【書評】『シニアシフトの衝撃』(村田裕之)

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 お薦めの本の紹介です。
 村田裕之さんの『シニアシフトの衝撃』です。

 村田裕之(むらた・ひろゆき)さんは、団塊・シニアビジネス・高齢社会研究の第一人者です。

2012年は、「シニアシフト」元年


 今、日本で、恐ろしいほど着実に、しかも気づかないほど静かに進行している問題。
 それが「高齢化問題」です。
 その進行速度は、私たちの「常識」を超えるほど、急激なものです。

 象徴として挙げられるのが、紙おむつ市場。
 私たちの頭には、「紙おむつは赤ちゃん用」という記憶があります。
 実際には、2011年の赤ちゃん用紙おむつの市場がほぼ1400億円に対し、大人用紙おむつの市場は2012年中にも1500億円に達します。
 
 このような現象は、他の分野でも色々起こってくることが想定されます。
 すでに産業界では、利用者のターゲットをシニア世代に軸足を移す「シニアシフト」が急加速しています。

 村田さんは、2012年は「シニアシフト」元年ともいうべき区切りの一年だったと述べています。
 この年を境にして、以降、人数の多い団塊世代が毎年順番に退職年齢である65歳に達し、毎年大量の退職者を生み出していきます

 それを新たなビジネスチャンスと捉えて、具体的に動き出した企業が増えていくことは間違いありません。

 本書は、今後ますます進む「シニアシフト」の市場へのインパクトを解説し、これから取り組む際に留意すべき点や事業成功のポイントを伝えることを目的とした一冊です。

 日本におけるシニアビジネスの先駆者である村田さんが、長年に渡る実体験から得た貴重な知見が詰まっています。
 その中から印象に残った部分をいくつかピックアップしてご紹介します。

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「シニアシフト」の定義とそのメリット


 村田さんは、「シニアシフト」を、以下のように2つに分類しています。

 1つは「人口動態のシニアシフト」。これは、人口の年齢構成が若者中心から高齢者中心にシフトすることだ。
 1950年の日本の人口構成は、年齢層が若いほど人口が多い「発展途上型」の形をしていた。
(中略)
 これに対して2010年の日本の人口構成は、人口の山が60~65歳の高齢者層に移動し、年齢が若いほど人数が少ない年齢構成となっている。全体として生産年齢人口(16~64歳までの人口)よりも、65歳以上の高齢者人口が増加する傾向にある。日本の人口動態は、時間の経過とともに、当初若年層が人口の中心だったのが、徐々に高齢者層中心にシフトしてきたのである。このようなシフトは、日本以外の多くの経済先進国でも見られる。
 一方、もう一つのシニアシフトは、「企業活動のシニアシフト」。これは、企業がターゲット顧客の年齢構成を若者中心から高齢者中心にシフトすることだ。ターゲット顧客を高齢者中心にシフトするには、市場調査、商品開発、商品販売、営業、マーケティング、店舗運営などの事業戦略を大きく変更し、戦略遂行のための組織体制も大きく変更する必要がある。

 『シニアシフトの衝撃』   第2章 より  村田裕之:著  ダイヤモンド社:刊

 2012年に目立ったのは、この「企業活動のシニアシフト」です。

「シニアシフト」は、商品の売り手である企業、商品の買い手であるシニア双方にとって、大きな意義を持ちます。
 企業にとっての意義は、今後も増え続けるシニア層を自社のコア顧客にすることで、持続的な売り上げ増・収益化が可能になること

 一方、買い手であるシニアにとっての意義は、より価値の高い商品・利便性の高いサービスを得られるようになること

 実は、こうした「企業活動のシニアシフト」は、単に企業や消費者であるシニアがメリットを享受するだけにとどまりません。
 経済の活性化と国家財政の改善にも寄与します。

 総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)によると、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、60代で2093万円、70歳以上で2145万円にも上るそうです。

 一方、50代では1109万円、40代では142万円とシニア世代と比べて金額が小さくなります。
 30代にいたってはマイナス226万円と、貯蓄よりも負債のほうが大きいという状態です。

 つまり、経済的に余裕のある、シニア世代の消費が増えれば、消費税収も増えるし、企業の売上げ・収益が増え、業績が向上すれば、法人税などの税収も増え、国の財政改善に寄与することに繋がるというわけです。

