【書評】『直感力』(羽生善治)

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 お薦めの本の紹介です。
 羽生善治さんの『直感力』です。

 羽生善治(はぶ・よしはる)さんは、将棋棋士です。
 プロ入り後、19歳で初タイトルを獲得するなど破竹の勢いで勝ち続け、96年には将棋界の「七大タイトル」と呼ばれる全てを独占されます。
 08年には永世名人(19世名人)の資格も得られています。
 通算勝率は7割を超え、現役最高の棋士のお一人です。

「直感」とは何か?


 直感は、決して当てにならないものではありません。
 鍛えることによって精度を増していく、信用できるものです。

 羽生さんは、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだと説明しています。
 論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直感が導かれます。 

 勝負の場面では、時間的な猶予があまりない。論理的思考を構築していたのでは時間がかかり過ぎる。そこで思考の過程をこと細かく緻密に理論づけることなく、流れの中で「これしかない」という判断をする。そのためには、堆(うずたか)く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。直感は、この導き出しを日常的に行うことによって、脳の回路が鍛えられ、修練されていった結果であろう。
 将棋を通して私は、それが羅針盤のようなものだと考えるようになった。航海中に嵐に直面した。どのルート(指し手)をとればいいのか分からない。そのとき、突如として二、三のルートがひらめくことがある。これが直感だ。
 その直感にしたがって海図を調べ(検証)、最終的に最善のルートを決断するのは思考の段階だ。その前の直感は、具体的に頭の中で考えるとか表現するというものではない。自然と湧き出た感覚、「感じ」なのである。
 さらに、出たとこ勝負、ということもある。見通しをもっていても、「読んで」いるつもりでも、相手の出方次第で「現場処理」をしなければならないケースもままある。
 そのため、現場へ出かけていって、進行形の勝負を肌で感じて考える。こうしたことも直感を培うためのひとつの方法である。

 『直感力』  第一章 より  羽生善治:著  PHP研究所:刊

 直感は、本当に何もないところから湧き出てくるものではありません。
 考えに考えて、あれこれ模索した経験の蓄積があることが前提です。

 そのうえで、経験から直感を導き出す訓練を、日常生活の中で行う必要があります。

 羽生さんは、それがほとんど無意識の中で行われるようになり、どこまでそれを意図的に行っているのか本人にも分からないようになれば、直感が板についてきたといえると述べています。

 本書は、日々の生活で直感を鍛えるための心掛けについて、また、直感をどのように具体化するかをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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不調を乗り越えるための「経験のものさし」


 棋士は、平均して20歳前後から60歳前後までと長い現役生活を送ります。
 その中では当然、浮き沈みもありますし、不調の陥ることもあります。

 羽生さんも、成果が出ずに負けが続いたりするときには、自分のやっていることが正しいと信じるのは非常に難しいと述べています。
 そのとき大きな助けになるのが、「経験のものさし」です。

 それは、自分が生まれ育ってきた時間の中でつくられる。幼い頃からのさまざまな経験、見聞きしたこと、学んできたことによって、人はそれぞれものさし、定規を持っている。何かを成し遂げた経験や、あれこれのことをマスターした経験から「経験のものさし」はつくられる。
 どんなことでもいい。たとえば竹馬ができるようになった——二週間くらい練習して乗れるようになったこととか、車の運転免許を取るために教習所へ二ヶ月通ったこと。受験勉強には丸々二年かかったこと——。いずれも、これくらいの時間と労力と情熱を注いだらこれくらいのことができるようになった、というものさしだ。
(中略)
 そして、それら自分が学んでつくりだした「経験のものさし」によって、人は何か事に当たるとき、その時間の不安に耐えられるようになる。そのものさしの種類が豊富であればあるほど、人は自信をもって進むことができる。これから取り組むことの不安に耐え、余分な思案や迷いに時間も労力も費やさずに済むようになるのだ。
「経験のものさし」が、焦らずに進んでいくためのひとつの武器になる。
 そのものさしをもっていることで、努力の見込みといったものが立つ。成果が出るようになるまでに必要な努力の量と質が、なんとなく見極められるようになるのである。

