【書評】『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク)

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 お薦めの本の紹介です。
 ダニエル・ピンクさんの『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』です。

 ダニエル・ピンクさんは、米国の作家です。

「モチベーション」の進化の過程


 本書が世に出たのは、2009年。
 それ以来、モチベーション(動機づけ)に関する、これまでの概念は、完全に覆されました。

 “やる気”を継続させるための方法について、本書以前と以後で、全く違うものとなってしまった。
 そう言っても過言ではありません。

 ピンクさんが考案した、モチベーションに対する革新的な考え方。
 それをコンピューターの基本ソフト(オペレーティング・システム、OS)の更新(バージョンアップ)に例えて、<モチベーション3.0>と呼びます。

 ピンクさんは、これまでの人類の歴史を振り返って、モチベーションに関する考え方は以下のように変化してきたと述べています。

 人間の歴史がまだ浅い頃、たとえば今から5万年ほど前には、人間の行動の基礎をなす前提はシンプルきわまりなかった。それは生き残ることだ。食料を集めるためにサバンナを歩き回るときや、剣歯虎(サーベルタイガー)から身を隠そうとわれ先に茂みを探すときまで、生理的動因が人間のほとんど行動を決めていた。この初期のOSを〈モチベーション1.0〉と呼ぶことにしよう。
(中略)
 改良版のOSの前提は、人間社会の現実をより反映したものとなった。すなわち、人間は生物学的な衝動の集合体以上の存在である、というものだ。第1の動機づけはもちろん重要だが、それだけでは人間という存在を十分に説明できない。人には、2番目の動機づけもある。平たく言えば、報酬を求める一方、罰を避けたいという動機づけだ。新しいOS、言うなれば<モチベーション2.0>は、この観点から生まれた。
(中略)
 とくに過去200年の間、この2番目の動機づけを利用することが、世界経済の発展にとっては必要不可欠だった。

   「モチベーション3.0」 第1章 より ダニエル・ピンク:著 大前研一:訳  講談社:刊

 日本でも、古くから<モチベーション2.0>、つまり、報酬や罰などの外的な動機づけが主流の時代が続き、今に至ります。
 学校も、会社も、既存のほとんどすべてのシステムが、<モチベーション2.0>を元に作られています。

 しかし、時代は変わりました。

 解決しなければいけない問題が複雑となり、価値観も多様化した現代。
 目の前にニンジンをぶら下げるだけのやり方では、仕事の生産性は上がりません。

 やる気(モチベーション)を維持するのも難しいです。

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「ロウソクの問題」を用いた実験から得られたこと


 ピンクさんは、1940年代に心理学者のカール・ドゥンカーが考案した「ロウソクの問題」という有名な実験を取り上げています。

「ロウソクの問題」を簡単に説明すると、次のようになります。

 実験の参加者にロウソク、画びょう、マッチを渡し、ロウがテーブルに垂れ落ちないように、ロウソクを木製の壁につけるにはどうしたらいいかを考えてもらう、というもの。

 その際、「画びょうを箱に入れて渡す」というのがミソです。

 多くの人は最初、画びょうでロウソクを壁にとめたり、マッチに火をつけてロウソクの端を溶かし、壁につけようとしますが、うまくいきません。
 解決策は、「画びょうを入れてある箱を、中身の画鋲で壁に打ち付けて、その箱の中にロウソクを立てる」という方法です。

 この問題を解くカギは、固定観念を克服し、発想を転換させること。

 この種の発想を問われる問題において、インセンティブ(つまり“ご褒美”のこと)がどのような効果をもたらすか。
 心理学者のサム・グラックスバーグは、数十年前に、2つのグループにロウソクをの問題を解いてもらい、その時間を計るという実験を取り上げています。

 片方のグループには、通常通りに問題を解かせて、解決までの時間を測定します。
 もう片方のグループには、「早く解くことが出来た人には報酬を上げる」というインセンティブを提示した後、問題を解かせます。

 その結果は、意外なものでした。
 インセンティブを提示されたグループは、もう片方のグループと比べて平均で3分半程長くかかったということ。

 ピンクさんは、その理由を以下のように説明しています。 

 報酬には本来、焦点を狭める性質が備わっている。解決への道筋がはっきりしている場合には、この性質は役立つ。前方を見すえ、全速力で走るには有効だろう。だが、「交換条件つき」の動機づけは、ロウソクの問題のように発想が問われる課題には、まったく向いていない。この実験結果からわかるように、広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途をみつけられたかもしれないのに、報酬により焦点が絞られたせいで功を焦ってそれができなかったのである。

   「モチベーション3.0」 第2章 より ダニエル・ピンク:著 大前研一:訳  講談社:刊 

 解決方法が分かっていない問題を処理する。
 そのとき、「飴とムチ」的な動機付けは、かえって邪魔になるということ。

 そこで登場するのが、今までとまったく違う発想の“第3の動機づけ”<モチベーション3.0>です。

 <モチベーション3.0>とは、内発的な動機づけです。
 つまり、自分の中にある「~したい」という欲求によるモチベーションのことです。

<モチベーション2.0>と<モチベーション3.0>の違いとは?