 シニア世代の経済面での存在感の大きさが、数字の上からもよく分かるデータです。

身近な「不」に目を向けよ


 シニア世代には、「不安トップ3」というものがあります。
 1番目が「健康不安」、2番目が「経済不安」、3番目が「孤独不安」です。

 シニアビジネスで成功するには、この3つの「不」を解消し、顧客に満足を与えることがカギです。

 既存の市場が一見、飽和しているように見えても、何らかの「不(不安・不満・不便)」を持っている人は意外と多いものだ。したがって、こうしたサービスを提供すれば新たなビジネスになりやすい。
 今後、有望なシニア市場とは、ずばり『ユーザー側の何かが変化しているにもかかわらず、旧態依然とした「不」が多い市場』である。
 たとえば、補聴器はその一例だ。実は補聴器は、最近いろいろなバリエーションが増えてきた。従来に比べかなり安いものも出てきた。しかし、補聴器の利用が目立たないよう耳の奥に挿入する形式のものは、依然として値段が高い。そして、しばしば余計なノイズを拾ってしまい、聞き取りにくく、長時間利用していると耳鳴りや頭痛がすると言われる。繊細な人間の身体のなかで機器を使おうとすると不具合が出やすいのだ。

 『シニアシフトの衝撃』   第5章 より  村田裕之:著  ダイヤモンド社:刊

 補聴器は、高齢者用というより、耳の不自由な方向けというイメージがあります。
 そのせいもあり、シニア世代が補聴器を付けるということを敬遠していました。

 しかし、補聴器を付けることが一般的になれば、そのような雰囲気もなくなるでしょう。
 シニア向けの補聴器の需要は一気に高まれば、製造コストも下がり、値段も下がります。

 目立たない補聴器だけではなく、あえて周りに「見せる」ような素敵なデザインの補聴器なども、登場することでしょう。

近居により「ゆるやかな大家族」が増えていく


 80年代後半のバブル経済期には、「2世帯住宅」という新しい同居形態が増えました。
 その後、バブルが終わって土地の値段が下がってくると、今度は子供世帯が独立して一戸建てを買えるようになりました。

 別居はするものの、近居(近接居住)という形態が増えていきます。
 近居というのは、電車や車で、おおむね30分以内で行き来できるくらいの距離に互いに住む形態のことです。

 親世帯と子供世帯が近居すると、親、子、孫の3世代が、ともに行動する機会が増えます。
 村田さんは、これを「ゆるやかな大家族」と呼んでいます。

 この「ゆるやかな大家族」では、同居していないことで親と子または親と孫が直接顔を合わせる「回数」は減るが、そのことが逆に直接顔を合わせた時のコミュニケーションの「密度」を高める。つまり、顔を合わせた時に相手とのコミュニケーションを深めようとする気持ちが涌き、その際、近くに住んでいるために行動をともにする機会が多くなる。これにより、親、子、孫の3世代による買い物や外食、レジャーなどで新たな消費が生まれ、結果として親であるシニア世代の消費支出が促されている。
「ゆるやかな大家族」では、普段家族全員が同居していないためか、互いの記念日のお祝いやそのお返しなどの家族イベントに力を入れる傾向がある。一方、このような「大家族」による外出機会の増加は、ミニバンなど大人数向けの移動手段の需要も生み出す。 

 『シニアシフトの衝撃』   第12章 より  村田裕之:著  ダイヤモンド社:刊

 保育園の待機児童問題や2011年の東日本大震災の心理的な部分への影響もあります。

「昼間、親に子どもを預かってもらいたい」
「いざというときに心配なので、子や孫の側で暮らしたい」

 そう考える人がこれからも増えていくのは、間違いありません。
 これまで何気なく使ってきた「家族」という言葉の一般的な定義も、考え直す時なのでしょう。

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 本書を読むと、私たち日本人は世界でも前例のない「超高齢化社会」の真っ只中にいることを改めて実感します。

 ただ、この状況を悲観して嘆いていても仕方がありません。
 時間は巻き戻ることはありません。
 一刻を争う問題、待ったなしですね。

「人口動態のシニアシフト」は、世界的な構造変化であり、多くの国々で、「高齢化社会」に突入し、今の日本で問題になっていることが起こってきます。

 超高齢化に伴う課題に真っ先に直面する日本で、まず商品化し、同様に高齢化に直面する他の国や地域に水平展開する。
 そんな構想が、これからのシニアビジネスには期待できます。

「シニアビジネスが日本を救う」

 いずれ、そんな日が来ることになるかもしれませんね。
 そのためには、国も地方自治体も企業も、「シニアシフト」を戦略的に推し進めて、直面する高齢化社会の課題を解決していく手を打つことが大切になります。


 本書の内容をヒントに、シニア世代視点の斬新なアイデアが、さまざまな分野で次々と生まれてくることに期待したいです。

 

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