 『直感力』  第四章 より  羽生善治:著  PHP研究所:刊

 何事であれ、すぐに成果を出すことができるような特効薬はありません。

 年齢を重ねて、さまざまな経験を重ねることによって得た、「経験のものさし」。
 それらを上手に活用して、色々なトラブルを乗り越えていくうちに直感も鍛えられます。

情熱を持ち続ける


 羽生さんは、情熱は、常に何かを探し続けることで保たれると述べています。

 今まで自分の中になかった何かを発見する。
 そのプロセスを大事にするということです。

 心がけるのは、現状に満足せず、さらに違う何かを常に探し求めていく姿勢。
 つまり、「追いかけ続ける」ということです。

 追いかけるものとは「絶対やらなければいけない」ことではない。やらなければならないという強迫観念に囚われ続けなければならないようなものを目指すのは、本末転倒だ。
「絶対」をもつことは、執着につながる。執着すると苦しい。「好き」だという以外に余計な感情が入るのだ。
 そうならないように適度に力を抜きリラックスして自然体になる。執着による負のサイクルは起こりやすいものなので、意図的に修正を続けていく必要があると感じている。
 そして、一番いいのは、夢中になって追ううちに「結果的にそうなった」ということだ。
 集中しようと思って集中しているのではなく、気がつけば、集中していた、結果的に打ち込んでいた——という状態にもっていけるのが理想だと思う。
 人は、楽しい最中に「いまが楽しい」とは思わない。後で気づいて、楽しかったと思う。意図して、あるいは努めてそういう方向へもっていくことをしなくてもそうなるのが一番いい。
 同時に、日常の中で可もなく不可もなく、つつがなく暮らしているのも、それはそれで充実しているような気がする。そう感じる精神状態にあるということが充実している証拠ではないだろうか。

  『直感力』  第七章 より  羽生善治:著  PHP研究所:刊

 つねにさまざまなものごとに好奇心を持って「追いかけ続ける」こと。
 それが情熱を絶やさず、気持ちを若く保つ秘訣です。

 後で気づいて、楽しかった。
 それくらい、集中して取り組んでいるときに、直感も働くのでしょう。

「水面下の事象」を読む力


 将棋の世界は、勝負によって結果がはっきりする自己責任の世界です。

 月並みなことばかりしていると、少しずつ状況が悪くなっていき、最終的に居場所がなくなる厳しい世界です。
 つねに変化を恐れない、前向きな姿勢が求められる世界でもあります。

 羽生さんは、何事であれ、最終的には自力で考える覚悟がなければならないと述べています。

 自分で調べ、自分で考え、自分で責任をもって判断する。
 そんな姿勢をもっていないと、自分の望んでいない場所へ流されていく可能性もあります。

「その先」を読む眼をもつ。
 そのためには、表面的な出来事ではなく、水面下で起きている事象を注視することが必要です。

 たくさんの情報が入手できるのであれば、それを活用するのもいいだろう。ただそこで、やみくもにその情報に従うのではなく、やはり自分なりの価値基準を決めて取捨選択することが必要となる。
(中略)
 玉石混淆だと承知しながら、たとえば100なら100の情報をざっと見る。その後に、これはダメだとか、使える、使えないというような、取捨選択をするアプローチの仕方もあるだろう。
 そういうプロセスをとりながら、自分なりの決断方法を構築していくのだ。
 ただ取捨選択を繰り返すのではなく、そこで自分なりに判断したり、もがいたり、何か新しいアイデアを考えたりしながら、その先へと向かっていく。

 『直感力』  第八章 より  羽生善治:著  PHP研究所:刊

 必死に何かを見出そうとする努力。
 それが直感を生み出す土壌となります。

 私たちも、もがきながら何かをつかもうとする姿勢を失わないでいたいですね。

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 価値観が大きく変わり、私たちは変化の激しい、先の見えない時代を生きています。

 羽生さんは、「直感」はそんな時代を生き抜くひとつの指針となるとおっしゃっています。

 直感の本質は、「自分自身に拠り所を求める」ということ。
 その根底には、経験を重ねることで蓄積され、形づくられた人生観や価値観が横たわっています。

 直感を信じるということは、自分自身を信じるということ。

 日々の生活から、自分自身の「内なる声」に耳を澄ませる。
 いざというときに頼れる直感を身に付けたいものですね。


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