやすく実践的な内容となっています。
変化が激しく、先の見えない世の中。
健康的かつ生産的に生きるためには、マインドフルネスのスキルは不可欠となっていくでしょう。
マインドフルネスは、誰にでも鍛えることができます。
皆さんも、まずは1日10分の瞑想を続けることから始めてみてはいかがでしょうか。
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