 モチベーション2.0的な外発的な動機に動かされる人間を、「タイプX」
 モチベーション3.0的な内発的な動機に動かされる人間を、「タイプI」

 ピンク博士は、そのように区分けして、分かりやすく説明しています。

 タイプIの行動は、再生可能な資源(リソース)である。タイプXの行動は石炭で、タイプIの行動は太陽だといえる。近代社会において、石炭はもっとも安価で容易に入手でき、効率的な資源だった。
 だが石炭には欠点が2つある。1つは、大気汚染や温室効果ガスなど、環境に悪影響を及ぼすこと、石炭にはの埋蔵量には限りがあることだ。
(中略)
 タイプXの行動はこれと似ている。報酬と罰は、思わぬ影響を生み出す(ロウソクの問題などを指しています)。さらに「交換条件つき」動機づけは、間違いなく徐々に高くつくようになる。しかし、タイプIの行動は内発的動機に基づいているので、容易に補充できて、(太陽と同じく)無害な資源を使える。クリーンエネルギーのモチベーション版と言えるだろう。安価で安全に利用でき、無限に再生できる。

   「モチベーション3.0」 第2章 より ダニエル・ピンク:著 大前研一:訳  講談社:刊

 モチベーションを維持するための“燃料”も、自分の中から作り出せ、ということですね。
 その方が、より創造的で発想が豊かになるというのなら、そうしない手はありません。

 本書の後半は、どうしたらモチベーション3.0的な「タイプI」の人間に生まれ変わる考え方や方法について、具体例を交えて詳しく書かれています。

 ここでは、そのカギとなる「自律性」を取り上げます。

自律性の目覚めさせること


 ピンク博士は、「タイプI」の人間となるには自律性が重要で、それは人間にもともと備わっているものだと述べています。

 人間の性質が根本的に自律的であるという考えは、自己決定理論(SDT)の中核をなしている。
(中略)
 自律性(オートノミー)は独立(インディペンデンス)とは異なる。アメリカのカウボーイのように、誰にも頼らず一人でやっていくといった無頼の個人主義ではない。自律性とは、選択をして行動することを意味する。つまり、他者からの制約を受けずに行動できるし、他者と円満に相互依存もできる、ということだ。
(中略)
 自律性は、個人のパフォーマンスや姿勢に強い影響を与える。行動科学の分野で最近実施された多数の研究から、自律的なモチベーションによって、全体的な理解が深まる、成績が向上する、学校生活やスポーツで粘り強さが強化される、生産性が上がる、燃え尽きるケースが少なくなるなど、精神的健康に大きな改善がみられたと報告されている。

  「モチベーション3.0」 第4章 より ダニエル・ピンク:著 大前研一:訳  講談社:刊 

「飽きっぽい」
「何をするにも、長続きしない」
「意志の弱い人間だ」

 それは、モチベーション2.0的な考え方です。

 モチベーション3.0的に考えれば、「続かなかったのは、自分が本当にやりたくなかったことなのだから、当然」となります。

 生まれつき、意志の弱い人間などは、いません。

 過去の経験からくる思い込み、「固定観念」にとらわれている。
 つまり、考え方がモチベーション2.0からバージョンアップされていない証拠となります。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 ピンクさんは、最後に以下のようにおっしゃっています。

 わたしたちは、ゲームの駒ではなくプレーヤーになるために生まれてきた。本来は自律的な個人であって、機械仕掛けの人形ではない。わたしたちは生来、タイプIなのである。ところが、外部の圧力 ――人は「管理」される必要があるという、ほかならぬその観念も含めて―― が、わたしたちに備わっている初期設定を変更して、タイプXへと変えようとする。もし、職場だけではなく、学校や家庭も含めて自分の環境をアップデートすれば、もしリーダーが人間の本質についての真実と、それを裏づける科学の成果を素直に認めれば、わたしたち自身も同僚も、人間本来の状態を取り戻せるに違いない。

   「モチベーション3.0」 第5章 より ダニエル・ピンク:著 大前研一:訳  講談社:刊 

 コンピューターのOSのバージョンが、日々進化する。
 それと同様に、本書の内容も、いずれスタンダードとなる日が来るでしょう。

 使い物にならなくなりつつある、古い機械があふれる中に、まったく新しい新時代の製品を世に送り出す。
 本書は、そんな衝撃を与えるような一冊です。

 ひと足早く考え方を変えて、こっそり自分をバージョンアップさせ、時代を先取りしましょう。

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